ワッフルとフォーク
当然の如く私は異世界のテーブルマナーなんて知らない。
だが、現在私の見た目は幼女だし、周りを見てそれとなく真似すれば良いだろうと考えていた。
「……マリア。」
「もうちょっと。」
「……マリア。」
「後少し。」
「マーリーアー。」
「……リリ、切り分けてください。」
「ふふふ。かしこまりました、お姫様。」
リリが微笑む反対側でローゼが笑い転げている。
この世界のテーブルマナー難しすぎる!!
ぱっと見た感じは普通なのだが何でもかんでもフォークを使って食べるのだ。
ただでさえ紅葉のお手々なのでまともに動かないのにナイフを使わないでワッフルをフォークの縁で切るとかムリである。
おかげでサリサリとワッフルの表面を削っているだけの私は一向に食事が進んでいない。
「お待たせいたしました、可愛いマリア。焦らずゆっくり食べてくださいね。」
「ありがとうございます。……ローゼは笑いすぎだと思います。」
「ああ、ごめん。別にバカにしているわけじゃないんだよ。マリアは子供なのだからうまく食べられなくて当然だ。ただ、頑張っているマリアが可愛くて、つい。」
それを、人は、バカにしている、と、言うんだよ!
「だから僕が食べさせてあげようかって言ったのに。可愛く突っぱねて、結局リリにやってもらうなんて。クククッ。」
「もー、ローゼうるさいです!」
確かに食べる前に「食べさせてあげるよ。」なんてデレデレした顔でローゼに言われたから「ローゼは私が赤ちゃんに見えるんですか?」とは言ったけど。
でもこの場合の食べさせるは、切り分けるだけではなく口元に運ぶところまでやろうとしていたのだ。
当然おませな子供という路線で行きたい私は突っぱねなくてはならない。
「マリア、口にジャムがついていますよ。」
「ううぅ。私は赤ちゃんだった?」
ワッフルを切ってもらって食べ始めたは良いものの、やっぱりうまく食べられない。
リリにクロスで口元を拭われて、だんだん自信がなくなってきた。
「マリア。あなたはどう見ても5,6歳の小さな子供です。レディになるまでの束の間、私たちに可愛いお姫様を愛でる幸せを与えてくれませんか?」
やっぱりこの国ではキザなことを言うのがデフォルトらしい。
リリの甘いセリフに耳まで赤くなりそうだ。
「う……、はい。」
「光栄です。」
娘にこれがデフォルトとか、心臓がもたないんですけど。
異世界の紳士半端ないわ。
「リリ、君がそんな言い回しをするなんて驚きだよ。聞いているこっちまで赤くなりそうだ。」
「言っておきますがローゼ、あなたも昨日からこれくらい甘いセリフを平気でマリアにささやいていますよ。」
「だって、マリアが可愛すぎて勝手に口から出るんだよ。」
「それは私も同感です。」
「もう親ばか発言は禁止です!」
黙って聞いていれば、どんな拷問だこれは。
「それはマリアが可愛いことするのをやめないとムリだよ。」
「具体的にどのようなことですか!?」
「抱っこしただけで顔を赤らめたり、キスしただけで恥ずかしそうにしたり、妖精って聞いて目を輝かせたり、ちょっとなにかしてあげただけでお礼を言ったり、悪くないのにすぐ謝ったり、何でも一生懸命1人でやろうとしたりすることだよ。」
「あと、小さいのに丁寧な言葉を話したり、人の話を最後までしっかり聞いたり、教えたことを頑張って覚えようとしたり、私達の食べる姿を真似してきれいに食べようとしたり、こんなことを言われても少し拗ねるだけで癇癪を起こしたりしないこともダメですね。」
「つまり、人知を超えたわがままっ子になれと?」
「いや、それが普通の女の子なんだよ。」
異世界こわい。
多分あれだ。
子供が少ない上に女の子なんてめったに生まれないから甘かされてわがままに育つのだ。
少なくとも前世の常識を植え付けられた状態の私にはムリな所業である。
しかし、このままこっ恥ずかしいセリフを吐かれ続けるのもムリなのである。
「ふ、フルーツの皮むいてくれなきゃ、嫌!」
「ええ、もちろんいいですよ。」
「このジュース飲みきれないから、飲んで!」
「いいよ。もしかしてあまり好きではなかった?」
「違うよ。量が多すぎただけ!ちゃんと考えないとダメ!悪い子!」
そのままローゼの顔を引っ張ってみる。
どうだ、私の年相応の小娘、わがままバージョンは!
これが異世界のデフォルトなんだろう!
「……マリア、もしかしてわがままな子供のつもりですか?」
「どう?」
「全然だめです。まだまだ可愛すぎます。」
「ほへはひはははひふひへふはひ。」
「んふふ。ローゼ何言ってるのかわからないよ?」
私がイケメンの変顔にクスクス笑っていると、リリが真剣な顔で注意してきた。
「マリア、引っ張るのは良いですが、あまり無邪気に笑うのはだめですよ。ローゼが暴走してしまいます。」
どういうこと。