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リターン  作者: 乾 澪
39/74

Ep35:新年

お久しぶりです。乾です。

なにやら「小説家になろう!」がリニューアルしてから、お気に入り登録というのができたからでしょうか。

グングンと評価数とか閲覧数が伸びていて、ひょえーって感じになっています。

今まで地味なところでコツコツやっていたもので、少しビビりますよね…。

これは、是が非でも完結させないといけない気がしてきました。

がんばります(`・ω・)=3


そして今回は新展開、女神聖祭…なんですが。

話が動くのは次回からですね。こうご期待…?

はぁ、と息を吐けば、それは白くなって宙を漂う。

世界は変わってもこの現象は変わらないんだなと地味に感動する。

そんなことを考えながら空を見上げていたら、ひゅうと音を立てて風が吹いた。

「さむっ…!」

思わず体を震わせて、着ているコートの襟を正す。

ダンフというアッチでいう鹿とか、そんな感じの獣の革を用いたこのコートは暖かいが、一昨年に買ってもらったものだからだろうか。

どうも丈があわなくて隙間風が入ってくる。

背が伸びたのであれば、喜ぶべきことなのだが…。

「おい」

声をかけられたので、振り返る。

「いつまでそんなところでアホ面晒して空を見上げているつもりだ。さっさと行くぞ」

「そーだよー!いつまでもここいても寒いだけだよー?」

振り返った先には、不機嫌そうなアゼリア先輩と寒そうに足踏みをするニコル先輩。

二人でおそろいの白いコートをまとって鼻を赤くしているその姿は大変愛らしいのだが…。

「聞いているなら返事をしろ、この愚図が」

「聞いてますから武器をしまってください!!」

「…チッ」

その片割れが、隙あらば武器を投擲しようとしてくるので侮れない。

「それじゃ、行きますか」

「うんっ!」

俺がそういうと、ニコル先輩がうれしそうに頷く。

目的地は、豊農祭が開かれたのと同じ、エイファン中央公園。

そして今日のイベントは女神聖祭。

その名のとおり、中央大陸各地で行われる唯一神ユーナを称える祭りであり、新年を祝う祭りである。




「わぁー!すごいひとだねぇー。久しぶりにこんなたくさんの人、みたなぁー」

あたり一面人だらけといった人ごみの中、ニコル先輩があたりをきょろきょろしながら楽しそうにいう。

「そうですね…指導舎は田舎っていうか、ほぼ無人ですからね」

本音を言えば俺は人ごみが嫌いなので、さっさと寮に帰りたいのだが、こうも楽しそうにされてしまってはかなわない。

まぁ、人ごみのなかってそれだけで暖かいから、その点はいいんだけど。

「邪魔くさいだけだ。男もたくさんいるし…ニコル、気をつけろよ」

ニコル先輩とは違う理由からあたりをきょろきょろするアゼリア先輩。

この人、指導舎から學園に帰ってから大変なんじゃないだろうか。

「もう、アゼリアったら心配性すぎ。大丈夫だよ。お祭りだよ?」

「だからどうした」

「お祭りでしょ?みんな楽しいでしょ?…え?」

「は?」

「そんな幸せムードの時に、人を襲おうとする不埒な人なんて、いるの?」

「ニコル!お前は本当に可愛いけど、無警戒っていうか、無邪気すぎるんだ!!」

…大変だろうなぁ。

ここは少し、アゼリア先輩に助け舟でも出すとする。

「まぁ、今日はお祭り気分でも、少し警戒したほうがいいかもしれないですね」

「え?どうして?」

きょとんとした顔でニコル先輩が首をかしげる。

その様子に数人の男が振り返っているが…うん。知らなくていい現実ってのは、いつどの時代にもあるものだ。

「今日の大尉の任務、覚えてます?」

「む。ハルくん、馬鹿にしてる?今日、中央公園の式典に第三皇女のソフィア様がいらっしゃるから、皇族の近衛部隊とは別に軍が特別につくった部隊に配置されたんでしょ?」

「はい。だからです」

「…ん?」

「はぁ…可愛いなぁ…ニコルは」

けどアホだな、とアゼリア先輩の顔に書いてある。

同感だ。

アホというか、天然というか…。

「エイファンは軍都ですから治安はいいですけど、いつだってどんな国だって、反乱分子がひとつもない国なんてのはありえません。そういう輩にとったら皇族なんて、一番いい標的でしょう?」

「え?でも、ソフィア様って国民にすごく人気があるし…」

「だから、とも言える。強い光があれば、濃い影が生まれる。…同じことだ」

強い光に、濃い影。

良い例えだと思う。

第三皇女であるソフィア=ジオグランデ=リル=アルノード様は、美形ぞろいと名高い皇族の中でも特に美しいと言われている。

白雪のように美しい白髪に、いかなる宝石にも勝る紫の瞳。

白と紫という最も高貴な色を纏った彼女は、一目見たものの心を奪うと言われるほどのカリスマ性を持っているらしい。

…まぁ、らしい、であって、俺は一度もその白やら紫やらを見たことはないのだけれど。

無論、アッチの世界と同じで、出過ぎる杭は憧れにもなれば、妬みの対象にもなりえる。

「まぁ、そういうことですから。そうじゃなくても危ない趣味をもった人間なんていくらでも世の中いるもんです。気をつけるに越したことはないですよ。…まぁ、気にしすぎても、つかれちゃいますけどね」

「んー、わかったよ。一応、気をつけてみる」

「ふん。まぁ何があろうと、私がニコルを守るのだからなんの支障もないがな」

そういいながら、アゼリア先輩が胸を張る。

「はいはい。がんばってくださいね。…あ、ゴコット煮込みの屋台だ!くいてー!!」

「本当だ!おいしそうだね!!」

「あ、おい!今お前私の話を流しただろう!!コラ!!!」

最近、俺もアゼリア先輩の扱いに慣れてきたなぁ、と思った。



「あつ、あつっ!」

「あぁ、もう。お前は猫舌なんだから。ほら、ふー、ふー…さめたか?」

「うん、ありがとうアゼリア!」

…なんていう、どごぞのばかップルのような双子のやり取りを横目に、自分のゴコットの煮込みをほおばる。

「ん、うまい」

ゴコットはジャガイモのような野菜で、それを出汁の聞いたスープでいろいろな野菜や肉と一緒に煮込むのだ。

作物の少ない冬の時期には重宝する野菜である。

「それで、今日はこのあとどうする。とりあえず大尉についてきたから成り行きで祭りに来てしまったが…」

アゼリア先輩がニコル先輩に煮込みを食べさせながら話しかけてくる。

地味に珍しいことだよな。先輩から俺に話しかけてくるのって。

…きっと、ニコル先輩が上機嫌で大変かわいらしいから、アゼリア先輩も機嫌いいんだろうなぁ…。

「すぐに寮に帰っても俺はいいですけど。なんか寮のほうでも新年パーティー的なものはあるって聞いてますし」

と、言ってから、ふと思い出す。

「あぁ…でもそういえば、學園の魔法科がなんか出し物するって言ってたかなぁ…」

「出し物?」

ニコル先輩の問いかけに頷く。

「はい。ちょっと前に、魔法科にいる幼馴染から手紙が来て、そこに書いてあったんですけど」

學園は、帝国の中で唯一の軍学校であり、なおかつ魔法科がある学校でもある。

だからエイファンには将来魔道師を目指すもの、あるいは子供をそうさせようとする人間が集まりやすい。

そんな中、魔法科入学予定のちびっ子たちの集まりというのができるのは、自然の成り行きなわけで。

「魔法科の下部組織、っていうとあれですけど、そのちびっ子軍団と一緒に魔法科がなんかやるらしいんですよ。中央ステージで」

「ふーん。面白そうかも」

「なんでもソフィア様もいらっしゃるとか、いらっしゃらないとか」

「え、ソフィア様!?見たい!!」

ニコル先輩は、意外に…でもないけど、熱しやすく、ミーハー体質である。

「…行きますか?」

決定はアゼリア先輩に任せる。

「ニコル、行きたいか?」

「行きたい!」

「じゃあ行くか」

「……さいですか」

と、言うことで。

俺たち三人は中央ステージへと歩き始める。

石畳の道の上数ミリほど積もった雪が、足を踏み出すたびにサクサクと音を鳴らす。

「…にしても、ニコル先輩、今日は本当に機嫌いいですね。ま、理由の検討ならついてますけど」

「えへへー。やっぱりわかるよねー♪」

寒さとは違う理由で頬を染める先輩。

「今日はね、ライナス先輩に会えるからね、おしゃれしてきたの!ほら、これ見て!!」

そういって指差したのは、頭につけたピンクのカチューシャ。

白い花のモチーフがついていて、とてもニコル先輩に似合っている。

「これね、私たちが指導舎行くことになったときに、ライナス先輩が餞別にくれたものなの。ライナス先輩からの、初めてのプレゼントなの…」

ニコル先輩はそういうと、きゅっと胸の前で手を組む。

「早く、会いたいなぁ……」

ニコル先輩の口からこぼれたため息は、真っ白になって宙に舞う。

白いコートに白い雪。愛しい人を想う少女の姿はとてもきれいで…。

(…あぁ…本当にこの人が女の子だったなら…いや、この際女の子じゃなくても……)

と、想わずにはいられないのだが、

「…………眼鏡……割って………指で…潰………下郎……容赦は………」

「俺は絶対ニコル先輩のこと傷つけませんから!!!!」

「………言質は取ったぞ?」

「え?何の話?」

左隣から聞こえてくる呪詛が怖すぎて、とてもじゃないが手は出せない。





そんなこんなで、たどり着いた中央ステージ。

「結構、込んでるもんですね」

「まぁ、一般の人からしてみれば、魔法なんてびっくり手品ショーみたいなものだもんね」

予想以上の人でにぎわっている。

これは席取りも苦労しそうだな…。

「あ、あそこからソフィア様が観覧するのかな?」

ニコル先輩が指差した先には、一段高くなったところに豪勢な閲覧席が設けられていた。

「本当にソフィア様が来るんですね…」

「なんだ、今日の催し物は皇女様がご覧になるような大層なものなのか?」

「うーん…どうでしょうね」

うちのじゃじゃ馬娘が出るともなると、補償はできない。

…アイツ、なにかしでかしやしないだろうなぁ…。

「ちょうどあそこの前の席空いてるし、そこにしよう!ソフィア様が近くで見れるかも♪」

「ニコル先輩、見るものが違います」

「まぁまぁ!」

そういってニコル先輩は一人先に、ちょうど三つあいたベンチ席へと駆け出して行った。


…はずなの、だが。

「…どこのどいつですか、それは」

「あ、だめだよ。人のこと、それ、なんていっちゃあ」

俺たちがつくまでのわずかな時間の間に、人が一人増えていた。

「…」

無言で俺を見上げてくるのは、見知らぬ少女。

小さな手でニコル先輩の左手を握っている。

「迷子か?」

アゼリア先輩が尋ねると、「そうみたい」とニコル先輩が返す。

「迷子、ですか…」

金髪碧眼の少女は、日本で見たのならばそれは特長あふれる容姿なのだが、あいにくここは日本じゃない。

アルノードでは、金髪碧眼はありふれた組み合わせなのだ。

「名前は?」

しゃがみこんだアゼリア先輩が、少女と目線の高さを合わせながら尋ねる。

…が。

「……」

おびえたようにニコル先輩の後ろに隠れる少女。

「あぁ、子供と動物は人の本質を見抜くっていいますか「そうか、殺されたいんだな」ごめんなさい」

不用意な発言は控えよう。

「お名前は?」

今度は柔らかな笑顔でニコル先輩が尋ねる。

「…エリザ」

「エリザちゃんっていうの?私はニコル。このお姉ちゃんは私のお姉ちゃんで、アゼリアって言って、こっちの目つき悪い男の子はハルくんっていうのよ」

「ちょっ!」

さりげなく失礼なことを言われた。人のコンプレックスを…。

「それで、エリザちゃんは、お母さんとか、お父さんは?」

「一緒じゃないの。…みんなと、先生と来たから」

「先生?」

その言葉で、ようやく気づいた。

「先輩、見てください」

「え?」

「その子、胸にバッチ着けてます。たぶん今日の演目に出る、ちびっこ軍団の子なんじゃないですか?」

よく見てみれば、少女の着ているものはどこかの制服のようにかしこまったものだし、その可能性は高い。

「ちびっこ軍団じゃないもん!『金の稲穂』だもん!!」

「は?稲穂?」

その、金の稲穂とやらが、軍団の名前なのだろうか。

…なんか、ビールの商品名みたいだな…。

「それじゃあ、どっか控え室みたいなところがあるはずだよね。きっと」

「でしょうね。実は迷子ってほどのことでもないのかも」

「そっか…じゃあ、私連れて行ってくるよ」

ニコル先輩がそういって少女の手を握り締めるが、

「駄目だ!」

頑固親父ならぬ、頑固姉がその前に立ちはだかる。

「ニコル一人になんてさせられるか!」

「えぇー?なにそれ、私だってもう14歳だよ?大丈夫だってば」

「だ・め・だ!」

「それじゃあアゼリアがこの子の面倒みるの?」

ニコル先輩がそういったとたん、少女は首が取れんばかりの勢いで顔を横に振る。

「………」

少しだけ、悲しそうな顔をするアゼリア先輩。

「それじゃあハルくん?」

「男の人はヤ!」

「………」

あ、これは悲しいな。ちょっと泣きそうだ…。

「ね?私しかいないでしょ?」

そして誇らしげなニコル先輩。

「そのお姉ちゃん、本当はお兄ちゃんなんだぞ」って言ってやれたらどれだけスッキリすることか。

…言ってやろうか?

「それじゃあ、行こっか?」

「うん!」

「二人で仲良く席取りしといてねー」

そして二人は手をつないで人ごみへと消えていった。

「………」

「………」

隣を見る。

「…なんだ」

同時にアゼリア先輩も俺をじろりと見…睨む。

二人で、仲良く…?

……。


(無理だろ!)

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