おやすみ
「おや、マリア。なんだかぐったりしていませんか?」
リリがフカフカのソファに埋もれる私を見て首をかしげる。
「もう二度とローゼとはお風呂に入りません。」
私はソファにぐでっとしたまま答える。
「何かあったのですか?ローゼ。」
リリは意外そうに目を見開くとぐったりした私にピッタリくっついて座っているローゼに目を向ける。
「お風呂に入るときマリアの言う恥ずかしいセリフをたくさん言ったからすねているんだよ。まあ、あれはマリアが悪いけどね。性懲りもなく可愛いことをしてくるから。」
「おや、一体どんなことをしてもらったのですか?」
「青色のポプリばかり使おうとするんだ。」
「だってローゼもいるから、ローゼが好きそうなやつを選ぼうと思っただけです!」
別にさっきの今で青色が好きになったなんて言ってないんだからね!
「ふふ。マリアはお父様を気遣ういい子ですね。ローゼが暴走するのもうなずけます。」
そう言いながら、リリはローゼの口を手で覆って塞いでいた。
まさか、彼はまたキザなセリフを言うつもりだったのだろうか。
職業は詩人かホストなのではないかと疑ってしまう。
ホストはなさそうだけど詩人はこの世界でもいそうだな。
相変わらずソファでぼんやり考えているとリリに抱っこされる。
「さあ、小さなお姫様はそろそろ寝る時間ですよ。」
寝かされたベッドは幼女には不必要な広さだ。
同じ方向に5回寝返りを打っても落ちる心配はないと思う。
「まだ眠くないよ。」
「ふふ、体が温かくなっていますよ。体が眠る準備をしているんです。」
リリの声は眠くなる。
そんなに穏やかに話されたら本当に眠いような気がしてしまう。
「2人は寝ないの?」
「ええ、でもマリアが眠るまでそばにいますよ。」
「眠った後は?夢の中は?夢から覚めて、また1人で知らないところにいたらどうしよう。また、全部忘れちゃったらどうしよう。」
何を不安になっているんだ私は。
これじゃあ本当に子供みたいじゃないか。
「だったら、僕がずっと抱きしめていてあげる。大丈夫、大丈夫。マリアは1人にならないし、突然忘れたりもしない。朝までずっとそばにいて、また一緒に朝ごはんを食べよう。」
ほら、私が変なことを言うからローゼが眠くもないのに添い寝するはめになってしまった。
布団に入ってきたローゼは宣言通り隙間なく抱きしめてくる。
ベッドの端に斜めに腰掛けたリリが両方のまぶたにキスをしてくる。
「良い夢を見られるように妖精にお願いをしておきました。大丈夫ですよ。大丈夫、大丈夫。」
リリの穏やかな声で催眠術のように大丈夫と繰り返されて、ローゼにポンポンと布団の上からリズムよく撫でられる。
そうされているうちにこわばっていた体から力が抜けていって、私はおやすみと挨拶したかどうかもわからないうちに眠ってしまった。