さあ勇者転生だ の5
勇者転生は無事終了した。
かわいい勇者の将来に思いを馳せつつ、私はある指令をするために部下である天使の最上位3名を呼び出した。
天使は性別というものを持たない種族だ。
そもそも決まった姿も持っておらず、その見た目を自由に変えることができる彼らは、各々の立ち位置や性格、嗜好などによって自分の姿を思い思いに設定している。
私が今回呼び出した天使は・・・
天使長であり私の秘書的な立ち位置でもあるシリース。
人間で言うところのシルバーグレイに差し掛かった男性的な姿をしている。
おそらく彼ーー男性の姿なので彼と呼んで差し支えないだろうーーの考える理想の秘書像であると思われる。
声も見た目相応だ。
中身は若干見た目とずれたところがあるが、まあそこも含めて彼の個性だろう。
天使軍を統率する軍団長のカタロース。
何やら美味しそうな響きの名前である彼もまた、男性の姿をしている。
大柄で筋肉質な見た目は、彼の役割にふさわしい姿だ。
しかしその見た目とは裏腹に、非常に細やかな気配りができる穏やかな天使で、彼の部下たちから非常に慕われている。
この神殿内の一切を取り仕切るメイド長、エイミース。
当然というか想像通りというか、やはり女性の姿だ。
人間で言うところの20歳くらい、黒髪ストレートで若干気の強そうな整った顔立ちは、少々古くさい言い方をすれば、「ザ・切れ者」って感じだ。
本人もそのつもりでいるようだが、実は天然が入っていて可愛らしい。
そう見えていることは彼女には秘密にしている。
だって面白いし可愛い。
「さて、皆さんに集まっていただいたのは、魔王と勇者についてです」
天使のうち彼ら3名にだけは魔王について話してある。
勇者候補を探させていた天使というのが、つまり彼らということだ。
「先程、異なる世界から勇者を連れ帰り、無事転生させることができました」
「おお」
「とうとう勇者を・・・」
「おめでとうございます。ノーラ・ノーラ様」
「ありがとう。あなた達にも苦労をかけました」
私は微笑み、話を続ける。
「それで、あなた達には引き続き次の任務についていただきます」
居住まいを正す天使たち。
「非常に残念ですが、私は勇者だけを見守り続けることはできません。世界全体に目を配り、その調和を保ち続けなければなりませんから・・・」
頷く天使たち。
「あなた達には、私の代わりに常に勇者を見守り、非常時に限り勇者を助ける役目を与えます。」
「そして勇者の様子は余すことなく記録して私に届けること。ある程度時間が取れ次第、高速再生で一気見します」
「本当はリアルタイムでかわいいあの子の成長を見守りたい・・・。その思いはあなた達に託します。いいですか?絶対に空白の時間を作らないで。3交代ノンストップで彼の成長を記録してください」
「かしこまりました」
3人を代表してシリースが応える。
「勇者の成長、確実に記録してノーラ・ノーラ様にお渡しいたします。まずは私から参りましょう」
そのあといくつかの打ち合わせを終え、私に一礼した彼らは軽く言葉を交わしながら部屋を出る。
「ノーラ・ノーラ様の見初めた勇者ってどんな子かしら。早く私も見てみたいな・・・」
「ならばエイミース、次はお前が行くといい。私はその後にしよう」
「ありがとうカタロース、そうさせてもらうわね」
「さて、私はそろそろ勇者のもとに向かいましょう」
「がんばってね、シリース。交代のときに会いましょう」
そしてカタロースとエイミースは一旦業務に戻り、シリースは準備を整え勇者の転生先へ向かうのだった。