人は見かけによるときもある2
朝食の後はリリと一緒に今日着る服を選ぶ。
この国の女性の服はやたらと後ろでボタンをとめたり、リボンを結んだりする仕様だ。
女性は誰かに着替えを手伝ってもらうことが前提なのである。
「今日は何を着ましょうか?可愛いマリアは何でも似合いますから、迷ってしまいますね。」
アパレルの店員さながらに私を持ち上げるリリ。
そんなに褒めちぎったところでこの服はすべて購入済みなんだぞ。リリが。
いつの間にこんなに増えたんだというくらい服が詰まったクローゼットはリリの部屋に置かれていて、著しく景観を損ねている。
私の白いクローゼットも金で星などをあしらった高級そうなものなのだが、少し派手すぎるというか、とにかくリリの部屋には合わない。
着替えるときに私の部屋に行けば良いのでは?
と提案してみたもののこちらの方がお互いに楽だからという理由でさっさと使用人に運ばせてしまった。
リリはおっとりしているようで、効率重視なところがある。
「こちらはいかがですか?」
そう言って彼が手にとったのは水色のワンピースだった。
最近リリは青系の服を着せたがる。
私がまだローゼがいないことを寂しがっていると思っているのだろうか。
まあ、夏だから涼し気な色を選んでいるだけかもしれないが。
リリは私を甲斐甲斐しく着替えさせてくれる。
本当にお父様たちが何でもやってしまうので、このままだと何もできない大人になりそうだ。
いや、そもそもこの世界には女性を自立させようとする文化がない。
1人で着られない服も、赤子にするような給餌のマナーも、少しの移動でも必ずされるエスコートも。
これらの待遇はすべてこの世界の文化として定着していることだ。
お父様たちが私を過剰に子供扱いしているわけではないらしい。
一見するとそれは、自己中な女性を増やすだけの無意味な習慣である。
数少ない女性をを大切にしようとする気持ちは分かるが、それにしてもやりすぎだ。
前世の視点から見ると男女差別甚だしい。
それでもこの文化が廃れないのはおそらく、社会的にメリットがあるからだろう。
それは女性を守ることだ。
希少な女性が1人で行動することは大きなリスクを伴う。
しかし彼女たちを強制的に他者に依存させることで、そのリスクを未然に防ぐことが出来る。
自分で何もできない女性は、自分から1人で行動しようと思わないからだ。
いっそ残酷なまでの女性至上主義が根付いているのは、そういう仄暗い背景があるからのように思えてならない。
甘やかしに文化的側面を見出した私は、当初の恥じらいも薄まり、だんだんお父様たちにされるがままになってきていた。
少なくとも、もう着替えくらいでギャーギャー騒いだりはしない。
餌付けに関してはちょっと騒ぐが。
「一つ結び、二つ結び、三編み、どれが良いですか?もっと複雑な髪型が良ければヴィオに頼みましょう。」
「じゃあ二つでお願いします。」
「かしこまりました、お姫様。」
私を鏡台の前に座らせてリリが髪を整えてくれる。
不意に出てきたヴィオという愛称に、執事のような出で立ちの無表情な青年が頭に浮かんだ。
「バイオラさんは髪を結ぶのが上手なんですか?」
「ええ。彼はローゼと同じくらい手先が器用ですよ。」
「それは、かなり上手そうですね。」
ローゼの手先の器用さはヘアアレンジにも存分に発揮されていた。
私は本格的に夏が始まる前は髪を下ろしていたのだが、たまにローゼの気まぐれで結ぶときがあった。
その時間、わずか1,2分程度なのにどこがどうなっているのかわからないような複雑な髪型ができ上がるのだ。
「私も編み込みくらいできればよかったのですが、どうも綺麗にできなくて……。」
「そ、そうなんですか。」
じょ、女子か。
私は編み込みの難しさを語るお父様の女子力に恐れおののく。
私からすると男の人が当然のように三編みをできるだけでもすごいと思うのだが。
もちろん私の紅葉のおててでは一つに結ぶことすら危うい。
「さあ、できました。気になるところはありますか?」
「ないです。ありがとうございます。」
「どういたしまして。私の天使は今日も庭の花が霞むほど可愛らしいですね。」
そうやって大げさなことを言われても、もうキャーキャー文句を言ったりしないんだからね。
さらっと受け流すからね。
まあ、耳がめっちゃ熱いけど。
全力で異文化理解に励む娘の耳をリリは面白そうに撫でた。
くっ。バレてるぜ。
「リリも早く支度をしないと、バイオラさんが待っているのでは?」
私は強引に彼の気をそらす。
別にリリが遅れているわけではないが、彼の優秀な部下はきっと早く仕事場に来ているに違いない。
「ええ、そうでしたね。」
リリは名残惜しそうに私の耳から手を離すと、自分の支度を始めた。
私にはあんなに時間をかけたくせに、自分のはさっさと終わらせてしまう。
けれどあっという間に寝起きの少し無防備なお父様から、抜け目ない公爵様へと早変わりするのだ。
「お待たせしました。さあ、行きましょう。」
リリはそう言ってそっと私を抱き上げた。
自然と近づいた首元からは彼が愛用しているコロンの爽やかな香りがする。
それを感じた途端ひどく安心してしまって、体から力が抜ける。
マジで最近されるがままだな。
もはや純粋な異世界産の幼女と言っても過言ではないと思う。
私は調子にのった。




