貴族≠パリピ5
リリの誕生日まであと2日。
私は最大の難関を目の前にしていた。
そう、手紙である。
私の精神は子供と言えない程度には成熟している。
そのため手紙の内容を考えることは容易い。
しかし、技術が伴わないのだ。
この紅葉のおててでは。
おまけにこの世界は書き言葉と話し言葉が違う。
その結果いつもは大人と同等に話す天才児なのに、手紙は見た目相応に「ありがとう。」くらいしか書けないのだ。
「やっぱり僕が代筆しようか。」
「いいえ。」
くそう。
代筆なんて難しい単語は分かるのに、手紙は5才児レベルだなんて。
でも手紙の内容を口に出すのは恥ずかしい。
手紙とは口に出さないからこそ、普段は言えないような赤裸々な気持ちをさらけ出すことができるのである。
ローゼとリリのキザなセリフによって鍛え上げられた詩人レベルを今こそ発揮するつもりだったのに。
「絵を入れてみたら?」
「その手がありました!」
私はリリの似顔絵を描いてみる。
……うん、どう見てもたこ焼きに手足が生えたようにしか見えない。
「わあ!とっても上手だね。」
「……見え透いたお世辞は悲しくなるのでやめてください。」
「そうかな?すごく上手だと思うけど。」
まあ私が純粋な幼女だとすると、これくらい描ければ下手とは言わないか。
文字も絵も5才児レベル。
はっきり言って手詰まりだ。
年相応とも言う。
これ以上紙を無駄にするわけにもいかない。
「ローゼはあっちを向いていてください。」
「えー。僕には見せてくれないの?」
「これはリリだけが読んでいい手紙です。」
正直、この低レベルな手紙を書くところを隣で見られたくない。
「わかったよ。僕は本を読んでいるから、終わったら声を書けてね。」
本を読んでいるふりをして、手紙を盗み見るのでは?
疑り深い私は彼の視界を遮るために肘でガードしながら書いたので、余計字が汚くなった。
「文字なんて読めればいいのです。」
「終わったの?」
「まだです。インクが乾くまでしっかり本を読んでいてください。」
炭のような香りがするインクの匂いを感じながら、しばらく無言で待つ。
すると隣から伸びてきた手が私の耳たぶをいじりだす。
「読書に集中してください。」
言いつけどおり視線は本に固定されているが、意識は完全にこちら側にある。
「無理だよ。ねえ、なんて書いたの?」
「秘密です。」
「はあ。隠されると余計気になるよ。僕は知りたがりなんだ。」
どうやら本気で気になるらしい。
技術的な問題で、大したことは書けていないのだが。
ローゼの教えて攻撃をかわしながら書いた文字にちょん、と触れてみる。
指にインクがつかないことを確認すると、便箋を慎重に2つ折りにした。
控えめな装飾が美しい封筒に入れて完成だ。
パーティーが嫌いなリリには気の毒だが、私は2日後が待ち遠しい。