Another Ep4:一息
スライディング土下座でこんにちは。
上げるのが遅れた挙句ひどい出来でごめんなさい。
後々加筆修正もあるかも…ってことで、続きは早めにあげれるようがんばります!
豊農祭から数日後。
ハルとククリの部屋でベッドに寝転んだククリがぽつりとつぶやいた。
「もーこんな世界滅びればいいんスよ…むしろ俺が滅ぼしてやりたい…」
「お前にゃ無理だよ、準優勝くん」
「…ふ…」
「ふ?」
「ふにゃ……」
「ふにゃ…?」
「ぶにゃぁぁぁぁぁーーーーーー!!」
「うぎゃぁぁぁぁーーーーー!!!」
どたんばたんと部屋中を暴れ回り、乱闘を繰り広げるハルとククリ。
落ち込んでいるククリを苛めたくなるのも分かるが、少し静かにして欲しい。
「おい、少しは落ち着いたらどうだ。僕が入れた紅茶もさめてしまう」
「紅茶なんて飲んでも何にもなりゃしねーっス!オリビア先輩は俺を見限ったっスぅぅぅ!!!」
「『え、準優勝……で、商品は?………はぁ…』」
豊農祭の日のシャーローン先輩の台詞を真似るハル。
その顔は非常に楽しそうだ。
「や、やめろっスぅぅ!それ以上何も言うなっスぅぅぅぅぅーーーーー!!!」
ククリはそれを聞くまいと耳をふさいで座り込む。
「『ランバルディアさんは…優勝?へぇ、すごいね』」
「う、うにゃぁぁぁ!!」
それにハルはわざわざ近づき、耳元でささやき続ける。
……趣味が悪い。
「はぁ」
机の上においてある二人分の紅茶はすっかり冷めてしまった。
(入れなおすほかあるまい)
そう考え、席を立つ。
「…ん?どこいくんだリオール」
「紅茶を入れなおしてくる」
そして部屋を出て、寮の共同キッチンへと向かいながら、豊農祭の日のことを思い返した。
その日、とにかく印象的だったのはハルの戦う姿だった。
ハルと僕は幾度と無くて合わせをしてきた。
どちらも本気だったし、負けたくないと思っていたはずだ。
だけど、その日のハルの戦い方は、いつもと――僕と戦うときとは、ずいぶんと違っていた。
第一次予選。ハルは相手を挑発するように手招きして、相手に何かを言っていた。
何と言っていたかまでは分からなかったが…その表情は、見たことのない顔つきだった。
背筋がゾクリとするような…あれを殺気と呼ぶのだろうか。
恐怖を感じた、といっても過言ではなかった。
だから心配になった。
いつもの彼とは違った。
いつもの彼に恐怖など感じたことは無かった。
女性に弱くて、人に優しく。努力は惜しまず、それを見せ付けず。
そう言うところを僕は買っていた。だからライバルと認めていた。
彼は決して、恐怖で人を蹂躙する人間では、ないはずだから。
第一次予選が終わり、ハルは僕が見ていたのとは逆側から闘技場を降りていった。
どうやら僕が観戦していたことには気付かなかったらしい。
残された対戦者の内二人は担架で救護テントへと運ばれていった。
一人は腹部圧迫による体調不良で、もう一人は精神的な動揺が激しいらしかった。
しかし残りの一人は三人の中で一番の重症であるはずだが、己の足で立ち上がり僕の横を通り抜けていく。
『ちくしょう、いてぇ、いてぇ…!』
ブツブツと口の中で怨み言をつぶやきながら、時折痛みにうめく声が漏れる。
その合間に、聞えたのだ。
『どうして強化してもらってるのに…!』
僕は思わず振り返ったが、その男は周囲に当り散らしながら大分遠くへ行ってしまっていた。
そしてすぐその後には僕の出場試合のコールがかかり、結局その言葉の真意を尋ねることは出来ずじまいだった。
―――しかし、その真意というのも、すぐに分かることだった。
二次予選開始10分前。
女子会場にいたハルを呼びに行く途中、さっきの浅黒い肌の男が誰かと話しているのが見えた。
割と細身で、僕らよりも幾らか年上の男。
『………納得いかねぇんだよ、このままじゃ引きさがれねぇよ!』
『分かってるからそう騒ぐな。俺がどうにかする』
『…審判にはばれてない?』
『平気だろ。ローランクなんてガキのお遊びだ、審判だってそんなマジでみてないぜ』
『……うん』
『俺に任せとけって』
(…ずいぶんと不穏な会話だな)
盗み聞きは趣味ではないが、どうにも看過できない気もした。
が、不意に会長の声が聞こえて、それに答えるハルの姿も見つかった。
そもそも僕の用はハルを呼ぶことだったのだ。
僕もハルも、そしてククリもあいつ等と関わることが無ければ良いと思いながらも、その場を立ち去った。
『おい』
呼びかけて肩に手をかけると、それに驚いたハルがすごい勢いで振り返った。
いつも通りの様子で僕はとりあえず安心し、軽口を叩く。
そしてそのまま男子会場へと戻ろうとしたとき…あの男が現れた。
男はあからさまな敵意を添えてハルを睨んでいた。
その時、僕の頭の中で二人の人物が一つの要因でつながったのだ。
浅黒い肌の男と、この男。
結ぶのは「ハルへの敵意」。
『ハルは!?』
対戦を終えた会長が僕のもとへ駆け寄ってきた。
『もう行きました。試合ですから』
『…さっき、ここにいたのは…?』
『知りません。けど、彼のハルを見る視線は…異様です』
会長も何か心当たりがあるのか、疲れたようにため息をつく。
『めんどくさ…じゃなくて、厄介なことになってきたわね。…リオールくん』
『はい』
そして僕の眼を見つめて、何時に無く真剣な声色でいった。
『ハルの試合をよく見ていて。きっと何かが起こるから。アタシもできる限り早く試合片付けるから、何かあったらすぐにアタシを呼びなさい。……はぁ。嫌な予感しか、しないのよね』
『…わかりました』
正直なところ、僕もずっと背筋に冷たい感覚があったのだ。
そして予感違わず、見るからに最悪な状況が目の前にあった。
ハルが押されていた。それも、かなり。
『どうして強化してもらってるのに…!』
頭の中でリフレインする台詞。
あの二人の男には明らかな繋がりがあった。そしてあのときの状況。
魔法強化しか、考えられなかった。
『はぁ…』
深いため息がついて出た。
相手の男の腕には魔法執行可能者の腕章はない。つまりその時点で規約違反。
それ以上に法を犯しているのだ。
審判団に訴えれば、相手の反則負けによる勝利を収めるのは容易だろう。
…だが、果たしてハルがそれを望むだろうか。
彼の気高さは知っている。そしてその優しさも。
きっと彼は、自分との試合が原因で相手がどうこうなろうものなら、口で何と言おうと気に病むはずだ。
『何かあったらすぐにアタシを呼びなさい』
会長の言葉を思い出した。
時計を見たが、そろそろ僕の試合受付時間が始まる頃だった。
『………まぁ、やむを得まい』
そう割り切った。
大切な物が何か。どうすることが最善か。
それくらいは出来損ないの僕のも分かったのだ。
「………そろそろ、か」
ポットのふたを開け、湯の中を舞っていた茶葉が一通り落ちきったのを確認してから、慎重に部屋へと持ち帰る。
「お茶が入った……ぞ…?」
ドアを開けたその先に広がっていたのは、混沌。
「あああああ姉様!?なんでハルくんに抱きついてるんですかぁ!!!」
「…この、エロ魔人がぁ…!その一部分に過多についた脂肪酸切りとってくれるわぁっ!!!!!!」
「だからぁ、あなたたちも、もうちょぉっと成長すれば大きくなるってば。あ、それとも揉んでもらうとか?」
「あ、その話の流れ嫌…」
「もももも揉んでもらうって、何処を誰にどうやってどのくらいの頻度で?!!!」
「…ふ、ふふふ…それはアレね?揉めるほどの大きさもない私を侮辱しているのね?」
「…………ヤバ、オリビア先輩巨乳化計画っスか…!?」
「誰にって、黒猫ちゃんに決まってるでしょー♪」
「やーめーてー!絶対そうくるとおもったー!!」
「ってことでよろしくね♪」
「アンタこれ以上大きくなるつもり!?」
「わわわわわ私もよろしくおねがいします!?」
「とりあえずお前は一旦落ち着けアリス!!」
「………………新世界の神になって………バスト80以上のヤツは心臓麻痺で……」
「計・画・通・り!ってちがぁぁぁぁぁあう!!!!!!」
…………とりあえず、なにから声をかけて良いのか分からないが……。
「お茶が冷めるわこの馬鹿どもがあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
お茶畑の農家の皆さんに謝って来い。