Ep30:変態
とうとう30話いきましたねーって書こうと思ったんですけど、アナザー入れるととっくに過ぎてましたね。
移動に何話かけるんだよ!とか言われそうなくらい時間かかってますが、新キャラ登場ってことで許してください(・ω・`)
前回のあらすじ:変態が現れた。
ガルーのいななきと共に、馬車は急停止。
「ブルルッ!ヒヒィーンッ!!」
……ガルーめっちゃ怖がってるんですけど。
「…何事ですかね」
「うん。お迎えが来たみたい」
「お迎え?」
「そ、お迎え」
会長はそのまま慣れた様子で馬車から降りていった。
斜め向かいに座る副会長を見る。
「何ですかその苦い顔」
「『あぁ嫌だなぁ絶対間違いなく面倒ごとが起こるなぁ』っていうのと、大嫌いな人間に会わなきゃいけない辛さを表現しているんだよ」
「なるほど」
確かに、そのくらいにっがーい顔をしている。
「…とりあえず、行きますか?」
「そうだな…。はぁ…」
そして重いため息を吐く副会長と共に、会長の後を追うことなった。
「お久しぶりね、レオン君!」
馬車の行く手をさえぎるように道の真ん中に立っていたのは、一人の男だった。
長身で、がたいが良く、上に向かって突き立つ金髪とその釣り目は、いかにも気が強そうな雰囲気を漂わせていた。
「………」
「レオン君?」
「アリア…」
「うん」
涙目の男が、叫ぶ。
「結婚しよう、マイ・スウィートハニィィィィーーー!!!!」
そしてがばっと抱きつく。
その顔は至福ここに極まれり!って感じ。アホ満載。
「なぁんって綺麗になったんだ!最後に会ったのはいつだ?一年前?成長期ってのはおっそろしいなぁオイ!!元から天使のように愛らしかったけど、今はもう女神だな!これは結婚申し込まずにはいられねぇよ!!!」
犬の尻尾が揺れているのが見えそうな喜びようだ。
「それはありがとうございます。お断りします」
「ってライナス?!なんでテメェが俺様の腕の中にいるんだよっ!!」
まぁ、抱きしめていたのは副会長だったんだが。
簡単に説明すると、
会長が挨拶→男、感極まる→副会長、何かを察して会長を後ろに引き戻す→男、副会長を抱きしめる。以上。
「きもちわりぃ!!野郎は愚か、クソメガネを抱きしめる趣味なんて俺様にはねぇんだよ!アリアを出せ!!」
「気づいてないんですかゴーフィン先輩。先輩のほうがよっぽど気持ち悪いですよ。というか、いつになったらうちの幼馴染に手出すのやめろって言ってるの理解できるんですかそのカスッカスの頭は」
「相変わらず魔法は使えなくても口だけは回るんだな、この貧弱眼鏡!!」
「貧弱なのはゴーフィン先輩の脳みそです」
「なぁぁにぃぃぃ?!」
……なんというか、珍しいなぁ。副会長があそこまで口悪いのも。
「あの人と副会長、仲悪いんですか?」
隣にたって二人の喧嘩を笑顔で傍観する会長に尋ねる。
これ、アンタが原因の喧嘩でしょうが。
「ん?そうね、仲は悪いわね。もともと相性よくないんでしょうけど、アタシが絡むと余計悲惨なことになるっていうか」
つまり、あれか。
「二人とも会長に惚れてるからですか」
「いやん♪そんなハッキリいわないの、黒猫ちゃんったら♪」
ハッキリ言わないの、も、なにも、あの馬鹿っぽい人は完璧に会長に惚れてるってのはわかるし、副会長だって、いくら幼馴染っていっても好意のひとつも抱かないでここまでこの人についてこれるわけがない。
顔とスタイルだけなら完璧だしな、この人。
「ちょ、ち、違うぞアルエルド!お、俺は別にアリアに惚れてるなんてことは…!」
「俺は愛してるぞアリアー!!」
否定する副会長と、アホの人。
…そういえば、結局あの人なんなんだ。
「と、いうわけで。こちらが生徒会のOBにあたるレオン=ゴーフィン大尉。これから黒猫ちゃんの指導教官になる人よ」
絶望した。
その会長の紹介に、俺は絶望した。
このアホの人が、教官?
學園の教官とはぜんぜん違う。あの威厳がまるでない。
「指導舎って今はほとんど魔力覚醒した生徒会の生徒しか入らないからね、教官も生徒会関係者のほうが何かと楽なのよね。それで、軍に馴染めずにいたレオン君が二年前から指導舎で教官してるってわけ」
「俺様に指導してもらえるんだからありがたく思えよな」
これは確かに軍には馴染めそうにもない。
なんてったって「俺様」だ。
階級が絶対の軍ではうまくいきそうもない。
「あ、ちなみにね」
かがんで俺の耳元でささやく会長。
「レオンくんはまだ大尉だから例の事はまだ知らないから。普通の魔力覚醒者ってことにしておいてね」
「あの人、会長の先輩なんですよね?」
「そうよ。5歳上」
「どうして現時点で会長より階級下なんですか?」
「問題行為が多いのよ、あの人」
「わかりました。納得です」
「あ、コラこのガキンチョ!なにアリアに近づいてんだよ、離れろ離れろ!!」
…うるさいなぁ、この人。
「それでレオンくん」
「おぅ!どうしたアリア?ハグか?どんとこい!」
会長が絡むとなおうるさい。
「うん、それはないかな」
「……」
そして会長はなぜかこの人には冷たい。
あれか。追うのは好きだけど、追われると冷めるタイプか。
「ここから指導舎ってどのくらいかかる?」
「大体…2時間弱かな」
「そか。それじゃあ、いつもの頼める?」
「アリアの頼みとあらば!」
「それじゃあ、お願い♪」
そして好き嫌いなく使えるものは使う主義とみた。
「さすが会長です」
「…?ありがと?」
「いえいえ」
「うん。それじゃあ、馬車に乗りましょ」
「馬車に?え、でも、ゴーフィンさんは…」
ちらりとゴーフィンさんをみる。
ニヤニヤ笑いながら準備体操している。…気持ち悪い。
「いいんだよあの人は。あの人にはあの人の仕事があるんだ。というかそれくらいしかできることないからな」
俺と会長が二人で話していたら、疲れた顔の副会長も混じってきた。
「あの人の仕事?」
「まぁ、いずれわかるよ。ほら、馬車に乗ろう。乗り損ねたら泣くことになるぞ」
「わ、わかりましたって。乗りますから」
そして俺たち三人はさっき降りたばかりの馬車に再度乗る。
…あぁ。ここからまた二時間か。
しんどいなぁ。ケツがもうそろそろ平らになる気がするんだよな。
「…ゴーフィンさんは乗らないんですか?」
「まぁまぁ。レオンくんのことはいいから、ね♪」
「いいんですか?」
「うん。…そうだ。これから少し怖いことになるけど、お姉さんのひざに乗る?」
「乗りません!セクハラです!」
「上官命令…」
「パワハラです!!」
そう叫んだ、そのとき。
「っ?!」
「あ、始まったみたい」
大きな魔力が大気を満たし、
〔疾く翔けろ!!〕
ゴーフィンさんの大きな声が聞こえた。
「ガウェいフィエfsdフアグフィーーーーーン!!!」
同時に、ありえない声でガルーが鳴く。
ガタリと大きく馬車が揺れた。
「……あれ、なんだろ。すごくいやな予感」
「だからお姉さんのひざに乗る?って聞いたのに」
「だって、それってセクハラあああぁぁぁぁあああーー!!???」
「バルルルルッヒィィィーーーーーーン!!」
何があったか簡潔に言うと、
浮いた。
馬車が、浮いた。
何を言っているかわからねぇとおもうが、俺もわからねぇ。
本当に浮いたんだよ。
うん、現在進行形でね。
「ええぇぇええ???!!飛んでね?!俺飛んでね?!!ペガサス?!!」
「レオンくんの魔法でね、ガルーを強化してるのよ。あー、いつ乗ってもこれ楽しいなー♪」
「楽しくない!だめ!だめだって!ガルーは空を飛べません!!」
「飛んでないよ?飛ぶように駈けてるだけで」
「いやぁぁぁーーー!!副会ちょーー!!!」
最後の頼みは副会長だけです。
「………」
目を閉じてる。
瞑想?
…いや、ちがうな。
「こわくないこわくないこわくない……」
「俺より怖がってるこの人ぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「きゃー!たのしー!!」
「楽しくないぃぃぃぃぃぃーーーー!!!!!!」
おかしいよ。いつになったら指導舎つくんだよ。
俺、転校するまえに心が折れそうだ。