第1章~墓地に子供の幽霊が出る噂
これは、自分が小学5年の時の話です。
かれこれ、40年以上前の事になりますが、何故か鮮明に覚えているのです。
当時の夏休み、墓地で子供の幽霊が出ると噂がたち、決して近付いてはいけない!と、言われていましたが、ある日を境に子供達は墓地に入ってしまう。
そこで、見たものは?
この年だけに起きた出来事でしたが、忘れる事はありませんでした。
自分の書く小説が、しばらく昭和時代から脱却出来ずにいますが、まだ続きそうです。
それでは、本文に参ります。
自分は、第2次ベビーブームの世代にあたる年に生まれたので、子供時代には、どんな小さな公園でも、そこに誰かしら知っている子がいた…という感じでした。
ゲーム機だって持っている子が少ない時代、夏休みになってやることといえば、野球をするか、虫捕りをするか、ザリガニを捕るか、缶蹴りをするか…といった感じでした。
それらを、2時間位で遊びを変えて過ごしていました。
とにかく子供が多い時代、子供達が毎日虫捕りをしていると、乱獲が祟って、なかなか虫が捕れなくなってきたのです。
長い夏休みなので、そうなってからも虫を捕りたければ、場所を変えるしかなかったのです。
虫取りのほとんどはセミでした。
けたたましく鳴いているセミは、発見しやすく捕まえやすかったからです。
捕ったセミを、すぐに放せば勢いよく逃げていきますが、虫かごに長々と入れておくと、逃がす頃には大分弱ってしまします。
しかし、大量に捕れた時は仲間に自慢する為、虫かごに入れたままにしてしまう事が多かったのです。
家の周りにある木や、近くの公園でセミの鳴き声がしなくなっている中、墓地の方からは五月蠅いくらいにセミが鳴いているのです。
仲間より1匹でも多くセミを取りたければ、もはや墓地に行くしかなかったのです。
しかし、その墓地には子供の幽霊が出る…という噂が流れていたのです。
その噂が流れてからは、子供の親御さんは、墓地への立ち入りを、必死で止めていました。
そんな事もあり、墓地に近づく子供は殆んどいませんでした。
ある日の事です。
公園や林でセミ捕りに行ったのですが、3日連続で捕れなかったのです。
それで、自分は弟と一緒に墓地でセミ捕りに行く決心をしたのです。
セミは、夕方になると木の高い所に移動してしまうので、昼過ぎに墓地に行ってみました。
すると、墓地には大量にセミがいて、面白いように捕れたのです。
虫かごもすぐに一杯になり、ご満悦でした。
それに、子供の幽霊なんて出てこないじゃん!
…と思い、また墓地でセミ捕りに行こうと思いました。
そこで捕った虫かご一杯のセミが、まわりの子供達の今まで押さえていた感情を爆発させました。
「次は、俺も行くよ」
「僕も」
「僕も行くよ」
…といった感じで、すぐに仲間が増えました。
そんな時、自分と同じ剣道に通っていた、よしひこ君が…、
「墓地にいる子供の幽霊は、夕方の4時を過ぎると出てくるんだよ」
「もう、墓地には行かない方がいいよ!」
…と、自分に言ってきました。
「え、でも夕方の4時を過ぎなければいいんでしょう」
「それが、いつの間にか過ぎているんだよ」
「そんなにすぐには過ぎないでしょう」
「それが、3時まではゆっくりと時間が過ぎるんだけど、そこからが早く感じるんだよ」
「ちょくちょく腕時計を見ればいいんじゃない?」
「あと、日差しで何となく時間が過ぎるのが分かるんじゃない?」
「時間は見たさ、でも遅くても3時30分には切り上げて帰らないとダメなんだよ」
「それに、墓地の周りには高い木がいっぱいあるから、薄暗くて時間が分かりにくいんだよ」
「仲間がいれば大丈夫じゃない?」
「そうでもないんだよ!皆セミ捕りに夢中になってると、帰る!って言いにくい時があるからね」
「でもな~、もう墓地以外ではセミが捕れないからなぁ…」
「とにかく、親にも言われているし、止めた方がいいよ」
頭では分かっていても、虫かごをセミで一杯にした嬉しさを、忘れられない自分がいました。