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リターン  作者: 乾 澪
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EP63:新地

ここ最近、一段と寒くなってきましたが皆さん体調を崩したりしていませんでしょうか?私は崩してます。

今回からまたちょっと新展開です。

 誰が何をどんなに望んだって。

例えば、どんなに面白い映画を見ていたって。

例えば、どんなにかわいい子とデートしていたって。

例えば、どんなに好きな人が死にそうになっていたって。

全てにいつかは終わりが来る。

そして、来ないで欲しいと願っているものほど、終わりは意外にあっけない。

それこそ今まで必死になって抗っていたのが馬鹿みたいに思えるほどに。


終わりはほんの一瞬も待ってはくれやしない。




「それじゃあ皆さん、ごきげんよう。またお会いする日を楽しみにしてるわ」



パチン

と一つ鳴らされた指。


そうして誰も居なくなった。


そうして皆の愛した彼はいなくなった。





「――――――――――――――――ハルーーーーーーーーーーーッ!!!!」




後に残るのは、むなしく響く彼を呼ぶ少女の声。

ただ、それだけ。

















思い出してみよう。

まずは出会いから。

俺と、優奈が初めて会ったのは、幼稚園にあがる頃だった。…らしい。

あいにく俺は覚えていない。

それを優奈に言ったときは酷く怒られたものだ。

『覚えてないの?!私達の奇跡的な出会いを!!?あの感動的な出会いを!??さいてー!!』

…とはいっても、所詮家が隣同士だったのだから奇跡的でも感動的でもなく、必然的だっただけだ。

そう、だから俺と優奈の出会いを振り返るのは無意味だ。だから却下。

そもそも俺にとってアイツは最初から傍にいるのが当たり前の存在だった。

アイツが人一倍男勝りだったこともあるんだろうけど、俺のほかの男友達に混ざってアイツと一緒に遊ぶことなんてざらだったし………俺が、アイツの女友達のおままごとに付き合わされることも、ままあった。不本意ながら。役は犬が多かったように思う。なんだよ犬って。

それで、小学校に上がって。

よく小学校に上がってから疎遠になった、みたいな話を聞くけど、俺たちはそんなことはなくて。

アイツは相変わらず男勝りだったし、俺は相変わらずアイツに振り回されていた。

ただ、そう。

アイツが赤いランドセル背負ってるのとか。

アイツがピンクのスカートをはいているのとか。

アイツの髪が背中の中ほどまで伸びているのとか。

そういうところに、徐々に「女の子」であることを感じ始めていたのも確かだった。

そんな小学校1年生。



――――――――そしてその夏、俺の人生は一変する。

兄貴が死んだ。目の前で死んだ。

そしたら家族が死んだ。

俺と、母さんと、父さんは、「家族」じゃなくてただの集合体になった。

人一人が死んだだけだという人もいるだろうと思う。

だけど、その人が根本を形成していたとしたら、どうだろう。

人は腕が無くたって生きていけるが、心臓を突かれたら死んでしまう。

そんなもんだ。


だけど優奈は変わらなかった。

俺に「可哀想」といってくれたし、「私も悲しい」といってくれた。

だけど次の時には笑って、「でも元気出して。私も笑うから、陽雪も笑って」と励ましてくれた。

その笑顔は、兄貴が死ぬ前のソレと、何も変わらなかったから。

だから俺は、優奈だけでも元のままでいてもらおうと思った。

優奈だけは守ろうと思った。

そんな小学生時代。



だけど中学校にあがって、また状況は少し変わった。

俺は母さんがあんなだから部活には入らなかった。入ったとしてもうまくはいかなかっただろう。

そして優奈は女子テニス部に入った。

理由は簡単だ。

『バレーもバスケもユニフォーム可愛くないけど、テニスのスコートはかわいいでしょ?』

ソレを聞いたときは、呆れ半分、「なんとまぁ優奈らしい」と思ったのが半分。

そしたら自然と生活リズムがずれていって、話題もずれていって、仲は悪くなかったが疎遠になったのは確かだった。

優奈の部活がない日にたまに一緒に帰るくらい。

それで、ちょっと離れたところから優奈を見る機会が増えて、気づいた。

(……あれ?アイツ、意外にモテるんじゃね?)

驚くべき真実である。

俺だけのヒロインは、意外にも皆のヒロインだった。

それにひきかえ自分は、相変わらず崩壊した家庭に一人取り残された根暗野郎。

適当に取り繕ってるから浮いたりはしていないけど、皆のヒーローとは到底呼べず。


もしかしたら自分こそが優奈にとっての爆弾なんじゃないか?


そんなことに気づいたのが、中学時代。




そして高校進学。

うん…俺だって、頑張った。

優奈じゃ到底入れそうもない学力の高校、選んだんだ。頑張って。

そうしたらアイツも憧れの先輩追いかけて頑張ってそこ入りやがった。畜生。

俺だってアイツのことが嫌いなわけじゃない。

……ていうか、多分、好きだったんだろう。いや、うん、その…えー、だから、うん。好き、だった。

だから、「陽雪!」とか言いながら駆け寄ってくるアイツを無碍にすることもできなくて。

…例えアイツの隣りに、「憧れの先輩」が居たとしても、できなくて。

それが俺の弱さだった。

アイツの事を守ってくれるヒーローは現れたわけだしお役御免でよかったのに。

どうして俺はアイツはさっさと他の皆と同じように切り捨てなかったんだろう。

本当にアイツのことを思うなら、そうすべきだったのに。

悔やんでも悔やみきれない。

そうしなかったからこそ、最終的に俺はあんな形でしかアイツを守ることができなくて。

多分―――多分、だけど。

アイツが、あんなふうになってしまったのには、俺の死が関わっている。

俺がきちんとアイツを守れなかったから。

(…畜生……守れたと、思ってたのになぁ………)

守れたと安堵していたのに。

だからこそ、俺は俺で、コッチの世界で新たに頑張ろうと決意したのに。

(全然、全然守れてないじゃねぇかよ)

守れなかった。

守れなかった。

結局、俺は何も守れてない。

優奈のことも、家族のことも、みんなのことも。

何も、何も、何も――――!!



『アンタは壊すことしかできない。何かを守ることなんて、陽雪にはできないんだよ』



…………じゃあ、本当に、そうだったとして。

(俺はどうしたらいい?)

大切な人だけは守ろうと必死で強くなってきて、でもそれは全部無駄な努力でした。

で?

どうしたらいい?

俺には、壊すことしかできない。

じゃあ、俺は、一体。

一体、どうしたら。















「――――――――――っ……、……ん、ぁあ?」

目が覚めた。

…ていうか、寝てた?

「…じゃあ、今の全部、夢か……」

…どこから夢?

………ていうか、そか。

今の状況的に、まず最初に言わなきゃいけない台詞があったっぽい。

「…知らない天井だ…」

ていうか天井ですらない。

あれは…えっと。

金持ちのベッドの上にある、あの、屋根みたいなヤツについてる、その、ふわっとしたカーテンみたいの。あれがみえる。

「天蓋、だっけ?」

まぁ別に目新しくもないが。

驚く無かれ。実家に帰ればクロアのベッドは天蓋付だ。一応お嬢様だからな。

「…で?」

で、ここはどこだ?

視界は十分保てるくらいに明るいから、時間的にはあれから大分時間が経ってるんだろうが…。


「…ん、むぅ…」


人の声と、寝返りを打つような衣擦れの音。

その音につられて視線を右にやる。

そこに居たのは、


「………あと、五分ぅ~………」


俺の右手の指先を少しだけつまんで丸まるように眠っている、優奈。

白いシーツの上には黒い髪が広がり俺の鼻先まで来ている。

右手を動かすとおきてしまいそうだったから、体を横向きにして左手で優奈の髪を一房手に取る。

サラサラと零れ落ちていきそうな手触り。


『あ、また枝毛…。何よ、何なのよ、私毎日ちゃんとトリートメントしてるでしょ…!?』


アッチの世界では、自分の毛先を目の高さまで摘み上げてよく不満げに愚痴っていた。

(優奈がコッチに来たのは、いつなんだろう)

少なくとも、茶色に染めていた髪が全部黒くなる程度の時間は経ったのだろうか。

それとも、コッチに来るときに色々と初期化されたりするのかもしれない。


――――どちらにせよ、今、目の前に居るのは、優奈だ。

だから、俺が今、どこにいるかは明白だ。

「…………陽雪……?」

優奈が、目を開けた。

「………………あぁ、おはよう」

「…ん、おはよう…」

ふわりと笑う。

寝ぼけているのか、まだどことなく言葉が軽い。

「夢、みたいね」

「ん?」

「陽雪が、すぐそばにいる」

「……」

「目を開けて、すぐ目の前に陽雪がいる。……夢じゃない。夢が、叶ったんだ」

「………ゆう、な」

「陽雪」

名を呼ばれるのと同時に、握られていた指先に痛いほどの力が込められた。



「――――ようこそ、ヴォルジンへ。…もう二度と、離さないから」



縋り付くように伸ばされた優奈の両腕。

そして掻き抱くように、俺の胸に腕を回して顔を埋める。

「もう二度と…絶対に、絶対に…!」

じわりと何かが染み込んでくる感触。








「お取り込み中申し訳ございません」

その言葉が聞こえたのは、果たしてノックより先だったのか後だったのか。

慌てて声のほうに目をやると、そこには見慣れぬ黒い軍服姿のオリビア先輩がいた。

「レイル様がお呼びです。至急、ご準備を」

そしてそれだけ言うと、またさっさとドアの向こうへと出て行ってしまった。

「――――――――――――――――――っちょーーーーーーお、空気読めないね、あの子」

ジトリ、と不満げな視線をドアの向こうに送る優奈。



ここには、優奈が居て、オリビア先輩がいて、そして、レイルとやら(恐らく、宰相のことだろう)が俺を待っている。

あぁ、もはや疑う余地がない。





俺はヴォルジンへと、来てしまったのだ。

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