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リターン  作者: 乾 澪
53/74

Ep45:謀略

気づけば早いもので、リターン連載開始からちょうど今日で一年が経ちました。恐ろしいやらなにやらで体が震えます。一年って早い…。

連載から一年というめでたい日なので、がんばって早めに投稿してみました…が、この婚約編?の山場は次の回なので、いまいち中途半端ですね。

一年間読み続けてくださっている方や、最近一気読みした方など様々でしょうが、リターンは今まで多くの読者様に読んでいただき、感想を頂いてなんとかひーこら続けてこられました。

今年もより面白い作品になるよう、そして出来れば完結させられるようにがんばりますので、よろしくお願いします!乾でした。

 伸ばす手。

遠くにいる少女を掴もうと大きく開き

握る。


掴めた物は皆無。


何も無い。

何も無い。

少年に護れるモノなど何も


何もありはしなかったのだ。









「やめろおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!」

喉の奥から迸る裏返った叫び声。

その声に涙を混じらせて、さらに叫ぶ。

「クロアアァぁぁぁーーーーーー!!!」

クロアの名を呼んだ。

しかし返事は無く、代わりに返って来たのはドン、ドン、と同時に聞こえた数発の破裂音とフラッシュのような白い光。

――――視界が真っ白に染まるような強い光。


ドクン。

と、心臓が高鳴る。

(見たことがある)

俺は、あの光を見たことがある。

いつかのアレも、俺の大切なものを俺から奪い取ろうとした。

(だけど俺は守った)

だけどその時、俺は確かにアレから大切な者を守った。

俺は優奈を守りきった。


――――本当に?


本当に、守りきれたのだろうか。

守りきったと思い込んできただけじゃないのか?

だって俺は一度だって無事に元気な姿で笑いながら生きる優奈の姿をみちゃいないんだから。

どうして言い切れる。

どうして守れたと言い切れる。

現に目の前でアレは今正に俺から大切な者を奪った。

目の前で。

誰も守れない。何も守れない。


頭に浮かんだのは、泣き顔の優奈と、怒り顔のクロアと、呆れ顔の兄貴。


そうだ。

(俺は、今まで何一つ守れたことなんて無かったじゃないか)








膝がガクガクと震えて立っていられない。

そしてそのままベタリと地面に膝をついてしまう。

「…………クロ、ア…?」

名を呼びながら思う。

返事があるはずが無い。

返事があるはずが―――


「しっかりなさい、ハル様!!!!」


「―――え?」

クロアからの返事は無かった。

が、代わりの女性から、叱咤とも怒号とも取れる言葉が返って来た。

「何を腑抜けた阿呆みたいな顔してるんですか!?立ちなさい!私は貴方までひっくるめて守って差し上げられるほど優秀ではありません!!」

水色の薄い膜の向こう側から、跪く俺を強い視線で射抜く緑色の瞳。

その人は肩で息をして、疲労をその表情に滲ませながらも尚強い口調で俺に向かって怒鳴る。

「聞こえていたら返事は!?」

「は、はい!」

慌てて立ち上がった俺を見て、そしてようやくメイカさんはいつものような笑みを浮かべた。

綺麗にセットされていた髪は乱れ、着ていた当初には無かったはずのスリットが幾分荒々しい印象を与えるが、そこにいるのは確かにメイカさんだ。

「お怪我はございませんか?」

メイカさんが展開していた防壁魔法を解除しながら俺に尋ねてきたので、「そっちは?」と尋ね返す。

するとメイカさんは一層笑みを深めて、

「えぇ、お嬢様ともども、五体満足です。…まぁ、その、お嬢様が勘違いして私から逃げようとなさったので少々意識を飛ばさせて頂きましたが」

少しメイカさんが体をずらすと、そこにはくったりと地面に横たわるクロアの姿が見えた。

意識は無いようだが、見たところ流血もしていないようだ。

その姿に今度こそ胸を撫で下ろす。

「よかった…本当に、よかったぁ…」

守りきれた、というにはあまりにもお粗末な結末だが、とにかく今俺の真後ろに立つこの男からは、クロアを救うことが出来たようだ。

振り返る。

憮然とした顔のヴォートンがそこにいた。

胸の奥が熱い。

頭がぼんやりする。

あぁ、もう、どうでもいいから。

この男を殺したい。

「…殺してやる」

「殺す?殺してやりたいのは僕の方だ。もちろん君じゃなくて、そこにいる女のことだけど。あぁあ、失敗したな…。一匹ぐらいと思って放っておいた鼠がとんでもないことしでかしてくれた。…お前が鼠だな?」

「ま、貴方風に言うなら、そうかしらね」

メイカさんが答える。

その答えを聞いてヴォートンは忌々しそうな顔で舌打ちをした。

「コソコソ歩き回って、人の魔方陣齧った上に獲物にまで手出しやがって。…お前も、壊すぞ?」

「あら、それはとんだいいがかりだわ?私からしてみれば貴方が私とハル様の2人っきりの散歩を邪魔してきたのよ?挙句私の通り道に魔方陣なんか敷いてくれちゃって。邪魔ったら仕方ないから穴あけただけよ」

そしてメイカさんは微笑し、ヴォートンに言った。

「それの何に問題があって?」

ヴォートンの表情が歪む。

怒りのような、悲しみのような。

そんな激情を押さえ込みながら浮かべたような笑み。

「別に?お前がどうしようと…もう、彼は僕のものだ」

パチンと指を鳴らす。

そのとき、背後で魔力の流れが変わった。

さっきまであった魔方陣の穴へと流れ込む動きが止まった。

「…直したのか?」

「というか、この陣は多少ほころびても自動修復するようにしていたんだよ。陣式自体も大分複雑なんだけどね、それを一部とはいえ継続的に破壊し続けたんだから、あの女は魔方陣について大分精通していたみたいだね。だけど、魔力量自体はいまいち。もうこの陣に穴を開けることはできないだろうね」

「つまり、俺の逃げ道は無くなったわけだ」

メイカさんのほうを見れば、彼女は気絶しているクロアを抱き上げているところだった。

目が合う。

メイカさんが頷く。

分かっているなら、それでいい。問題ない。

「行って下さい」

メイカさんはまた頷いて、そして駆けて行った。

城へ向かって遠くなっていく後姿を見送ってから、視線を前に戻す。

残されたのは、閉鎖された陣の中にいる俺とヴォートンの二人だけ。

「もういいかい?」

「あぁ。いいよ」

お互いに一歩踏み出す。

「クロアを守る必要が無くなった以上俺の勝ちだ。何であれ、お前を叩き潰せばそれで終わりなんだから」

相手が貴族だろうがなんだろうか知ったものか。

俺の大切なものを傷つけたんだから、その代償は取ってもらう。

「違うよ、ハル君」

ヴォートンが微笑む。

微笑みながら、俺に近づく。

「あの女がいなくなった時点で、君の負けなんだ。まさか、この魔方陣が空間閉鎖だけだと思ったのかい?」

「あ?」

「この陣はね、陣内にいる人物への魔法の威力を過敏にする効果があるんだ。といっても、単に魔力耐性を弱くするだけなんだけどね」

クスクスと笑うヴォートン。

何度聞いても耳障りだ。

歩きながら魔製義眼を外す。これには俺の魔力を制御しやすいように押さえ込む役割もあるから、今は邪魔なだけだろう。

「あぁ…綺麗な血の色だ。美しいよ。やっぱり君は、美しい」

蕩けるような表情に虫唾が走る。

「…黙れ。どうでもいい。今から俺はお前をぶん殴る。ぶん殴って、顔面つぶして、歯全部砕いて一生流動食暮らしにしてやるから、そこで大人しくしてろ」

もう何も聞きたくない。聞く気がない。

アイツはクロアを傷つけた。傷つけようとした。

それだけで十分だ。

――――俺の大切なものを壊そうとする奴は、一人残らず俺が壊す。

それが守るって事になるはずだから。



(だよね、兄貴)






強化した拳で殴る。殴る。殴る。殴る。

顎をかち上げて、よろけたところで顔面横殴りして、倒れもうとする奴の首筋に蹴りを叩き込む。

地面をバウンドするように倒れこむ奴の上に跨り、殴る。殴る。殴る。殴る。

返り血が顔にかかっても気にしない。

殴られながらも奴が笑っていようと気にしない。

何も気にしない。

ただ、俺はこいつを壊せばいい。

壊せばいいんだ。

壊せば、壊せば、壊してしまえば、もうコイツはクロアを傷つけない。

誰も傷つけられない。


「死 ね よ ッッッ!!!」


顔面向かって振り下ろした拳を、奴は笑いながら受け止めた。

口から血を吐きながら。鼻から血を垂らしながら。額から血を流しながら。

尚も奴笑って俺に言った。

「僕の血は美味しいかな?」

びちゃり。

開いた方の手を俺の頬に添える。

血に塗れたその手の感触は鳥肌立つほど気味が悪い。

「痛い、ね、君の拳は。魔力耐性下げているから、尚のこと、だろうけど」

愛おしそうに撫でる奴の手。

「君と僕は、よく似てるんだ」

「似てるわけが無い」

「似てるさ。似てるんだよ」

「そんなはずがない!」

握られていないほうの拳を奴の鼻に叩き込む。

だけど、奴は俺の頬から手を離さない。

「…ゲホッ」

血が混じった堰をする。

何発、コイツの顔を殴っただろう。分からない。

なのにコイツは壊れない。

「…知ってるかい?」

奴は、また笑いながら言った。

「魔力耐性は、魔力の量に比例して高まる。普段の君にはとてもじゃないが僕の精神関与系の魔法なんて効きやしない。今みたいに耐性を下げたところで、君を魔法で支配することは多分、できない。…だけど」

「黙れ!!」

もう一発、拳を落とす。

だけどコイツは黙らない。

「…だけどね、アルエルドっていうのは、一つだけ弱点があるらしいんだ。強大な魔力、比例して高い魔力耐性。それらが引き上げる身体能力。…それでも、アルエルドは、一つだけ弱点がある」

奴が俺の頬に添えていた手をずらし、俺の胸でそれを止めた。

「心だよ。君たちアルエルドは、どうしようもなく、心が弱いんだって。そのなかでも君はきっと、特に弱い。だからね、魔力耐性さえ下げて、心の支えとなるような存在が傍にいいない状況で、媒介となるような…例えば、自分の血とかがあれば、ね」




血に塗れたヴォートンの手が俺の左胸を強く押す。

「ゲンスール=ブレア=イクス=…」

紡がれるスキル。

「…っ止めろ!」

殴る。

が、止まらない。

「止めろッッ!!」

ヴォートンの詠唱は止まらない。

「ヤメロ!!!」

そして




「………エルド=リューン――――〔観よ 観よ 観よ 観よ〕」




ザッと視界に走る砂嵐。

視界だけじゃない。

音にもノイズが混じり、天地がひっくり返ったように上下が分からない。

混乱魔法?阻害魔法?

「何をしたッッ??!!」

苦し紛れに手を振り回しても、何にも当たらない。

今まで確かに俺の下にいたはずのヴォートンの声が遠くに聞こえる。

「大したことじゃないよ。ただ、少し、過去を見てもらうだけだ。誰でもない、君の過去。君を壊してしまった、君の過去」

「っ!?」

それを聞いて一瞬にして全身の肌が粟立つ。

止めてくれ。

止めてくれ。

あんなもの、もう二度と見たくない。

俺は変わった。コッチに来て変わった。変わろうとしている。

なのにどうしてあんなものをまた見なくちゃいけないんだ。

嫌だ。

嫌だ!

嫌だ!!





「弱い、弱い、君の心。……もう一度壊せば、今度は完全に砕けてしまうのかな?」












最初に見えたのは、正面から指す橙色の夕日だった。





一周年、とかだと人気キャラ投票とかしたくなりますが、そういう機能はないもんですかね。個人的に書いていて楽しいのは暴走中のアリアとメイカです。

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