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貴族≠パリピ6

本日は雲ひとつなき晴天。

若葉が生え揃う、美しい初夏の昼下がり。

公爵家当主の誕生日を祝うため、着飾った貴族たちが正門から続々と入ってくる。

庭に咲き乱れる花はこの日を待ちわびたようにほころんでいた。


「あまり身を乗り出すと落ちてしまうよ。」

「それは、私が身長の2倍ほど飛び上がらないと無理なのでは?」


バルコニーの柵は私の身長のはるか上まで伸びている。

これでどうやって身を乗り出せというのか。

相変わらずの過保護ぶりに呆れて後ろを振り返った。


そこには正装に身を包んだ、いつも以上にキラキラしいローゼが立っていた。

膝まで伸びる長いコートに、差し色のベスト、足元はブーツで揃えるのが最近の流行りらしい。

明るいブロンドの髪は後ろに撫でつけられて、綺麗な額が顔を出している。


「そんなにリリが心配かい?」

「だってパーティーが嫌いなんでしょう?」


1週間前から気落ちするほどに。

それにパーティーがどんなものか興味があるのだ。


「マリアのおかげで大分元気になっていたじゃないか。」

「それでもやっぱり気になります。」

「どちらかというと僕は君のほうが心配だよ。お父様がいなくて本当に大丈夫かい?」

「あ、それは全然大丈夫です。」


リリは主役なので会場から離れられないし、ローゼもパーティーに参加しなければならない。

しかし、子供の私はパーティーに参加できないので部屋の中でお留守番なのだ。

別に1人でお留守番するくらい精神年齢高めの幼女には訳ないのだが、父たちは過剰に心配していた。


「ああ、もう行かなければ。ヴィオ、本当に頼んだよ。もしも、仮に、万が一、何かあったら、二度と日の目を見ることはできないから、そのつもりで。」


ローゼは私の子守をしてくれるバイオラという人を不必要に脅してから、颯爽と部屋を出ていく。

傍から見ていても美形の脅しは迫力があったが、バイオラさんは表情を変えることなく頷いた。

黒髪に黒い瞳という日本人の目に優しい配色をした彼は、屋敷に来た最初のときにお茶を入れてくれた人だ。

黒い燕尾服を通常装備した彼は執事ではなくリリの腹心の部下らしい。

けれど、リリが命じればお茶もいれるし子守もする忠犬なのだ。

無表情でとっつきにくそうな人だが、2人が私を預けるのだから信頼に足る人物なのだろう。



「お父上と離れられてお寂しいでしょうが、つかの間、私とご一緒願えますか?」

「ええと……、よろこんで。」


この世界の男性がとっつきにくいはずなかったわ。

無表情の口からなめらかに滑り出た文句に感心する。


「何をいたしましょうか。お茶やお菓子をご用意しますか。それとも本を読んだり、お人形で遊ぶ方がよろしいですか。」


気遣いが半端ない。

これが異世界の男子力とでもいうのか。


「あの、私、ここからパーティーの様子を見ていたいのですが、それでもいいですか?」

「ぐっ……。」

「え?」


何だろう。

今の謎のうめき声は。


「いえ、もちろん構いません。いっそのことバルコニーでお茶にいたしましょう。」


バイオラさんは使用人を呼びつけると、宣言通りお茶の準備を命じた。




お菓子と紅茶はピクニックの要領で白いシートの上に用意された。

それこそ椅子を用意したら、よじ登って柵から身を乗り出すとでも思われたのだろうか。

バルコニーの床は硬いが、ふかふかのクッションの上に座っているのでお尻の痛みとは無縁である。


「わざわざこんなところに用意してくださって、ありがとうございます。」

「……いいえ。これしきのことでお嬢様のお望みを叶えられるのでしたら、何の苦労でもありません。」


真面目な顔をしてよくもまあ、そんな甘いセリフが出てくるものだ。


「それより、肌寒くはございませんか。」

「ええと、少し。」

「ではブランケットをおかけいたします。」

「ありがとうございます。」


用意されていたブランケットは真っ白で、お菓子を食べたら汚しそうだ。

気をつけなければ。


パーティーは花の間という広い部屋で行われている。

絵や置物がたくさん飾られた美術館のような部屋だ。

大きな窓があり、庭の花を一望できる。

私はその大きな窓を通して別の部屋からパーティーの様子を伺っているのだ。


「もうパーティーは始まったのでしょうか。」

「ええ。今頃は公爵様が挨拶をされていることでしょう。」

「ここからでは遠くて全然見えませんね。」

「ええ。しかし、これでも一番見えやすい部屋なのです。」

「そうでしたね。あの……。」

「いかが致しましたか。」

「なぜ私の口元にお菓子を持ってきているのでしょうか?」


バイオラさんはお菓子を持ったまま待機している。


「よろしければお召し上がりください。」


彼は大真面目な顔でさらにお菓子を近づけてくる。

まさか本当に食べさせるのが普通だったとは。

ごめんなさい、お父様。

あんなに全力で抵抗してしまって。


と、カルチャーショックに打ちひしがれている間に思わず口を開けてしまった。

だってしょうがないと思うの。

あんなにお菓子が近づいてきたら、反射的に食べようとするのが人間というものでしょう?


それから私はなんだか茫然自失となってしまって、ひな鳥のように餌付けされ続けた。




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