Ep42:帝都
今月はなんとなく早めに更新できました。よかったよかった。
最近はまっているのはテクテクさんのオブリビオンというゲームの実況動画です。人がゲームしてるのを見るのって、楽しいですよね(^^)
今回はつなぎの話ですので特に展開は無しです。メイカをどこまで変態的にしていいのやら…。
さて、ここでひとつ問題だ。
一人の少年が、たとえばそうだな…自動車に乗っていたとする。後部座席に。
許容人数は三人。少年の席はその真ん中。
隣りには30手前の男が座っている。
それが父親であれば、少年は無警戒でいられる。その人の肩を借りて熟睡することすら可能だろう。
しかし、もしそいつが「ロリもショタも美味しくいただけます☆」と数刻前に宣言している人間だったとしたらどうだろうか?
オプションとしてそいつの左手が太腿の上に添えられているとしよう。
普通は正気じゃいられない。
ていうか、少年に少年とルビを振るとすると、答えはこうだ。
「その手を後数ミリでも上にずらしてごらんなさい。汚い花火にして差し上げますわ、ルーベンフォード卿」
「花火かぁ、そういえば今日のパーティでは花火とか上がるのかねぇ?ハルくん?」
「どうでもいい…」
答え:メイカさんまで加わってもうどうしようもないことになる。
左隣にはメイカさん。右隣にはルーベンフォードさん。
腐メイドと腐男子のサンドイッチだ。正直逃げたい。
とりあえず、メイカさんが俺の太腿に手を添えているのはいいんだ。
どれだけ腐っていたって美女だ。
美女はいい。美しいだけで許される。可愛いは正義。Beautiful is justice.
しかし野郎は駄目だ。野郎というだけで駄目だ。俺の体に触る権利などどこにも…。
「そっけないなぁ…あんまり僕に冷たくすると、帝都連れて行ってあげないよぉ?」
「……スイマセンデシタ」
…あった。あったよ。
俺はこの人に約束してしまっていた。
『俺の体を貴方に預けます』と。もちろん性的な意味では無い。断じて。魔法研究の被検体として、だ。
見返りは祝賀パーティーへの随行許可。つまり、パーティーに連れて行ってくれるというのだ。
どうしてこんな人間が格式高い皇女様の誕生パーティーに招待されているのかは謎だが、ポケットの中から出てきたしわくちゃの招待状を確かにこの目で確認してしまったのでもはや否定しようが無い。
(一応この人も、貴族っぽいしなぁ…)
ルーベンフォード。
聞いたことの無い家名だが、俺が貴族社会には疎いだけという可能性が高い。
ただでさえ人の名前を覚えるのが苦手だし。
「ハァ…」
…これ以上このことについて考えても、無駄っぽいな。
事実としてルーベンフォードさんは招待状を持っていて、行き帰りの足とパーティーへの潜入を可能にしてくれたのだ。
体のひとつやふたつ、喜んで明け渡そう。
……うん。Caved的なことだけは勘弁してもらうとして。
「ハル様、顔色が悪いですが、どうかされましたか?車酔いでしたら、少し休憩なさったほうがよろしいと思いますが?」
「あ、あぁ、大丈夫。少し嫌なこと想像しちゃっただけだから」
「うん?本当に顔色が悪いねぇ。大丈夫かい?」
覗き込もうとしてくる眼鏡面をグイと押しやる。
気分的には「テメーの所為だよ」である。
「そ、そういえば、どうしてメイカさんとルーベンフォードさんは今日一緒にいたの?」
とりあえず話しを逸らそう。ついでに太腿の上に乗った野郎の手もどけておく。
「ルーベンフォードさん、なんて硬いなぁ~。イルくん、って呼んでいいんだよぉ~?」
「…イルレオさん、と呼ばせてもらいます」
何が悲しくて野郎を君付けで呼ばなきゃならん。
「ひとつだけ先に申し上げておきますと、私とこの方の間には一切甘ったるい関係はございません。ただ、私が定期的にこの方に検診して頂いているだけです」
「検診…?」
首をかしげると、右隣からふふっとこぼすような笑いが聞こえてきた。
そちらに目を向ければ、イルレオさんが口元に手を当てながらくすくすと笑っていた。
「ん?あぁ、ごめんね。別に他意はないんだよ。ただ、メイカちゃんに加えて君、二つも面白い玩具が手に入ってうれしかっただけだからぁ~」
「おも、ちゃ」
一瞬ぽかんとしてしまった。
この人は、今さも面白そうに笑いながら、俺とメイカさんのことを「玩具」と言ったのだ。
メイカさんを見ると、彼女は思ったとおりぶすっとした顔をしていた。
「ハル様はどうして私がこの方をここまで嫌うのか不思議に思われていたようですが、これでお分かり頂けますね?私が旦那様の下に引き取られて魔力覚醒して以来、私はこの方の玩具なのです。好きになれるはずもありません」
「といっても、僕が検診しないと君も不安でしょう?いつまた魔力が暴走するか分からないものねぇ~」
そういって、イルレオさんはまたクスクスと笑いながら眼鏡を押し上げた。
一方メイカさんは「この糞ったれが」とでも言いそうな顔だ。
「この糞ったれが」
本当に言った。
「糞ったれでも外道じゃないよぉ~?僕は興味本位で君の体をいじった事は一度も無いもの。やりたくなったことはあってもね?ただデータの収集に手伝ってもらってるだけさ。与えているのだから、返してもらわないとねぇ?」
そんな悪態すら、この人にとっては取るに足らないことらしい。
いつもニヤニヤとしているこの人は、いったい何を言われたら表情を崩すのだろうか。
隣りで「はぁ…」と深いため息を吐くメイカさんは、そんなこととっくにあきらめた様子だが。
「…と、言うわけです。私がこの方の検診を受けてから家まで送って頂いたところ、ちょうどハル様がお帰りになっていた、ということです」
「そう、ですか」
つまり、俺と出会ったのはまったく偶然だったというわけだ。
その偶然が無かったら俺は未だ帝都へいく方法すら掴めていなかった可能性もあるわけで、僥倖だったといえるかもしれない。
「うん。だからねぇ~、僕らはとてもじゃないけどパーティーに列席できるような格好じゃないんだよね~」
「私に至ってはメイド服ですしね」
「…あぁ、確かに」
今の俺の格好は、まぁ普段着だ。
半袖の白いブイネックに、黒のズボン。それなりではあるが、それなりでしかない。
メイカさんは家のメイドが来ているメイド服。まぁある意味正装ではあるが、パーティー向けではない。
イルレオさんは薄汚れた白衣の袖をまくってだらしなく着ている。あれではパーティーが開かれる城の門すらくぐれない。
「これじゃあいくら招待状があっても駄目だろうねぇ~」
イルレオさんがへらへらと笑いながら言う。
「…どうするんですか?」
俺が眉をひそめながら尋ねると、「だぁーいじょうぶだよぉ~」とイルレオさんが答える。
「これでも僕はちょっとした資産家だからねぇ~。まぁ、服装とかそういうものに金をかける趣味は僕にはないけどねぇ~、女性はそういうのが大好きだろぉ~?」
「…?まぁ、そうですね」
一度だけ優奈の買い物に付き合ったことがあるが、あれは付いていく人間にしてみたら買い物と書いて拷問と読むべきだ。
どうして「あ、これすごい可愛い!」と言っておきながら「でもあの店みてからにしよ」とか言って、結局は「ん~…でも私が欲しいのってボトムスじゃなくてトップスだしなー。黒のスカートもう持ってるし」ってなって何も買わずに終わるんだ?
で、後で聞いてみたら後日そのスカートを買ったというではないか。
だったら最初から買っておけとでも言いたくなる。
言ったら殴られたけど。
クロアでも以下同文である。どこの世界でも女の買い物というものは長いものなのだ。
「で、それがなんですか?」
話がつかめず、首を傾げる。
するとイルレオさんはニコリと笑って、
「今無いものは現地調達さぁ~。ていうことで、お金は自由にしていいから、ハルくんのこと任せたよ、メイカちゃん?」
と言った。
その瞬間、隣りから殺気を感じた。
逃げようとしたが、体に力を入れたときには既に二本の細い腕にがっちりと首に抱きつかれていた。
ちろりと首筋を蛇の舌に舐められたような感覚。
「たまにはまともなことをいいますね、ルーベンフォード卿。えぇ、えぇ、その任務、このメイカめにお任せください。間違いなくハル様を、どこの御曹司よりも麗しい美少年にしてみせますわ…!」
「ひぃっ!?」
つまり絶体絶命。
ガタガタと体が震える。歯の根が合わない。
「ついでにメイカちゃんも綺麗なドレスを買うといいよぉ~。あ、僕は僕で適当にやるから気にしないでねぇ~」
「卑怯者!自分だけ逃げるつもりか!?」
「綺麗なお姉さんに遊ばれるのも美少年のたしなみのひとつだよぉ~?立派な男になって帰っておいでねぇ~」
と、イルレオさんが言ったとたん、ごとりと音を立てて車が止まった。
「目的地に到着いたしました」
壁を隔てた向こう側から、御者の人から声がかかる。
車に取り付けられている小さな窓の外には、確かに見慣れぬ街並みがあって、今の今まで気づかなかったがさほど離れていないところから雑踏の音が聞こえてくる。
帝都に着いたのだ。
(着いてしまった、というのが正しいのかな)
突然襟首を捕まれた。
「さぁ行きましょうハル様。お楽しみの時間です…!」
背後から荒い鼻息が聞こえてくる。
「それは俺じゃなくて、メイカさんが楽しいだけであってぇぇぇえええ!!??」
何を言う暇もなく、俺の体は宙に舞った。
持ち上げられたのだ。
20そこそこの、魔法が使える以外は特に格闘技能も持たない女性に片腕で持ち上げられたのだ。
ありえない。
女性の買い物への情熱はそこまでのものなのだろうか。
「さぁ、まずは散髪ですね!あぁ、帝都なんて久しぶりに来たわ!お金はアイツが出してくれるというなら何したっていいわよね!!それだったらあの店にも行けるじゃない!!あ、みんなにお土産も買って言ってあげようかしら!?あぁ、でもまずはハル様を誰よりも格好良くしないとね!ふふふ、みてなさいよ…そんじょそこらの坊主なんて路傍の石に見えるくらいにしてやるわ…ふふふふふ!あぁ、夢が広がるわ…!!」
…もう駄目だ。
俺は優奈のときに悟ったのだ。
女性の買い物に口を挟むべきではない、と。
ベストなのは付いていかないことだ。次善策は黙って付いていくことだ。
まぁ、今の俺の場合は付いていくというか、連れて行かれているわけなのだが。
すごいスピードで通り過ぎていく風景を横目に見る。
帝都ザインは、美しい街だ。
既に遠くなった正門は、遠目にも大きく、石造りの重厚感と共に繊細な彫刻が優美さを添えている。
今俺の襟首をつかんでメイカさんが爆走する大通りはその正門からまっすぐ伸びた石畳の路だ。
両脇には帝都にふさわしく、格式高そうな店が並んでいるが、一本路を入ったらもしかしたら意外に所帯じみた八百屋があったりするのかもしれない。
そして何より美しいのが、円のような形をしたザインの中央にそびえるザイン=ジオグランデ城だろう。
ジオグランデ…たしか、古代語で「偉大なる」とか「崇高なる」とか、そんなんだったか。
直訳すれば「偉大なるザインの城」とでもいうところだろう。
今は落ちかけた夕日をバックに、緋色に染まった純白の城はとても美しい。
そう…美しいのに、惜しむべきは俺のぶれ続ける視界だろう。
どうにも爆走し続けるメイカさんの足は止まりそうもない。
「短パン…猫耳…あぁでも駄目よメイカ!今日は正式な席なのだから、それなりの…燕尾服!?いける!!これで勝つる!!!」
……逃げたほうが、いいのだらうか…。