貴族≠パリピ4
ピンク、黄色、オレンジ、水色、、紫、赤、蛍光グリーン、黒、白、茶色。
種類ごとに分けられた花が新聞紙の上に小山を連ねている。
陽の光を浴びて、こころなしかキラキラとしたオーラが見えるようだ。
なんて女子力の高い絵面だろう。
「左からラベンダー、オレンジ、マロウ、マリー、ローズ、マロウだよ。ちなみにマリーはマリアの名前の由来になった花だ。」
マリーの花はフリルを何段にも重ねたような小さな花だった。
「じゃあ、ローズはローゼの名前の由来ですか?」
「ああ、そうだよ。リリは名前の通りリリーという花があるのだけど、大きいからポプリにはあまり使わないんだ。」
おそらくリリーは前世のユリの花だろう。
なぜ花の名前だけ英語名なのだろうか。
ここはどう見ても日本とはかけ離れた場所なのに話す言葉は日本語だし。
異世界は謎ばかりである。
「人には花の名前に由来した名前をつけるのが決まりなんですか?」
「絶対というわけではないけれど、そういう人が多いね。これはおまじないみたいなものなんだ。」
「おまじない?」
「もともと花の名前は女の子につけるものだったんだ。だから、女の子が生まれますように、という願いを込めて生まれる前の子供に花の名前をつけるようになったんだよ。」
やはり女性の数が少ないということは、生物として死活問題なのだろう。
名前の付け方にまで影響してくるとは。
ローゼは一脚しかない椅子の上に座ると、私を膝の上にのせた。
いつもはローゼが1人で作業をするから、椅子がないのだ。
「コツは瓶に見栄え良く花を詰めること。花を詰めた後の香油で香りはほとんど決まるから、花の組み合わせはあまり気にしなくていいよ。」
「はーい。」
私は作業を始めるが、どうも周りが気になって集中できない。
邸宅の一番端の塔の中。
丸い塔の壁面に沿って作られた飾り棚には所狭しと色々な物が並んでいる。
ドライフラワー、淡く発光する石、複雑な形の貝殻、キラキラした砂。
塔の上部にはいくつも窓があっていつでも日光が取り込めるようになっている。
「ここは、何の部屋ですか?」
花を詰め込む手は止めずに質問する。
「僕の趣味の部屋かな。まあ、ほとんど第4夫君の物置みたいになってるけど。」
「だいよんふくん?」
「4番目の夫という意味だよ。貿易商をしていて、お気に入りの物を見つけてはこの部屋に置いていくんだ。僕がよく使う部屋だから、ついでに管理してもらおうってことだろうね。」
思惑通り、この部屋のものはきちんと管理されている。
ローゼはマメな性格だから、見過ごせなかったのだろう。
「4番目……。つまり私のお父様はリリとローゼ以外に少なくとも2人もいるんですか?」
「あくまで親権を持っているのは僕とリリだけだから、形式上のお父様だけどね。あと、うちの夫は4人だけだから、それ以上はいないよ。」
異世界は本当に不思議だ。
ブーケット家の養子になったはずなのに、その家の中に実質の父親と形式上の父親がいるなんて。
その話から考えると、母親も形式上のものなのだろう。
「ところでマリア、違う色の花も入れてみたら?」
「リリといえば緑です。」
私の瓶は緑の色見本のように様々な緑で埋め尽くされていた。
深緑、青緑、黄緑、緑、薄緑などなど。
「まあ、おもしろいからいいか。」
そういうローゼの瓶は黄色のマリーをベースに美しく彩られている。
たくさんの色が入っているのにごちゃごちゃした印象にならないのがセンスがあるということなのだろう。
仕上げの香油は季節の植物のエッセンスが混ぜられたものを選んだ。
たしかに初夏の爽やかな香りがする。
「はい、マリア。君のことを思って作ったよ。受け取ってくれるかい?」
「え?お風呂に入れるのでは?」
ローゼは自分で作ったポプリを私に差し出す。
「ふふ。これは部屋に置くためのものだよ。お風呂で使うものは花びらがもっと細いでしょ?」
「確かに。えと、ありがとうございます。」
「光栄です。」
部屋置きのポプリは花の原型が残っていて、花束を詰め込んだように見える。
小瓶も凝ったものを使っていて、確かにいつもの風呂用のものとは見た目の華やかさが違った。
「今のが正式に贈り物をするときのマナーだよ。お伺いを立てて、受け取ってもらえたら感謝の言葉を伝えるんだ。まあ、女の子からの贈り物にマナーも何もないんだけど、マリアが気になるんだったらやってみるといいよ。」
「はい!」
この世界の紳士はこうして作られていくに違いない。