Ep33:魔法
とりあえず今回はつなぎの話。
次からはいわゆる双子編、ですかね。
そして毎度毎度うまいこといかない主人公。
がんばって強くなって必殺技覚えるのは、少年漫画の王道ですよねwww
俺が指導舎に転入してから一ヶ月弱。
もうすぐアッチの世界で言う元旦に当たる女神聖祭の日がやってくるが、ここ、エイファン指導舎にそんなことは関係ない。
訓練、訓練、また訓練。
生徒3人に教師1人の少人数体制の魔法特訓の日々。
それだけなら本望だ。
だって俺は強くなることを望んだし、誓ったし、その為に俺の持つ圧倒的な魔力量とやらは確実に役に立つものだから。
だけど無論、肉体的疲労と精神的疲労では、まったく違うわけで。
たとえば、無言の殺意。
「ニコ、野菜を食べろ。そのままではバランスが悪い」
「え~?だってグレッグリーフって生だと苦くて嫌なんだよね…アゼリアこそ、牛乳飲んだほうがい いんじゃない?胸、大きくならないよ?」
「なっ!む、胸など戦いにおいて邪魔になるだけだからいいんだ!」
「…っぷ」
「…………」
「ごめんなさい」
上の「………」の時のアゼリア先輩の目つきっていったらすさまじいものがあった。
本当に「殺意」って字に書いて見えた気がする。
ニコル先輩のときはちょっと恥ずかしげに頬赤らめるくらいだったのに、俺が笑ったとたんに「何ですか、殺しますよ?」って感じだった。
続いて、命がけの実践訓練(魔法込み)。
「ちょ、まっ、ひぇぇぇっ!!」
「待てだと?お前は戦場で敵に「待ってくれ」と頼まれたら待ってやるのか?とんだお人よしだな。
ちなみに私は違う」
「大尉ー!この人、この人真剣使ってますけどぉぉぉ?!!!」
「んー?いーんじゃねーの?緊張感出んだろ」
「緊張感云々の前に俺が死ぬ!!」
「そうだな。死ね」
「ぎゃぁぁぁー!!!!」
あぁ、コレは肉体的疲労でもあるか。
ちなみに、アゼリア先輩は「付属魔法」という種類の魔法を多用する。
というよりは、それ以外は強化魔法くらいしか使わない。
『陣式魔法から範囲魔法、強化魔法、付属魔法に至るまで全般的に使いこなせる魔道師なんて、俺は今まで見たことがねーよ。大体において魔道師ってのは何かひとつに特化してるもんだ。そうじゃないと大成しない。…まぁ、俺ほど他がまったく使えないってのは、それはそれで駄目なんだがな』
とは、ゴーフィン大尉のお言葉である。
とかいっても、強化魔法では追随を許さないってのはそれだけで強い。
初めて手合わせしたときなんて、スピードの乗っていない初撃すら見えなかった。
アゼリア先輩の使う付属魔法は、詳しく区分すると「属性系付属魔法」。
その中でもよく見るのは炎系付属魔法。
つまり、
「も、え、るっつーの!っくそ、反則だろコレ!!」
今目の前をかすっていった長刀のように、武器に炎をまとわせたりする魔法だ。
ついでに言えば、アゼリア先輩愛用の長刀『涙』は、北にあるサザンドルグ大陸からの渡来品。
サザンドルグは軍事生産が活発で、アルノードと平和調停を結んでいる国とはかなりの交易が行われているらしい。
直接行った事がないからわからないが、渡来品を見た感じ、どこかアッチの日本と似たようなデザイン性があるのでなんとなく好きな大陸だ。
もちろん、アゼリア先輩の涙もかなりの業物だ。
つまり、切れ味が抜群☆
「ぎゃぁぁぁー!!!」
両手に握る双剣を交差させ、頭上から降りぬかれた長刀を受け止める。
が、刀を止められてもそれが纏う炎までは止められず。
「アッツ!」
じり、と前髪のこげる嫌なにおいがする。
「っクソ!!」
多少のやけどを覚悟で両腕に力を込めて、思いっきり先輩の刀を押し返す。
そして地面をころがりながら、息も絶え絶えに先輩から距離をとる。
「ふたりとも、がんばってねー」
「……ふぁ…」
観客は二人。かなり離れた距離から声援がひとつだけ飛んできた。
ていうか、俺はニコル先輩が魔法戦闘訓練をしているところを見たことが無いのだが、いいのだろうか。
大尉は半分寝てる。期待など初めからしていない。
「…私の魔法が反則だというがな、アルエルド」
そんな駄目な指導教員に代わって口を開いたのは、炎を払うように刀を振るうアゼリア先輩。
その顔は余裕そうで、息ひとつ切れていない。
きっと強化魔法でもかけているのだろう。
(やっぱ強化魔法だけでも、覚えたいよな…)
途切れる息を整えながら、思う。
「さて、ここは何を学ぶ場だっただろうか」
「…魔法、でしたかね」
「そうだな」
そういうと、すっと冷めた目で俺を見る。
「では、そこでの戦闘訓練で、魔法を使うことの何が反則なのだ?」
「…あれですよ。反則級に強い、って言いたいんです。要するに」
「ふん、そうか。まぁそうだな」
俺の言葉に少し気分よさそうに笑うアゼリア先輩。
…きっとこの人とも、二コル先輩のことさえなければ仲良くなれる気がするんだけどな。
なんとなく扱い方としては、リオールと同じでいい気がするんだ。
「だが、だったらお前も魔法を使えばいいだろう?聞くところによると、お前は相当な魔力を持っているらしいじゃないか」
「…俺の魔法について、わかってていってますよね?」
「さてな。…ただ、やらねばお前が死ぬだけのこと」
―――それだけだ。
そう言って、アゼリア先輩は対炎グローブをつけた右腕を振り上げる。
同時に長刀・涙が緋色の炎に包まれる。
「訓練と思うな。私の男への軽蔑の深さは、お前も良くわかっているだろう?」
「えぇ、そうですね」
この一ヶ月弱で嫌ってほどわかった。
アゼリア先輩は俺が嫌いなんじゃない。
男という存在を、憎んでいるんだ。
「私の意志では、涙はとまらないかもしれない、ぞっ!!」
そしてアゼリア先輩は勢いをつけて駆け出してくる。
「~~~~~っあああぁぁ!クソ!!」
わかってる。
わかってるんだ、このパターンは。
アゼリア先輩のこの攻撃は、なんてことはない。
強化魔法と付属魔法の重ねがけ。
強化した脚力で加速させた攻撃に炎をまとわせるだけの直線攻撃。
それだけなのに、避けることも受けることも容易ではないのだから嫌になる。
避けても炎に体を舐められる。受けても同じこと。
単純なものほど攻略が難しいとは、よく言ったものだ。
あれをどうにかするには、炎を消すのが一番いい。
まぁ、つまりは、だ。
「わかったよ、やればいいんだろ?!―――『クオ=リュミナス』!!!」
唱えたスペルは低級水属性魔法のもの。
意識は体の前に突き出した両手に集中。
敵は気にしない。意識の外にはずす。
感じるのは己の中にある魔力の猛りだけ。
イメージは熱いうねり。
うねりを望んだ形に変えて。言葉に乗せて、外に放つ。
「い……けぇ……っっ!!」
思わず出た言葉は、予想ではなく、願望で。
「はい、アウトー。訓練終了ぉー。勝者、アゼリア」
気の抜けた大尉の声で試合終了が告げられる。
「…………へぶしっ!」
「あぁ、風邪ひいちゃうよ!はい、タオルタオル!」
そして見越していたように、二コル先輩がタオル片手に駆け寄ってきてくれた。
「あ、ありがとうごz「ニコに近寄るな下郎が!」ぶへっ!!」
お約束のようにアゼリア先輩からは鉄拳が飛んでくる。
晴天の冬空から頭上に降ってきたのは、特大級の水球。
そうして今日も今日とて、俺の魔法は大失敗に終わったのであった。