Ep31:双子
9月滑り込んだ…!
あーなんとか9月以内にもう一本あげるって言う目標が達成できました。
そして前々から書きたかったキャラもようやく出せました。
私的には、あの二人の人気が出るとテンション上がります(`・ω・)
さて、ここで問題だ。
森の中のでこぼこ道をえっちらおっちら馬車で走るのと、何の障害もない空を駆けていくの。
どちらが早く目的地につくだろうか?
答えは簡単だろう。
「…………つい、た?」
「えぇ、ついたわよ。あー、たのしかったー♪」
空飛ぶ馬車を初体験☆から、約30分後。
目の前には待ち焦がれていた指導舎が見えていた。
二時間はかかると思われていた道程が30分だ。
おそるべし、変態パワー。
「…魔法って、すごいですね」
「んー、正しく言うと、レオン君の場合は強化系魔法に限って、ね。それ以外はからっきしだもの」
「強化系魔法?」
「そ。黒猫ちゃんの憎き敵も得意とする魔法ね」
「…ヴェイダム、ですか。強化系魔法が得意な人間ってまともな人いないんですかね」
「アタシの経験的には、直情型の人が多いかなー」
つまり馬鹿が多いってことですね。わかります。
「その中でもレオン君って飛びぬけて一点突出型っていうか、まぁ、本当に強化系魔法しか使えないのよ。ほかはてんでお粗末」
なかなかにひどいいわれようである。
まぁ、今までの話をまとめると、だ。
ゴーフィンさん…改め、ゴーフィン大尉は強化魔法しか使えない中途半端な魔法執行者。
だから生徒会所属になったらしいが、とにかく強化魔法に関してはすごいらしい。
「ガルーに強化魔法かけて空飛ばせることができるのなんてレオン君くらいだからね。
レア体験なのよ?」
「それはありがたいですが、二度としたくないです」
ちなみに当の本人はみずからに強化魔法をかけて自力でここまでくるらしい。
魔法とか普通にある世界で何言ってんだとはおもうけど、そこまで行くと本当にファンタジーだよね。
ペガサス体験もしちゃったし。
「行きも強化魔法かけてきたんですかね」
「て言ってたわよ。どうも聴覚強化で馬車の音拾って駆けつけたらしいしね」
どう考えても変態です。ありがとうございました。
「……もう、あの人の話はいいです」
これ以上聞くと、なんだかやせてしまいそうだ。
ただでさえここのところ胃が痛くて(クロアとかアリスとかメイカさんとかそこらへんのプレッシャーが原因と思われる)食が細くなっているんだから、困る。
「そう?あの人、あぁみえてもそれなりにすごい人なのよ?魔法技術界に衝撃を走らせる新詠唱法編み出したのもレオン君だし」
「そうなんですか?!」
「えぇ。…ごくごく一部の人間にしか使えないらしいけど」
「だめじゃないですか?!」
魔法使える人間ですらほんの一握りなのに、そのごくごく一部って。
全人口の何%だっていう話だ。
「そうなのよねー。レオン君って、あともう一歩のところで惜しい人なのよねー」
「天才とは紙一重的な意味で?」
「そういう意味で」
つまり紙一重で馬鹿だということだ。
「…なんだか俺、今後の生活に暗雲垂れ込めている気がしてきたんですけど…」
俺が肩を落としてそう言うと、会長はニコリと笑って俺の肩をたたく。
「あーんしんしなさい!指導舎に行けば、かわいーい先輩が待ってるんだから!」
「あー…っと、アゼリア先輩、でしたっけ」
「うん。男の子の方はニコル君ね」
「…まぁ、仲良くやれるようがんばりますよ」
少なく見積もって3年くらいはいることになっているんだ。
3年って言えば、アッチの世界なら中学・高校は卒業できる。
耐え忍んで暮らすにはあまりに長い。
「うん!その意気よ!じゃあ、いきましょうか!」
「はい」
そして俺と会長は指導舎の正面玄関へと歩き始める。
「………あれ?」
「あら、どうしたの黒猫ちゃん」
「副会長は?」
馬車を振り返る。
「……………………ウェェ…」
顔色が緑色の人間を見たのは、生きてきて二回目だ。
「ほら、副会長。もうちょっとで指導舎着きますから、そこまで我慢してください!」
「……」
「副会長?」
肩を担いで引きずっている副会長が静かなので顔を覗き込む。
「…吐く」
「今はとりあえずやめてください!」
あぁ、なんだか今日はいいことが無い。
副会長が口元を手で覆いながら言う。
「俺、高いところはおろか、そこから落ちるのとか、ホントだめなんだよ…。
子供のころのトラウマで…」
「えっと、高い高いのやられすぎ、とか?」
「あぁ…アリアの魔法で、な。あの頃はまだアリアも魔力覚醒してなかったし、魔法の才能があることだって知らなかったけど、よく考えれば5歳の女の子が人一人片腕で放り投げられるわけないんだよ。魔力があるだけで普通より強靭な肉体になるとは言われてるけど、あれ、絶対無意識で身体強化かけてたに決まってる」
「うわぁ…なんか、御愁傷様です」
幼いころの会長ってだけで恐ろしい。
今でも手に負えないのに、あそこに子供のパワーが加わったら、それって天災レベルだと思う。
そして当の天災さんは気持ち悪そうにする幼馴染を尻目に、意気揚々と指導舎へと先に行ってしまっている。
「とにかく、早いところ指導舎入りましょう。手洗いまで我慢してください」
「わ、わかった…」
弱弱しく副会長が頷くのを確認してから、再び歩き始める。
しかし、この年の差だと、体を引きずるのも一苦労だ。
肩を担ぐ、というよりは覆いかぶさられている、って感じだ。
……とりあえず、指導舎生活ではカルシウムはたくさん取るように心がけよう。
「…ライナス、先輩…?」
俺が決意を新たにしたそのとき、指導舎の玄関に誰かがいることに気づいた。
栗色の肩口まで伸びたボブカットがよく似合う、目のくりくりした可愛い小さな少女。
今はその眼を驚いたようにさらに大きく開いている。
よく見えないが、涙を浮かべているようにも見える。
「げ」
隣で副会長が小さくうなる。
「…げ?」
げ、とは、綺麗な女性を見たときの男の反応としてはおかしなことだ。
「ライナス先輩っ!」
しかしそのつぶやきは聞こえなかったのか、少女は目じりに涙をためながら、うれしそうに俺たちのほうへ駆け寄って来て、
「会いたかった!」
華麗に俺を突き飛ばし、
「グゴァッ!!」
華麗なタックルをライナス先輩のみぞおちあたりに決めていた。
あー…あれ、やばくない?
『米のにおいなんて嗅ぎたくありません!』って状態のときに『はい、炊きたて!』って鼻に押し付けるようなものだろう?
あぁ、せっかく青白い顔に回復してたのに、また副会長の顔色が緑色に戻ってしまった。
無論、そんな副会長に人一人支える余力があるはずも無く、そのまま地面へと二人そろって倒れこむ。
…クロアとかに抱きつかれてる俺って、傍目から見るとあぁなのかな…。
「…………ロック、ハート……」
「ライナス先輩…!あい、あいたか、会いたかったぁ…!」
「は、はなし…!」
「私、本当にもう、死ぬほど先輩に会いたかった!」
倒れこんだことなど気にせず、副会長を強く抱きしめる少女。
「……………」
そしてがっくりと後ろに首を倒す副会長。
「…その先輩はたったいま死ぬほど死に掛けてますが」
思わず口を挟む。
だって、本当に死に掛けてるんだって。
「え?」
そこではじめて気づいたように副会長の顔を見る少女。
「……」
数秒黙り込み、
「きゃぁぁぁー!!!」
緑色の顔色をした副会長を見て叫び声をあげた。
…まぁ、怖いよな。
「さっきは本当にみっともないところを見せて…ごめんなさい」
俺にルナリーフ茶の入ったカップを渡してながら、胸にお盆を抱えた少女が俺に頭を下げる。
今俺は、ようやく指導舎へとたどり着いていた。
やっとだよ、ホント。
なんか「行くぞ!」ってなってから軽く一月は経ってる気がする。
「あ、いえ、ぜんぜん気にしてませんから、お構いなく!あの、どうぞ座ってください」
「でも…」
「でも、っていうか、えっと…先輩、ですよね?」
「え?」
「學園の制服着てるし。生徒会の、ロックハート先輩ですよね?」
「あ、はい。そうですけど」
「なら、気にしないでください。生徒会の後輩として、先輩に頭下げさせるのは申し訳ないです」
そこまで言うと、少女はハッと気づいたような顔をして、その鳶色の瞳を輝かせる。
「じゃあ、君が生徒会に新しく入ったっていうアルエルドくん!?」
「はい。ハル=アルエルドといいます。今日から指導舎でお世話になることになりました。以後よろしくお願いします、ロックハート先輩」
「はい!よろしくお願いします!」
その言葉に思わず笑ってしまう。
「先輩、俺、後輩ですよ?敬語はなしです」
「あ、そうです…って、アハハ。また、敬語になっちゃいまし…じゃなくて、なっちゃったね」
「ハハハ。礼儀正しいですね、先輩って」
どっかの顔とスタイルと頭脳だけの(だけ、じゃないか…)会長とか、感情表現捻じ曲がりすぎてる幼馴染とは大違いだ。
「そ、そんなことないよ。興奮するとさっきみたいなこと、しちゃうし」
「あぁ…。さっきの、ですか」
さっきのとはもちろん、副会長へのタックルを指しているのだろう。
あの後副会長は到着早々養護室送りになっていた。南無。
ロックハート先輩は椅子に座りながら、頬を赤くして俯く。
「その、自重しようとは思うんだけどね。ほら、私しばらくライナス先輩にあってなかったし、久しぶりで、どうしても抑えられなくて…」
もじもじしながら逆手で髪の毛を耳にかける。
……あー、何だろコレ。
普段から可愛い子なら割と周りにいるんだけど、あいつらには無い何か…。
「あ、癒しだ」
「え?」
「いや、先輩ってなんだか、見てるだけで癒されるなぁーって」
「えぇ!?」
ボンっ!と一気に顔を赤らめる先輩。
…かーわーいーいー。萌えだな、萌え。
クロアとかクロアとかクロアとかも見習えばいいと思うよ。
いや、ツンデレっていうのもあるけど、あれはちょっと違う気がする。
「そ、そんな私なんか癒されるとか、そんな、えぇー?」
そういいながら胸の前でパタパタと手を振る先輩だが、顔がかなりうれしそうなことになってるので言葉に説得力が無い。
それも可愛いんだけど。
「…ねぇ、アルエルドくん」
「はい?」
「その、ライナス先輩も…そう、おもってくれてるかなぁ?」
今俺に向けてる上目遣いで行けば、誰だって思いますよ。
「はい、きっと」
とは言わず、かなり噛み砕いて答える。
「…そうかな?」
「えぇ」
「…そっか!」
そして先輩はうれしそうに頬を赤らめながらはにかむ。
「ハハハ、先輩って、本当に副会長が好きなんですね」
「う、うん…」
その顔を見て、さらに実感する。
この人は、本当に副会長が好きなんだ。
そうでもなければこんな顔はできないだろう。
「がんばってくださいね、先輩」
「あ、ありがとう!」
副会長は会長に気があるみたいだけど、それって幼馴染だからってのも大きいと思うし。
ちょっとくらいほかの女の子見ても罰当たんないと思うんだよな。
「ねぇ、アルエルドくん」
「はい?」
「ロックハート先輩って呼び方さ」
「はい」
「ちょっと硬い気がするからね、名前で呼んでくれないかな?ほら、私も敬語やめたし、ね?」
「あ、はい。それじゃあ俺のことも名前でお願いします」
「うん、わかったよ、ハルくん!」
「はい。…でも、アゼリア=ロックハートって可愛い名前ですよね。先輩によくお似合いです」
「…え?」
突然。
ぴたりと、先輩の表情が固まった。
「…あー、そ、か。私たちのこと、あんまりライナス先輩とかから聞いてない?」
そう尋ねてくる先輩は、少し困った風に首をかしげる。
「え、なんのことですか?」
「いや、いいの。その反応だけでわかるから。…そっかぁ、じゃあ、これからちょっと驚かすことになっちゃうかもしれないけど」
「なにが…」
俺が疑問を口にしかけた、そのとき。
「ニコに近づくな、下郎」
絶対零度の囁きとともに突き刺さる殺気。
「――――っ!!??」
何を考えたわけじゃない。感じたわけでもない。
ただ、本能が俺に回避行動をとらせた。
そらせた顔の鼻先数ミリを何かがすさまじい速度で飛んでいった。
数秒後、ザク、と突き刺さるような音が右側からして、そっちを見る。
…壁に日本刀みたいなものが咲いてるよ。
わー綺麗…。
「…は」
引きつるように180度顔を回す。
「大丈夫かニコ!あの汚らしいガキに何かされなかったか?!」
「だ、大丈夫だよアゼリア。ハルくんはそんな子じゃないし、それに私だって一応男の子なんだから、自分の身くらい自分で守るよぉ」
「いや、ニコはそんじょそこらの女の万倍は可愛いんだ!いくら気を使っても足りないくらいだ!」
「も、もぅ、アゼリアったら…」
そこには、困り顔のロックハート先輩と、
その先輩の肩をつかみすごい形相で詰め寄る女性。
近くにあるとよくわかる。
瓜二つだ。
片方がボブカットで、片方がポニーテールってくらいしか違いが無い。
…うん。知ってるよ?
指導舎にいる先輩が、双子だってことは。
…男と、女の。
男の先輩が、ニコル=ロックハート。
「大体ニコは警戒心が足りない!」
「アゼリアが警戒しすぎなんだよ」
女の先輩が、アゼリア=ロックハート。
「それに、またアゼリアあんな物騒なものもって。アゼリアは女の子なんだから刃物には気をつけないと、傷跡残っちゃったらこまるでしょ?」
「傷など戦に出れば勲章に過ぎん!」
「またそういうこという…」
「…………」
副会長の「げ」の真意が、今、わかった。
ちなみにニコルの外見はToLoveるのモモをイメージしています。
あんなに腹黒くないけどね!…とおもうけど。ね。