Ep20:乱闘
意外に豊農祭、長くなりそうな気がしてきました。
でも一応この豊農祭編に色々な伏線、ってほどでもないですけど、張るつもりなので、気長に読んでいただけると嬉しいです。
戦闘シーンとかも入りそうだけど、心配です…(汗
大勢の人間が集まりガヤガヤと煩いテント内。
右を見れば筋骨隆々の大男、左を見れば怪しげな目つきで舌なめずりをする不気味な細面。
そんな中、俺とククリ、リオール、そして副会長の四人は並んで座り込んでいた。
当初はリオールは不参加の予定だったが、
「なに、君も出るのか?」「あぁ」「それなら僕がでないでどうする!」
というよくわからない理論で参加ということに成った。
「…予想外の熱気なんですけど、これってそんなに人気のあるイベントなんですか?」
じっとりと汗ばむシャツの襟元をあおぎながら、右隣に座る副会長に尋ねる。
副会長も熱気で曇った眼鏡を拭きながら答える。
「ん?あぁ、そうだよ。この豊農祭がアルノード帝国の中でも屈指の祭りなのは知っているだろう?」
「はい」
「その中でも、この武闘大会はメインイベントでね。だから大陸中から腕に覚えのある人が集まってくるんだ。
まぁ、豪華賞品っていう触れ込みもあるしね」
「そうなんですか…」
まぁ、そう言われてみれば納得だ。
どう考えても地元の祭りレベルじゃないもんな、この盛況っぷりは。
「……でも、どう考えても俺たちの年齢じゃあ、あの熊には勝ち目ないと思うんですけど」
俺はさっき見ていた筋骨隆々の大男を指差す。
「あ、それ俺も思ってたっス!不平等っス!!俺は今日、どうしても勝たないといけないのに…」
左に座るククリが手を挙げて同意する。
「馬鹿か君は。あぁ、馬鹿だったな、すまない」
すると突然、副会長を挟んだ向こう側にいるリオールが鼻で笑うように言ってきた。
「あん?」
「外の看板にも書いてあっただろう。『各ランク優勝者には豪華賞品!』と」
「それが何……あぁ、そっか」
「え、なんスか?どういう意味っスか?」
ククリは分からないようだ。
「…馬鹿は一人だったか。すまないな、ハル」
「いいよ別に。分かりやすい解説も貰えたしな」
「え?え?俺、馬鹿にされてるっスか?」
自分の悪口には敏感なヤツだ。
「だからつまりは、年齢ごとにランク分けされている、ということだよ」
見かねた副会長が優しくククリに教えてやった。
さすが何年も会長の傍若無人に耐えて来たお方だ。お優しい。
「参加可能なのは11歳からで、上は上限なし。11から14歳まではローランク、15から18歳まではミドルランク、それ以上はハイランクでエントリーされるから、俺だけはミドルランクで戦うことになるな」
「俺たちはローランクの最低年齢…結構、厳しいですね」
「希望すれば上のランクに登録も可能だけど…な、そういう酔狂なヤツは、俺は今まで一人しか見たことないよ」
副会長は苦笑いしながら言う。
『酔狂なヤツ』。副会長の口でそう言われるくらいだから、あの人しか居るまい。
「会長、ですか…」
「うん…」
重いため息をつく副会長。
「俺が二年の頃だから…アイツが11歳のとき、何を考えてかミドルクラスに出るって言い張って、もちろん体格的に真っ正面から向かってったって勝ち目がないって分かってたんだろうね。
アイツ、全試合関節技で勝ち抜いて優勝しやがった」
「…むちゃくちゃっスね、会長さん。普通の意味でも、ある意味でも尊敬するっス」
「うん、むちゃくちゃなんだ、アイツは。しかもあの頃はまだ優勝商品とか無かったから貰えたのは楯だけで、『こんなふざけた大会二度と出てやらない』って看板へし折って帰ってったよ。
今日の様子を見る限り、そのことはすっかり忘れてるみたいだけど……俺はね、ひたすら頭さげまくったから、よく覚えているよ…」
そういって、ハハハ、と乾いた笑い声をあげる。
その横顔が切なすぎる。
「先輩…!おつかれさまでした!!」
リオールに至っては涙目で副会長に敬礼していた。
その気持ちも理解できるくらい、副会長から漂うオーラは疲れきっている。
俺も思わず敬礼した。
「ま、まぁ、とりあえずな。お前らはそんな無茶する必要ないから。ロークラスは基本的に學園の生徒が大半だから、少し先の武闘祭の前哨戦だとでも思えばいいよ」
副会長はそれが気恥ずかしいのか、少し顔を赤らめながらそう言った。
そのとき、メガホンを通した大きな声がテント内に響く。
「定刻となりましたので、出場者の皆様はランクごとの指定位置へと移動してください!」
支柱にかけられている時計を見ると、1時30分に成っていた。
「それじゃあ、いこうか」
副会長がズボンをはたきながら立ち上がった。
「そうですね、行きましょうか」
「今日は君には負けないぞ、ハル!」
「俺こそ、優勝いただきっス!ラァヴ・パゥワァァァァァ!!!」
俺たちもその後に続く。
「恥ずかしいから黙れヒヨコ頭」
「痛ぇぇ!っス!」
とりあえずククリは殴っておいた。
ロークラス第一次予選。
まー…あれだな。予算がここまで回ってきませんでしたーって感じ満載だな。
縦横10メートルの狭い闘技場の四隅に一人ずつ、計四人。
それがざっとみたところ20個前後、このぼろぼろの会場に入っている。
闘技場の上から見渡した感じ、まだ余っているヤツもごろごろいるから、きっとこのブロックが終わっても第二次予選が始まるまで時間がかかるだろうな。
女子も別会場でやっているし、それも考えると、
(超かったりぃ…)
ますます数十分前の自分が言った嘘が疎ましくなる。
「はぁ…」
ため息をつきながら頭を掻く。
この際、さっさと負けてしまおうか。
そうしたら俺は一人で寮に帰って、それこそキチンと修行をしよう。
クロアはアリスに預けておこう。なんか、最近また一層仲良くなったみたいだし。
「…うん、それでいいか」
一人頷く。
と同時に天井に設置されていたスピーカーから、ひび割れた音のアナウンスが入る。
『えー、これより第一次予選Aブロックをはじめさせていただきます。
まず禁止事項に関してです。
審判の命令は絶対、武器の使用は厳禁、また魔法執行可能者による一般人に対する魔法執行は法律で禁じられております。そのため魔法執行可能者の方は、事前に運営委員のほうから渡されている腕章の着用をお願いいたします』
同じステージにいる参加者の腕を見るが、それらしきものをつけている人間は居なかった。
とりあえず、魔法執行可能者(普通は魔法執行人とか、もっと単純に魔導師とか魔法使いとかよばれる)と戦う必要はなさそうだ。
『失格の条件は、自ら敗北を宣言すること、審判が試合続行不可能と判断した場合、及び禁止事項を犯す、以上の三点です。また一次予選におきましては、場外も失格と見なされますので留意のほど、よろしくお願いいたします』
エリアアウトも失格…ね。
手っ取り早く人数減らしたいからだろうな、多分。
まぁ俺としても下手に殴られて負けるよりもエリアアウトで適当に負けたほうが楽だしな。
『それでは、審判の合図で試合を開始です!』
その言葉と同時に何処からとも無く審判が姿を現し、俺ら四人の参加者を見てから
「準備は良いな?」と言う。
参加者はみんな神妙な顔つきで頷く。
…全員俺より年上っぽくない?嫌だなぁ…めんどくさい…。
「おい、君もいいな?」
「え、あ、はい」
審判がじろりと俺を見る。
そして右腕をゆっくりと持ち上げて…
「試合開始!」
一気に振り下ろした。
って、待て。
「う、お、お、おぉぉ!???」
待て、待て待て待て待て。
どうして四人の乱戦で俺が集中砲火?
審判に嘗めた態度とったから?みるからに一番年下っぽいから?
「後者っぽいなぁっ!!」
たかだか3つかそこらしか違わないはずなのに頭一個半分くらいはデカイ野郎のハイキックをぎりぎりの距離だけしゃがんで避けながら叫ぶ。
ていうか、今回の相手、全体的にデカイ気がする。
俺だって同年代ではデカイ方なのに、今のヤツに至っては175以上はありそうだ。
最高でも14だろ?成長期早くない?
「チッ!」
思考をめぐらせる。
最初は適当に負けるつもりだった。
怪しくない程度に攻撃を入れて、受け流して、うっかりっぽくエリアアウトするつもりだったのだ。
なのに、開始と同時にこの集中砲火。
うっかり演じる暇すらない。一発貰ったらボコボココースまっしぐらだ。
当然だが、俺にはわざと殴られる趣味など無い。
負けるつもりだったが攻撃を貰う気はなかった。一発たりとも、だ。
(弱そうなやつから潰す、目的が一致したら敵とさえも手を組むってか)
それは確かに兵法において良策だ。
お互い端から信頼などしていないのだから。
でも、狙われているのが自分なら、それは冗談の種にもならない。
「って、うおぉぉ!!!」
しゃがみこんでいた俺の顔面めがけて繰り出された蹴りを、横に転げて慌てて避ける。
「あっぶね!」
「チッ」
体勢を立て直すと、俺に蹴りを入れてきた浅黒い肌の男が忌々しそうに舌打ちをする。
俺がそのままバックステップで距離をとると、他の三人はその男を中心に集まる。
(いつからテメーらはお友達になったんだよ)
正直うんざりだ。今すぐやめたい。
だけど、何度も言うように俺は本当の意味で敵に負けるつもりなどないのだ。
ましてやこんな姑息な方法で勝とうなどという野郎には、絶対に。
「…気が変わった」
首に手を当て、ゴキリと音を鳴らす。
「適当にやって、エリアアウトで終わらせるつもりだったけど…」
ちらりと隣の闘技場を見る。
そこには必死の形相で戦う金髪の姿が見て取れた。
今のところ、優勢の様子。
「…あぁやって、友達も頑張ってるみたいだし。正直、お前らに負けてやる気がなくなってきたし」
それになにより、
「思い出したけど、俺、負けず嫌いなんだ」
映画か何かで見たのを真似て右掌を上に、人差し指で敵を手招きする。
口元には不敵な笑みを添えて。
「まとめて来いよ、チキン野郎。俺、空手は得意なんだぜ?」
敵の顔が怒りに染まるのを見て、さらに笑みを深くする。
さぁ、真剣勝負だ