貴族≠パリピ8
私はリリとお風呂に入っていた。
「湯加減はいかがですか?」
「いい気持ちですー。」
実はいつもローゼと入っていたので、リリと入るのは初めてだ。
小袋に入ったポプリを浮かべ、木彫りのアヒルをばらまく。
「これは、お風呂で遊ぶためのものだったのですね。ローゼにしては変わった置物を作ったものだと不思議に思っていたのです。」
「え?このアヒル、ローゼが作っていたんですか?」
これはお風呂にアヒルを浮かべないのかと聞いたら、翌日ローゼが持ってきたのだ。
初号機はかなり大きく、かつリアルに作られている。
それを見た私が手乗りサイズの子アヒルを想像していたと言うと、翌日さらに2羽持ってきた。
しれっと持ってきたからどこかで買ったのかと思っていたが、まさかローゼ作だったとは。
「ローゼはどこに行ったんですか?」
夕食のときにもローゼは帰ってこなかった。
もちろんリリに聞いてみたけど、なんだかんだ答えをはぐらかされたのだ。
いや、8割方はお菓子を食べすぎて夕食が食べられない私を、リリが心配してそれどころではなかったせいだが。
「彼は妻のところにいます。」
「お母様のところ?」
「ええ。お母様は今日だけはこの屋敷に泊まるのですよ。」
そう言って笑うリリを見て、彼がパーティーを嫌いな理由を思い出す。
このまま話を続けると、とてつもない地雷を踏み抜くような予感がした。
「も、もう上がりましょう!」
私はせっせとアヒルを桶の中に回収した。
「マリア?気を遣わなくて良いのですよ。聞きたいことがあるのでしょう?」
「いえ、今日のリリは頑張りすぎです。……この話はせめてリリが元気なときに聞きたいです。」
「マリアは本当に優しい子ですね。」
「リリが優しいから、私も優しくしたいと思うのです。」
私のお父様は2人共優しいが、リリの優しさはちょっとずば抜けている。
彼の笑顔が一番柔らかくほころぶのは、私やローゼが幸せそうにしているときだ。
人の不幸は蜜の味、なんて言葉があるけれどリリはその反対だ。
誰かの幸福を、リリは宝物のように慈しむ。
そんな優しい彼だから、私もローゼもリリが大好きなのだ。
お風呂から上がると、もう寝る時間だった。
パーティーのせいでお風呂に入るのが遅くなってしまったから、いつもとスケジュールが違う。
もうプレゼントを渡すタイミングは今しかない。
あんなに張り切って用意したのに、いざ渡すとなると緊張してなかなか切り出せなかったのだ。
「マリア。どうしたんですか?」
ベッドに入ろうとしない私を見てリリが不審に思っている。
恥ずかしい。緊張する。でも言わないと。
「……リリーお父様。私は女の子だけどお父様の誕生日をお祝いしたくて、贈り物を用意しました。受け取ってくれますか?」
「え、ええ。喜んで。」
リリは反射的に答えたものの、私が言ったことが飲み込めずに混乱した様子だ。
ローゼも私がプレゼントを渡したいと言いだしたときにこんな顔をしていた。
私はクローゼットの奥に隠しておいたプレゼントを引っ張り出す。
「えっと、ポプリと手紙です。ポプリは、材料はローゼが用意したけど、花を詰めたのは私です。手紙は、まだ字が上手く書けなかったし短いけど、ちゃんと読めるようにはなってるから。女の子からの贈り物なんて変わったものを受け取ってくれてありがとうございます。じゃ、私は寝るのでおやすみなさい。」
リリの手にプレゼントをしっかりと握らせながら、早口でまくしたてる。
そのまま顔も見ずにベッドに入ると、布団を頭の上までかぶせて寝たふりをした。
「………………マリア。」
「……。」
「マーリーア。」
「……。」
私は寝ているのだ。
そんなふうに話しかけたって無駄である。
「……素敵な贈り物ですね。娘から贈り物をもらうなんて考えたこともありませんでした。こんなに可愛い娘に恵まれて、私は世界一幸せな父親です。」
寝ている私に向かってリリは盛大に独り言をつぶやく。
そうか。
リリが幸せなら、良かった。
私はそのひと言に満足して、まどろみに身を委ねた。




