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リターン  作者: 乾 澪
28/74

Ep24:領域


投稿遅くてごめんなさい、ってもう書かなくてもいいですかね?

今回はなんとなく熱いジャンプ漫画みたいな展開です。

 葉が落ちた木々の枝を縫って差し込む初冬の日差し。

今日は風も無く、冬とよぶには場違いなほど陽気な日だ。

こんな日は外でねっころがって日向ぼっこと相場が決まっている。

「ふわぁぁ………」

大きなあくびが漏れる。

此処のところ何かと騒がしくて疲れが溜まっていたのだろう。

今ならたやすく眠りの中へと飛び込める。

「ってことでおやすみなさい」

誰に言うでもなくそうつぶやき、眼を閉じる。

意識がゆっくり、ゆっくりと後頭部のほうへと引きずられていく。

そしてじんわりと思考は闇へと解け混じり――――


「あっと、手が滑りましたー」


瞬時に覚醒した。


すぐさま身を翻し、横に転げる。

頭の近くに何かが地面に突き刺さる音がした。

「………これ、模造刀?」

「いやですねぇ。今日は本番ですからもちろん真剣ですよ?」

笑顔でアリスが剣を拾い上げる。

確かに、その陽光の煌めき方は模造刀には無いものだ。

「じゃあ、お仕事いきましょうか?」

「サー、イェッサー!!」

拒否権?ないよそんなもの。








「はーい、両者前へー」

今日は武闘祭当日。

武闘祭委員は自分の試合もこなしつつ、試合の審判やら大会の運営やら問題の仲介やらなんやら色々あって、怒涛のように忙しい日だ。

入学当初のやる気と元気でなった委員だが、めんどくさいことこの上ない。

…いやいやいや、頑張りますけどね。やりますけどね。

でも、自分の参考になりそうな高度な大会ならまだしも、1年同士のしょぼい試合じゃ正直なんにも興奮しないのだ。

はっきりいって、魔法技能抜きにすれば俺の実力は学年トップクラスに位置するものだと思う。

そうでなければならない。

それだけの努力をしてきたし、環境にも恵まれていた。

「…はい、試合開始ー」

時間を確認して、右手に持った旗を振り下ろす。

と同時に瞳に闘志を輝かせる少年たちが互いの武器を叩きつけ合う。

(若いなぁ)

元気なものだと感心する。

……11歳じゃないな、この考え方は。

にしてもどうして武闘祭は学年統一戦なんだろう。どうせなら他学年と戦いたかった。

寮対抗だからか?パワーバランス整えるため?

(…………つまらねー)

私生活において刺激は有り余ってるのに、戦闘に関してはこう…ゾクゾク来るものが無さ過ぎる。

屋敷にいる頃は適度にガイがいたぶってくれたから楽しかったのになぁ…。

「…あ、勝負あり」

ふと気付くと参寮の生徒が四寮の生徒の首元に皮一枚、といったところで片手剣を寸止めしていた。

急所への攻撃は即勝利。この試合は参寮の勝ちだ。

「勝者、ヒューリック。以上で試合を終了します。両者、礼」

俺の合図と共に、両者がぺこりと頭を下げる。

四寮の生徒は悔しそうに唇をかみ締めているが…俺には関係ないしね。

「あー……退屈だ」

旗で肩をたたきつつ、闘技場を降りて一人つぶやく。

そう。これは独り言だ。

どこまでも果てしなく純然たる独り言であり、誰に言うでもないただの音声。

決して何かが起こって欲しいとか思っていたわけではないし、ましてやそれの実現を願っていたわけでは、ないのだ。





「…はい?」

旗を返しに訪れた委員会本部。コレを返せばしばらく俺は休みだったのだが…。

思いも寄らぬ先輩の言葉に、思わず聞き返す。

「だからぁ…」

机の前で忙しそうに書類をまとめていた先輩が、椅子に座ったまま俺を見上げて言う。

「第伍寮のクロア=キキ=ランバルディアさんの居場所をしらないか、って聞いたんだよ」

「クロアの?」

「そう。クロアちゃ…さんの」

コイツ、クロアちゃんって言おうとした。絶対言おうとした。

「………どうしてそんなの知りたいんですか?」

思わず声に警戒心がにじみ出る。

悪いが、俺は愛娘を嫁に出す親父くらいにガードが固いぞ。

「ちょ、ば、勘違いすんなよ!彼女が試合に来ないから探せって言われてんだよ!!」

俺の警戒心に気付いたのか、先輩が慌てた様子で両手を振って否定する。

その慌てた感じが猜疑心をくすぐるんだがなぁ…。

「ていうか、クロアが試合にこないとかありえないです。アイツ、約束とか絶対破りませんから」

俺もだが、ガイに小さい頃からそうしつけられてきた。

軍人らしく、規則は絶対。………でもないか。アイツ、普通に他男子寮入ってくるしなぁ…。

「そんなの俺が知るかよ。来ないモンは来ないんだから。実際、もう一試合繰り上げてるしなぁ。でもさ、ほら、彼女人気あるだろ?」

「まぁ、そうですね…」

魔法科は、生徒会に並んでアイドル視される存在だ。

入学人数が少なく、その大半が成績優秀者…ひいては卒業後、軍の上層部に席をおいているからだろう。

その中でも「家柄」「容姿」「成績」「性格」「風評」などなど、諸々の条件をほぼ完璧に満たす(他人から見たら、だが)クロアは、1年の中でも抜きん出た人気を誇っている。

「だからさ、できればキチンと試合はやりたいわけ。そういう要望もでてるしな」

「はぁ…」

「だけど一応規則とか、規律とかあるわけで。いつまでも一人の試合だけ引っ張るわけにも行かないだろ?」

「ですね」

「ってことで、探してこい、幼馴染!」

「…………先輩、幼馴染を過信しすぎです。別にテレパシー使えるわけでもないんですから…」

「んなの知るか。俺だって上からの指令をそのままスルーしてるだけだしな。ま、これも運命と諦めるこった」

理不尽だ。俺、これから休みなのに。無報酬残業だなんて。

「…俺、試合がまだ終わって…」

「それまでに探して来い」

「……えっと」

「な!」

「………わかりました…」

どうやら、行くしかなさそうだ。

クロアが何処にいるかなんて俺が知るわけないのに…幼馴染って、こういうときどうして根拠のない信頼を置かれるんだろう?

優奈のときもこんなことあった気がするなぁ…。

「そういえばさぁ」

「はい?」

クロアを探すために本部を出ようとしていた後ろから、先輩に声をかけられる。

「どうしてお前ってクロアさんの幼馴染なわけ?」

「どうして…って」

「だって、アルエルドなんて家名聞いたことないし…貴族でもないよなぁ?」

「まぁ、違いますね」

「じゃあどうし―――「ハルくん!」

と、そこで高い少女の声が先輩の言葉をさえぎった。

「って、アリスちゃん!」

その少女…アリスの顔を見て、先輩の顔がデレっと崩れる。

コイツ、可愛ければなんでもいいんだな。

ますますクロアはやれんな。却下だ、却下!

「ハルくん、あの、ちょっとお話が…」

「あぁコイツ?いいよいいよ、もってって!」

そしてなぜお前が決める。

行くけどさ、べつに。行きますけどね?

「じゃあ、ちょっといい?」

「ん?あぁ、うん」

俺はそのままアリスに付いて本部を出る。

「アリスちゃーん!武闘祭終わったあとの打ち上げ、きっと来てねー!!」

その後を追うように先輩の声が追いかけてきた。

「あの先輩、マジで一旦闇討ちでもかけたほうが……」

今はまだ可愛いものだが、実害が出るようなら実力行使も辞さないつもりだが。

「…アリス?」

しかし当のアリスからは返事が無く、不審に思って前を歩く彼女の顔を覗き込む。

「…ハルくん」

そのアリスの顔は、真剣のような鋭さを孕んでいて。


あぁ、ただことではないことが起こったのだと、悟った。











『数十分前、クロアちゃんがギーグ=ウェイダムと接触しているのを見た生徒がいます。

その様子がどこかピリピリしていたので気にはなったものの、他人が口を挟むことでもないと思ってその場を離れたそうです。

でも、その後の試合にいつまでたってもクロアちゃんが現れないことに不信感を抱き、どうしたらよいかと委員腕章をつけた私に尋ねてきたんです』


結論。

「あの糞野郎、今度はクロアに手ぇだしやがった…!!」

俺とクロアが幼馴染なのは、ある程度有名な話だ。

豊農祭の一件で、法的処罰まではいたらなかったものの、一ヶ月の謹慎処分がウェイダムに告げられた。

退学にこそならなかったが、エイファン學園において一度でも処分が下されるということは、その後の出世街道に大きく響く。

アイツの家柄がどの程度のものかは知らないが、プライドだけは高そうなヤツのことだ。

俺に逆恨み、だなんて、たやすく想像がつく。

『私もクロアちゃんを探して見ます。ウェイダムと一緒に居ると想定すれば、人気の無いところを選ぶはずです』

そういって、俺とアリスは二手に分かれた。

俺を捕まえる途中にククリとリオールにもこのことを伝えたそうなので、発見にはそれほどの時間はかからないだろう。

…が、俺が見つけたら、容赦はしない。

ボコボコにする。

顔面逆整形を施す。

生まれたことを後悔させる。

俺の大事なものに手を出した以上、タダでは済まさない。

絶対にだ。








「………主人公補正、発動してるよなぁ」

と、自分でも思う。

目の前には旧総合体育館倉庫の扉。

その名の通り、今は使われていない体育館倉庫だ。

人気の無いところっていったらアッチでもコッチでも体育館裏か体育館倉庫と決まっている。

しかも「旧」だ。めちゃくちゃうさんくさい。

と思ってきてみたら、案の定―――

『―――ざけんじゃ―――アンタみた―――触らな――――!!』

『るせぇこの―――テメェが――――言うこと―――』

分厚い扉越しに聴こえてくる、男女の声。

女の方は聞き間違えるはずが無い、幼馴染の声。

男の方は二度と聞きたくも無い、どっかの誰かさん。

さて……どうするかな。

「って、決まってるだろ」

さっき考えたとおり。

―――即殺だ。

「ウェイダム!!!!!」

倉庫の重い扉を横に押し開ける。

中には予想通り、腕を後ろ手に縛り上げられたクロアと、それを睨みつけるウェイダムの姿が倉庫の一番奥にあった。

「…!?アルエルド?!!」

「ハル!?」

二人が驚いた声を上げる。

しかしウェイダムはすぐに落ち着きを取り戻し、不敵な笑みを浮かべながら、

「…場所、時間…伝えなかった割に、ずいぶんとお早いお着きだなぁ?」

「伝える…?」

「コイツが、さ」

とん、とクロアの額を小突くウェイダム。

それを見たとたん全身を例え様のない不快感が走る。

「ちょっと、触らないでよ!」

「騒ぐな。そんだけペラペラ口が動くなら、大人しくアルエルドに伝言を伝えればよかっただろう」

その言葉に、数日前、クロアが俺の寮に訪ねて来た時の様子を思い出す。

『クロアちゃん、あそこでハルくん待ってる間、ちょっと元気なさそうでしたよ?』

『落ち込んで慰めにもらいに来てる女の子の邪魔なんて、できるわけないです』

…違った。

あの時クロアは落ち込んでるわけでも、慰めに貰いに来たわけでもなかった。

ウェイダムから何らかの伝言を預かり、それを伝えにきた。

だがそれが俺にとって有益でないことは確かで…だから、黙っていた。

「それを伝えなかったから、クロアが代わりに?」

「そう言う約束だったんだぜ?伝えなかったら代わりにお前が痛い目見るぞ、って。

…ま、どっちみちお前が来るとは思ってたけどな」

「…ハッ」

だったら尚更だ。

そんなこと、クロアが俺に言うわけがない。

(怖かっただろうに)

先輩で、男で、柄の悪いアイツから、きっとあれから今日までずっと何らかの圧力を受けただろう。

(辛かっただろうに)

きっと、俺に助けを求めたかったはずだ。

でもそれじゃあ本末転倒だ。だからいえるわけが無い。

(我慢したんだろうな)

忙しいからって、まともに相手もしてやれなかった。

(…『大事なものは、きちんと自分で守らなくちゃいけない』)

(『壊されないように、奪われないように』)

そうだよ、な。兄貴。

分かってたけど、分かってなかった。

アッチの世界に居たとき―――俺はそれが出来なかった。

だから失った。壊れた。

だから、今度こそと思った。

コッチでは全てを守りきろうと。

(なのにこの様か)

『大事なものこそ、あっという間に目の前から消えうせる』

分かってる。

大丈夫だよ、兄貴。


――――今度こそ、守るから。

「糞の役にも立たないお前みたいな外道さえも救おうとした会長の温情を、踏みにじりたくないから警告しておく。

俺が其処に行くまでに、クロアから離れろ。さもないと、お前の身の安全は保障できない」

一歩、足を踏み出す。

一瞬ウェイダムの顔が引きつるが、それを隠すように強気の笑みで上塗りする。

「温情?笑わせんな!あの程度のことで一ヶ月謹慎…おかげお先は真っ暗だぜ!!

だが一番ムカツクのはテメェだよ、アルエルド!!

どうしてお前がもてはやされる、どうしてお前が敬われる!?

たかが魔法も使えないガキが……!」

そして、血走った眼で俺を睨みつけ、

「俺の身の安全?上等だ、来いよクソガキ!ぶっ潰してやる!!」

ウェイダムがクロアの肩を掴み、引き寄せる。

クロアはそれを疎ましそうに睨みつけてから、ハッと気付いたように俺を見る。

「だ、ダメ!ハル来ないで!!」

「今更無理だよ、クロア。兎にも角にも、その馬鹿殴りつけねぇと気がすまないし」

さらに一歩前へ進む。

目算で、二人との距離は10メートル。

倉庫にしまわれた何やかんやで遮蔽物は多いが、戦闘には十分なスペースがある。

万が一ウェイダムとの乱闘になっても、クロアを逃がすことくらいはできるだろう。

そしてもう一歩。

「だから来ちゃダメ!見えないの!?そこに―――「ヴィル=ザイヴ」

クロアが叫ぶ。

それをさえぎるように、ウェイダムがスキルを唱える。

「余計なこと言うなよ、クソアマ」

「――――!!」

いやらしく笑いながらクロアを見下ろすウェイダム。

足を進めながら言う。

「沈黙魔法…ずいぶんと、器用な真似ができたもんだな、ウェイダム」

「へぇ、スキル聞いただけで分かるんだな?さすがは生徒会期待の新人ってか」

「黙れ。そのくらい常識だ。それより不思議なのは、お前程度の魔力でクロアに沈黙魔法がかかったことだ。

魔法の実力と魔力耐性は比例する。

理論上、お前の魔法がクロアにかかるわけがないんだよ」

「相手の土俵で戦う必要はないだろ?兵法の基本だ。戦うなら、自分のフィールドで。

この子には大人しくしてもらうため、すこーし、あるモノ飲んでもらっただけだよ」

「…確かに同感だ」

そして此処は恐らく、アイツが前々から想定していた場所。

「さしずめ此処は、お前のフィールドってわけか」

「逃げるか?俺は構わないぜ。お前がお前のフィールドに逃げ込んだところで、踏み込む気はないしな」

「その前に、テメェぶっ殺して、ウチのじゃじゃ馬娘かえしてもらわないと」

さらに二人に近づく。

それを見たウェイダムが静かに、笑った。

「そうだな。


…コレに耐えられたら、な」



―――やれ。

ウェイダムがつぶやいた言葉は、静かに倉庫に響いた。

その時、視界の右端に映ったのは、肌の浅黒い、ウェイダムの弟。

手に持った薬品のようなものを一滴、二滴と床に垂らす。

その瞬間、俺の足元が鮮やかな翠色の光が立ち上る。

クロアが声にならない声で叫んだ。

あぁ、コレを忠告しようとしていたんだな、と気付くが、もはや時既に遅し。

「俺の家はなぁ、元から詠唱魔法じゃなくて、陣式魔法が専門なんだよ。

俺は魔法文字で陣を書く。弟はそれを薬品で発動、倍加させる。

ソレが”俺のフィールド”だぜ。

親父からは使うなって止められてたけどよ、お前、ムカツクから。

骨の髄から、筋組織にいたるまで……全部、ぶち切れちまえ!!」

そして、魔方陣は一層色鮮やかに輝き、俺の全身を包む。

「――――――ッッガァァァアアア!!!!!!!」

瞬間、体を走ったのは言葉にならない激痛。

内臓が抉れるような。

額を穿たれるような。

爪を剥がされるような。

腕をもがれるような。

何が。何処が。どんな風に痛いかなんて、もはや分からない。

思考が言葉にならない。言葉が口から出ない。

ようやく漏れ出るのは、叫び声だけ。

「ッヅアァァァァアアーーーーーーーー!!!!!」

『ソレが”俺のフィールド”だぜ』

ウェイダムの言葉がリフレインする。

その声だけで、頭の中が真っ赤に染まる。

痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。

熱い、熱い熱い熱い!!!


口元だけで笑って言う。

「分かってたよ」

此処にお前が何かしていたことくらい。

弟の姿が何処にも見えなかったことくらい。

ソレを承知で踏み込んだ。

お前の全てを蹴散らして、嘲笑って、踏み潰して。

そうすれば、いくら馬鹿なお前でも負けを自覚できるだろう?

「なぁ」

目を開く。





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