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リターン  作者: 乾 澪
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Ep41:無力

ハッピーバレンタイーン。乾です。書いといてなんですが、私にはハッピーなバレンタインを過ごす予定はありません。幸せなバレンタインを過ごす奴なんてリア充だって昔から相場が決まってr(ry   せめてハル君には幸せになってもらえるといいですね。

―――結婚とは、主に男女が夫婦になること。婚姻ともいう。また、俗に契りともいう。あるいは夫婦間の結びつきのこと。なお、結婚していないことを未婚、既に結婚していることを既婚といい、未婚または既婚の者をそれぞれ未婚者、既婚者という。


以上、電脳世界の便利大衆辞書から引用。一部省略。

無論上述の定義はあっちの世界のモノであるため、すべてがこっちでの結婚に該当するわけではないが、要である「男女が夫婦になる」という点については同じである。

『クロアが結婚する』

それが意味することは一つだけ。

そして俺がそれを今現在はいそうですかといって許容できるはずもなく。



「ゴルゥアァア!!どぉこに隠れてやがる腐れ外道ッッ!!!出てきやがれ、打ち首にしてくれるわぁぁぁぁぁああぁぁ!!!!」


ただいま絶賛実家襲撃中です。







叫ぶと同時に蹴り開けた、観音開きの玄関扉。

正面に二階へと続く大階段と、天井には目もくらむような豪華なシャンデリアを備えた玄関ホールに俺の声が響き渡る。

それを聞いてか、あちらこちらからメイドが続々と顔を出してきた。

「ハル様っ!?お帰りなさいませ、まぁまぁ大きくなられて…!」

人ごみの中からメイド長が一歩前に出てきて、わずかに涙を浮かべながら俺に一礼する。

「あぁ、メイド長さん。久しぶり。で、帰って来て早々に悪いけど、腐れ外道はどこへ行ったか知ってる?」

俺の言葉を聴いたメイド長は「はて?」といった感じで首を傾げる。

「腐れ外道と申しますと…うちの息子のハンスでしょうか?」

腐れ外道と聞いて真っ先に思い当たってしまうハンス哀れ。

いったい何をしたというんだハンス…。

「いや、ハンスじゃなくて、ガイ。まだ15になったばかりの娘に結婚させようとしてる糞馬鹿野郎」

クロアの結婚ときいて、一番最初に考えたのが政略結婚の可能性。

あんまり身近にいるので忘れてしまいがちだが、ランバルディア家は一応爵位を持っている。

貴族の末席に名を連ねているということだ。

その爵位も歴代のランバルディア家の者が立てた武勲のおかげでもらえたものなので本質的には軍人家系なのだが、それでも貴族であることに代わりは無い。

聞けばガイの祖父も政略結婚だったという。

―――否。ガイが恋愛結婚できたことこそ、例外というべきだ。

それでも、だからこそ俺はガイを信じていた。

クロアが望まない結婚を彼女に押し付けるようなことをするはずがない、と。

俺だって、元々は戦争もなく犯罪も少ない、少なくとも表面上は平和でお見合いですら数を減らしつつあった日本で育った人間だ。

本人の意思ならともかく、周りの意思で決定される政略結婚なんて到底理解の外だ。

それがきれいごとであることは知っている。

きれいごとだけでは世界が回らないことだって理解している。

だけど、それがよそ様のところで起きるのと、自分の守るべき人間の内の一人に起きるのとでは話が違う。

断固拒否である。


「もう一度聞くよ。ガイはどこ。クロアでもいい。長期休暇なんだ、帰ってきてるでしょ?」

そろそろ声変わりが終わりつつある声で、出来る限り低い音を出してきつい眼差しで尋ねる。

メイド長はわずかに狼狽した様子を見せ、右上を見て、俺を見て、少しうつむいてから観念したようにまた俺を見た。

「…どこから、クロア様の婚姻の件をお聞きになったのですか?ハル様のお耳には万が一にも入らぬようにと旦那様は注意していらっしゃったはずですのに…」

最後にため息を一つ吐いて、メイド長が眉を八の字にして困った顔をする。

その右手はぎゅっとエプロンを掴んでいる。

「情報源を知る必要がある?別に隠すつもりは無いけど、今質問してるのは俺なんだ。答えて、ガイとクロアはどこにいる」

「……ここで答えずとも、ハル様ならいずれ答えをお知りになるでしょうね…。分かりました、お答えします」

そしてメイド長は言った。

「ザインでございます。そちらにお二人そろっていらっしゃるはずです」

「ザイン?帝都に行ってるの?」

「はい。第四皇女様の14歳のお誕生日の祝賀パーティーに列席するようにとの通達があったようで、そちらにお二人で」

そこで一旦言葉を切ると、メイド長はわずかに視線をそらしてぼそりと独り言のようにつぶやく。

「恐らく、旦那様はそこで婚約者となるヴォートン家のご子息とクロア様を引き合わせるおつもりなのでしょう」

さぁっと、血の気が引ける音がした。

考えていた以上に話が進んでいる。

家と家との間で正式に婚約という契りが結ばれてしまえばもはや居候も同然の俺にはどうすることもできなくなってしまう。

そのヴォートンだかなんだかの家がどれほどの力を持っているかは知らないが、あのガイが手を組むべきと考えた相手なのだ。

俺が下手なことをすれば、ランバルディアの地位に関わることになり得る。

(よく考えろ、ガイやクロアに迷惑をかけるわけにはいかないんだ。よく考えろ…!)



そもそも、「政略結婚は認められない」と言っているのは俺だけだ。

クロアがそう言ったわけではない。

もしかしたらクロアは受け入れているかもしれない。

それがランバルディア家の為になるのならばと、いかにもアイツならば考えそうだ。

そして思う。

(俺が考える救いは、ひどく独善的だ)

俺の価値観が導いた俺の考えでしかない。

それを、本当にクロアが望んでいるのか?









「………帝都へ、向かいます。車の用意を」

結論―――――情報不足。

そも、俺は相手がどんな人間であるかすら知らないのだ。

政略結婚だろうがなんだろうか、クロアに見合うすばらしい人間であるのなら俺はこの結婚を手放しで喜ぶべきだ。

俺の目的は大切な人を守ること。

例えそれが俺の手によるものではないとしても、その人が幸せであればいいのだ。

俺はその幸せを守る。

(出来ることなら、みんな俺の手で幸せにしたいけど)

――――ふいに、優奈の笑顔が頭をよぎる。

すると言い様の無い苛立ちが込み上げて来て、思わず拳を握り締める。

俺は、果たして本当にアイツを救うことが出来たのだろうか。

今やそれを知る術は無い。

けど、最後の最後できっとアイツを泣かせただろうと思う。

母さんや、父さんも泣いたかもしれない。

(俺が弱いから守れなかったんだ)

そして今も、俺の力だけでクロアを幸せに出来るほどの力は俺には無い。

だから帝都へ行く。

行って、どうやったら祝賀会とやらに出れるかは知らないけど、いざとなれば忍び込んででもクロアの婚約者を見てくる。

それから判断する。

クロアを守ることを、そいつに任せるのか否か。

「……ふっ」

思わず自嘲的な笑みがこぼれる。

(結局、譲りたくないって思ってるんだよなぁ、俺)

我侭もここまでくればお笑い種だ。

もういい歳になるというのに…いや、本当に。

「ハル様…あの、大変申し訳ないのですが…」

「ん?」

メイド長が言葉通り申し訳なさそうな顔で俺に言う。

「車は今、すべて出払っております」

「…え?」

「一台はクロア様と旦那様が、もう一台は旅の荷物を積む為に、最後の一台は一部の帰省するメイド達のために旦那様が出してしまいました」

「……三台だっけ、うちの馬車」

「ガルーは余分にいますが、帝都までとなると相当に困難な道のりかと…」

カッコいい事言っておいてこれである。

指導舎からここまで帰ってくるのに使った車はすでに指導舎へと帰してしまった。

今の俺にはそうだ、帝都へ行こう!をすることさえできないのだ。

無力とは罪である。

「う、うぬぬぬぬ………」

困った。

非常に困った。

どうしよう。

…え?どうしよう?







「僕に体預けるって約束してくれる?」






ふっ。

と、背後から耳元で息を吹きかけるようにささやかれた。

「ぃぎゃぁぁぁぁぁっ!???」

俺、ハル。弱点は耳と首筋だよ☆

自分でもびっくりするような高速で前に転げるように逃げる。

「おっさんのロリコンも相当ですけど、ショタコンは見ていてもう吐き気を催しますよ。お止めください、ルーベンフォード卿」

「やだなぁ~メイカちゃん。僕はロリもショタもいけるけど、本命は君だけさぁ~」

「いけるという時点で死すべきですね」

「う~ん、そのつれない態度がまたいいね~」

ドクドクいう心臓の音をBGMに聞こえてきたのは、2人の男女の会話だった。

振り返るとそこには記憶より少し変わったものの、相変わらず変人そのものといった感じの男と、ここにきて美しさに円熟味がでてきた女性がいた。

「お久しぶりでございます、ハル様」

そういって、メイカさんは深々と頭を下げ、

「やっほ~、今日も元気だね~、僕の愛しの魔力爆弾くん~」

出来ることなら二度とお会いしたくなかった人ランキングベスト10には入るであろうルーベンフォード卿はニコニコと笑いながら眼鏡を押し上げた。

以前からなんとなしに考えていたものの構想を曝してみる。構想っていっても雰囲気だけの台詞集。なんで急にこんなことしたかっていうと、この前、ニコニコ動画でハチPさんという方の『WORLD'S END UMBRELLA』という作品のすばらしいPVに感化されたからです。でもパクリじゃないよ。本当に前から考えてたんだよ。ホントダヨ。                                                                                           「こうして人は地下へと潜りそこに神の造りし地上に勝るユートピアを創り出したのです」  「悪魔の子め!!」   「今日の夕飯は何にしよっか?」   「母さんはどうして死んでしまったんだろう。どうして俺をおいていったんだろう。どうして俺だけみんなと違うんだろう」    「特別じゃない。アンタ特別なんかじゃない。なんでもない、ただのアタシの息子だよ」    「悪いが君には死んでもらわなければならない」    「地上は毒の空気と腐った大地、あと一目見ると死んでしまう大きな光の玉があるらしいよ。怖いね」    「これ以上の何を求める?ここにはすべてがあるじゃないか」    「俺は真実が知りたい」    「俺は何者なのか知りたい」    「お前は誰だ?」    「動くな、逆らうな、さもなくば殺す。私の言葉が理解できたのなら、真実だけを述べよ」    「あれが……たい、よう?」    「私たちはお前を歓迎する。ようこそ、黒き民よ!」    「お前は特別だ」    「私の……特別、だ」    「好きだよ」    「好きだ」    「ハロー、ハロー、ユートピアのみなさんお久しぶりですこんにちは。俺はここに、貴方たちへ宣戦布告をいたします」    「黒き幸を」    「白き光を」

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