Ep52:地雷
こういう馬鹿みたいな話書いてるほうが楽しいです。
はい、今回はリターンの中でもいまいちキャラが立たないエミリ先輩と新参者のアスハくんのターンです。
こうしてどんどんいらないフラグを立てて一つも回収できなそうな気がして怖いのですが、一応ハーレムものですから許してほしいです(;^ω^)
ハーレムもので悩むのって、落ちをどうするかですよね…。
皆さんはどのヒロインとの落ちがいいでしょうか?
大穴で巫女姫様だったりして^^
アッチの世界での話しだが、世の中一夫多妻の文化は数多ある、あるいはあったが、一妻多夫というのはとても少ないらしい。
生物学的見地から考えても一妻多夫というのは余り都合が良くないからだろう。
一人の男と複数の女がいれば多くの子孫を作れるが、一人の女と複数の男が居ても、一定の期間で生まれてくる子孫の数には限界があるからだ。
だからまぁ、世間で言う逆ハーレムだとかそういうものはかなり非現実的で不合理なことだが、逆に言うとハーレムというのはある程度合理性のある話だ。
――――――はい、言い訳乙。
いい加減現実を見ような俺。
いくら目の前の事実から目をそらして、自分に「ハーレム万歳!!」と言い聞かせたところでこの混沌に終わりは来ないのだから。
さぁ、覚悟を決めろ俺。行くぞ俺。頑張れ俺。
そうだ、俺だってやればできる。
いままで押しに押されてここまで来てしまったが、たまにはハッキリ言わないと!
良いものは良い。
無理なものは無理。
女の子が悲しむ顔は余り見たいものではないが、中途半端はさらに悲しませるだけだ。
だから、そう――――――。
「もう一本、もう一本だけお願いします!!!」
「ていうか俺に勝ったら即嫁入りってやっぱりおかしく無いですか!????」
どう考えても、勝ち抜き嫁入りバトルって、間違ってると思うんですよ。
「ゼェ、ゼェ、ゼェ………あ゛ぁー…死ぬ」
「………………死ぬ?」
「あぁ、死ぬな」
「…………………いつ?」
「この状況がこれ以上続いたら、もう即だな。即死だな」
「………………おつ、デス」
「おぉ、ありがと」
昼休み。
逃げ込んできたのは、魔法科棟にある生徒会室。
魔法科棟は特に用件もなく普通科の生徒が立ち入ることは基本的に禁止されているので、とりあえず普通科棟よりは安全だ。
主な戦力で言うなら普通科にはククリやアゼリア先輩、アリスが居るのに対して、魔法科にはクロアしかいない。
熱狂的ファンである後援会を構成する多くの生徒も普通科の生徒であるため、物量的にも魔法科棟に居た方が襲われる率が低くなる。
「………………お茶、飲む、デス?」
机に伏せる俺の向かい側に座って一人ちまちまと小さなパンを小さな口で食べていたアスハがそういって腰を上げる。
「あーありがと。本当に助かる」
「……………ん」
アスハは小さく頷いてから、これまた小さな歩幅でポットやらなにやらが置いてある棚へと向かっていく。
アスハと出会ったのは割と最近の話だが、ここ最近毎日こうして昼休みに顔をつき合わせているので大分距離が縮まった気がする。
……しかし、なんだ。
俺が昼休みを生徒会室で過ごすようになったのは、アリスの『第二夫人立候補事件』以来、どこからともなく俺の嫁の座を狙って奇襲をかけてくる女子生徒(えぇ、女子生徒ですよ。女子しかいませんよ。たまに見かけるズボンの制服の子はそれが趣味なんですよきっと)から逃れるためにここを使い始めたのがきっかけだが、その初日からコイツはここにいる。
ということは、俺がここを使うようになった以前からコイツはここで昼飯を食べているということだ。
「…アスハぁ」
「………?」
呼ばれて振り返るアスハ。
「お前、友達は?」
「…………いる」
「え?」
すっ、とまっすぐ伸びるアスハの人差し指。
その指が示す先には、
「俺?」
「…………ニコル、先輩……言ってた、デス」
「なんて」
「ハルくんと、仲良くね」
「…そ、か」
「ん………」
そしてそれだけ言うと、アスハはまたお茶くみに戻ってしまった。
…友達、か。
んー、まぁ、可愛い後輩ができたなぁとは思っていたが、友達かぁ…。
いや、アスハと友達であるということは吝かでもないのだが、しかしそれにしても大した時間一緒に居るわけでもない俺が友達として筆頭に出てくるということは…。
(やっぱりコイツ、友達少ないのかな)
この学校はなにかと自己主張の強い奴が多かったりする。
もしかしたら、コイツの無口・無表情というのは、その中では結構浮いてしまうものなのかもしれない。
掃き溜めに鶴的な。…ちょっと違うか。
(でも少し話してみれば悪い奴じゃないことくらいすぐ分かりそうなものだけどな)
同い年の連中にそれを求めるのは酷というものだろうか。
それならばせめて年上でもいいから友達を増やしてやりたいものだが。
どうしたものか……………。
「やっほー2人して何してるのー?なんだか楽しそうだねぇー!」
鴨が葱背負ってやってきましたよ。
アッチの世界の神様は大嫌いだったが、コッチの神様のユーナ様はこういう面白展開的なことは優遇してれているみたいだ。
とりあえずこの場はありがとう。そしてできればこのハーレム騒動もついでにどうにかして欲しい。
「エミリ先輩じゃないですか。どうしたんですかこんな時間に」
「…………こんちは、デス」
ぺこりと一礼するアスハ。
先輩用のカップも棚から出している。なんて気の利く後輩なんだ。
そうだよ、俺の周りにはこういう尽くすタイプが少なすぎるんだ。
……あれ、確かアリスも昔はそんな感じだったような気が…?
…気のせい、だろうか。
「こんにちはーアスハくん。いやぁー、今日もなかなか暑いねぇー」
「そうですね。まだまだ夏は終わらないですね」
「うんうん、だからさ、教室居ると余りに人多くてもっと暑苦しいから、少し避難しにきたの。友達は友達でなんだか用事あるみたいだったしね」
「そうなんですか。ま、俺も似たようなもんですから、お互いゆっくりしていきましょう」
「そうだね!」
どさりと俺の横の席に腰を下ろす先輩。
「ふぁー暑い暑い。去年より全然暑い気がするけど、気のせいかなぁ?」
「気のせいですよ」
「そっかー」
そういってばさばさとシャツの襟を仰ぐ先輩。
………む。昔より、育った気が……いやいや、背の話だから。何もやましい事なんか考えてないから。
「ねぇ」
「は、はい?!」
「ハル君がここに居るのって、やっぱり第二夫人がどうのこうの、って話の所為?」
「…七年生まで話漏れてます?」
「駄々漏れですね」
「マジすか…」
「マジです」
それを聞いて思わずため息。
まぁそうだよなぁ…後援会の一人に知れれば全校生徒に知れると同意、ってアリア先生も言ってたもんなぁ…。
『昔ね、一回だけ悪ふざけに水着で全校集会の壇上に立ったらね、次の日には下は一年生、上は先生まで私の写真持ってたときにはすごい笑ったわね!さすがは我が生徒会後援会、あの行動力は賞賛に値するわね♪』
…思い出してみたら、ろくでもない話だったな。
「で、ハル君は第何夫人くらいまでもらうつもりなの?」
「はい?」
「とりあえずクロアちゃんと、アゼリア会長と、アリスちゃんは確定でしょ?それと…うーん、アリアかいちょ、じゃなくてアリア先生はどうなのかなぁ…ハル君的に年上ってどのくらいまで守備範囲?」
エミリ先輩が俺の嫁候補を指折り数える。
…「俺の嫁候補」って、改めて言うと字面がすごいな。すごいアホっぽい。
「で、ですから、普通奥さんって一人でしょう?」
「ですから、ハル君はいずれ普通じゃなくなるので奥さんもたくさんになるんです。って、説明されたでしょう?」
「されましたけど」
「ま、私もお母さん一人しかいないからそういわれても実感わかないんだけどさ」
「はぁ……」
俺がそんな間抜けな返事をしたとき、目の前にカップが置かれた。
見上げると、前髪に隠れたアスハの顔。
「………………どぞ」
「お、どうも」
「わ、アスハくんありがとー!」
隣を見ればエミリ先輩のカップも用意されていた。
そんな気配は全く感じなかったのに…シュウ=アスハ。なかなかやりおる。
「…ぅん!アスハくん、すごいお茶いれるのうまいね!!すっごい美味しいよ!!!」
「………………そう、デス?」
「うん!美味しい!!」
「…………………どうも、デス」
一口お茶を飲んだエミリ先輩。
そしてそのエミリ先輩からの賛辞に照れるように、前髪をぐしゃりとかき乱すアスハ。
(…なんだか、俺が口出しする必要も無いほど仲良さげ?)
…まぁ、そうだよな。
落ち着いて考えてみれば、俺が居ない間、アスハが一年のときも先輩はアスハと生徒会やってたわけだから、むしろ俺より仲良くて然るべきか。
んむ。俺は何事も自分中心で考える癖があるからな…要改善だな。
「あ、そうだ。ねぇねぇ、アスハくんだったらお嫁さん何人くらい欲しい?」
エミリ先輩がもう一口お茶を飲んでから、今度はアスハに尋ねる。
「…………………うち、は、普通…だから、普通、に、一人………」
「…アスハくんもお嫁さん欲しかったりするんだ…」
意外そうな顔をするんじゃない。
コイツだって普通に男の子なんだから。…そうだ、世の中ニコル先輩みたいなほうが圧倒的に少ないということをたまに忘れそうになるが、普通はみんな普通に男の子なんだから。
お嫁さんが欲しいと思うのも当然だろう(ニコル先輩の場合はライナス少尉が婿になるのか、嫁になるのか…)。
「……………先輩、は?」
「ん?」
「エミリ、先輩は……………お嫁、行きたい、デス?」
「そりゃ行きたいよー。私、あんまり学校の成績も良くないし、家柄も普通だからね。軍人になっても親が期待するようには大成しないと思うから、できるなら素敵な結婚がしたいと思うよ」
「…………………そんなこと、ない、デス、けど………」
「あはは、ありがと」
そういって笑う先輩。
…親が期待するようには、か…。
どの世界でも、親の期待、って言うのは子供にとって色々な負担を強いるもののようだ。
エミリ先輩の場合は将来への圧力。そこから派生する、己への失望。
とまでは行かなくても、親が提示する未来像に近づけない自分を卑下するような気持ちが今の言葉には見え隠れしていた。
それに、兄貴の例もある。
兄貴がどうしてあんな最後を選んだのかは俺には知る由も無いが、想像することはできる。
そしてそれはきっと大きく外していないだろうと思う。
親が、子に期待するのは当然だ。
素敵な大人になって欲しいと願う。自分よりも素晴らしい人間になって欲しいと願う。
だけど、それが子供の重荷となるならば、そんなものゴミ箱にでも投げ捨ててしまったほうがいい。
親が子に勝手な期待を抱いて、子供の笑顔を歪な物に変えるなんて、許されることではない。
そんなこと――――――。
「…でも、私はどう頑張っても四番手だからなぁ…。お仕事は続けたほうがいいよね、きっと」
「………………お仕事?」
「うん。私、卒業したらきっと経理とかに回されると思うんだ。数字いじるのは得意だし。経理って結構手堅い仕事だから失職とかもなさそうだし。旦那さんに頼りっきりってのも申し訳ないでしょ?」
そんなこと……そんな……………ん?
「あの、先輩。俺途中から話聞いてなかったんですけど」
「え?あぁ、だから、結婚してからもお仕事は続けたほうが無難だよねーって話をアスハくんと…」
「じゃなくて。そこじゃなくて」
「…?」
「……四番目、て、なんのことです?」
「え?」
「え?」
「だから、クロアちゃん、アリスちゃん、アゼリア会長、で、私。ほら、四番目でしょ?」
地雷 踏んだ。
今回のエミリ先輩を書いていたら無性にアマガミの梨穂子が脳裏にちらついて仕方ありませんでした。
ご存知の方はいらっしゃるでしょうか?
全然そんなつもりで書いてないんですけどね……梨穂子はかわいいなぁ!!!