人は見かけによるときもある4
プーケット領において夏は過ごしやすい季節だ。
日差しは強いが、湿気は少ない。日陰にいれば、爽やかな風が心地よいという素晴らしい気候である。
そのため、最近の昼食は庭で食べるのが定番だった。
「さあ、マリア。こちらへどうぞ?」
甘い声でエスコートされてハンカチの敷かれたベンチへ腰掛ける。
リリは今日も紳士的だ。
お金持ちの庭でしか見たことがない、屋根の下にベンチが置かれた空間。
八本の柱と屋根で構成された建造物は全体が白で統一されている。
建物の周りは庭師によって綺麗に整えられた花壇と木々がある。
これが庭だというのだから、この家は本当に金持ちだ。
私たちの後ろをつかず離れず付いてきたバイオラさんは、円いサイドテーブルにランチボックスを広げた。
中には料理人たちが腕によりをかけて作ったサンドイッチが敷き詰められている。
意外なことに、贅沢三昧の貴族といえど食事のレパートリーはそれ程多くない。
前世の記憶にある料理の数に比べると、半分以外だ。
しかも、朝食や昼食は食べるものがかなり固定されている。
朝は大体ワッフルとフルーツで付け合わせのジャムが変わるくらい。そして、昼は大体サンドイッチだ。
まあ、私が子供なので刺激の強い食べ物を控えている可能性もある。
いや、でも朝から刺激物は食べないか。
今世の食文化について考えながらも、タマゴサンドに手を伸ばす。
ちなみにサンドイッチはファストフード的な扱いなので男性が女性に食べさせる例のマナーは省略することが多いらしい。
最もマナーを遵守すべきなのはティータイムで、その時に拒否する女性は相当スキンシップが苦手という意思表示なんだそう。マナーって不思議だわ。
薄い食パンの半分くらいの大きさのサンドイッチだが、私の手にはかなり大きい。
それを幼女が両手で持って食べる姿はまあまあ愛らしいのではないかと想像する。
サンドイッチの角の部分を齧るとパンの甘みと味付けされたゆで卵の塩気が口の中に広がった。
「おいしい。」
「それは良かった。」
蕩けるような甘い声に顔を上げると、バイオラさんが顔にも蕩けるような笑みを浮かべていた。
無表情がデフォルトの彼のそんな様子にときめく前にギョッとしてしまう。
それは隣に座るリリも同じだったようで、驚きで目を見開いている。
「ヴィオ?今、笑って……」
「私とて笑うときはあります。」
「でも、この屋敷に来て始めて笑いましたよ?」
「左様ですか。」
リリの驚いた様子とは反対にバイオラさん本人はいたって普通だ。
いつもの無表情に戻り、淡々と話している。
いつから屋敷にいるのかは知らないが相当長い間無表情でいたらしい。
何か深い闇がありそうで心配だ。
養父の部下という微妙な距離間の人なので、詳しく聞くこともできないが。
「ご心配なさらずとも、無愛想なだけです。何か思うところがあるわけでは御座いません。」
彼の一言に深い闇がある説は一瞬で消え去った。
無愛想も突き抜けると、上司が一瞬の笑みに驚く程になるらしい。
いやあ、世の中色んな人がいるなあ。
人々の多様性についての理解が深まったランチタイムであった。




