恋多き人々4
「御覧なさい!あれが、世間一般の女というものよ!」
アザレアさんはなぜか得意げに言った。
「いや、遠すぎて全然わからないんですけど。」
私はアザレアさんと自室から外を眺めている。
リリは書斎で仕事をしているので、今はいない。
目線の先には赤のドレスを着た女性らしき人影と、それを取り囲む3人の男性がいた。
なにやら話しているようだが、内容は全くわからない。
なにせ私の部屋は2階にあるのだ。
「まあ見てなさい。すぐに分かるから。」
アザレアさんがそう言うので、しばらく様子をみる。
おお、女性が男性の1人の顔を自分の顔の近くまで引き寄せた。
まさかキスシーンを見よとでも言うのか。
「……うわぁ。」
私は思わず感嘆の声を出す。
女性の平手打ちが男性の顔に綺麗にキマったからだ。
もう1人の男性が女性の機嫌を取るように手の甲にキスを落とすが、その人も秒でビンタされた。
「あれが、置いていかれて寂しいときの女の態度よ。」
つ、ツンデレという言葉では許容できないほどの傍若無人ぶりである。
「悲しんでいるというより、怒っているのでは?」
「そうね。朝早く仕事に行った旦那に、どうして仕事を優先するんだと怒っているのよ。周りに恋人を侍らせておいてね。」
そうか、あの3人の男性は恋人なのか。
さすが異世界。
女性の重婚が認められるくらいだし、恋人3人侍らせても目くじら立てる人はいないらしい。
……ではなくて、朝早く仕事に行った旦那だと?
もしかして。
「あちらの女性は、私のお母様ですか?」
「そうとも言うわね。」
なんと、感動のお母様との初対面を修羅場の覗きで果たしてしまうとは。
というか、昨日からお母様もこの屋敷に泊まっているのだった。
昨日はリリの誕生日のこと、今日はローゼの見送りのことで頭が一杯ですっかり忘れていた。
あれが自分の現世の母親だと思うと、覗きをする目にも力が入ってくる。
怒ってるなあ。
リリとは何やら確執がありそうなお母様だが、ローゼとは仲良しなのだろうか。
仕事で離れ離れになることに癇癪を起こすほどに。
「あの、お母様のことを聞いてもいいですか?」
アザレアさんは一般女性とは何たるかということを学ばせたかったようだが、私はお母様という人が気になってしょうがない。
「……子供が親のことを聞いてはいけないはずないわ。どうしたの?」
アザレアさんは窓の外から視線を外して、私の顔を覗き込む。
琥珀色の瞳が、遠慮することはないと言わんばかりに先を促す。
私は、覚悟を決めてから思い切ってすべてをぶちまけた。
「リリとお母様は仲が悪いのですか?お母様はローゼと離れたくなさそうなのにどうして別々に住んでいるのですか?どうして私はこんな遠くからお母様を見なければならないのですか?急に養子ができてお母様はどう思っているのでしょうか?私はお母様に挨拶しなくていいの?お父様たちは仲が良さそうですが嫉妬はしないのですか?あの恋人の方たちはいつかお父様になるのでしょうか?結婚の経緯は?プロポーズの言葉は?」
「多い多い!さては、リリの手前、聞きたくても聞けなかったのね。ローゼには上手いことはぐらかされたんでしょう。」
彼は怒涛の質問ラッシュに上体をのけぞらせた。
「その通りです!アザレアさんなら教えてくれそうだと思って!」
自主的にお母様を見せに来たのだ。
彼にとってタブーな話題というわけではあるまい。
万が一、言いたくないことがあったとしても、彼ならキッパリ断るだろう。
遠慮という言葉を都合よく忘れてグイグイとアザレアさんに迫る。
「はぁ。私が知っている限りのことは教えても構わないわ。その父親に向かってかしこまった呼び方を止めるのならね。」
彼はそう言って私を捕獲すると、モニモニと幼女のほっぺを堪能した。




