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リターン  作者: 乾 澪
32/74

Ep28:出発


お久しぶりです。ごめんなさい。

夏休みなんですが、夏休みって意外に忙しいですね。

そして今回は長い割には話が進みません。

ごめんなさい。次がんばります。ごめんな(ry

 「では、明日の正午までには新しい魔製薄型義眼が届く手はずとなっておりますので、それまではどうかここで大人しくしていてくださいね」

「分かってるって、メイカさん。ていうか、体がだるくて、とてもじゃないけど動き回ろうなんて気にはなれないって」

ベッドに横になる俺の掛け布団を微調整しながら再三の忠告をしてくるメイカさんに、思わず苦笑する。

(久しぶりに会ったけど、変わってないなぁ)

クロアが絡むと妙な行動をする人だが、基本的には真面目で優秀なメイドさんなのだ。

でもなければあのメイド激戦区であるランバルディア家で、跡取りである一人娘の世話係など任されるわけが無い。

まぁ、メイカさんは幼い頃からランバルディア家に勤め、なおかつ魔法が使えるのだから申し分ない人選ではある。

無論、ガイから俺のことは聞いていたらしい。

ウチのメイドは皆俺の目が紅いのは知っているが、さすがに俺が異世界出身であることを知っているのはメイカさんだけ。

……っていっても、本来は佐官しか知りえない機密情報なのだから、それでもかなりヤバイはずだが。

「…で、ガイは平気だった?」

ベッドメイクを終えて腰を伸ばしたメイカさんに尋ねる。

「まぁ、旦那さまですから。しかも、愛する娘から与えられた負傷なのですから、それで死んでも本望ですよ、きっと」

「死ぬの!?」

「死にませんよ。死ぬんじゃないかって思うほどグッタリはしてますけど」

しらっとした顔でいうメイカさん。

この人、確か完璧にグロッキーになったガイが「一人じゃ帰れないから」って呼んだはずなんだけど、小指の先程もガイに治癒魔法を使う気はないらしい。

なんでかなぁ…どうして機嫌悪いのかなぁ。

ガイが何かしたのかなぁ…飛び火だけは勘弁だなぁ。

「それでは、私もそろそろ失礼させていただきます」

「あ、あぁ。万が一も無いと思うけど、ガイがあれだったから気をつけて帰ってね」

そう言うと、此処に来て初めてメイカさんが微笑んだ。

…そう思うと、マジで機嫌悪かったんだな。

「はい、分かっております」

一礼するメイカさん。

「それではハル様―――」

そしてメイカさんが最後の挨拶をしようとした。

その時、ひとりでにドアが開いた。

「―――っ、何者!」

メイカさんがすぐさま振り返る。

「あっれぇ〜?メイカちゃんじゃないかぁ〜。運命的だねぇ〜」

其処にいたのは、見知らぬ男。

眼鏡をかけ、いかにも研究者然とした白衣の男が突然保健室に入ってきた。

その男の顔を見た瞬間、メイカさんの顔がかつて無いほど苦々しいものになる。

「ルーベンフォード卿…なぜ、こんなところに?貴方らしくもありませんね。いつも地下のかび臭くて薄暗い研究室に引きこもってらっしゃるのに」

「ん〜、それはやっぱり、君と僕がひきつけあってるからじゃないかなぁ〜?」

「…ご冗談を」

メイカさんの顔には「ご冗談を」というより「冗談は顔だけにしろ」と書いてある気がする。

まぁ、別にルーベンフォード卿とやらが近年まれに見る不細工とか言うわけじゃない。

むしろ、多少やせぎすで青白いのを除けば、そこそこの美男子だと思う。

が、いかんせんメイカさんの敵意が半端ないのだ。

なにをしたらこんなに嫌われるんだろう、この人。

「ん〜、まぁそうだねぇ〜。冗談はこれくらいにしておいてぇ〜…あぁ、メイカちゃんへの愛はもちろん本気だけどぉ〜」

「それは(どうでも)よろしいですから、お話をすすめてください。魔製薄型義眼の件でいらっしゃたんですよね?」

「そうだよぉ〜」

「…え?て、いうことは…」

尋ねると、メイカさんがコクリと頷いてから、

「本当に嘆かわしいことに」

と前置きしてから、

「この方が、我がアルノード帝国屈指の魔法研究者であり、ガイアス=ヴォリック=ランバルディア率いる白獅子護衛軍の特別魔法顧問であり…ハル様の、特注魔製薄型義眼の開発者である、イルレオ=ダン=ルーベンフォード卿であられます」

「どうぞよろしくねぇ〜、愛しの魔力爆弾くん〜」

そういいながら、ルーベンフォード卿は右手をぐ、ぱ、ぐ、ぱと握り締めして俺に向かって挨拶らしきものをしてきた。


と、言うわけで。

突然乱入して来たルーベンフォード卿…長ったらしいので、博士とするが、は、デフォルトである笑顔を貼付けたまま俺がろくに抵抗できないのを良いことに体のあっちこっちをベダベタと触ってきた。

そのことにメイカさんはさらに不快そうに顔を歪めたが、止めはしなかったのできっと必要なことだったのだろう。

…と思いたい。

そして一通り俺をいじくり倒した後、「それじゃあ、はーい、あげるね〜」といって俺の目を親指と人差し指でガッ!と押し開くと懐から出した魔製薄型義眼…つまりは、例のカラコンを俺の目に突っ込んできやがった。

人の指が自分の目を触ってくるなんて恐怖以外何物でもないだろう。

「☆△□○×μω〜〜〜〜〜っっ!!」

「うん、これでとりあえず、魔力の流出は押さえられるはずだよ〜」

博士はそう言うと、満足げに微笑みながら俺から離れる。もう二度と近寄るな。

「う〜ん、でもな〜、やっぱり納得いかないんだよね〜」

「……なにが、でしょうか」

「僕はね〜、きちんとした予備調査に基づいて前の薄型義眼を作ったんだよ〜?壊れないことを最優先にね〜。

それが予期せぬ事故に巻き込まれたからとはいえ、たった一年も持たないなんてさぁ〜。

ちょっと、むかついちゃうよね〜」

じゃあなにか、結局のところ腹いせか?今のは腹いせだったのか?

そりゃ壊したのは俺が悪いだろうけど、だからって目の中に無断で指突っ込まれるいわれはない。ちくしょう。

「だから、今度は自分で本人に直接会おうとおもってね〜」

「それで、明日荷物を届けさせる代わりにご自分で直接いらっしゃったと?」

「そういうことだね〜」

「…はぁ」

ため息以外伝えることはない、と言った感じのメイカさん。

「それで、もう気はお済みになったでしょうか?」

「うん、そうだね〜。今回のは前のよりも、魔力耐性も魔力抑制も強くしたから、大丈夫だとは思うよ〜」

「それでは帰りましょう。旦那様もお待ちです」

「あれ〜?ランランもきてるんだ〜?」

「何度も申し上げますが、旦那様はその呼称を非常に嫌がっております」

「だから呼ぶんじゃないか〜」

「…さようでございますか」

…あ、メイカさんの目が死んだ。諦めたんだな。

ていうか、今日メイカさんの機嫌悪かったの、きっと博士の所為だ。

そんな気がする。

「それではハル様、今度こそお暇させて頂きます」

「あ、うん」

「出発は明後日の朝です。なので、荷物まとめと、転校の事後承諾は明日のうちにすませておいてください」

「…うん。……あぁ、胃が痛い…アリスに何て言おう…」

「いざというときは、リーン大佐の娘さん…の姉の方を頼ればよろしいかと」

「会長?…ていうかさ」

「はい?」

…これって、メイカさんに聞いていいことなのか分かんないけど…ま、いいか。

「あのさ、会長って俺が…その、『アルエルド』だってことは、知ってるの?」

つまり、知っていていい立場にいるのか、ということ。

「あ、はい。知っていますよ」

「あっさり!?」

メイカさんは「なんだ、そんなことか」といったかんじで軽く頷く。

「…あぁ、そうでしたね。ハル様は、まだあのこと、知らないんですよね」

「あのこと?」

「えぇ。まぁ、詳しいことは転校した先で教えていただいた方がよろしいかと」

「…でも、とりあえず、なんで会長は知っているのか、くらいは聞いても良いだろ?」

「簡単なことですよハル様。単に、あの方は、卒業後に少佐の地位が確約されているというだけのことですから」

―――だから、リンスレット大佐が前もって教えていただけ。それだけのことです。

メイカさんは、事も無げにそう言ったのだ。

「……はぁ、そうですか」

そんな中、俺がそれ以上に言うことがあっただろうか?

いや、ない。

きっともう、俺が想像する以上に話がでかくなっているのだ。

「ていうか、リンスレット大佐ってどなた?」

「サリナ=リンスレット大佐。ハル様のクラス担任です」

………先生、アンタ、軍人だったのか。

「……はぁ、なるほどね」

なんだろう、なんかもう、疲れた。

「…寝る」

「はい、分かりました。…行きますよ、ルーベンフォード卿」

「いつも見たいにイル♪って呼んでくれないと行かな〜い」

「一度たりとも呼んだことないでしょうが!!」

そして、メイカさんは博士の後襟をつかんで無理矢理引きずっていった。

あそこまで自分のペースを崩されるメイカさんってのも、珍しいな。

何て思いながら、目を閉じて考える。

(…明日は荷物をまとめて、みんなに話して、あさってには転校、か…)

話によると、俺はいま魔力を一気に放出したことによって魔力枯渇状態にあるらしい。

この怠さはそこからくるもの。

だが、一度覚醒した魔力は後数日もしないうちに、また体内に溢れてきて、魔力の扱いを覚えていない俺の場合は外に溢れ出す。

ある程度は今つけているコンタクトが抑えてくれるらしいが、あくまでも「ある程度」でしかない。

俺が魔力のコントロールを身につけることは、最優先事項。だから、一刻も早く転校させなければならない。

理解はできる。が、どことなく寂しいものは、ある。

(…しょうがないか)

そう。しょうがないのだ。

「…寝よう」

さっきメイカさんに言った台詞を再度、自分に言う。

とりあえず、明日起こるであろう修羅場を乗り越えるための体力を蓄えるため。

体は疲れきっていた。魔力も枯れ果てていた。

だから、眠りはすぐに俺を包んだ。








「…ふん、まったく持って君というやつはアッチコッチと忙しい男だな」

「悪かったな。俺だって好きでアッチコッチいってるわけじゃねぇんだよ。しょーがないの」

「ていうか俺いまいち状況理解できてないんスけどー?」

「説明したところでお前、わかんないからいいよ」

「なんスかソレ!?失礼っス!!無礼っス!!…あれ?ハルがいなくなったら俺一人部屋っスか!!わっふー!!!」

「あ、言い忘れてたけど、あそこ出るぞ」

「………ナニガデスカ?」

「はーるくーん!お見送りきたよー!!」

「あぁ、エミリ先輩」

「だから何が出るんスかぁ!?」

「…エルマー、煩い」

「すいませんっした!」

「オリビア先輩も来てくれたんですか。期待してなかったんですけど」

「……餞別」

「え、くれるんですか?」

「うん」

「私の分も入ってるよー!」

「……木箱一箱分の餞別?」

「そう」

「そうだよ!」

「古びた教科書、使い込まれたボードゲーム、使い途中のノート……って、あの」

「なに」

「俺、廃品回収業者じゃないんですけど!?」

「うわ、失礼な人だね。私たちの心からの餞別を廃品っていったよこの人。ねぇオリビア?」

「…最低ですね、エミリ先輩」

「ねぇ、その言い方だと私が最低みたいだよ!!」

「えぇ、そうですね」

「あ、それが狙いなんだ」

「……あの、じゃあ俺、そろそろ行きますね?車も待ってるし」

「…気をつけて行けよ。たまには帰ってこれるんだろう?」

「まぁ、そうだとは思うよ。連絡する」

「あぁ」

「お土産は何でもいいっスよ!出来るなら食べ物がいいっスけど!!」

「旅行じゃねぇ!!」

「それじゃあその廃品、どうにかこうにか有効活用してねー!」

「やっぱ廃品なんじゃないですか」

「…またね」

「あ、はい!…たまにはまともなことも言うんですね」

「たまには、ね」

「ハハハ」


そして、俺は荷物を持って、車へと歩き出す。

今手に持っているこの手荷物以外は、後援会の皆さまが知らないうちに運んでくれていた。

いや、本当に気付かなかった。

一昨日保健室から寮の部屋に帰って、昨日皆に(魔力覚醒とかそこんところはボヤカシながら)(やっぱり魔力覚醒していないメンバーには秘密らしい)転校のことを説明して、荷物まとめて、朝起きて、さてそろそろ外に運ぼうか、と思ったらもう既に部屋に無かったのだ。

いつのまに。

ていうかどうやって。

一応、部屋にも鍵かけてるんだけどなぁ…。

『いつまでもアルエルド君のこと待ってるから!』

ふと、目に涙をためながら俺の手を握ってきた「男子」学生の顔を思い出す。

……うん、封印しよう。

「それじゃあ、行ってきます」

「精精がんばってこい」

「いってらっしゃいっスー!」

「早く帰ってきてねー!お仕事大変だからー!」

「…死なない程度に」

何をどうやったら死ぬのだろうか。…死ぬのか?

そんな疑問を抱きながら、今度こそきびすを返し、車へと向かう。

車につながれた我が家(ていうかランバルディア家)のガルーは、意欲満々といった感じで蹄を鳴らしている。

そして、荷台に荷物を積み込み、さて俺もそろそろ車に乗ろうとした。

―――正にその時


「いぃぃぃぃやぁぁぁだぁぁぁぁぁ!!!!」

「いぃぃぃぃやぁぁぁですぅぅぅぅ!!!!」

「うごぁっっ!!!」


…いや、まぁね?

姿を見せないなぁ、とは思ってたんだけど。

こう来るか。ダブルか。…キツイなぁ。

「はぁ…」

押し倒されたことで見えた、冬の気配漂う青空を見上げながらため息をつく。

「これこれ、お二人さん」

「うぎゅぅ…!」

「いやれすぅ…!」

俺の肩に顔を押し付けて泣く二人の背中を静かに撫でる。

「このことに関しては、昨日…というか、今朝までさんざん説明しただろう?おかげで俺寝不足だよ。太陽がまぶしいよ」

「私納得したなんていってないし!」

「とにかくイヤなんれすぅ!!」

(…したったらずなアリス、かぁいいなぁ…)

しかも駄々こねるみたいにぐりぐり俺に顔押し付けてきて。

なんか、こう、俺の心の琴線的なものに触れる。

昔からこういう弱弱しい生き物に俺は弱いのだ。

…クロア?

クロアはダメだ。泣き顔の後に大抵魔法弾か火炎魔法くらってきたから、アイツの涙には軽いトラウマがあるのだ。

「アリス、泣くな。仕方ないんだ。生徒会の研修なんだから」

と、まぁ、俺の転校は、クロア含める一部の人間以外には一応そう言うことになっている。

嘘ではない。

生徒会とは本来、魔力覚醒の恐れがある普通科の生徒を集めて管理する。

そういう組織なのだから。

「なんで先輩差し置いて1年がいくんだろうね?生意気だよね」

「…まぁ、エミリ先輩は、仕方ないかと」

「ひどい!?」

少し離れたあたりで研修未経験の先輩二人組みがなにやら言っているが、無視である。

『オリビアは多分、もう少しって感じ。…なんだけど、エミリはどうもねぇ…』

昨日、ため息混じりに言った会長の台詞を思い返す。

どうもエミリ先輩の魔力覚醒は大分先のことらしい。

『ま!あんまり一気に抜けても手先が減るからいいんだけどね!!』

…エミリ先輩が会長に都合よく使われることは、もはや決定事項らしい。

「クロア」

「なによぅ!」

「手紙書く。絶対書く。休暇もらえたらまずお前に会いに行く」

「…うん…」

「アリス」

「うえぇぇん!!」

「手紙書く。絶対書く。休暇もらえたらまずお前に会いに行く」

「ありがどうごじゃいますぅぅぇぇん!!」

「ダブルブッキングっス!コピペっス!!」

うるさい、だまれヒヨコ頭。

二人とも泣き喚いてて気付いてないんだから、ほっとけ。

「じゃあ、俺行くからな」

そして、二人の様子が多少治まったことを確認してから、立ち上がる。

一歩ずつ、焦らずに、後退して馬車を目指す。

「絶対よ!?絶対連絡ちょうだいね!!」

「早く帰ってきてくだしゃいね!?」

「帰るって…多分」

正直、どこまで俺の希望が通るのかは分からないが。

だっていわば俺って軽い危険物だし?

魔力コントロール覚えないと軟禁ぐらいされてもおかしくないんじゃね?

「…多分?」

「多分、ですか?」

なんて思って「多分」といったのだが、ソレがよくなかった。

「多分じゃダメー!!!」

「ダメですーーー!!!」

「ひでぶっ!!!」

再びアメフトタックルをくらい倒れこむ俺。

あぁ、また目の前には高い空が広がっていて………。





「切りがねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

叫び声が、よく響く。


ちなみに遅くなった理由は、遅ればせながら「けいおん!」にはまってしまったからです。

けいおん!SSとか書いたら需要あるのかしら…。

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