第5章~ひときわ目立つ墓前
それから、3日経ちましたが、自分はどうものりお君が気になってしまい、いつものルートを通って1人でこっそりと墓地に行く事にしました。
ここを乗り越えたら、墓地に行ける…という場所で、お寺の方から何人ものお坊さんが、墓地の高台に向かって歩いて来るのが見えました。
それを、自分は隠れてやり過ごし、しばらく遠目でどうなるかを見ていました。
すると、数分後に辺りが煙で真っ白になるほどのお線香が焚かれ、更に、お坊さんが数人がかりでお経を唱えていました。
自分は、その後の状況も気にはなりはしましたが、あまりのお線香のキツい煙に、堪らず退散しました。
その翌日、よしひこ君に墓地での出来事を話しました。
よしひこ君も、その後が気になっていたようで、また後日一緒に墓地に行く約束をしました。
それから数日後、のりお君を最後に見てから1週間後だったと思います。
自分とよしひこ君は、いつものルートで墓地に行きましたが、さすがにもうお坊さんの姿はありませんでした。
のりお君のお墓の場所が分かるか不安でしたが、彼のお墓を探すのは時間が掛かりませんでした。
何故なら、そのお墓だけ周りにお花が一杯に供えられていて、お線香の煙も一際立っていたからです。
お墓の前に着くなり、よしひこ君は大きな声で…、
「また、遊ぼうよ!」
と、叫んだのです。
そして、よしひこ君は、すかさず手を合わせましたが、ふっと上を向いたかと思うと、
「うん、うん、うん!」
…と、言いながら、泣いていたのです。
その後、自分も墓前で手を合わせたのですが、彼の言っていた意味が分かりませんでした。
自分は、よしひこ君が墓前で何を話していたのかと、何で泣いていたのかを聞きました。
…すると、こう言いました。
「遊びたいんだけど、もうここから動けないんだ、もう、僕からは会いに行けないんだ…」
と、のりお君が言っていたよ、
…と、自分に教えてくれました。
自分はそれを聞いて、何だかとても淋しい気持ちになりました。
よしひこ君が、墓前で泣いていた気持ちが分かったような気がしました。
しかし、今日に限って、のりお君の姿は、よしひこ君には見えていて、自分には見えませんでした。
セミが五月蠅く鳴いていた、真夏のピークの時期は、遊んでいた仲間みんなにのりお君が見えたのに、
…とは思いましたが、それはお坊さんが手厚くお経を唱えてくれたからだろうな、
とも、思いました。
夏休みの間、仲間達は墓地には行ったけど、もうのりお君とは会わなかった、と言っていました。
しかし、一緒に遊んだ仲間達は、
「墓前で1回は手を合わせたよ」
…とも言っていました。
夏休みが過ぎて、小学校の授業が始まると、自分と仲間達は、もうそんな事はすっかり忘れていました。
ただ、よしひこ君だけは、その後も何回か墓前に手を合わせに行ったそうです。
しかし、よしひこ君もその後はのりお君の姿を見る事がなかったそうです。
自分の40年以上前の、不思議な体験はいかがだったでしょうか。
最後まで、ご拝読頂き誠にありがとうございました。
きつねあるき
夏休みもあと数日の時、よしひこ君がのりお君のお墓参りに、もう1回だけ行こうと、何人かに誘っていました。
だけど、みんは夏休みの宿題に追われていて、誰1人来ませんでした。
自分が誘われた時は、どうしようか迷いましたが、まあ、あと1回だけなら、と了承しました。
次の日、よしひこ君とのりお君のお墓参りをしていると、30代と思われる女性の方が、ぼくらの方に近付いて来ました。
色白で綺麗な方でしたが、かなりやつれていました。
「あら、どうもありがとうね」
「同級生の方かしら」
「いえ、ぼくらとは学校で会ったことが無いので、違う学校だと思います」
と、言うと驚いて、
「それじゃあ、どんな知り合いなのかしら」
と言うので、
「ぼくら、この夏休み、のりお君とずっと墓地でセミ取りをして遊んでいたんだ」
「うん、そうそう、オレンジ色の服を着ていたね」
すると、その女性はハンカチで目を押さえながら、泣き出したのです。
ぼくらは、ばつが悪くなりその場を離れようとしました。
「ちょっと待って!どこでどんな風に遊んだの?」
「え~と、最初ここの下にある通路で会って、一緒にセミ取りをしたんだ」
「お墓に乗ってセミを捕った事もあったな~」
「バカ!それは言うなよ」
「あの…どこの辺で会ってたんでしょう」
ぼくらは、のりお君に最初に声を掛けられた場所に案内しました。
「ここで最初に会って、あの先でセミを捕って遊んでました」
すると、こちらの方に住職が近付いて来ました。
「いつもお世話になります」
「今日は息子さんの月命日だったかのぅ」
「ええ、ですが…まだ…」
「それだったら、もう心配ない!」
「このお子さん達が、ひと夏遊んでくれたお陰でやっと成仏出来たわい」
住職が満面の笑みを浮かべてそう言うと、
「本当にありがとうございました」
「え、いえ、ぼくらは何も」
「どうじゃ、境内まで送ってやってはいかがかな?」
「はい、是非とも」
そう言うと、先程まで泣いていた女性は、キリッとしてぼくらを境内まで送ってくれました。
その間、何度もお礼を言われましたが、あと2人仲間がいたことを思うと、何か申し訳ない気持ちになりました。
境内の入り口で、女性の方とお別れを言うと、笑顔で手を振ってくれました。
数メートル進んだ所で振り返ると、女性が石段の所に座り込み、泣き崩れていました。
ぼくらも、涙を堪えながら家に帰りました。