Ep49:後輩
悩んだ末に後輩(♂)を登場させてみました。想定になかった人物なので今後どう動くのが私にも分かりませんが、書いていてなんとなく楽しかったのでちょっと楽しみですwww
今後の予定としては、しばらくのんびり書いていこうかなぁ、と思っています。
自分的にはずっとコメディーのターンです。シリアスは結構お腹いっぱい。
次にシリアス入るときは、ラストスパート的なことになると思うので、それまではゆっくり充電します。
ので、これからはハルの學園生活にしばらくお付き合いくださいませ。では。
アリス、ククリ、そしてリオールとの再会の翌日。
約600人の新入生を迎え入れた我がエイファン第弐學園の始業式は滞りなく執り行われた。
そう、それはもう滞りなく。
いつぞやの変態で快楽主義な当時の会長とは違い、現会長であるアゼリア=ロックハート先輩はそれはそれは真面目に、一片の欠損もない完璧な挨拶を述べた。
無論、「面白そうで自分好みの新入生探し」などするわけも無い。
まったく……あの辱めは忘れようたってそう簡単には忘れられない。
「あぁ新しい学校緊張するなぁ友達できるかなぁどきどきわくわく!」している少年を、何千人といるこの会場で、スポットライトを当てた上にさらし者にするのだ。
まぁ、俺はいい。
いや、良くはないが、それなりに俺は大人だから、耐えられる。(最近どうも精神が体に引きづられている気はするが)
けれど俺以外の普通の少年にあの扱いはなかなかにトラウマ物である。
あの儀式を執り行ったのが俺の年とその翌年だけで本当に良かったと思う。
―――――と、話はずれたが、俺が言いたいのは要するにそう、この學園には俺がいない間に相当数の新入生が入ってきているということである。
現在俺は5年生。
8年制の學園においては、結構な上級生と言うことになる。
…まぁ、俺はかなりの時間を指導舎に吸い取られているので、あまり上級生と言う自覚はないのだが…。
まぁそんなものあろうがなかろうが、俺の下にはすでに4学年分の後輩がいるわけだ。
無論、生徒会にも新入りがいる。らしい。
「最近魔力保持者自体がぐんと減っちゃったらしくて一人しかいないんだけど、名前はね、シュウ=アスハくん。いま二年生で、んーっと…割と、不思議系?」
「不思議系?」
魔法科棟にある生徒会室へと向かいながら、隣にいるニコル先輩にざっくりと現状をうかがう。
…しかしこの人、しばらく見ない間にまた「可愛く」なったな…。
ふわりと浮かべる花のような笑顔とか、やわらかそうな頬とか、俺の肩くらいまでしかない身長とか。
絶対髭とか生えたことない。ていうか無駄な毛など一切存在しなさそうだ。
びっくりするほど女子の制服似合うし……。
ていうか、學園側がそれに普通に許可出してるところがアレだ、なんか生徒会長の強権を感じる。
やっぱりまともな神経した人間じゃこの學園の長になんぞなれないということなのだろうか。
…あ、いま男子生徒が一人ニコル先輩のことを二度見した。新入生かな?
うんうん、気持ちは分かるぞ。この人はダントツに可愛いもんな。
けど止めとけ。漏れなく姑と息子付きだから。
「不思議系、ていうか、不思議ちゃんっていうか、アイツと一分以上会話を成立できたら10000Zっていう賭けが持ち上がってるっていうか」
「それ不思議系とかじゃなくて単に対人スキルが欠如してるだけじゃないですか?」
「でも悪い子じゃないよ?仕事はすごく丁寧にやるし…エミリちゃんより手際いいかも」
「……エミリ先輩……」
あぁ、貴女と言う人は、いまだにそういうポジションにいるのですね…。
そして今貴女は7年生。
そこまできて覚醒しないということは…もう、あまり可能性は無いのかもしれない。
少なくとも会長職につくことはないだろう。
と、なると次に会長になる人は……。
「そういえば、オリビア先輩っていまどうしてるんですか?」
「オリビアちゃん、ね。一回、今学期の頭には戻ってくるっていう話が出てたんだけど、少し遅くなるらしいの。具体的にいつになるかは分からないけどね」
「それじゃあ、もし来年までに戻ってこなかったら…」
「うん。そのときは…」
隣を歩いていたニコル先輩が立ち止まり、俺を見上げてきた。
俺も足を止めてニコル先輩を見る。
目が合うと、ニコル先輩はにこりと笑った。
………えぇい、静まらんか俺の心臓ッ!!!
「そのときはよろしくね、ハルくん!」
「はい!よろしくされまし…は?」
「だから、次期会長職」
「……いやいやいや!嫌ですよ!?」
「えぇー?だって、魔力覚醒してるのって今のところハルくんしかいないんだから、そうするしかないでしょ?」
「オリビア先輩は!?」
「戻ってこないかもしれないから、保留」
「えええええぇえ?!」
「どっちにしたってハルくん、再来年には絶対会長なんだから、いつなったって変わらないわよ」
「で、でも…!」
「もう、男の子でしょ」
ぴっ、と俺の鼻先に指でつつく。
「わがまま言わないの!」
「………は、はぁ………」
まったくもってどういう理論なのか分からんが……。
「…ハァ…」
頼むからオリビア先輩。
来年までには帰ってきてください!!
「……………」
目の下までかかる長い前髪。
自信なさそうにうつむけられている顔。
俺の胸まで届くか届かないかくらいの小さな背丈。
両腕で大切そうに力いっぱい抱きかかえられているボロボロな本。
……男の娘はもう足りてるぞ?
「……………デス」
「へっ?」
「…………シュウ……アスハ…………デス」
「あ、あぁ、シュウ=アスハくんな!俺はハル=アル、じゃなくて、ハル=ライザック。第弐寮、5年7組に所属してる。まぁ、その、よろしくな」
「………………」
こくりと頷くアスハ。
…うーむ。不思議系、というと、オリビア先輩も結構不思議な人だったけど、あの人はアレでいて「人をからかう」とかそういう方向で一貫していたし、そこまで無口ってわけでもなかった。
けど、この子はどうも本当にしゃべってくれんなぁ…。
俺、今まで部活とかもあんまりやったことないから後輩付き合いとかさっぱり分かんないんだよな。
どうしたものか。
「…あー。そのだなぁ…俺の、…あー、趣味はぁ…訓練、かな?」
「寂しい子だね、ハルくんは」
「と、特技は、側宙ができます!」
「私もできるが?」
「ぐぬぅ…。えー、それじゃあ、あー……うん。アスハは、なんか質問あるか?」
自己紹介なんざ糞食らえだ。昔っから大嫌いなんだよ自己紹介って。
うまく言ったためしが無いんだ。
「…………………特、に…ない、デス」
「マジか」
…詰んだな。
こういうときに「特にありません」は悪手だよアスハくん。
お母さんが「今晩何食べたい?」って聞いてきたときに「なんでもいいよ」っていうようなものなんだ。
相手はこれ以上切れるカードがないから尋ねたんであって、カードがたくさんあるからどれでも選びなさい、ってことじゃないんだよ。違うんだよ?
「あ、はいはーい!それじゃあ私が質問、質問!!」
「…この際エミリ先輩でもいいか…」
「ちょ、なにその反応!?久しぶりに会って「お久しぶりです」とか「ご無沙汰してます」とか「会いたかったです先輩!実は俺1年のときから先輩のこと…!」とか…キャーーー!!駄目だってハル君ってばぁ♪」
「馬鹿ですか貴女は」
確かに貴女は貴女で可愛らしい人ではありますが……なんていうかその、無いな。うん。
なんでだろうなぁ…なんでないんだろうなぁ。
可愛いんだけどな。可愛いんだけど、なんていうか…残念なんだよな、この人。
「…で、質問ってなんですか?この際だから何でも聞いてあげますよ?」
「あ、ありがとう。って、何その目?なんか哀れみ篭ってない?」
「いいえ?」
「そう…?なら、いいんだけど」
といいながらもどこか疑わしげな目をしたまま、エミリ先輩は質問を口にする。
「ライザックってなに?」
「え?」
「だから、ライザック。ハル=ライザックってさっき言ったでしょ?改名って、そんなに簡単なことじゃないとおもうんだけど…」
「…あー」
来た。
そりゃそうだ。後輩の苗字が変わってれば普通何があったのか気になる。
別にソフィア様から直々に下賜されたものだとかそこらへんの詳細について言う必要は無いと思うけど、さすがに”アレ”については言わなきゃ駄目だよな…。
「そ、ですね。うーんと、簡単にいうと、前の苗字は仮決めみたいなやつで、まぁとあるひとから新しくライザックっていう名前をもらったんですが…そのきっかけっていうのが…あー、その…」
「なによぉ。はっきりいってよ!」
「……驚かないでください、っていうのは多分無理だと思うんで、せめて叫ばないでくださいね…」
「分かった。さ、なんでもいいなさい!」
「婚約、したんです」
「…………誰が?」
「俺が」
「誰と?」
「クロア、クロア=キキ=ランバルディアとです」
「…………………うそぉん」
「本当ですってば」
「あ」
「あ?」
突然、エミリ先輩の目がきょどきょどし始めた。
なんだ?なんか顔色も悪いし…そういやなんか寒気がするなぁ………
―――――チャキリ
「嘘―――――」
…はっはーん。これはアレだな、振り向いたらいけないパターンだな。
そして今聞こえた金属音は俗に言う死神の呼び声って奴だ。
「認めない………ふ、ふふ、認めるわけがないだろう…だって久しぶりに会って、すごくかっこよくなっててまだまともに話もできて無いし、気持ちだって伝えて無いのに試合終了とか……く、くふふふふ…認められるわけがない…!」
俺はふりむかないぞ。なにがあったって振り向かないんだ。
振り向いたら終わりだ。
そうだな、とりあえずはこの場から逃げるために前に全力疾走とでも行こうか。
……ていうか、なんだってアゼリア先輩はこんなに怒ってるんだろうなぁ…。
「ハルくんハルくん」
「なんですかニコル先輩今どう見ても世間話できる状況じゃないですよ」
「うん、そうね。そこでお願いなんだけどね、アゼリアは私がすこぉしだけ抑えておくから、その間にシュウくん連れて逃げてね」
「アスハを?」
そのとき、ぐいと右手を引かれた。
見てみるといつのまにかアスハが俺の手を握っていた。
…おい、やめなさい。そんな人みると夜眠れなくなっちゃいますよ。
「シュウくん、実は50メートル12秒台軽くいく位の運動音痴なの。この場にいたらちょっと死んじゃうかもしれないから。ね?」
「ちょっ!?それ私も軽く死ねますニコル副会長!?」
「エミリちゃんは地雷踏んだ張本人だから責任とって死んでね」
「鬼ぃ!!」
マジ泣きするエミリ先輩。
…そりゃ、この場に残れなんて指示くらったら俺でも泣くわ。
背後からのプレッシャーはもう人が放てる域越えてるもん。
一歩、踏み出す音が聞こえてきた。
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
「…うん、アゼリアがいい具合に壊れてきたね。潮時みたい。…それじゃあ、いい?」
「おっけー、です」
「良くないですぅぅぅええぇぇぇん!!」
俺は右手に握るアスハの手を強く握る。
「…?」
不思議そうな顔で(顔良く見えないけど)俺を見上げるアスハ。
「…お前は、俺の初めての後輩だからな。絶対守ってやるから」
「………………よろ、デス」
「おぅ!」
…よぉっし!
何故か鬼神の如く怒っているアゼリア先輩はめっちゃ怖いが、今の俺はそれ以上にやる気に満ち溢れている!
逃げ切ってみせる!あぁ、これ以上無いほどにすっげぇ華麗に逃げきってみせるさ!!
―――――ガチャリ
「ハルいるー?クロアちゃんが来ましたよー♪」
「「「来んなああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」
ニコル先輩の野太い声を聞いたような気がします。