Ep27:真実
おはこんにばんわ。乾です。
今回の話でとりあえずクロア編、終わりです。
クロア編っつうか、ただ物語の分岐点でしかなかった気もします。
ぶっちゃけ途中でクロア編ていうの忘れてました。
今回はわりと、伏線回収気味なお話になります。
―――少し、昔の話をしよう。
ベッドの上に並んで座る俺たちに、ガイは低い声でそう言った。
少しといっても、10年、20年の話じゃない。
アルノード帝国起源のお話だ。
アルノード帝国の始まりは500年前とも1000年前ともそれ以前とも言われている。
まぁぶっちゃけたところ、専門家の中でもいつを起源とするかが決まっていないのだ。
ただ、今現在使われている年号を参照するのならば、大体800年くらい前のことらしい。
その頃に、現在アルノード帝国の帝都・ザインがある辺りに集落ができたらしい。
そこに集まったのは中央大陸から見て南…詳しく言えば、南南西に位置するヴォルジン大陸からわたって来た人たちらしい。
ヴォルジンは魔法発祥の地とも言われている。
つまり、そこからわたって来た人たちこそがアルノード帝国を作ったのであり、アルノード帝国を軍事大国として押し上げた「魔法」の起源でもあるわけだ。
「元祖」だか「本家」だかで色々と争いが起こることがあるが、これに関してはこの説で固まっているらしい。
と、まぁ、そう言うわけでアルノード帝国が起こったわけだが、もちろんそれ以前にも中央大陸には人が住んでいた。
原住民、といういと聞こえが悪いが、そう言うのが一番しっくりくるだろう。
そしてその頃その方達が使っていたのは今の公用語ではなく、いわゆる古代言語。
その古代言語で彼らは我らが(っていっても俺は違うが)先祖様たちはこう称されていた。
『アルノード』
「アルは古代語で『異なる』を意味し、ノードは『言語』を意味する。
つまり、アルノード帝国という名は、通称がそのまま公称になったということだ」
と、ガイは一端言葉を区切る。
それから肺腑に溜まっていた何かを吐き出すように重いため息を吐いてから、俺の目を見つめた。
「…さて。これまでの話から、何か察しが着いたとは思うが」
問いかける視線に、俺は頷き返す。
ある程度の見当はついた。
あとは回答が欲しいだけ。
「……ハル=アルエルド」
身元不明。年齢不詳。記憶喪失。
そんな俺に、ガイが入学の日に与えてくれた名字。
「アルは、異なる―――」
―――じゃあ、エルドは、なんなのか。
結局のところ、疑問はその一点だけ。
「…そんな…!」
何かに気づいたように、隣に座るクロアがつぶやいた。
「クロア?」
クロアは顔色を真っ青にして、唇をふるわせていた。
そしてひどく怯えた瞳で俺を見る。
「クロア、お前、古代語の意味が分かるのか?」
古代語は、今や廃れつつある言語だ。
風習としてその片鱗が人名や公用語に残ったりはしているが、今時古代語を学ぶ者はかなり少ない。
だが、確か家の図書室には古代語に関する書物がいくらかあった。
クロアが知っていても、可笑しくはない。
「なぁ、クロア」
問いかけるが、クロアはいやいやと首を横に振って答えようとはしない。
そして怯えをごまかすように、震えながら俺の方にぎゅっと顔を押し付ける。
「……私は、まず、お前に謝らなければ成らない」
「え?」
こぼすように、ガイが言った。
「何年も、何年も…私は、お前をだまして来た。…お前は、うっすら気づいていたかもしれんが」
そして自嘲するような笑みを浮かべる。
「俺を、だまして来た?」
「あぁ、そうだ。だまして来た。お前に武術を教えたときも、魔法を教えろとせがまれたときも、その名を与えたときも。私はずっと、お前をだましていた」
今度は悔しげに拳を握りしめながら。
「…エルド。古代語では、尊い言葉とされていた。
それが示すのは、全世界。
この世界だけではない。すべての時空、すべての次元のあらゆる世界。
アルエルドとは、『異なる世界』を意味する古代語。
また、軍が絶対機密とし、その死すら掌握せんとする者に与えられる、鎖」
ガイが深く息を吸う。
それに合わせて、クロアが一層強く、俺に抱きついてきた。
「ハル。『アルエルド』とは、異世界から来た超魔力保持者に与えられる、軍が定めた識別名称なんだ」
とまぁ。
今までの話を要約すると、だ。
「ガイは、俺が異世界から来たこと…ずっと前から知ってたってこと?」
とうとう泣き出してしまったクロアの背中をぽんぽんと撫でながら尋ねる。
そうだよなぁ。さすがに、幼なじみが実はとんでも設定の異世界人でした、とか、そら驚くよなぁ。
「…アルノード軍機密条項。佐官以上にのみ教えられるその第9項には、赤色の瞳を持つ者に対する対応が記されている。むろん、赤色の瞳の所有者は死者、でなければ異世界人であることを知ることができるのも機密条項を知り得る者に限定される」
「じゃあ、もうそれこそはなっからガイには異世界人ってバレてたわけだ」
「…あぁ」
「ふーん…」
まぁ、そうじゃないかとは思っていたが。
「で、第9項ではどうしろっていわれてるの?」
「…最優先で保護し、軍に届け出ること、と」
「保護、ねぇ」
ものは言い様だと思う。保護と言い張れば保護。体のいい「捕獲」でしかなくても、だ。
「さっき、ガイは異世界人のことを、超魔力保持者、って言ったよね」
「あぁ」
「それは、例外なく異世界人は超魔力を持つってこと?」
「今のところ、例外はないと聞いている」
「そ、っか」
旧体育館倉庫での出来事を思い返す。
記憶は曖昧だが、うっすらとだけ魔力を覚醒させた感覚は覚えている。
自覚はないが、どうやら魔力を解放しただけで相当の被害が出たらしいし、俺も例に漏れず「超魔力保持者」らしい。
(だからガイは俺に魔法、教えなかったんだなぁ)
と、気づいた。
そりゃ、魔法を教えでもしてうっかり魔力爆発☆、とかされても困るもんなぁ。
「…ん?ていうかさ、だったらガイ、9項違反してない?」
『最優先で保護』し、『軍に届け出』なければならないのだ。
だが俺はガイと出会ってから一度だって軍本部に行ったことなどない。
支部にだって足一歩踏み入れてない。
「…………まぁ、そう、なるな。うん。ちょっと、アレだ。…情がわいてしまって、な」
いや、色々と葛藤があったんだ。私だって軍へ忠誠を誓っているし、民間人の安全を最優先にしようと非情になろうともしたけど、色々とあったんだよ―――と、ぐちぐちとガイが言うが、結局違反したことに変わりはないらしい。
「で、いつ頃バレたの?」
「割とすぐに。あのコンタクト作ったマッドサイエンティストまがいの魔導師が、『君のうちからすっごい興味深い反応キャッチしたんだけどぉ?アレ、もしかしなくても軍機違反とか、してるぅ?』…て感じで、あっさりと」
そりゃあっさりだ。そうめんぐらいあっさりだ。
「……それで?」
「あぁ。まぁ、その頃にはすっかり息子気分になってたからなぁ…。ハルへの徹底監視、外出制限、魔法禁止と11歳になったら軍学校への入学を条件に、ウチで保護することが特例で許された。あとは…私の、中将昇進も、な」
「…昇進?いいことじゃん」
「あんまりえらくなりたくなかったんだよ。クロアと一緒にいられなくなるし」
親バカである。
「結構抵抗したんだがなぁ…結局、お前らが入学するちょっと前に、無理やり引き上げられた」
「ふぅん…」
相づちを打ちながら、未だぽんぽんと抱きついてくるクロアの背を撫でながら、考える。
「……魔法禁止、ってことは、軍の方は俺に魔力覚醒して欲しくなかった、ってこと?」
「というよりは、軍の監視下で操作したいんだろう。実際、今までの異世界人も生きている者はみんな軍に組み入れられて秘密裏に活動している」
それはもちろん、超強力な魔導師として、ということなのだろう。
「で、今回の件で、軍のもくろみ通り俺は魔力覚醒しましたよ、と」
「あぁ」
つまり、ここからが本題。
「俺、これからどうなるの?」
「うん、まぁ、簡単に言うとだな」
「だめだめだめだめだめだめだめだめだめえええええぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
クロアさん、大復活。
ゲシュタルト崩壊でも起こしそうだよ、俺。
「転校?は!?なんですかそれ!???」
立ち上がったクロアは今にもガイにつかみかからんばかりの勢いでまくしたてる。
ていうか、もうつかみかかってるが。
「まぁ、あくまでも簡単に言うとだから、アレなんだが。難しくいうとだなぁ、ハルのような特別な事情で魔法科には入れず、しかしかなりの魔法の才能を開花させた者を特別に訓練する施設があってだなぁ、まぁそれっていうのはここ、国立エイファン第弐學園の前身であるエイファン魔法指導舎なんだな」
思わずポンと手を叩く。
あぁ、だからエイファン「第弐」學園なのか。
ずっと気になってたんだよな。なんで国に一つの學園なのに第弐なんだろうなぁ、とか。
「ついでに言うとその『特別な事情で魔法科には入れなかったがかなりの魔法の才能を持っているであろう人物』が集められてるのが、エイファン學園生徒会なんだな」
そしてもう一度、手を叩く。
だから生徒会室が魔法科棟にあるわけだ。なんでかなーとは思ってたんだよ。
所属してるの全員普通科、ってのもひっかかってたし。
なんか会長、魔法使えるっぽかったしなぁ、今日の感じからして。
(……じゃあ、なんで今は學園にいるんですかね?)
と、一つ疑問が解決すると、次の疑問がわいて出て来た。
至極めんどくさい。
「ていうか!そう言うのはどうでも良くて!!ハルが転校するのが問題なんです!!!」
ガイが長々と前後への揺さぶりに耐えながら説明したのを、どうでも良いの一言で一蹴するクロア。
揺さぶりはさらに激しくなる。
「ハルが転校したら!私の!!薔薇色學園生活計画が!!!台無しなんです!!!!」
言外に、「そうなったらどうしてくれんだテメェ」と言っているらしい。
「それ、それは、仕方ななないだろうううう」
揺さぶりのあまり、声がぶれるガイ。
人ごとながら、心の中で「がんばれ」と応援する。
「仕方なくない!ただでさえアリスとかアリスとかアリスとか厄介な人が湧いてきてるのに、これ以上距離感開いたらこまるったら!!!」
「…ていうかさぁ」
「なによ!!!」
口を挟んだら、ものすっごい剣幕でにらまれた。
「……俺が異世界人だっていうの、分かってるよな?」
「分かってるわよ!私、古代語勉強してたもの!!」
「…気味悪くないのか?」
「はぁ!?」
「俺、異世界人なんだぞ?この赤い目見れば分かるだろうけど。気持ち、悪いだろう、普通は」
俺がそう言うと、クロアのガイを揺さぶる手がぴたりと止まった。
そして俺の方へと振り返ると、
「バカ!!!」
スパンと左頬を打ち抜かれた。本日二度目のビンタです。
「〜〜〜〜〜〜っっ!!!」
二度目は痛い。本当に痛い。声も出ない。
「何?!さっき私が泣いてたの気にしてるわけ?!アレはちょっと動揺しただけよ!ハルが気持ち悪いとか、嫌いだとか、そんなの一秒たりとも思ってないわよ!!!」
「……奇特な考え方の持ち主だな、クロアは」
「ちょっと、幼なじみなめないでもらえる?それくらいのことで揺れるほど柔な関係じゃないでしょ!!!」
「……」
その言葉に。
ちょっと…いや、かなり、ジンときた。
少し目に涙がにじんだ気もする。
「ていうか今問題なのはハルの転校に関してなんですけどおおおおぉぉぉ!!!!???」
が、すぐさまガイを振り返り、揺さぶりを再会したクロアをみてすぐ引っ込んだ。
感激に浸るには、あまりにガイの顔色が悪すぎる。
「お、おい、柔な関係じゃないなら転校くらいなんてことないだろ?それに俺、正直退学も考えてたから、安心したっていうか、そっちのほうが良かったっていうか」
そう言ってやんわりクロアを止めるが、
「それとこれとは違うの!転校なんて絶対だめなのぉぉぉぉ!!!」
と言うクロアはどうにも止められそうにない。
「ててて転校というよりはははは、ちち長期かか間のけけけ研修うううということになるからららら、すす数年後にはまたかかかかえええってくるるるるよよ予定だだだだだ」
…どうも、「転校というよりは、長期間の研修ということに成るから、数年後には帰ってくる予定だ」と言ったらしい。
ガイ、もはや顔色が緑だ。
「じゃあ、会長もその研修に行って、帰って来たってこと、なの?」
尋ねると、ガイは頷いた。…と思う。ブレが早すぎてよくわからない。
だが、これで会長が魔法がつかえるっぽい理由と、今學園にいる理由が分かった。
副会長についてはよくわからないが、エミリ先輩とかオリビア先輩はそんな様子じゃなかったから、きっとまだ魔力覚醒していないのだろう。
とにもかくにも、俺の新天地は、エイファン魔法指導舎、とやらになるっぽい。
(入学して一年もたってないのになぁ…もう、別れか)
いずれ戻ってくるにせよ、もう少し居たかったな、というのが本音か。
「長期研修って何ヶ月なの!?」
「だだだ大体いいいい3、4年んんんんん!!!?????」
「年ん〜〜〜〜!?????」
年、と聞いた瞬間、クロアの揺さぶりが激しくなった。
……あれ、生きて帰れるのかな。
「私の薔薇色學園生活うううぅぅぅぅぅーーーーーー!!!!!」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」
なんだか珍しく、痛い目にあうのが俺じゃないな、とか思いながら。
新天地へと想いを馳せる俺であった。