Ep21:本選
お久しぶりです、ごめんなさい。
話が全然進まないのは毎度のことなのですが、ここのところ更新速度も落ちてますね。
それだけが取り柄といっても過言じゃなかったのに…あー私生活がどうとうか言い訳は出来ません。
がんばります(`・ω・´)
何十人にも囲まれて傷一つ負わずに圧倒勝利する。
なんていう超人技は、エスパー系熱血戦闘漫画にでもお任せしよう。
俺には無理だ。たぶん、ほとんどの人間にとっても。
だから、範囲系の魔法も使えず超人でもない俺はそんなことはしない。
一対多、この状況で取る戦法は一つ。
一対一の状況に持ち込むのだ。
そうすれば勝負は戦闘技術、その一点に絞られる。
そしてその点に関して俺は―――
―――圧倒していた。
「ぁ………が……!」
ドサリと音を立てて崩れ落ちる、浅黒い肌の男。
鼻を押さえた手からはボタリ、ボタリと質量を伴った音を立てて血がマットに垂れる。
俺はそれを見下ろしながら、ゴキリと指を鳴らした。
「…で?続ける?」
この言葉は後ろで腰を抜かしている残りの二人に。
一人は中段蹴りがもろにみぞおち入って吐いているから続行不可能として、
「…ん?」
肩越しに振り返り、もう一人と目を合わせる。
すると首を千切れるんじゃないか、ってくらいの勢いでぶんぶんと横に振るう。
いいえそんな滅相もございません、ということらしい。
「そっか…で、アンタは?」
視線を目の前で這い蹲る男に戻す。
「鼻の骨は折れてないと思うけど、その様子じゃ多分しばらく血も止まらないだろうし。
やめておいたほうが無難だと、俺は思うけど」
「う、ぐぅ…!」
恨みがましい目で俺を見る。
瞳には怒りの炎が灯っているが、諦めの色も見て取れた。
「どうする?」
「………」
そして男は諦めたように、首を横に振る。
そこで審判が試合終了のコールをする。
ていうか、もっと早く止めてよかったんじゃない?
俺としてはムカツクヤツをいたぶれて楽しかったけど…。
「勝者、164番!」
審判が俺の登録番号を叫ぶ。これでようやく試合が終わった。
「…あー、しまった。うっかり勝っちまった…」
そうして終わったところで予定総崩れなことに気付く。
「はぁ…」
もうこうなったら、やれるところまでやってやろう、という気になっているのも正直なところだが。
『やったっスぅぅぅーーー!!』
その時、隣の闘技場から叫び声が聞えた。
金髪頭が喜びながらぴょんぴょんと跳ね回っている。
「ククリも勝った、か」
この様子ならリオールも順当に勝ち上がることだろう。
「…うん」
よし、気持ちを入れなおそう。
この祭りはあくまでも遊びだが、遊びに本気を出しちゃ行けないなんてルールはない。
『何事も本気でやって、悔いは残さない』
その決意はまださび付いては居ない。
(ていうか、単純にリオールとかに負けたくないしな)
そして痛々しい姿の三人を尻目に俺は闘技場を後にした。
暇つぶしがてらに女子会場に来てみた。
するとちょうど会長のグループが予選をしていたので、恐らく会長目当てであろう人ごみ(多分、さっさと負けた男子連中だ)を掻き分け見学することにした。
の、だが。
「おぉー…会長、性格どおり勝ち方がえげつねぇ…」
試合開始のコールから十秒後には、決着がついていた。
俺が最初に「超人にでもお任せしよう」と言っていた戦法で、いとも簡単に。
「はぁ…すごい人だとは思ってたけど、それにしてもぶっちぎりじゃないか?」
俺が倒したやつらと違って、会長に負けた相手はもはや歯向かおうなどと言う気力すら湧かない様子だ。なんか、霊魂的なものが見える。
合掌。
『あ、黒猫ちゃん〜!アタシ、勝ったわよぉー♪』
会長が俺に気付いた。
手を振ってきたので、振り返す。
すると一斉に周囲から「ギラリ!」と言わんばかりの視線を浴びたので、すぐさま手を下ろす。
…忘れがちだが、会長は一応「絶世の」が頭につく美人さんなのだ。
(あれで人格が破綻してなければなぁ)
俺だって眼をハートにもしたものだが。
「おい」
なんて失礼なことを考えていたら、突然背後から肩を掴まれる。
「あ、喧嘩はお断りです!」
「誰がそんな下種なマネをするか!僕だ!!」
振り返ると、眉を吊り上げたリオールがいた。
「あぁ、リオールか。てっきり会長ファンのやっかみかと思った」
ホッと胸をなでおろす。
「馬鹿か君は。僕がもしやるなら、呼ばずに最初から思いっきり殴ってるよ」
コイツ外道だ。
「…そ、それで、何か用か?」
「何か用か?じゃない!もうすぐ二次予選が始まるから呼びに来たんだ!!」
「あれ?もうそんな時間?俺、会長の試合しか観てないし、これからクロアとかエミリ先輩のとかも観ようと…」
「それならさっさと負けることだな。ちなみに僕らは三人とも別ブロックだから、当たるとしても本戦ってことになるな」
「…リオール、勝てたんだ?」
「殴って欲しいんだな?」
リオールの拳が俺の顔面スレスレを奔る。
ヒュォ、という風切音が耳元でした。
「殴ってから言うな!ジョークだろ!?」
「笑えない冗談は万死に当たる!というか避けるな!!」
「避けるわっ!!」
言い合いながら、また人ごみを掻き分けて男子会場へと戻ろうとする。
「うわっ」
その途中、茶髪の目つきが悪い男と肩がぶつかった。
「あ、すいませ…ん…」
「……」
すぐに謝るが……えー?なにこの視線。殺気?
目つきが悪い云々の前に、明らかな敵意を感じるんですけど…。
「あの、え、と、少し急いでて…すいませんでした」
こういう輩は相手にしないのが一番。
素直にぺこりと一礼。
「じゃ、そゆことで」
そういってその場を後にする。
『黒猫ちゃん!』
…なぜだか会長が俺を呼ぶ声が聞こえるが……幻聴だな、うん。
今此処で立ち止まったら俺は何かきっと厄介ごとに巻き込まれるんだ。
だから逃げるんだ。
頑張れ俺、逃げ切れ俺。
『…アタシを無視しようとは、いい度胸ねぇ…?』
会長の不穏な台詞が聴こえようが、めげるな俺!
「ハル」
「なんだよぉぉ!?」
「…僕が、話を聞いてくるから、先に行け。君は第1試合だから、時間が無い」
「それじゃあ頼んだ心の友よ!」
俺は今ほどお前を愛しく思ったことは無い!!
「それじゃあな!」
「あぁ」
そして駆け出す。とりあえず、この場から逃げよう。
『學園帰ったらあんなことやこんなことしてやるからねぇぇぇぇ!!!!』
…もはや、學園からも逃げたほうがいいのかもしれない。
何やかんやで本選になった。
…まぁ、あれだ。うん。大人の事情で二次予選はカットだ。いろいろとあるんだ。
本選の会場は予選とは打って変わって、すごい豪華だ。
祭りのメインイベントにふさわしい闘技場、観客席、それに解説者や実況、招待客の姿も見える。
これと同じ規模をもう一つ、女子会場として設置しているのだ。
本選にこれだけ予算を割けば、予選会場があのボロさと効率重視なのも頷ける。
『みなさんお待たせいたしました!豊農祭名物、武闘大会・ローランクの本選、第弐試合がまもなく始まります!それでは出場者の紹介をさせていただきましょう。
赤コーナーはエイファン學園期待の新人、ハル=アルエルド!』
実況が左手を振り上げ、俺を紹介する。
「いぃぃやぁぁぁぁーーーーーーー!ハルさまぁぁぁぁぁーーー!!!」
「抱いてぇぇぇぇーーーーー!めちゃくちゃにしてぇぇぇぇーーーー!!」
「俺の嫁ktkr!!!!」
その声と同時に闘技場を囲った策を乗り越えんばかりの勢いで人ごみが押し寄せてきた。
…正直、恐怖だ。バイオハザードの感覚に近い。
「あ、あははは」
しかし無視するのもなんなので、手を振って挨拶をする。
ていうか抱いてって。おかしいだろ、やめておけよ。ガキだぞ、俺。
あと、野郎は一回死んでおけ。
「は、ハルく、ちょ、あの、ハルく…あぁもぅ!!」
そんな叫び声にまぎれて聞き覚えのある声が聞こえた気がするが―――
「どけっつってんだろうが!!」
―――違う違う違う。あれはアリスじゃない。絶対違う。
そして実況は反対側に手を上げ、俺の相手の紹介を始める。
『対しましては青コーナー、3歳差のリーチを生かせるか、ギーグ=ウェイダム!!』
誰もが予想できたであろう展開だ。
「ま、またお会いしましたネ」
「………」
俺に向かって殺気を放っているのは、先程の目つきの悪いお方。
誰であろう、俺の戦闘相手である。
(殺す気だろ、アレ。「殺る気」とかいて「やるき」だろ)
怖すぎる。
もう、あれだ。いざとなったら―――
「私の後ろに立つなっ!!」
「ぎゃぁぁぁ!」
―――あそこで何か覚醒しかけているアリスに助けてもらおう。
「…なぁ」
「あ、はい?」
実況が未だぺらぺらと話し続けているなか、はじめてウェイダムが口を開いた。
「お前、エイファン學園生徒会の、ハル=アルエルドだよな」
「そうですけど」
「ふーん…なぁ、知ってるか?」
「何をですか?」
尋ねると、ウェイダムは悪役にお似合いの意地悪い笑みを浮かべる。
「お前、最近調子乗ってるって評判だぜ?俺たちの中で」
「…それは…光栄、ですね」
…あれだな。学年交流戦とかで先輩相手にやんちゃしすぎたな。
でも今日みたいなお遊びならともかく、学校の試合でまでわざと負けるのもなぁ…。
「はっ、マジでカワイイ顔してんのな、女子たちが騒ぐのも分かるわ」
「…どうも」
その悪人面で言われても、なぁんにも褒められた気がしないけどね。
それにこの童顔も、成長すると大分柄が悪くなるんですよ。経験済みです。
「…俺さ」
「はい」
あ、審判が闘技場に上がってきた。
すっごい実況席睨みつけてる。…きっと、あの実況が調子乗りすぎて予定時間すぎてるんだろうな。
「お前みたいな後輩叩き潰すの、好きなんだよ」
「はぁ…」
そしてまだしゃべるか実況。審判がものすごい顔してるぞ。
「特に」
「えぇ…」
「お前みたいなヤツのカワイイ顔叩き潰すのとか、すっげぇそそられる」
「そーなんですかぁ…」
「だからよ」
「はい?」
ウェイダムが一歩、俺に近づく。
それにつられて、審判に向けていた視線をウェイダムに戻した。
その瞬間、
「試合開始!!!」
唐突に審判が試合開始をコールする。
しゃべり続ける実況にしびれをきらしたのだろうか…。
「って」
「さっさとつぶれとけ!!!!!」
ウェイダムの右ストレートが俺の顔面めがけて放たれていた。