Ep38:侵入
難産続きです。おはこんにばんわ、乾です。
相変わらず戦闘描写がダメダメで泣けてきます。本当に戦闘シーン書きたくない…。
それに予想外にこのシリーズが長くなってしまって申し訳ないです。
毎回次には終わるはずって言ってるきがすr(ry
もう正直いつ終わるかはわかんなくなりましたが、恐らくたぶん予想するには次くらい…かなぁ?
もうしばらくお付き合いいただければ幸いかと思います。
舞い散る雪の中、ただまんじりと屋外で立ち続けるのはなかなか辛い。
隣で同じように見張りを任じられた男は仲間ではあるが友ではなく、話も弾まない。
だが、このまま体の震えに任せて歯を鳴らせているだけは、もっと嫌だ。
「しっかし、さみぃなこの大陸はよぉ」
俺がそういうと、
「だな」
とだけ奴は言う。
(…ケッ。下の位の人間とは話すことなんか無いってか)
額を見れば分かる。奴は俺より上位の人間だ。
だが、それだけだ。
(別に今はいいさ。これからヴォルジンが本当の意味で「魔力至上」になれば…)
そうなれば、こんな男に俺が劣等感を抱く必要も無くなる。
たかが生れ落ちたそのときに押された烙印なんぞに縛られることも無くなる。
(そうだ。だから俺はやらなきゃならない)
ヴォルジンを俺が望む国に変えるため。
大丈夫だ。
俺たちには、巫女姫様がついている。
「よしっ…」
寒さと退屈さにうんざりしていた気持ちを引き締めなおす。
今回の任務がそれほど期待されていないのは知っているが、だからこそ成功させれば俺たちを見る目が変わるはずだ。
「こんにちは、おじさんたち」
「んぁ?」
声が聞こえたほうに振り返ると、そこには綺麗な顔をした少年が微笑みながら立っていた。
珍しい黒髪に少し驚きながら声をかける。
「なんだお前?ていうか俺はおじさんじゃねぇし。おにーさんだ」
「そうなんですか?フードかぶってて顔が良く見えなかったから。ごめんなさい」
そういうと少年はぺこりと頭を下げる。
「あ、いや、別に謝らなくていんだけどよ。…なんか用か?」
年不相応に礼儀正しくて、思わずこっちがかしこまる。
なんか用か、なんて聞かずにさっさと追い返せばいいものを、俺は何をやっているんだか。
「いえ、用というほどのことでは。ただ、少し通りかかったらおじさんたちがいて、ちょうどいいから聞きたいことがあるだけなんですけど」
「聞きたいこと?」
そう聞いてピンときた。
今日はここから少し離れた公園で、新年を祝う女神聖祭とやらが開かれていたはずだ。
この少年、大人びて見えるが、それでも体格から見て10才かそこらだろう。
(迷子か…)
かわいそうだとは思うが、あいにく俺たちが力になれることは無いだろう。
土地勘はないし、なにせこっちは見張り役をこなさなければならないのだから。
見張り役がその場を離れたんじゃ話しにならない。
「あー…わりぃが、迷子だとしたら俺たちは力になれねぇ。お前、公園に行きたいんだろ?公園だったらたぶんこの道反対にまっすぐ行けばいんだと思うけどよ…」
「迷子じゃありませんよ。あいにくながら」
「あん?」
「迷子じゃないんです、俺は」
少年はそういうと、一歩こちらに踏み出してきた。
「じゃあいったいお前は…」
「お前は何だ」
突然、いままでずっと黙っていた隣の奴が口を開いた。
その声に妙に敵意を纏わせながら、奴は再度言う。
「お前は何だ。何が目的だ」
「何が目的…?だから、さっき言ったとおりです。聞きたいことがあるんですよ」
「ならば言え。言わないなら去れ。去らないのならば…」
「ちょ、おまっ!?」
奴がおもむろに懐から杖を出そうとするその手をあわてて止める。
「何やってんだよ?!」
小声で非難すると、奴は冷めた目で俺を見る。
「探知してみろ。…こいつ、魔力を持ってる」
「え?」
少年を見る。
少年は相変わらず、にこにこと微笑んでいた。
「何ですか?まさか、俺が魔道師だってこと、やっと分かったんですか?…そっちのおじさんも、ずいぶんと感知魔法が苦手らしいですね」
この程度の距離でそんなに時間がかかるなんて、よほど才能がないんですね、と少年は言った。
その言葉を聞いた瞬間思う。
(あぁ、コイツ死んだな)
奴はなによりも自分の魔法の才能を愚弄されるのが嫌いなことくらい、親しくない俺も知っている。
それで人一人殺しかけていることは有名な話だ。
他国の子供一人殺すことくらい、奴はなんの躊躇もしないだろう。
「――――どうせ、連れ去るんだ。少しくらい黙らせたほうがいいだろう?」
奴はそういうと、俺の腕を振りほどいて杖を振りかざす。
「身の程を知れ、ガキが」
奴の口がスペルを紡ごうと開いた。
その瞬間、
『――――――――』
少年が何かを言った。
何を言ったのかは分からない。
だけど、何かを言ったのだ。確かに。
それだけ理解した時、俺の視界は紅蓮に染まった。
「ごめん。アンタは優しかったから、軌道はずしといた。ひどい怪我にはならないよ。痕は残るかもだけど」
最後に少年は「ごめん」といった。
そして俺の意識はそこでぶつりと途切れた。
「…さて、と」
ぐるりと辺りを見渡す。
狭くて汚い家。天井の隅には埃まみれになった虫の巣がだらりと不気味に釣り下がっている。
足を踏み出せば、ギシリ、ギシリと腐った床板が軋んだ音を立てる。
いかにも廃屋といった風貌だ。
こんな風にこっそり忍び込んだりしていると思い出す。
スパイごっこ、とかいってガキのころ遊んだことがあった。
友達の家、在宅している母親にばれないように忍び込む遊びだ。
見つかったらゲームオーバー。
見つかった奴が罰ゲーム。
今回の場合でいえば、
「素敵で素敵なヴォルジン大陸にもれなくご招待☆……ってところかな」
自分で言っておいてなんだが笑い話にもならない。
どんなところかはしらないが、少なくとも人攫いの国に行きたいと願う人間はいないはずだ。
……とまぁ。
敵アジトに潜入成功、はいいんだけど。
「潜入、っていう定義を俺は履き違えていたかもしれないな…」
目の前には疑心と殺気を織り交ぜた視線で俺を見てくる複数人の男たち。
すっげぇばれてる。すごい勢いでばれてる。
(そりゃぁな…あんだけ派手な音させて、正面玄関から乗り込んでくればばれるか)
むしろばれないほうがおかしいし。
「ばれたほうが都合がいいし?」
とりあえず、歩きながら質問をする。
「あのさ、茶髪でボブカットのかっわいーい女…の子、ここにいるよな?どこにいる?」
瞬間。
ぎらりと男たちの目が怪しく輝いた。
その手には既に各々武器を握っている。
「お前が子供には過ぎたほどの力を持つ、優れた魔道師であることは既に分かっている」
集団の中から、真ん中奥に立つ男が声をかけてきた。
脂ぎった灰色の巻き毛。
口元まで伸びた白髪交じりの前髪の向こうからは、薄気味悪い瞳が確かに俺を見据えていた。
立ち振る舞いで分かる。
この男が、このグループのリーダーだろう。
年の頃は恐らく40手前。
干からびて骨ばった手を見れば、コイツが肉弾戦に向いていないのは明白だ。
(つまり、相当強い魔道師)
アゼリア先輩の情報が正しいならば、優れた魔道師がリーダーになるのは自然なことだ。
「お前も分かっているはずだ。君のような子供を、私たちが狙っていることを」
「あぁ、知ってる。それがなんでかは知らないけどな」
俺の言葉を聴いた男はにやりと笑った。
「あぁ……見事な覚悟だ。度胸がある。頭もいい。魔力もすばらしい。あぁ、あぁ、あぁ……まったく」
まったく、殺すには惜しい。
と、男は言った。
「3秒で決めろ。今ここで、私の部下の手で骨が灰になるほどに燃えつくされ殺されるか、自ら従って私についてくるか。案ずるな、君ほどの力があればこれからのヴォルジンでならすぐにのし上がれる」
「3秒もいるか。お断りだ、薄ら禿げ。一回とは言わず、百回ぐらい死んでこい」
「く、クハハハハハハハッ!!!」
手を額に当て、男は天を仰ぐように高笑いをする。
年の割には高い声が狭い廊下に響き渡る。
「素晴らしい!素晴らしいっ!!私の部下のような愚図とはまるで違う!!!あぁ、あぁ!!!気に入った、気に入ったよ!君は必ず連れ帰る!!!」
そして男は言った。
「行け!どうせお前ら程度の魔力で彼は殺せないだろうから、思う存分ヤってこい!!!」
男が腕を振り下ろすと同時に、今まで男を守るように隊列を組んでいた部下たちが狭い廊下を横に並んで走ってくる。
いい歳した野郎が列を成して迫ってくる。
「ウオオォォォォォォォォッッッ!!!!」
「目に良い光景じゃ、ねぇな」
一列目の集団は3人。
それぞれ短剣や両手剣を持っている。
対して俺は無手。
だが……。
体を倒し、左足を引いて右足に体重を乗せる。
力をためて、ためて、ためて。
床を蹴る。
あらかじめ強化しておいた脚力は、たやすく俺を相手の懐に滑り込ませた。
「なっ…!」
見上げると、割と若い感じの男の顔がフードの中で驚きにゆがむのが見える。
驚き顔には拳で答える。
「ィグッ!?」
顎を殴り挙げられた男は妙な音を出して、背中から倒れこんだ。
(舌、噛んでなきゃいいけど)
さすがにまだこいつらを殺すほどには怨みもないし。
「キェェェェェ!!」
そして二人目。
両手で握った剣を思い切り振りかぶり、俺の頭蓋を狙っている。
狙いがあからさまだし、動きに無駄が多い。
だがそれ以上に、頭が悪い。
「よ、っと」
ひょいと頭を下げると、後方から切りかかって来ていた男の剣は俺の頭の代わりに廊下の壁に突き刺さる。
「あ!」
「あ、じゃねえよバーカ」
間の抜けた風に口をあけたままの男の膝を蹴り砕き、しゃがみこんだところを拳で打ち抜く。
男はうなり声も上げずに廊下に崩れ落ちた。
「こんな狭い廊下でそんなでかい獲物振り回すアホがいるかよ」
残るは一人。
振り返りざまにまわし蹴りを放てば、面白いように男のみぞおちにはまった。
今日の俺には何か憑いているのかもしれない。
そうでもなければさすがにこの体格差じゃ、こうもうまくはいかないだろう。
まぁ、この男たちがまったく戦い慣れしてなかったのが功を奏したという部分が大きいが。
都合がいいことに、最後の男が俺と同じ双剣使いだったので、ついでに奪い取っておく。
「………それで、余興は終わりかな?」
いまだ廊下の奥に立つ奴が言う。
「こっちの台詞だ蛇野郎。仮にも部下が三人やられといてその態度は何だ?」
「部下?そうだな、部下だな。部下という名の、捨て駒さ」
だから殺されても心は痛まない、ということなのだろうか。
相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべ続けている奴の顔を見ていると、体温すら奪われそうで気持ちが悪い。
「………下種が」
「君も近いうちにその一員になる」
そして再度、男は言った。
「行け。彼にはお前ら100人分の価値があるのだから、必ず捉えろ」
同じく、部下の男たちはそれに従う。
奴の指一本で動く傀儡。
まるでマリオネットだ。
これが、ヴォルジンなのだろうか。
魔力さえあれば全てを統べる事ができる。命を捨ててこいという命にすら従わなければいけない。
これが、ヴォルジンなのだろうか。
だとしたら、
「屑だな」
最近距離にいる男との距離は数メートル。
余裕だ。
手を突き出し、魔力を練る。
そして唱えるだけだ。
俺の想いを。願いを。
俺の言葉で。
「『動くな』」
ちなみに魔法を唱えるときの〔〕と『』は微妙に違ったりします。
詳細についてはブログ…じゃなくて次回のあとがきで。