Ep32:義務
今回はいつもより短めです。そして特に盛り上がりどころもないという。
なんか、書いてたら予定よりアゼリアが攻撃的な人間に…。
おかしいなぁ、ここまで切れるナイフな感じじゃなかったのにな…。
アゼリアたんがデレ期に入るのは、ちょっと先の話になりそうです。
今、机をはさんで向かい合っている四人の男女。
一人は俺で、隣には会長。
その会長の向かい側にはロックハート…ニコル=ロックハート先輩が申し訳なさそうな顔をしながら座っている。
なぜ先輩が申し訳なさそうな顔をしているかといえば、それは彼女(?)の隣に座っている人物が、ものすごい形相で俺を睨み付けているからである。
「………」
「………」
俺の向かい側に座っているのが、アゼリア=ロックハート。
ニコル先輩と同じく可愛らしい癒し系であろう顔をゆがませ、鋭い目つきで俺を睨み付けている。
なんでだろうなぁ…俺、何もしてないはずなんだけどなぁ…。
胃が痛い。
結局どこ行っても俺の胃は痛む運命にあるらしい。
「えっと、自己紹介は終わってるかもしれないけど、改めて紹介するわね」
しかしそんな張り詰めた空気なんて気にしない。
いつだってゴーイング・マイ・ウェイなのが会長である。
飄々と先輩たちの紹介を俺にし始める。
「まず、アタシの正面に座っているのがニコル=ロックハート。4年生ね。
あ、一応言っておくけど、正真正銘の男の子ね。かっわいーいけど、男の子」
「よ、よろしくね」
「あ、はい。よろしくです」
ニコル先輩とお互い頭を下げあう。
うん。ここまではいいんだ別に。
ニコル先輩が男だというのには衝撃を受けたが、今俺の胃が痛いのはその所為じゃない。
問題なのは…。
「で、黒猫ちゃんの正面の子が、アゼリア=ロックハート。
久しぶりね、アゼリアちゃん」
「はい、お久しぶりです、アリア会長」
会長が声をかけると、俺への殺気は緩み、アゼリア先輩はニコリと笑って会長に会釈する。
「この子は今日から指導舎に入ることになる、ハル=アルエルド。気軽に黒猫ちゃんって呼んであげてね♪」
しかし話が俺のことになった瞬間、その目がギラリと輝く。
「……遠慮しておきます」
「あ、あは、あはははは、…はぁ…」
俺が、何を、したというのでしょうか。
「えーなに?アゼリアちゃん、まぁだ相変わらず男の子苦手なの?」
「苦手ではありません。だいっっっっっっ…嫌い、なだけです」
あぁ、どうやら俺が何かしたわけではないようだ。
ただ、男であるだけで存在が罪なのだ。彼女にとっては。
…あれか。死んだほうがいいのだろうか。これはもう、死ねといわれているようなものなのではないだろうか。
「私のことは平気なのにね」
困ったような顔をしながらニコル先輩が言うが、
「いや、ニコル先輩は別次元っていうか」
「ニコがあんな薄汚いやつらと同じ存在なわけがあるか!お前はもっと崇高な存在なんだ!」
…思いもよらないところで、思いもよらない人と息が合ってしまった。
「………」
うわぁ…「んだよテメェ、気持ち悪いんだよ二度と私のニコに声かけるんじゃねぇよ」みたいな目でにらみつけられてる。
「会長」
「んー?なぁに?」
「早速だけど、俺帰りたいです」
「だめー♪」
でしょうね。
「それに、アタシたちもう帰るしね」
「え?」
そういうや否や、会長は「よっこらせ」と言いながら腰を上げて、笑顔で振り返りながら言う。
「ってことで、ガルーに強化魔法よろしくね、レオンくん♪」
「レオンくん…?」
釣られて俺も振り返る。
「………オ゛…お、お安い……ご、ごよ、ゴホッ!ガフっ……御用だ、ぜ、マイ・ハニ゛ィー……ごほ、ゴホォッ!!」
死にかけのゴーフィン大尉がいた。
強化魔法とやらには、本当に感心する。
生身の人間が、早馬の足で二時間かかるところを40分強で走破したのだ。
例えその結果死に体になっていたとしても、それは賞賛に値する所業だ。
「そんでもって、そんな人に鞭打つかのごとく魔法執行要求する会長はあれですね、悪魔かなんかの化身ですね」
「あら、失礼ね。小悪魔と呼んでちょうだい」
「小さい」をつけたところで悪魔には違いない。
そんな悪魔に「副会長はどうするんですか?」と尋ねる。
「ん?ライナス?…あれ?そういえばライナスどこにいるの?またニコルくんに気絶でもさせられた?」
「な、なんですぐに私の所為にするんですかぁっ!?」
顔を真っ赤にして立ち上がるニコル先輩。
紛れも無く貴女が原因だろうに。
「だって、ライナスが気を失う原因の八割くらいはニコルくんが絡んでるじゃない?」
「…………ひゅー、ふひゅー♪」
「ニコ、お前はこの世の誰よりも愛らしい。だから口笛ができないことくらい、お前のお尻の三ツ星ホクロくらい、なんてことのない欠点だ」
「どさくさ紛れてどうして私の気にしてるところ二つもまとめて言うのぉっ!!?」
普通に暮らしていれば絶対に知ることが無かったであろうニコル先輩の身体的特徴が暴露されてしまった。
「へぇ、ニコル先輩そんなところに三つもホクロが…」
興味本位で俺が何気なくそう口にした瞬間、
「オイそこの下郎。ニコの裸体を想像するな、汚れるだろう」
脇差のようなものがアゼリア先輩の懐から投擲される。
ずらしたのか、ずれてしまっただけなのか、その脇差は俺の前髪をかすって通り過ぎて行ったが。
「髪のカットなら、間に合っています」
「遠慮するな、今なら首ごとまとめてサービス価格だ、下郎」
「………ハル、です」
「さて、覚えてやれるかどうか」
そういいつつ、フン、と鼻を鳴らしながらアゼリア先輩は懐から手を出す。
あのブレザーの中、いったいいくつの獲物が入っているんだろう。
そして俺の命は果たして三年間ももつのだろうか。
ひくりと頬が引きつるのがわかる。
「へぇ、もうすっかり仲良しなのね、二人とも」
「今のを見てそう思えるなら、きっと会長の頭には妖精でも住んでるんですね」
「小悪魔で妖精って、アタシったら最強じゃない」
「…副会長なら、養護室いますから……もう帰ってください………」
本当に、平にお願いします。
「養護室?やっぱりニコルくんが意識刈り取ったんじゃない」
「だから、不可抗力だったんです!やる気はなかったんです!!」
「殺る気…か…。可愛そうなライナス…」
そうつぶやきつつ、ふらふらと養護室へと向かって歩いていく会長。
「ちょ、私も行きます!本当に不可抗力だったんですぅっ!!」
その後を追っていくニコル先輩。
「…………あ」
「…………ふん」
「ハァ……ッハァ……げほっ………」
そして残されたのは、俺とアゼリア先輩と変態。
もう変態でいいや。
なんか息荒くて気持ち悪いんだよ。
「………オイ」
「は、はい」
アゼリア先輩から声をかけられる。
ニコル先輩と同じ鳶色の瞳で、強い光を宿して俺を睨み付けてくる。
…笑ったら、さぞかし可愛いだろうに。
「アルエルドと言ったな」
「そうです。覚えていただいて光栄です」
「私はお前がどんな人間であるかは知らない。興味もないし知る必要も無い」
「いや、それは…」
「反論も必要ない。ただ、これだけは言っておく」
ピタリと俺を見据える瞳。
それから視線を逸らすことは出来ず、
「ニコを傷つけてみろ―――――――――――殺すぞ」
真正面から俺を見据えてくる瞳は、確かな殺意を俺に送りつけてきた。
いままで俺が感じたような悪意の比じゃない。
確かに、アゼリア先輩は決意しているのだ。
ニコル先輩を傷つければ誰であろうと殺してやる、と。
「…そんなことをするメリットが、俺にあるんですかね」
「ないだろうな。少なくとも、殺すと脅されてやるほどのメリットは」
「なら、やりませんよ。俺はただ、ここで魔力の扱いを学びたいだけですし」
「理解している。だが男は愚かだからな。利が無くとも欲が勝ることもあろう」
それだけ言って、アゼリア先輩は背を向けてどこかへと歩いていく。
「どこへ行くんですか」
「鍛錬だ。私にはニコを守る義務がある。その為には強く在らねばならない」
「……それを、ニコル先輩が望んだんですか?」
俺の問いかけに先輩は一瞬だけ脚を止めたが、すぐにまた歩き始める。
「…言っただろう」
振り向きもせず、ただ一言つぶやく。
「義務なんだ」
そういう彼女の背中が、俺は吐き気がするほど嫌いだと思った。
「なんていうか、青い春してんな、お前ら」
「今の一連の流れを青春で済ませる気なら、本当に貴方の脳みその存在を疑います」
後ろで変態が何かほざいていた。