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今日はお洗濯の日

それから、食事の支度はムウンと時々withリベルで行うようになった。

といっても、リベルはまだ火や刃物を扱える年齢ではないので、専ら「ちぎる」「混ぜる」「かける」「並べる」などの手で行う作業だけであるが。


それでも、徐々に自分の行う作業に慣れ、またムウンの様子から次の作業を先読みして動けるようになってきた。

こうなると、全体の流れも何となく掴めてくるのでますます動きが効率化され、若干4歳にして「子どものお手伝い」の域から一歩踏み出しつつある今日この頃である。


そんなある日。

「おかーさん、違うお手伝いもしてみたい」

「ご飯のしたくじゃない、ほかのお手伝いってこと?」

「そう。ほかの」


いろんなことをしてみたいリベルであったが、食事の支度では火と刃物が禁止されているため、できることが限られる。

ならば、他のことをやってみたい!


「そうねえ・・・」

ムウンは普段自分がやっている家事のうちでリベルに出来そうなことを考える。

「じゃあ今日はお洗濯しましょうか」

「おせんたくやるーーー!」


ムウンとリベルは水を汲むため近くの井戸に向かった。

水の豊富なこのあたりには、数軒にひとつくらいの感覚で井戸がある。

最寄りの井戸は農家であるリアの家の敷地にあるため、リベルの家から歩いてすぐである。


荷台が平らな手押し一輪車に水桶を載せ、ムウンが押す。

農業や土木工事の友、いわゆるネコである。


車輪や車軸も含めすべて木製のため、長距離や荒れた路面での使用は難しいが、これくらいの距離であれば天秤棒で桶を担ぐよりもかなり楽に運ぶことができるため、いつも水汲みの際はネコの出番となるのだ。


今回はムウンが押し手なのでおとなしく歩いてついてくるリベルであるが、ゴウンの場合は、当然空荷のときに載せてもらう。

キラッキラの目で乗りたいと訴え、キラッキラの目で荷台に乗り、キラッキラの目で風を浴びる。

子供はみんな、本能のようにネコに乗りたがるものなのである。



井戸に到着。

ムウンは水口の前に水桶を置き、ポンプのレバーを押し下げる。

数回ののちに、水口から勢い良く水が出始める。

「ふぉーーーーーーー」

次から次へと出てくる水を見て興奮するリベル。

しばらくしてひとつめの水桶が一杯となった。



ムウンが水の入った桶をネコに載せて次の桶を水口の前にセットすると、

「つぎはぼくがやるーー」

当然というか思ったとおりというか、まあそうなる。


そして。

レバーに手が届かずムウンに目で訴えるリベル。

「はいはい」

軽く微笑み、リベルの手がレバーにかかるくらいまで抱き上げるムウン。

レバーをぎゅっと握り、ぶら下がるようにしてリベルはレバーを押し下げる。


何度か繰り返すが、水はチョロチョロとしか出てこない。

まあ構造上ある程度のパワーとスピードが必要となるため、抱きかかえられながらでは難しいだろう。

哀しげな目でムウンを見上げるリベル。

「もう少し大きくなってからじゃないと、リベルには難しいかな」


再びムウンに交代。

勢い良く飛び出す水を見て、

「ふぉーーーーーーー!!」

一瞬で機嫌を取り戻すリベル。


楽しい母子の水汲みの時間だった。



家に戻ると、ムウンは庭にタライを用意して汲んで来た水をそこに入れた。

今日洗濯するのは、昨日までゴウンが着ていた狩り用の服だ。

家の中から持ってきた服をタライの水に浸し、一緒に持ってきた木の実を潰して服にまぶす。


「この実はね、洗濯するときに使うと、すっごく汚れが落ちてきれいになるのよ」

「へーーー」

またもリベルの目はキラッキラだ。

さっきからのいろんな初めてが、ものすごい勢いで心の琴線に触れまくっている。


「リベルー、こっちに来て靴を脱いでここに立って」

「?・・・はーい」

キョトンとしながらも、言われたとおりタライの横に置いたの木の板に立つリベル。


「足はキレイね。よし、じゃあこの服をフミフミして」

「え・・・いいの?」

「大丈夫よ。大人は手でギュッギュッってやるんだけど、子どもは軽いから手の代わりに足でギュッギュッってやるの」


「やるー」

洗濯物の上で何度か足踏みすると、洗剤代わりの木の実が水に馴染み、洗濯物の上で泡立ち始める。

「あわあわだーーっ!」

キャッキャと声を上げながらリベルは洗濯物を踏み続ける。


やがて汚れが服から溶け出し、水と泡が灰色に濁り始める。

「すごーーい、いろがかわったーー」

「上手よ、リベル。おとーさんの服がだんだんきれいになってきたわね」

「おー、やったー」



「そろそろキレイな水に代えるから一度出てね」

リベルがタライから木の板に移ると、ムウンはタライの底にある小さな栓を抜く。

タライの水は、その下を通る細い排水路を流れていった。


水がすべて抜けるとリベルはムウンの指示に従ってもう一度洗濯物を踏み始める。

洗濯物から汚れた水が出なくなったのを見て、タライに栓をし直したムウンはキレイな水を注ぎ、

「もう一度フミフミね」

「はーーい」


汚れが出なくなるまで何度か水を入れ替え、最後に水がない状態で踏み、脱水完了。

きれいになった服をムウンが物干しにかけて、

「お洗濯完了。頑張ったわね、リベル。とってもきれいになったわよ」

「やったーーーっ!!」



ゴウンが帰ると、待ち構えていたリベルが早速報告する。

「今日はおとーさんの服を洗濯したんだよ!」

ムウンに服を手渡されたゴウンは、それを見て

「すごいきれいになったじゃないか。リベルは洗濯も上手だなあ」

「えへへーー」



――**%=&!!ッッ

今日一日存在感がなかったが、側で悶え続ける安定のエイミース。

幸せそうで何よりである。




そして後日。

洗濯の手伝いで井戸に行った際、レバーの下に設置された踏み台を見つけ、大喜びのリベルであった。

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