間違えたお守り
カメラマンの木村さんと奥様の由美子さんは、近所に幸福になれるという噂の月彦神社という神社にお参りに行きました。二人は、神社の境内にある社務所へ向かい、夫婦で色違いの厄除けのお守りを買いました。
家に帰ってから、二人は、それぞれが購入したお守りの包み紙を開けると、二人が買った覚えのないお揃いの縁結びのお守りが中から出てきました。
二人して顔を合わして「おかしいな、こんなお守りを買った覚えはないのに」と首をかしげながらも、肌身離さずこのお守りを持つようになりました。
二人が月彦神社にお参りしてから2カ月後、木村さんは、写真撮影の仕事の為、一人でフランスへ行きました。
木村さんがフランスへ入国して4日後、由美子さんが自宅でテレビのニュースを見ていると、木村さんが滞在しているホテルが火事で燃えている映像が流れてきました。
由美子さんは、ニュースを見てびっくりして木村さんの携帯電話に電話をかけると、電話の向こう側から慌てた様子の木村さんから無事にホテルから逃げ出せることができたと返事が返ってきた。
木村さんが帰国して自宅に戻ると、火事が発生した際に、木村さんが慌てて持って逃げた荷物の中に、桃九郎稲荷の社務所で買った縁結びのお守りが由美子さんの目の前から出てきました。
木村さんは、「火事が起きたと気付いた時、キミの所に早く帰りたいと思っていたら、このお守りを気付かないうちに手に握りしめてホテルから逃げていたよ」と苦笑いした。
由美子さんは、「私も、ホテルの火災を知って、あなたに電話をかけた時、このお守りを手の中で握っていたのよ」と苦笑いをして、木村さんの目の前に由美子さんの縁結びのお守りを見せました。
どうやら、この縁結びのお守りは、この二人が離れ離れにならないでずっと一緒に暮らせるように守ってくれたようです。
あのフランスで発生したホテルの火災から、2カ月くらい時間が経過したのでしょうか、今日も、木村さん夫婦は、仲良く家の近くをお散歩していました。
算数や理科の勉強が苦手な小学生の良太君は、今年こそ良い年になれたらいいなと思い、月彦神社にお参りに行きました。良太君は、社務所で開運のお守りを買いましたが、家に帰ると、お守りは、学業成就のお守りに変わっていました。良太君は、「おかしい」と思いながらも、お守りをランドセルにつけて学校に通学しました。良太君が、学校に行くと、良太君のランドセルのお守りを見たクラスメートの何人かが「算数ができない良太に、あのお守りに効力があるはずがない」と笑っていました。
ある日の日曜日、良太君は、お母さんと一緒に、先月、豪雨の被害にあった街へボランティアに行きました。
良太君達が、街へ到着すると、道路が泥まみれになり、壊れた家がたくさん並んでいて、街は、まるで地獄の様でした。
その街の様子を見て、良太君が何をしていいのかわからなくなっていたら、炊き出しを行っているテントを見つけることができました。良太君達が、テントに行くと、住む家が壊れて生活できなくなって困っている人達が、集まって食事をしていました。
このテントに集まっている人の中には、泣きながらボランティアの人に生活の苦しみを訴えている人がいたり、不便な生活のストレスをボランティアの方々にぶつけるように怒鳴る人もいました。
良太君は、炊き出しの手伝いをしているおじさんの一人に「お手伝いに来てくれたのだね、ありがとう、僕らは、この大雨の被害に遭った人で、急に家が壊れて住めなくなり、家族や友人を亡くしてしまい、泣こうにも泣けず明日から何をしていいのかわからない人が、少しでも未来が開けるようにお手伝いさせてもらっているのさ、今、自分が被害に遭われた人に今やれることをやっているだけだ。みんなが笑顔になれるまで頑張るから、キミも自分がやれることをやってみてね」と声をかけてきた。
良太君は、何をしていいのかわからないので、お母さんやボランティアの人達の指示に従い、掃除を手伝うなどして、良太君ができることをしてボランティア活動を終了しました。
良太君は、このボランティア活動をした出来事を作文にしてクラスの中で発表すると、教室中で拍手が沸き起こり、良太君のクラスの中で、大雨の被害に遭われた人を助ける為の募金活動などが行われるようになりました。
良太君は、被災地で人を思いやる心を学び、学んだことをクラスメートに伝えることができました。
そんな良太君は、今日も、学業成就のお守りが付いたランドセルを背負って登校しています。
おばあちゃんが大好きなリサちゃんは、月彦神社にお参りに行き、老人ホームで生活しているお千代おばあちゃんが長生きできるようにと神様にお願いをした後、社務所で長寿祈願のお守りを買いました。月彦神社へお参りした後、リサちゃんは、老人ホームへ行き、お守りをお千代おばあちゃんに渡そうとしたら、お守りの包み紙からは、かわいい招き猫の人形がついた開運のお守りがでてきました。こんなお守りを買ったはずじゃないとリサちゃんがびっくりしていたら、お千代おばあちゃんは「リサちゃん、ありがとうね、おばあちゃん、こんなかわいい猫のお守りをもらったら、もっと幸せに長生きできそうだわ」と喜んでくれました。リサちゃんは、「何でお守りを間違えて買っちゃたんだろう?」と首をかしげていました。
リサちゃんが、お千代おばあちゃんへお守りをあげて半年くらい経った頃、お千代おばあちゃんは、天国へ旅立ちました。
リサちゃんのおばあちゃんのお葬式が終わった日の夕方頃、月彦神社の境内に着物を着たやさしい顔をした男の人が白い着物を着たお千代おばあちゃんと向き合って話をしていました。
この着物着た男の人は、月彦神社に住んでいる月彦様という神様でした。
お千代おばあちゃんは、招き猫のお守りを手に持って神様に見せて「うちのリサちゃんに、このお守りを渡したのは、神様のいたずらだね、リサちゃん、このお守りを見て変な顔をしていたから、本当は、このお守りとは、別のお守りを買って私に渡そうとするはずだったのに、神様がすり替えたのでしょう、しっかり者のリサちゃんが、あんな顔をすることないですもの、でも、お守りなんかなくても、リサちゃんが私の所に来てくれるだけで満足だったのよ」と微笑んだ。
「小さい頃から、この境内で遊んでいたお千代ちゃんが、幸せだったらいいなと思って、あのお守りにすり替えてみたのさ」と神様は、舌を出して微笑んだ。
「私は、両親の愛情を受けて大きくしてもらい、結婚してそれなりに忙しくしましたが、おかげさまで、家族に囲まれ、不自由なく暦通りに生活させてもらったから幸せですよ。神様、お気遣いありがとうございます、死人は、鳥居なんかくぐっちゃいけないのに、鳥居までくぐらせて頂いちゃったわ」とお千代おばあちゃんは、声をあげて笑った。
「神様、これからも、ここへお参りに来た人が、本当の幸せに気が付けるように、お手伝いしてくださいね」とお千代おばあちゃんは、神様にお辞儀をして、鳥居をくぐり抜けて旅立って行きました。
お千代おばあちゃんを見送った月彦様は、西の空が薄暗くなり一番星が上るのを見て、そのまま本殿の中へ入りました。