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リターン  作者: 乾 澪
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Ep61:殺意

本当は一話でまとめたかったのですが、それだとどうにも更新が遅れてしまいそうだったのでとりあえずここらであげてみます。

もし次の話とあわせたほうがよさそうでしたらまた後日編集します。

尻切れトンボで後味悪いかもしれませんが、もうしばしお待ちくださいませ(汗

 ありえない。ありえない。ありえない。

心の中で何回も叫ぶ。

ありえない。ありえない。ありえない。

だけどこれは夢じゃない。幻でもない。現実だ。

腕の中に捕まえたククリの存在も、むせ返るように部屋に篭る魔力も確かに感じる。

これは現実だ。

(じゃあアレは誰だ?)

白いフードの中から現れたあの顔を俺は知っている。

否。知っている顔に、酷似している。

ただ、俺が知っているアイツより少しだけ大人びているのと、その爛々と光る朱い瞳が違うだけで。

それだけで。


「…なによ、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔しちゃって。そんなに驚いたの、ねぇ?ふふふっ!」


その笑う顔が、言う言葉が、あまりに―――――あまりに、アイツと似ていて。

ありえない。

そう否定する言葉は、口から出てこない。




腕を離して一歩、足を踏み出す。

「は、ハル…?」

ククリの戸惑ったような声が聞こえたが、今はそんなこと気にしていられない。

ありえないと信じてきた。…いや、ありえると考えたことすらないことが、今目の前で起こっている。

(確かめないと)

そう思って更に一歩前に進むが、

「っ!?」

膝がぐらついて転びそうになる。

……ビビッてるのか、俺?

足が震えるくらいに。

敵と戦う時には恐怖は覚える。だけど、そこから適切な行動にすぐさま動けるようにレオン少佐から訓練を受けてきた。

でも、今感じてるこれは、そんなものじゃない。

もっと、心の芯をへし折られるような。

そんな恐怖。

「…………」

だけど進む。

恐怖よりも何よりも、全てを凌駕するような誘惑が、そこにいるから。







「――――――――優奈、か?」

問えば微笑む。

まるでここが「日本」の「俺の家」かのように、自然に。

「あったり前でしょ。他にこんな美少女がいるなら連れて来て欲しいわね、んん?」

その口ぶりは正しくアイツだった。

疑う余地無く、牧坂 優奈、そのものだった。

―――――――――――――――――だからこそ。

「―――――ッ!!!」

「……陽雪?」

だからこそ、俺は、どうしようもなく泣きたくなった。

だってそうだろ?

どういうことか分からないけどコイツは間違いなく優奈だ。

笑い方もしゃべり方も、触ればきっとぬくもりだって一緒なんだ。

だけどコイツの後ろにいるのは誰だ?

甲冑を纏うそいつらは?もう一人のローブの男は?今この學園を攻めてきている奴らは?

俺は、さっき思ったはずだ。

『今回の襲撃は間違いなくヴォルジンの手によるものだ』

確信したはずだ。

だから、つまりは、そういうことなんだろ?





「優奈。お前、巫女姫なのか?」








答えは一言。

「そうよ?」

何をいまさら、とでも言うかのように優奈は言った。

「だってほら、私の目、朱いでしょ?」

「アルエルドなのは分かる。けど、姫巫女だという証拠にはならない」

「証拠ぉ?相変わらずアンタはつまらないこと気にするのね。…ま、いっか」







瞬間――――――押し潰されるような圧力。

「ッぁ―――――――!!??」

重力が何倍にもなったような錯覚。

それは正に一瞬のことで、次の瞬間にはそれこそ幻だったかのように消えてしまったが、決して幻じゃない。

幾重にも折り重なるような金属音。追いかけるように聞こえてきた何かが倒れる音。

「……………ククリ…」

振り返ると、床にはククリが倒れていた。

そして視線を戻せば、蒼いローブ姿の男を除き、優奈の後ろに居た兵士達は皆、手に持った槍を杖代わりにしていたり膝をついていたりと今にも倒れそうになっている。

「ね?分かったでしょ?こぉんな魔力持ってる人なんてどこ探したって…まぁ、私はほとんどヴォルジンから出たこと無いけどさ。多分私だけだよ?」

その言葉を聞いて思わず、

(当たり前だ)

と心の中でつぶやく。

化け物と呼ばれた俺を遥かに凌駕するその魔力。

それを解放されただけで膝を付いてしまいたくなる様な圧力。

優奈が巫女姫であるという証拠に足りえるものだ。そう何人も居てたまるものか。

「…はい、私が巫女姫だっていうことがわかりましたー。で、どうする?」

「は?」

「陽雪はどうしたい?」

「どうしたい?」

「え?だから、私に着いて来るか、連れて行かれるか」

「………………はぁ?」





着いていくか、連れて行かれるか。

「…同じじゃん」

「違うよ。全然違うじゃん」

「……巫女姫は、敵だ」

「え?」

「ヴォルジンは敵だ。俺は、アルノードの軍人になる。だからヴォルジンは敵だ。…巫女姫も、敵だ」

「…………じゃあ何?」

すっ、と優奈が目を細める。

不機嫌なときのアイツの顔。全然変わらない。

(あぁ、コイツ、優奈だ)

その顔に妙に納得してしまった。

まだ少しだけ疑っていた部分が無くなった。

コイツは、優奈だ。

「陽雪、私と戦うの?戦うつもりなの?」

「だってそうだろ?優奈にとってアルノードは敵だろ?」

「知らない。そんなのどうでもいい。私はただ、陽雪がここにいるから迎えに来ただけだよ。陽雪をくれるって言うから言うこと聞いてあげてただけだよ。ただ、それだけだよ」

「…なんだよ、それ?」

訳が分からない。

優奈は俺がこの世界にいることを最初から知っていた?

いや、そもそもこの世界に優奈がいるということは、あっちで優奈はどうなったんだ。

(――――死んだ?)

そうとしか考えられない。俺が、そうだったように。

じゃあどうして死んだんだ?

アッチとコッチの時の流れが同じではないかもしれない。だけどまさか老衰ってことはないだろう。

それじゃあ何で?どうして?

「私は陽雪と戦うつもりは無いよ。だって、陽雪は何よりも、誰よりも大切だもん。戦わない。傷つけもしない。絶対に、陽雪は私が守る」

「優奈………」

「………それに」

「…?」

右手を眼前に突き出す優奈。

ふと、気づいたときにはもう遅かった。


「――――――――ッッッアアア゛ア゛!!!!!」


―――――ただ叩きつけられた。

一切の抵抗を許されること無く体を床に叩きつけられただけだ。

優奈が放つ躊躇の無い膨大な魔力の塊によって。

「……今の陽雪じゃ、私と戦うこともできない。自分の心をだましてる陽雪なんかが私に適う道理がないよ」

「ハッ、ハッ………ッぐぅ…!」

立ち上がろうと腕や脚に力を込めるが無意味。

それどころか呼吸することすらままならない。

「…グガアアアアアアアアッッ!!!!」

だがそれでも。

俺は立たなければならない。

後ろには気を失ったククリがいる。

ならば俺は立たなければならない。

今目の前にいるのは、命を賭けて守った――――その果てに、何も変わらないようで全てが変わってしまったような幼馴染だ。

ならば俺は、立たなければならない。



「……どうして、立とうとするの?無理だよ。陽雪はすごいけど、今は私のほうがずっとすごい。絶対に陽雪は立てない。なのにどうして立とうとするの?私に逆らおうとするの?私に会いたくなかったの?私が欲しくないの?…そんなに、ここがいいの?」

「ハッ、ハッ、ハッ…!」

気づけば、すぐ傍に優奈が居た。

優奈は俺の目の前でかがみこみ、両手で俺の顔を持ち上げる。

無理やり合わされた視線。

アイツの朱い瞳は真っ直ぐに俺に向けられる。

「…………ねぇ、陽雪」

「ハッ、ハッ……っ、ん、だよ…!」

「……今から陽雪の大事な人たち呼んで、お別れさせてあげる。それが私にできる最大の譲歩。きっと最後の言葉になるから、良く考えて言うのよ」

優奈の手が離れる。

途端に俺はまた強制的に額づくような体制になる。

立ち上がった優奈が何をしているのかも見えない。

「………………おい」

しかし、それを制するような聞き覚えの無い声は聞こえた。

可能性があるのはあの蒼いローブの男だけ。

「うるさい」

「しかし、」

「今回は私の好きにさせるって言ったでしょ。黙ってて」

「…」

その言葉に男は黙り込んだ。

そして優奈は一言つぶやく。


「『来たれ』」


次の瞬間、背後に感じたのは複数の気配。

誰かなんて聞かなくても分かる。






――――――『今から陽雪の大事な人たち呼んで、お別れさせてあげる』








「っ、ここどこ…………………………え?」


聞こえたのは、もう一人の幼馴染の声。



「……………ハル、くん?」


戸惑うように俺を呼ぶのはクラスメートの彼女の声。



「…………全員、下がれ…っ!」


搾り出すように苦しげに、剣を抜く音と共に放たれたその言葉は敬愛する先輩の声。



「ハル!!ハルっ!!!おい、返事をしないか、この腑抜けがッ!!!」―――――――――怒鳴るリオールの声。

「え?何?なに、なんなの?あれ、ハル君なの?あれ、誰なの?…オリビア、なの?」―――――――泣きそうなエミリ先輩の声。

「…………先輩………せん、ぱい…!」―――――――初めて聞いた大きなアスハの声。

「…なんで、こんな…………」―――――――戸惑うようなニコル先輩の声。

そして





「………………………まさか、こんなところでお会いするとは思いませんでしたわ、巫女姫様。もし、無礼をはたらいたのでしたら心からお詫び致します。ですから――――――――――――うちのドラ猫とお姫様、さっさと即座に髪の毛一本残さずこちらに返してもらおうかしら」


―――――――凍りつくような怒りを纏った、アリア少佐の声。








それを受け止めて尚、優奈は笑った。

「フフッ」

嘲笑、と呼ぶにふさわしい声で。

「ねぇ、陽雪」

優奈が俺を呼ぶ。

「これで陽雪の大事な人…んと、全員には少し足りないみたいだけど、大体そろったよね?ほら、何か言いたいこととか、お別れの言葉とか、あるでしょ?そのために私が呼んであげたんだから」

「………やめ、ろ……」

何をするつもりだとか、優奈がどんなこと考えてるのかとか、俺にはさっぱりわからない。

けど、それはきっとすごく、すごく嫌なことだ。

だから、浅い息を繰り返しながら搾り出すように言う。

「止めろ…っ」

「……無いの?言いたいこと。そっかぁ………………じゃあ、もういっか」




優奈が俺の横を通り過ぎていく。

止めさせなくちゃ。

そう思うが、手が出ない。

優奈の魔力に縛り付けられたように、俺の腕は動かない。

そして俺の真後ろまで来た優奈は一つ息を吸ってから、言った。







「貴方たちがいると、陽雪が私についてきてくれないから」














―――――――――――――――――――――――だから、殺します。


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