Ep22:不正
偶発的に連休になったので早めにアップできました。
これで豊農祭編は終了となります。
…いや、あと一話だけアナザー編が入りますけど。
その次がクロア編ですねー。長かったな…。
あ、あと、無事に連載一ヶ月&ユニークアクセス1万突破できました!ありがとうございます!!
これからも頑張って書いていきますので、ご愛読の程よろしくお願いします!!
「さっさとつぶれとけ!!!」
その台詞と共に、ウェイダムは思い切り体重をかけた右ストレートを俺の顔面めがけて放ってきた。
「チッ!」
慌ててかがみこみ、その攻撃を避けたが…。
「痛っ…!」
余りにぎりぎりだったためか、拳が通り過ぎた右頬が薄く切れた。
「オラァ!!」
ソレを見たからといってウェイダムは止まらない。
その勢いのまま右ひざを俺のみぞおちめがけて振り上げる。
「っざけんなっつぅの!!」
それを足で止め、そのまま思い切り蹴り上げた。
するとウェイダムは僅かにバランスを崩し、その隙に俺は距離をとって態勢を整える。
(くそ、初撃入れられてペース持ってかれたな…)
それに思った以上に攻撃速度が速い。
体つきから見てパワータイプではないと踏んでいたのだが…これは、少し戦法を変えたほうがいいのかもしれない。
「おいおい黒猫ちゃんよぉ、そんなに見つめられたら照れるぜ?」
いやらしい笑みを浮かべながらウェイダムが俺を挑発する。
「すいませんけど先輩、その名前で呼ばないで下さい。会長以外から呼ばれても、反吐が出る」
「ふぅん…?」
ウェイダムは尚もニヤニヤと笑い続ける。
その眼がを、笑みをどこかで見たような気がするが…いずれにせよ、不快だ。
「先輩、つぎはコッチから行きますけど」
「いいぜ?」
「…ハッ」
今時「〜だぜ」口調ですか、そうですか。
(マジで気持ち悪い)
グッと右足に力を込め、一気に相手の懐に入る。
「ッシ!」
狙いは喉仏。其処めがけて手刀を突き出す。
が…
「っと、あぶねぇあぶねぇ」
ウェイダムはそれをいとも容易く受け流す。
「な、くそ…!!」
正直、あの速度で受け流されるとは思ってなかった。
俺の手刀は確実に急所を捉えていた。
少なくとも牽制程度にはなると踏んでいたのに、ウェイダムにその様子は無い。
(完璧に攻撃が見切られてる…?)
そうでもなければ説明がつかない。
どんな動物でも急所を狙われれば怯む。恐怖を覚える。
ソレを感じないというとことは、その攻撃が警戒するに足らないということだ。
學園に入ってから数ヶ月…色々な人間と手合わせしてきたが、俺の攻撃速度を完璧に見切れた人間はいままで居なかった。
それは俺と手合わせしなれているクロアとて同じことだ。
実力差があればカウンター狙いで行くが、俺の戦闘スタイルには初撃必殺が前提にある。
すばやい動きで一気に間合いをつめ、止められない速度の攻撃を寸分違わず急所に叩き込む。
つまり、俺の場合、攻撃が見切られた時点で大分不利なのだ。
しかし見切られない絶対の自信があった――――ガイの、お墨付きだったから。
(でも現にコイツは俺の拳を見切っている)
間髪開けずに放つ蹴りにも余裕を持って対応している。
その顔には未だに笑みが張り付いたままだ。
『アルエルド選手、右から左からウェイダム選手めがけてラッシュ・ラッシュ・ラッシュ!!
しかしウェイダム選手はそれを容易く受け流す!!さすがのアルエルド選手も大分不利な様子ですが、如何ですかアイザックさん?』
『そうですね…この勝負、だいぶ結果が見えてきたかもしれませんね』
実況と解説も、まぁずいぶんとむかつくが正確なコメントをおっしゃってくれる。
かなり腹が立つが……事実だ。
そう、事実、俺はかなり不利な状況だ。…が、はっきり言って、この状況には何か違和感を覚える。
第1に、ウェイダムの異様なまでの余裕っぷり。
どうみたって小物オーラが漂ってるのに…未だに俺には、コイツに攻撃を見切られている理由が実力差だとは思えない。
そして第2に―――
「くらえよオラ!」
「ぅ、が!」
―――この、ウェイダムの攻撃の重さだ。
外見だけで戦闘力は測れない。だからといって何も分からないわけじゃない。
ウェイダムは明らかにパワータイプではない。少なくとも、この重さの拳を放てる体格ではない。
俺とウェイダムの間に3歳差があったとしても、それは確かだ。
「こ、んにゃろ……!」
苦し紛れに裏拳を放つと、運よくソレがウェイダムの鼻先をかすって相手が怯んだ。
その隙にバックステップして距離をとる。
……はっきり言って、試合開始直後からこの繰り返しだ。
決定的な一撃が決められない。ソレが俺の持ち味なのに、だ。
それに、戦闘が始まってからずっと付きまとうこの違和感。
ウェイダム本人にそぐわない実力。
(考えろ、考えろ、何かがおかしいんだ、きっと何かタネが…)
―――「ゴラァ!テメェハルくんになんてことしてくれてんだこの童貞チキン!!!」
(…違う違う違う、何かきっと、あれはアリスなんかじゃないって!!)
思考が外野からのガヤで妨げられる。
「お前、ずいぶんとカワイイ彼女がいるんだな?」
ウェイダムがそのガヤに気付き、ニヤニヤと笑いながら俺に言う。
よくあのガヤ聞いてアリスのこと可愛いと思えるな…いや、かわいいけどさ。
「…彼女じゃないです。友達です」
「へぇ?…ふーん。じゃあさ、俺が勝ったらあの子くれない?」
「は?」
「あぁ、許可とらなくてもいいのか。だって負けたらお前、俺があの子に何しようと止められないしな」
「………それって、アレですか。俺が負けたら、アリスのこと頂いちゃうぜベイビー…的な?」
「アリスちゃん?へぇ、可愛い名前…………あ」
ブツリと何かが切れた音がした。俺の中で。
きっと堪忍袋の緒とか、そう言うものだと思う。
「……テメェ、アリスに手ぇ出すつもりか?」
「あ、いや、ちょっと待て!ちょっと今は、あの、その」
「意味分かんねぇこと言ってんじゃねえよ…ハッ、マジでキモイわお前……普通に殺してぇ…」
「いや待て、待とう、待ってくださいアルエルドくん!!」
「…」
「な?!」
「却・下」
殴りかかる。
避けられるとか、大振りすぎるとか、このままじゃカウンターくらうとか。
そういうの何にも考えず、ただ一心に拳を突き出す。
「テメェなんかにアリスはやらん!」
「ひでぶっ!!!!!」
………当たった。
「ん?」
そのまま上段蹴り。
「げぶらっ!!!」
これまた綺麗にスパーンとウェイダムの頭に当たった。
「んん〜?」
その勢いを生かして空中で体を反転、左のかかとでさらにこめかみを打ち抜く。
「………」
なぜ、だろう。
急に攻撃が当たるようになった。
その上さっきまで俺の攻撃が当たろうがなんだろうが大して痛がりもしなかったのに、
「いぃ〜〜……ってぇぇぇぇーーー!!!」
今はずいぶんと痛がってうずくまっている。
「……………おいおいおい、おかしいだろ、それ」
どう考えたっておかしい。
急に攻撃が避けられなくなったり、防御力が落ちたり、普通に考えてありえない。
…つまり、普通じゃない自体が起こっている。
「ち、くしょぅ…!調子乗りすぎたぁ…こんなに早く解けるなんて…!」
ウェイダムはそうつぶやきながら、頭を抑えてふらふらと立ち上がる。
「おい、テメェなにしてんだよ…おかしいだろ」
「うるせ…くそ、いってぇなコンチクショウ…!」
そしてそのまま俺から距離をとるように後ずさりしていく。
眼には怯えの色と、予想外の事態に対する動揺の色。
――――突然見えなくなった俺の攻撃
――――急激な防御力の低下
――――『こんなに早く解けるなんて…!』
「…おい、お前、もしかして…」
俺がウェイダムに問いかけようとしたその時、外野から大きな声が上がる。
「兄貴ぃ、ヤバイ!!バレた、運営委員がコッチ来てる!!!」
「なに!!?」
叫んだのは、俺と一次予選で戦った肌の浅黒い男だった。鼻には詰め物がしてある。
そういえばウェイダムとよく似た顔立ちをしているし…兄弟、だったのか。
「どうしてバレた!?」
「どうしてって、この観客数でばれないほうが可笑しいって俺いったじゃんかよぉ!!」
「…で、でも、相手に使ってねぇんだ!問題ないだろ!?」
「委員会は黙ってたこと事態違反だってすげぇ怒ってる!!もう逃げようよぉ!!!」
「ここまで来て簡単に引けるか!!あいつらと賭けまでしたんだ、そう簡単に負けて…」
ウェイダムと眼が合う。
ウェイダムは、迷っていた。
「黒猫ちゃん!」
そして今度は外野から俺を呼ぶ声がする。
「…会長、とクロア」
遠くから、二人が人ごみを掻き分けてコッチへくるのが見える。
その後ろからは運営委員らしき人物の姿。
怒り心頭、といった様子だ。
「ギーグ=ウェイダム!その場を動くな!!」
名前を呼ばれたウェイダムはビクリと体を震わせる。
「ち、くしょう…!どうして、うまくいってたのに!!」
「…自分に強化魔法かけて、勝ち抜こうって言う作戦が?」
「っ!!?」
「やっぱり、か。どうりで突然弱くなるわけだ」
はぁ、とため息をつく。
思い返せばウェイダムは何かに気付いたように『あ!』と言っていた。
あの瞬間、恐らく魔法が切れたのだろう。
あの後からは面白いように攻撃が決まったから。
「かけた魔法はなんだ?硬化の魔法と、反射神経向上、動体視力もあげてるだろうし、筋力もかなり上げてただろうな、その様子だと」
ウェイダムの膝がガクガクと震え始めていた。
能力向上魔法の反動だ。
「…そこまでして勝ちたいか。まぁ、悪い方法じゃないけど。でも馬鹿だな、お前も」
「んだとぉ!!?」
血走った眼でウェイダムが怒鳴る。
頬は紅潮し、挙動不審…だいぶ、追い込まれているようだ。
「このランクは學園の生徒ばっかりなのは知ってるだろう?魔法が使えるってことはお前、魔法科の生徒なんだろうし…人数少ないんだ、同じ魔法科の生徒が居れば、すぐにばれる」
「ばれたらソイツも潰す!」
「それこそ無理だ」
「あん!?」
俺はウェイダムを指差して、言う。
「だってお前、素だとすげぇ弱いもん。さっきやって分かった」
ウェイダムは一瞬、ぽかんとした顔をした
何を言っているのかわからない、理解できない。
でも数秒後、僅かに瞳を揺らしながら、零すように笑った。
「…はっ。テメェ……魔法も使えねぇくせに、調子付いてるんじゃねぇよ…」
「魔法が使えるってだけで調子乗ってるのはお前だ」
「それだけで十分だろうが!!魔法も使えねぇで、魔法科の生徒に逆らうんじゃねえよ!!!」
「………クズが」
その言葉に、ウェイダムの笑みが消えた。
そしてウェイダムは両手を振り上げ、叫ぶ。
「ブっ殺す!!!」
バチリ、バチリと何かが爆ぜる音がする。
そして俺とウェイダムを取り巻く空気はざわめき――――ある瞬間、ピタリと止んだ。
「逃げて、ハルっ!!!」
遠くでクロアが叫んだのと同時だった。
「クオ=フィード!!!!!!!」
ウェイダムが掲げた両手から、雷が小球となって俺に放たれた。
本で呼んだことがある。
クオは古代語で「小さい」。フィードは「雷」。
クオ=フィードは、雷属性の低級魔法だ。
「はっ」
鼻で笑う。
「避けるまでもないよ、クロア」
そして放たれた雷球は、俺の体を貫いた。
「ハルーっ!!!」
一瞬、辺りを白い光が覆いつくした。
「…………なん、で」
白い光が引いた後、闘技場の上には呆気にとられたように膝を突くウェイダムと、
「なんで?ずいぶんとつまらない質問をするんだな、お前も」
けろっとした顔の俺がいた。
「…おかしい、だろ…どうして、魔法くらって、そんな……平然と…」
「平然と、でもねぇよ。痛いものは痛い。はっきり言ってすげぇー痛い。
けどさ、お前が今やったのって、低級魔法だから」
「は…?」
ちらりと外野を見る。
其処にはホッとしたように涙ぐむクロアの姿があった。
「…俺の幼馴染はいつも馬鹿の一つ覚えに、日常茶飯事でエル=フレアを放ってきたもんだよ」
実際には現在進行形だが。
「え、エル=フレア!?」
そういってウェイダムはぎょっとした顔をする。
そりゃそうだろう。
クオはさっき言ったように低級魔法。
大してエルは古代語で「より大きく」…つまり、中級魔法に当たるわけだ。
その差は大きい。
「だから俺さ、今更低級魔法ぐらいで、驚かないんだ実際。まぁ、そりゃ痛いよ?すっげー痛い。けど、慣れてるんだ、コレが。もっと痛いのにさ」
さらに言えば、クロアの十八番はさらに痛い。
此処に来てアイツ、より魔法の力が強くなってるから本当に死すら感じる。
それに比べれば、ウェイダムの低級魔法なんてへの河童だ。
「…で、お前の切り札って、今の?」
「………」
放心したように黙り込むウェイダム。
どうやら次手は無いらしい。
「ギーグ=ウェイダム!!」
それと同時に運営委員が闘技場へ入ってきた。
「魔法執行による自己強化だけでもルール違反なのに、他者への攻撃魔法まで使用するとは…!話は事務所で聞かせてもらう、来い!!」
そして二人がかりでウェイダムを両脇から抱え上げ、どこかへと連れて行く。
「あ、兄貴ぃ!!」
それを弟が追っていった。
「………審判さん」
「あ、はい!」
「これって俺の勝ち?」
「…えと、多分…」
「じゃ、そういうことで」
そして俺は手をひらひらと振って、闘技場を後にする。
負けでもいい。勝ちでもいい。
どっちにしろ、
(すっげーつかれた…)
「ハルっ!!」
闘技場を降りた瞬間、クロアが俺に抱きついてきた。
「痛いところない?大丈夫?怪我してない?」
クロアが心配そうに俺を見上げてくるので、「大丈夫、問題なし」といって頭を撫でる。
するとクロアはその眼に涙を浮かべて、隠すように俺の胸に顔をうずめる。
「…よかったぁ…私、女子の会場でハルがギーグ=ウェイダムと戦うっていうの聞いて、すごく嫌な予感がしてて…」
「ウェイダムって有名なのか?」
クロアはかすかに頷く。
「なんか悪ぶってて、魔法科の中でも浮いてるから、そう言う意味で有名…弟とも、戦ったんだってね?」
「ん?あぁ、そうみたいだな」
「弟は普通科らしいけど…きっと兄貴になんかしら強化されてたわよ」
「んー…」
だとしても弱かったから問題は無いのだが。
「それにしても、よく魔法くらって平気だったわね?」
「あぁ、いつもクロアからよっぽどキツイのくらってるからな」
「う゛…!」
「魔法使いが一般人に魔法執行するのって違法なんだろ?」
「………さーどーだったかなー」
あさっての方向を見て口笛を吹くクロア。
まぁ、別に訴える気とかないからいいんだが。
「ハルくん!!」
「うごふ!!!」
そんな時、突然背中からものすごい衝撃が走る。
「痛いところありますか!?大丈夫ですか?!怪我はありませんか!!?」
「だ、だいじょぶ、クロアにも聞かれた……ていうか、今のが一番…ゴホ…」
抱きついてきたのはアリスだった。
「よ、よかったぁ……ずっと、ずっとハルくん劣勢だったから…途中から見てられなくて、あんまり記憶がないんですけど…」
ホッとため息をついて俺に背中に額を当ててくるアリス。
…うん、よかった。いつものアリスだ。
「私、必死でハルくんを応援してた記憶しかないんですけど…」
「あ、あぁ。届いてたよ…」
大分ドスの聞いた声援が。
「すごい、力になった」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ」
「よかったぁ…私、本当にハルくんに万が一のことがあったら……殺してやろうかと……ふふっ」
一瞬、裏アリスの顔が見えたが、
「ほ、本当に勝てたのはアリスのおかげだよ!!」
そういうと、アリスは顔赤らめてはにかみながら一層力強く俺を抱きしめる。
「うれしいです!」
……が。
「…ちょっと、邪魔なんですけど、クロアちゃん」
「貴女が後から来たんでしょう!?」
俺を挟んで喧嘩を始める二人。
本当に文字通り、挟んで、だ。
「後からとか先にとかじゃないです。ずっとハルくんの応援してたんですから、私に権利があるに決まってます」
「私だってハルのために頑張って戦って優勝してきたのよ!見なさいよ、ほら!!」
といってクロアが首にかかったメダルを見せる。
…あ、本当だ。優勝って書いてある。
「すごいな、クロア」
頭を撫でる。
「でしょう!そうでしょう!!」
するとクロアは褒められた犬のように嬉しそうに目を細めて笑う。
尻尾があったらパタパタと揺れていたに違いない。
「で、でも試合中辛いときにハルくんを支えたのは私の応援です!よね!?」
それに負けじと背後から俺を見上げながら、アリスが言う。
「え、あ、うん。そうだな」
「ほら!」
「ぬ、ぐぅ…」
………ていうか、コレに関して先を争う必要はあるのか?
どっちが先だって別に同じじゃないのだろうか。
「はいはいはい、そこまでよ」
と、そんなところに会長が現れた。
「姉様、ちょっと今は取り込み中で…」
「こういうところで引いちゃうと負け癖がついちゃうから負けられないんですよ私も!!」
仲裁に入った会長に早速噛み付く二人。
だが、
「アリスぅ、黒猫ちゃんの猫耳メイド服姿生写真、欲しくない?」
「え!?」
「クロアちゃんには…うーん、黒○事コスとかがいいのかな?」
「ほほほほほほ欲しい!!欲しいですそれ!!!」
突如パッと俺から離れる二人。
「欲しいの?」
「「はい!」」
「それじゃあ…ほーれ!」
そういって会長は懐から出した何十枚かの写真を宙にばら撒いた。
「猫耳メイドぉぉぉーーーー!!」
アリスが宙高く飛び上がる。
「黒○事ぃぃぃぃぃぃーーーーーー!!!」
クロアが地に這うように低く駆け出す。
「「「ハル様の生写真ーーーーーーーーーー!!!」」」
そしてあまった数枚の写真を巡って後援会の皆さんがどこからともなく湧き出してきた。
「……それじゃ、話があるの」
ソレを見送ってから、会長が俺にそう言う。
「話は、いいですけど…」
「ん?」
「あの罰ゲームの写真は流出しないって約束はぁぁぁぁぁ????!!!」
「忘れてた♪」
確実に嘘だ。
「それでね」
「はい」
移動した先は、俺とは別の男子本選会場。
此処のブロックで勝ち上がった者と、俺のほうで勝ちあがった者とか決勝で戦うことになっていたのだが…。
俺は、さっきの勝利を辞退した。
はっきりいってつかれきったのだ。肉体的によりも、精神的に。
かといってウェイダムが勝ち上がるわけじゃない。
だから俺のほうのブロックは準決勝無しで、そのまま別試合の準々決勝勝者が決勝にあがることになったらしい。
今見ているのは、もう一つのブロック準決勝。
戦っているのは、ククリだ。
『うにゃぁぁぁーーっスぅうぅーー!』
気の抜ける掛け声だが、なかなかいい試合をしている。
この調子だと本当に優勝もあるかもしれない。
「…リオール、本当に辞退したんですね」
「えぇ。血相変えて飛び込んできたんだから。『会長の力が必要です』って」
「……」
リオールも、本当ならこの後の試合で戦うはずだったのだ。
しかしアイツはどういった方法でか俺の相手が魔法科の生徒で、不正を働いていることに気付いて会長に助けを求めに走ったのだ。
その所為でアイツは試合受付時間に間に合わなかった…結果、辞退扱いとなったらしい。
「『僕の言葉には委員を動かす力はありません。それに、相手の未来を奪わないで不正を正す力も無い。僕がもし委員を動かせば、相手は退学どころか逮捕すらされかねない。それはアイツも望まないはずです。だからお願いです、会長。お願いします』……って、ね」
「…別に、俺はウェイダムがあれで退学になろうと…」
「気に病まない、とは言い切れないわよね。逮捕されたら、もっとね」
「……」
「法的処罰に関してはいくら私が生徒会長でもどうしようもないけど、学校側からの処置に関してはアタシがどうにかする。ハルが望むとおりになるように」
「…それで、退学にして欲しいっていったら…」
「するわよ」
会長はククリの試合から目を離さずに言う。
「でも、ハルはソレを望まないだろうと思ったから、運営側にそう話した。そう思ったから、ヴォルガノくんもアタシを呼んだ」
「…」
「ありがとうって、後で言いなさいね」
「分かってますよ」
ふん、と鼻を鳴らす。
リオールに借りを作るのは癪だが…今回のことに関しては、ありがたいといわざるを得ない。
「ソレと、もう一つね」
「はい?」
そして今度は会長も俺のほうに体を向けて、話し始める。
「ハル、貴方、体のどこにも異常ない?」
「え?」
「どこも痛んだりしないかって聞いてるの」
「いや、ですから、それに関してはもうクロアたちにも大丈夫って…」
「そうじゃない」
会長が真剣な眼で俺を見つめる。
じっと、逃がさないように。その水色の瞳で。
「本当に、本当のことを言いなさい」
その真剣さに俺は思わず腰が引ける。
「そ、そりゃ、多少の痛みはありますよ。戦闘したんですから。
けど取り立てて痛むところは…」
「ないのね?」
「……」
そう聞かれると、とても困るのだが…。
チラリと会長を見上げ、どうにも逃げられなさそうだと観念してため息をつく。
「…眼が」
「眼?」
「痛むっていうか、違和感があるというか…。いや、本当に大したことはないんですけどね!?」
「………」
「か、会長?」
黙り込んだ会長を不思議に思い、覗き込むと、
「ちょっと、失礼しまーす」
そういって抱きついてきた。
「ちょ、かいちょ!!」
いつかの記憶が甦る。
あの頃は顔がみごとに胸にうずもれたものだが…今は少し背が伸びたのか、少し外れている。
が、胸が当たることに違いは無い。
「お、おいし…げふんげふん!!」
何も言ってないよ!?俺何も言ってないよ!!?
「………………やっぱり…」
「えぇ!?べべべ、別に胸が当たってるから喜んだりとかしてないですから!?」
「…」
そして会長は何も言わずに俺を離した。
「……もう少し、様子は見るけど…」
「はい?!」
「…もし。もしよ」
「…は、はい」
心臓はまだ高鳴っていたけど、会長が珍しく本気のトーンで話していたので、俺も真剣に話しを聞く。
「なにかあったら…アタシか、サリナ先生に言いなさい」
「は?サリナ先生って、ウチの担任ですか?」
「うん。分かったわね」
「はぁ…」
どうして急にウチのクラスの放任担任が出てくるのだろうか。
なにか頼りがいのあるところを見た記憶はないのだが…。
「それと」
「はい」
会長がポツリと言う。
「アタシの胸の大きさって、どうかしら?」
「最高にナイスだと思います―――――――って、しまった!!」
時既に遅し。
ニタァ、と笑った会長の顔が目の前にある。
「そっかそっかぁ、それは嬉しいなぁ♪」
「いや、いまのは違、あの、その!!」
「うん?」
「く、クロアには言わないで…!」
俺がそう言うと、会長はにこりと笑った。
「それは振り?」
「違います!!!」
『勝ったっスぅぅぅぅぅーーーー!!!』
ククリの叫びだけが、絶望した俺の心にこだました。