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リターン  作者: 乾 澪
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Ep4:変身

トリップしてすぐ言葉が分かるのもな……とおもったので。

「………ぁ………」

『〜〜〜〜〜〜〜?』

見知らぬ男は満面の笑みで俺に話しかけてくる。

歳は多分30ちょい。

灰色の髪に瞳。

背も高いしがたいも良い。

訳わからん言葉話してるし……外人か?

にしても何で俺は見知らぬ外人に介抱されてんだ?

俺は確か、優奈を庇って車に轢かれたはずで…。

轢いたのがこの人、とか?

「グローバリゼーション恐ろしいな」

『?』

俺の地元まで侵略してきたか。

にしても、この人も日本語わかってなさそうだな。

「…て、そうじゃない!」

ハッと気づいて、慌てて体をベッドから起こす。

『〜〜〜〜!!』

男が俺をなだめるように肩に手を置いてくるが、そんなの無視だ。

「あの、優奈は!?俺のほかに女の子はいませんでしたか?!!」

『〜〜〜〜?』

俺が何か必死なのは分かったのだろう。けれど何で必死なのかは分からないらしく、申し訳なさそうに困った顔をするだけだった。

「あぁ、クソっ!!」

苛立ちに任せてベッドを殴りつける。

(…でも、普通2人轢いて片方だけつれてくるか?)

いや、そもそも轢いた人間を自宅に連れてきて介抱するのもおかしいが。

(もし俺なら…2人轢いたら、両方つれてくる)

その事実を抹消するためだとしても、2人まとめてやるに決まってる。


つまり、優奈は無事だと考える方が無難。

(…だといいなぁ)

というのが本音だが。

「あの、助けてくださってありがとうございます」

とりあえず男に礼を言って頭を下げる。

『?』

「ん?お辞儀の文化はないのか?」

それなら代わりにと、笑顔で

「ありがとう」と言う。

ありがとうは分からなくても、笑顔は万国共通だろう。

『〜〜〜〜!』

すると男も笑顔を返してくれた。

む…髭面で強面だが、笑うと柔らかい印象だな。正直イケメンだ。そこはかとなく悔しい。

「それで、あの、ここはどこなんでしょうか?」

『…………』

俺が尋ねると、男はまた困ったように眉をひそめる。

「っていっても分かんないか。あーじゃぁ……」

手振り身振りで何か書くものを求める。

すると男は得心したように頷いて、サイドテーブルの引き出しからメモ帳と万年筆らしきものとインク瓶を取り出した。


随分と古風な外人だ。渡されたそれを受け取り、慣れない万年筆に苦労しながらとりあえず英語を書いてみる。

『〜〜〜〜?〜〜〜!』

そんな俺を見て、男が笑いながら何か言っているが………悪いがさっぱり分からん。

少なくとも英語じゃない。…とおもう、けど。

「できた」

書いたのは

「ここはどこですか?」。

Where is here?だな。

丁寧な言い方もあるんだろうけど、生憎ながら俺の英語の成績は誉められたものじゃない。「英語は、読めますか?」

『………』

男は困ったように笑うだけだ。

「うー…」

ダメもとで日本語を書いてみる。が、あえなく玉砕。

「なぁんだよ!何語ならつうじんの?!何人!?ボンジュール、グーテンモーゲン?」

イメージ的にはドイツ人。軍服とかめっちゃ似合いそう。

けど男の表情は未だ晴れない。

しかし何か思いついたのか、パッと笑みを浮かべて俺の手からメモ帳を奪い取ると、何か絵を描き始めた。「なに?絵?」

男は絵を書き終わると一回目を通して満足そうに笑って俺にメモ帳を見せる。


そこには二人の人間の絵。

片方はデカくてがたいの良い、短髪の男。

まぁ間違いなく目の前のおっさんだ。

そして、その隣にいるのは、おっさんの腰くらいまでしか身長のない黒髪の少年。

眠たげながら鋭いその凶悪な目つきには、だいぶ親近感を………て。


『ガイアス』

「え?」

男は2人のうちデカい方を指さしながら、再度言う。

『ガイアス』

「ガイアス…?」

名前、なのだろうか。

恐る恐る、男を指差しながら

「ガイアス?」と尋ねる。

『〜〜〜!!!』

それが正解だったようで、

「そうだ、そうだ」と言うように男は目を輝かせて何度も頷く。

『ガイ!ガイ!』

自分を指差しながら言う。

次はきっと、

「ガイと呼んでくれ」、だ。


「…ガイ」

ぼそりと言うと、ガイはすごくうれしそうにほほえんだ。

まぁ…あれか。バカな犬が命令通りお座りすると、うれしいもんな。

「…ん?」

ガイが今度は目をキラキラさせながら、ガイの隣の少年をペン先で示す。

俺に尋ねるような視線。見覚えのある目つきに、黒髪。

きっと、間違いなく…。

「俺?」

自分を指さすと、ガイはまた何度もこくこくと頷いた。

パッと見イカツイおっさんだけど、仕草は意外にかわいらしい。

「えっと、分かるかな。俺は陽雪。は・る・ゆ・き」

『…ハル?』

「あー、雪が足りないけど、それでいいや」

とりあえず頷いておく。

『ハル!』

「うん」

『ハル!!』

「そうだよ、ガイ」

嬉しそうに何度も俺の名前を呼ぶガイを見て思わず笑ってしまう。

(あー…何だろうな。こんなに落ち着いた気分になったの久し振りかも)

知らない場所で、意味分かんない言葉を話す、見知らぬおっさんと二人きりなのに。

俺は不思議と穏やかな気分だった。


「でもさ、ガイ」

『〜〜〜?』

ふと思い出して、ガイの手からメモ帳を受け取る。

「これはないでしょ?そりゃガイより小さいけど、これでも高校生だよ?これじゃ、5・6歳が精々でしょ」

俺と思われる少年の絵を指差して抗議する。

でもやっぱりガイは俺が何を言っているのか分からなかったのか首を傾げる。

が、ピン!と来たようで、朗らかに笑いながら俺の頭を撫でてきた。

『〜〜〜〜!〜〜〜〜』

「ちょっ、ガイ!頭撫でるとか、そんな年じゃないから俺!!」

ピンと来た顔はしたが、やっぱり間違ってる。

どうしたらこんなかわいげのない男の頭を撫でる気になるんだろう。


……まさか、その筋の方じゃ………。


「…が、ガイ!あのさ、俺……」

『〜〜〜!』

ガイに話しかけるが、ガイは手をたたきながら誰かを呼んでいるようで気づかない。

「ガイ?」

呼びかけても、俺を見てにこりと笑うだけだ。

「…ふむ……」

仕方ないから俺も黙ることにした。



数分後。

ドアがノックされて、女性の声が聞こえた。

それに許可するようにガイが朗々とした声で返事をする。

………今気づいたけど、この部屋…てか家具もだけど、すごいデカいな…。


入ってきたのは、ヘッドドレスに白いフリルのついたエプロンをつけた典型的なメイドさん。

「て、メイド!!??」

『?』

突然大声を出した俺を不思議そうにみるガイ。

「…な、何者ですか、あなた様は……」

まさか、マジでその筋の方なんじゃ……。

『〜〜〜〜?』

そんな風に怯える俺をよそに、入ってきたメイドさんは落ち着いた様子で何かガイに尋ねていた。

赤みがかった茶髪で、肩まで伸びた髪はサラサラと動きにあわせて揺れている。

鼻が高いし、瞳の色も日本人にはいない緑色。

間違いなく外人だな。


と、観察していたらバッチリ、メイドさんと目があった。

俺と同い年くらいかな……でも外人は大人びてるから、年下かもしれない。

とりあえず微笑みかけておいた。…かわいいし。

するとメイドさんも微笑みかけてくれた。笑うとなお可愛い。



『〜〜〜〜〜』

ガイが指示すると、メイドさんは頷いてから、サイドテーブルに何か着替えらしきものを置いた。

『〜〜〜〜?』

次の指示を仰いでいるのか、メイドさんはガイに何か尋ねて、ガイもそれに答える。

そうして二言三言かわしたあと、メイドさんはまた俺に微笑みかけてから退室した。

「………生メイド」

なんだか、すごいものを見た。

『メイカ』

「え?」

何か言ったガイを見上げると、ガイは繰り返し

「メイカ」と言った。

「あの子の、名前?」

メイドさんが出て行ったドアを指差すと、にこりと笑ってガイは頷いた。

「そっか。メイカさん…」

言葉は通じなくても、名前くらいは覚えておこう。

「それで、ガイ」『?』

「これは着てもいいのかな?」

サイドテーブルに置いてある着替えを指さすと、ガイはまたにこりと笑って頷いた。

「よし、じゃあ着替えよっかな」

そういえば、怪我の確認もしてなかったな。

車に轢かれたんだから普通怪我の一つでもしてるはずだけど。

とりあえず、下半身に被さる布団をはぐ。

「………ん?」

なんだ?なんか可笑しい……。

ていうか、起きたときからずっとあった違和感。

足はある、腕もある。

目も見えてるし耳も、声も…………。

「あ?」

あれ?

「俺、声高くね?」

それに手も足も、何もかもが小さい。

それこそさっき見たガイの絵の少年みたいに。

「う…そだろ!!!」

慌ててベッドを降りると、やっぱり視界がやけに低い。

『〜〜〜〜?』

突然ばたばたし始めた俺を心配そうに見つめるガイの腰より下辺りがちょうど目の前にある。

サッと血の気が失せていくのを感じながら俺は鏡を探した。



鏡はあっけなく見つかった。

部屋にあったクローゼット、その隣に豪華な装飾がなされた姿見が鎮座していたからだ

鏡は嘘をつかない。

自分の身体イメージとか想像よりよっぽど正確に事態を映す。

鏡は、嘘をつかない。

そこに映っていたのは、十年くらい前の俺の姿。

カラスのように深い黒髪。

人を見据えるような三白眼。

病弱に映る白い肌に、華奢な体つき。

それが嫌で空手を始めた以前の幼い俺が、そこにいた。

違うのは瞳の色。


血のように、朱い瞳。


鏡の向こうの俺が、その朱で俺を見る。

俺だけど、俺じゃない。



新しい俺が、俺を見ていた。

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