Ep29:天使
題名いい加減おもいつかねぇです。
八月はぜんぜん書けなくて申し訳なかったです。
九月は心を入れ替えてがんばります!…きっと。
ゴトゴトと音を立てながら縦に横にと揺れるガルーの引く馬車の中、乗り始めて果たして何時間が経っただろうとぼんやり考えながら外を見る。
コッチの世界に来た当初はこのガルー車にもなれなかった。
なにせ電車や車に比べて、その揺れの酷い事。
その上、引き手であるガルーの機嫌が悪くなればソレをいさめる時間もかかる。
生き物をコッチの都合で使っているのだから仕方の無いことではあるが。
まぁ、なんにせよ俺も大分ガルー車にはなれたつもりだった。
…が。
「会長」
「なぁに?」
「あとどんくらいですか」
「えっとねぇ……どのくらいかな、ライナス?」
「恐らく2時間前後だろう。今日は中々調子がいいな」
「だって」
「…はぁ」
これで調子が良いらしい。
學園を出発してから既に2時間は経っていると思うんだが。
「エイファン魔法指導舎とか言うから、俺てっきりエイファン領内なのかと思ってたんですけど」
「うーんと…まぁ、違うわね」
「でしょうね」
外を見れば分かる。
半刻ほど前まではそれなりに舗装された道を走っていたこのガルー車だが、今や揺れているのがデフォルトのとんだ山道を走っている。
時刻は昼過ぎだと思うのだが、木々がうっそうと生い茂る山の中は、さすがに暗い。
「エイファンってさ、昔のえらーい軍人さんの名前でしょ?」
「あぁ…確かに、戦争史でそんなの習ったかもしれないですね」
「その人が初代指導長だから、エイファン魔法指導舎、っていうらしいの」
その会長の言葉を引き継いで、副会長が
「ま、結構自己主張の強い方だった、ということだな」
といった。
確かにそうだな、と頷く。
どんだけ自分の名前を後世に残したかったんだか。
「…しかし、暇ね」
「これ読むか?結構おもしろ「いわけないし。ライナスが読んでる本なんて見るだけで頭がいたくなるわ」
「……」
そして結局かわいそうな副会長。
なんであんな目にあいながらも会長に付いていくんだろう。
「…暇ね」
「だったら副会長の本借りればいいんじゃないですか?」
「んー。…それじゃあ、暇つぶしに今回の研修についての詳細を話すわね!」
「おそっ!」
俺、正直諦めてましたけど。
「とりあえず今のところ、期間は3年を予定しているわ」
「…長いですね」
「そうでもないわよ?」
「ちなみに会長は何年だったんですか?」
「アタシ?……えっとね…」
ちらりと右隣の副会長を見る会長。
「2年の頭から4年の終わりまで」
「約3年ね!」
そして何も無かったかのように自信満々で答える会長。
…ほんとーに、どうしてこの人が会長なんだろう。
そして副会長はなぜこの人についていくんだろう。謎だ。
「それに長いって言っても、貴方ほどの魔力のコントロール技術を習得するのは少なくともそれくらいは必要よ?」
「普通、魔法の才能がある子どもは幼い頃から長い下済みがある。それがアルエルドにはないから、余計だな」
「っていうこと。お分かり?」
「まぁ、お分かりしました」
「よろしい」
会長が満足げに頷く。
それから軽く咳払いをしてから、また話し始めた。
「それで、研修終了後だけど」
「はい」
「一応、學園に帰ることになっています…が」
「なんですか。会長が楽しそうな顔してるってことは、どうせろくなことじゃないんでしょう?」
「あ、分かるぅ?」
そりゃ、そんだけニヤついた顔目の前でされれば誰にだって分かるに決まっている。
会長がこの顔をしたときは、大抵俺はいやな目にあっているんだ。
「じゃあまず一つ目」
にこやかに笑いながら会長が人差し指を立てる。
…どうやら複数個あるらしい。いやだな…。
「研修終了と同時に黒猫ちゃんは學園に帰ります。恐らく、四年か五年に再編入されるとおもうわ」
「はぁ」
「しかし、それと並行して、ある軍の部署に所属してもらいます」
「はぁ…?」
「ま、早い話が私のチームに入ることになってるから、ってこと。ちなみに部署名は魔法戦闘特別対策部。取ってつけたみたいな名前でダサいから嫌いなんだけど」
「魔法戦闘……対策部?」
「えぇ。私が卒業と同時に少佐に任命されるのは知ってるでしょ?」
「メイカさん、えっと、ガイアス中将の付き人から聞きました」
「うん。それって早い話、私にチームを持たせるための理由付けなのよね」
「……つま、り?」
「つまり、研修する⇒學園帰る・私のチームに入る⇒学校生活と軍務を並行して行う」
「……きつくないですか?ていうか何で俺、学生なのに軍務?」
会長は卒業しているから分かるが、俺、一応まだ学生ですよね?ね?
「それは…まぁ、色々あるのよ。うん。色々と。決してめんどくさいから説明しないとかじゃないわよ?」
めんどくさいから説明されないらしい。
副会長を見るが、
「アリアに話すつもりが無いんじゃ俺からも話せない。すまない」
と目で言われた。
アイコンタクトだ。
苦労性どうし、俺と副会長の意思疎通はこのレベルにまで達した。
うれしくないけど。
「それで二つ目ね」
「あぁ、はい。もう何でも良いですよ。なんですか?」
「指導舎にね、生徒会の先輩いるから。仲良くすること!」
「…先輩?」
俺が知っている生徒会の先輩は、目の前にいる二人と学校にいる黒髪とオレンジ髪の先輩二人だけ。
「黒猫ちゃんが入学してくるちょっと前に研修入ったから、あったことないわよね?ニコルくんとアゼリアちゃんっていう双子ちゃんでね、今年で4年なるのかしら?」
「エミリ先輩の一個上、ですか」
「そうね。今年の春から研修入ったから、指導舎的には黒猫ちゃんの半年先輩ね」
「そう、ですか」
「えぇ。だからまぁ、研修後にもお付き合いは続くから、精精仲良くするように」
「わかりました」
ここにきて新しい先輩との付き合いがあるとは思わなかったが、まぁ、どうにかなるだろう。
「あとは…なにかな。何か黒猫ちゃんから質問は?」
「質問?」
「うん。なんでもいいわよー。この際、何でも答えちゃう」
「質問、ですか」
ふむ。
そういわれると、色々と聞きたいことはある。
今がいいチャンスなのかもしれない。
「それじゃあ、一つ」
「はいはい、どうぞどうぞ」
「どうして、先輩である副会長が副会長で、後輩である会長が会長なんですか?」
これは、俺が生徒会に入ったときから、気になっていたこと。
入ってみて分かったのは、生徒会内でも普通に年功序列であること。
…まぁ、エミリ先輩とオリビア先輩は多少逆転している部分はあるが、あれでも一応エミリ先輩のほうが偉い、のだ。
だけど、会長と副会長は違う。
「なんだ、そんなこと?」
「ずっと気になってて」
「まぁ、私とライナスって幼馴染なんだけど」
「はい」
「そのままの力関係を引きずってる……って、わけじゃなくてね?」
そう願います、本当に。
「単純な話だよ、アルエルド」
「副会長?」
会長の隣に座る副会長が本から視線を上げて、俺を見る。
「俺は、魔法が使えないんだ」
「…え?」
つい、と眼鏡を押し上げる。
「生徒会の裏伝統でね。会長職は、魔力覚醒したものしか着けないんだ」
「…だって、副会長も、魔法の才能はあるんですよね?」
「才能はあるらしい。だけど、この歳になるまで結局覚醒することは無かった。
今学年が始まるとき、リンスレット大佐…サリナ先生から、俺は会長になれない旨を伝えられた。
その時初めて、アリアの長期研修の内容も知った。それまで俺は何も知らなかった。
俺自身に魔法の才能があることも、生徒会の真実も、アリアが魔法をつかえることも。
…だから、俺は副会長なんだよ」
そして、副会長はまた本に目を戻した。
なんだか妙に、空気が重い。
「…あの、なんか、すみません」
俺が謝ると、副会長がちらりと俺を見上げて笑う。
「何謝ってるんだよ。確かに魔力覚醒しなかったのは惜しいと思うが、別に気にしてない。
それに、俺は無茶するアリアの補佐をする、ってのが性に合ってるんだ。
だから、これでよかった」
そして今度こそ、副会長は読書へと戻っていった。
「…ていうわけ。おけ?」
「は、い」
「うん。よかった」
そこで話は一旦区切れた。
外を見ながら考える。
…それじゃあ、何か。
俺は意図せずして、会長職の権利を得てしまったというのか。
うーん…めんどくさい。
ここは一つ、オリビア先輩が魔力覚醒するのを期待するとしよう。
「……にしてもさぁー」
「は、はい?」
声をかけられて、慌てて会長を見る。
会長はつまらなそうな顔で頬杖付きながら外を見ていた。
「暇つぶしに真面目な話してみたけどさぁ」
「暇つぶしって。俺にとっては大事な話でしたけど」
「やっぱ、暇よね」
「…あ、この流れ嫌です。何かすごいダメです」
経験上、この人が「暇だ」と言い出してろくなことは無かった。
「…私ちょうど、メイド服をもってるんだけど」
「どうして?!」
「一昨日、素敵な巨乳メイドさんから貰ったの」
メイカぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
「…着る?あ、着たいの?それじゃあ着ましょうか?!」
「着ません着たくないです着ちゃならないんです!!」
「まぁまぁ、そう遠慮せずに。大丈夫よ、黒猫ちゃんメイド服似合ってたから」
会長がニコニコ笑いながら手を伸ばしてくる。
ここでポイントなのが、似合って「た」から、の「た」である。
そう。俺は既にメイド服を着せられたことがある。
+猫耳だった。死にたかった。
だから今度は断固回避しなけば、俺の命は無い。
「い、いざとなったら魔力解放しますよ!?」
「あら、まだそこまでのコントロールは身に付けてないはずだけど」
「薄型義眼外します!」
「ま、私もソレくらい対抗できますけど?なんせ覚醒してから5年のキャリアがありますから?」
「俺だって本気になれば…!」
どう本気になればいいのかは知らないが、何かしら出るだろう。
何せこっちは死ぬ気だもの。
「会長、行きます!」
「いいわよー?先輩の偉大さ、見せてあげる♪」
そして会長はさらに俺に向かって手を伸ばす。
―――その時。
「会いたかったぜ、マイ・エンジェーーーール!!!」
さっむい台詞で、馬車が揺れた。