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恋多き人々

すごい揺れだった。


眠りと覚醒の間をいったり来たりする心地よさを強制終了するような、激しい揺れだった。

いつもは絶対に開かない目が、本能的にかっぴらく。

しかし、揺れは収まることを知らない。

震源地は目の前の人影であるのは間違いないのだが、いかんせんぶれていて全く様子がわからない。


「リリ、リリ!起きなさい!ローゼを見送りたいんでしょう!去年起こさないで寝かしておいたら、すごくションボリしてたじゃない!」

「んー。」

「ちょっと!私の顔を見てすぐ寝ようとするんじゃないわよ!あんまり寝ぼけてるとねぇ、あなたの大事な腕の中のお姫様、拐っていってしまうわよ!」


言うが早いか、リリの抱き枕になっていた私を取り上げる。

昨日のバイオラさんといい、誘拐ネタが流行っているのだろうか。


私を抱き上げた人物は気の強そうな美人だった。

濃くはっきりした目鼻立ち。

黒と茶が入り交じる長い髪を無造作にかき上げた様子は飾らない美しさを放っている。


「……もしかして、お母様ですか?」

「ええ、そうよ。やっと会えたわね、愛しい娘。さあ、この寝ぼけたお父様が起きないうちに私と一緒に行きましょう!」


初対面なのにグイグイ来るお母様に圧倒される。

返事をする暇も与えないで、このまま連れ去られそうだ。


「……盛大な嘘をついた挙げ句、物騒なことを言うのはやめてもらえますか。」


リリの手がガシッとお母様の細腕を捕まえる。


「あら、すぐに起きないあなたが悪いのよ。」


悪びれた様子もなく肩をすくめるお母様にリリは大きなため息を吐いた。

上体を起こして私の方に手を伸ばすと、髪を手ぐしでとかすように撫でる。


「おはようございます、可愛いマリア。乱暴に起こされて怖くはなかったですか?」

「おはようございます。少しびっくりしましたけど、大丈夫です。」


寝起きのリリはなんだかいつもより色っぽい。

袖や襟の間から見えるしなやかな筋肉が魅せるように気怠げかつ緩慢に動く。


「はぁ。確かにそれは悪かったわ。完全にリリのとばっちりだもの。」


どうしてお母様は謝罪しながら私のつむじを顎置きにしてくるんだろう。

人の頭は幼女からすると、それなりの重さがある。

ツンデレなのか?ツンとデレを両立させているのか?


「はぁ。マリアを返してください。」

「嫌よ。マリアもお母様と一緒がいいわよね?」

「えーっとぉ……。」


一体私はどうすればいいんだ。

慣れ親しんだリリのもとへ行きたいけれど、初対面のお母様を無下にすることもできない。


「マリア、そんなに悩まないでください。からかわれているだけです。そもそも、彼はお母様などではなく、お父様です。」

「??」


リリの言葉に私は一瞬で混乱状態にされた。

ええと、彼はお母様ではなくお父様ってどういうこと?

一体誰の話をしているの?


「はぁ〰い。私はあなたのもうひとりのお父様、アザレア・ブーケットよ。私をお母様と間違えるなんて、聞いてたとおりの世間知らずね。この世に私みたいないい女がいるはずないじゃない!」


私の混乱を物ともせず、お母様ではない人は得意げに髪をかき上げた。

うーん、海外の女性モデルにしか見えない。


「えっと………………男の人、なんですか?」

「そうよ。ほら、胸がないでしょう?」


お母様みたいなお父様は私の手を取ると、自分の胸元に持っていく。

ツルペタだ。

スレンダーどころの話ではない。

つまり彼は本当にお母様のようなお父様なのだ。


「えっと、間違えてごめんなさい?」

「いいわよ別に。気にしないわ。」


ケラケラと笑う様子はすごく可愛い。

でも本当に彼はお父様なのだ。


「……はじめまして、マリアです。」

「はじめまして。よろしく、マリア。」


私の頬にキスをして微笑む姿に、なんて艶やかな人なんだろうと思った。









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