Ep19:祭日
どうも乾です。いや、澪です?どっちでもいいか。
最近更新速度が遅くなって申し訳ないです。
学校がそれなりに忙しくて…最近はモンハンどうで●ょうを楽しく拝見したりして時間がなかったりして…。
モンハン小説、とかも面白そうですよね。
ウルの月は、アッチでいう秋に当たる。
梅雨を経る所為か幾分か寒いが、穀物が収穫され国が満ちるこの時期は一年の中でも富んだ季節なのだ。
そして今日、久しぶりに外出許可が下りる休日である。
理由は簡単。
アルノード帝国でも五本の指に入る盛大な祭り、エイファン豊農祭が行われるからだ。
エイファンは軍都だから、農業は盛んではない。
しかし、昔別大陸からの侵略を受け疲弊した軍に、農耕都市であるグスタが無償で食物を提供してくれた。
その感謝を込めた祈祷祭、らしいが、今は形骸化して普通に楽しむ祭りとなっている。
(って言っても俺も来たことないんだけど)
本からの知識だけじゃ、想像は追いつかないと思い知る。
「…すげー」
エイファン中央公園。
普段は幾らかの屋台と散歩する夫婦、ステージでたまに行われるイベントを見に来るカップルや駆け回る子供の姿などしかない、のどかでただ広いだけのイメージだった公園。
それが今や、溢れんばかりの人、人、人。
物凄い熱気だ。
「わぁー!すごいすごい、すごい人ですよハルくん!!」
俺の隣にいるアリスが飛び跳ねながら喜びの声を上げる。
「あ、あぁ、すごい人だな…」
正直引いてしまうくらいに。
そんな本音を察したのか、逆どなりのクロアが心配そうに俺をのぞき込む。
「ハル、大丈夫?貴方人ごみ苦手でしょう?」
さすが幼なじみ、よく分かってらっしゃる。
「あぁ。だけど、みんな楽しみにしてるし…お前だって、そうだろ?」
「え?!いや、別に私は!!」
クロアは顔を赤くしながら否定するが、コイツが祭りとか大好きなのは俺だって知っている。
「だから、大丈夫だよ」
ぽんぽん、とクロアの頭をなでる。
「…そう?」
「うん」
「…うん、ありがとう!」
クロアが満面の笑みを浮かべる。
それが嬉しくて、俺も笑う。
「むぅ…」
すると誰かが俺の袖を引っ張ってきた。
振り返ると、不満げに口をとがらせるアリス。
「どうかしたか?」
「…別に、なんでも」
「は?用もないのに呼んだのか?」
「……」
「…アリス?」
問いかけるが応答はない。
代わりに、
「…はん」
「…!」
鼻で笑うクロアと悔しげなアリスが俺を挟んで睨み合う。
…えぇー?
「お、おい、喧嘩はよせよ?」
多分、俺止められないから。
と、そんなときにタイミング良く一人の女性が俺らに話しかけてきた。
「黒猫ちゃん的にはどっちが本命?」
「ここは大穴ねらいで月曜の女で…って会長!!」
「なぁに?」
「火に油注ぐようなこと言わないでください!」
すると会長はチラリと俺の両隣をみると、
「注いだのは、黒猫ちゃん自身だと思うけど?」
と言ってからまた身を翻してみんなのいるところへと帰って行く。
「まぁ、いつまでも修羅場ってないでさっさとこないとダメよ?」
ひらひらと手を振りながら去っていく会長。
「…それじゃ、俺たちもそろそろ…」
いこうか?と言おうとした俺の口は、二人の般若をみて固まる。
「…月曜の女、って誰?」
「詳しく聞きたいですよね」
あぁ、しまった。
どういうわけか般若が増えてるじゃないか。
クロアだけで十分怖いのに…。
「あ、ちなみに月曜の女はアタシだから♪」
そんなところに爆弾投下。
「「…………」」
盛大な祭り。
みんなウキウキ楽しい気分。
今日は生徒会メンバーとクラスメート+クロアで過ごす休日。
そんな休日は、死の覚悟から始まった。
順意表掲載の日、生徒会を終えて部屋へと帰ってきた俺を待っていたのは、
「ドキドキ・ハラハラクイズDEショー!!どんどん、ぱふぱふー!!!」
「……なにをしているんだ?」
妙なテンションで鼻眼鏡をかけてクラッカーを鳴らすククリと、ぐったりとベッドに横たわるリオール。
その背中が「精根尽き果てました」と切々と語っている。
「では第1問!じゃかじゃん!!」
ククリはそのままクイズを強行する。
「恋とはなんでしょうか?!」
「は?!」
「は、じゃなくて、お答えくださいっス!」
突然、人間にとって一生の難題といっても過言ではない難問をぶつけられた。
恋とはなんでしょうかって、知るかっつぅの。
知ってたらとっくのとうにハーレムの一つや二つ、形成していると思う。
「えっと、なんだろ…一種の精神病?」
どこかで聞いたような答えだが…
「違うっス!ぶっぶー!!」
違うらしい。
「恋とは、ずばり嵐っス!!」
「嵐?」
ククリが胸を張って言う。
「そうっス!突然現れ、一人の人間ごときじゃ抗えないほどの圧倒的力で全てをなぎ払い、常識とかプライドとか全部まとめて心ごと自分の存在を持ち去られてしまうことっス!!」
「そ、そりゃずいぶんと暴力的だな」
「だから辛いし、涙に暮れることもある…けれど!だからこそ、その力は一種の神性すら帯び、人は憧れてやまないっス!!」
「……で、この質問の心は?」
ククリの青い瞳を見つめる。
するとククリはそのサファイアを涙で潤ませながら、僅かに赤面してつぶやく。
「俺……恋をしたっス…!」
そう言うわけで、今日のこの企画、というわけだ。
『一緒にお祝いをしましょう!』という以前のアリスの意見を参考にしてみた。
こうすればある程度アリスの顔も立つし、クロアも連れて行けば文句も言わないだろう、という俺の個人的事情も大いに反映されているが。
重要なのは「ククリと思い人の距離を近づけること」。その一点に集約されている。
現在の配列は、最前列に、
「先輩、来週の学級委員会ですが…」
「来週はあの案件をとりあえずまとめておきたいから、資料のほうは…
「あ、アロームのアメ漬け!!食べたい!買って♪」
「ちょ、アリア、今俺仕事の話してるから…」
「は?今は遊びに来てるんでしょ?ていうかアタシに口答えするわけ?」
「ていうかどうして俺が買わなきゃいけないの?!」
リオール、ライナス副会長、それと会長の三人。
副会長と会長が幼馴染なのは前から知っていたが、副会長が学級委員を兼任しているのは今日はじめて知った。
だから意外にも、リオールと副会長は俺の知らないところでつながっていた、ということだ。
アイツの口からちょいちょい出てきた「信頼できる筋」からの「生徒会での俺情報」は副会長発信だったわけだ。
…いつか、心ばかりの嫌がらせをしてやろう。
最後尾は俺とアリス、クロアの三人。
「ハル!私あっち行きたい!!」
「あ、あっちのステージで歌手のヴァレッタが来るらしいですよ?見に行きましょう♪」
「とりあえず言っておきたいんだが、俺の体は一つなんだ」
両腕から反対方向に引っ張るのはやめていただきたい。
そしてその二グループにはさまれて間を歩いているのが、
「見てみてオリビア!くじ引き1回250Zで5回・1000Zだって!!すごくない?安くない!?5回やるべきじゃない!!?」
「…どうせエミリ先輩、一等のブランドバッグ狙いですよね…?」
「当たり前でしょぅ!5回やれば当たるわよ!!」
「……そもそも、一等が当たると思ってるのがおめでたいからこれ以上おめでたいことは起こらないですね…」
「え?」
「あ、それじゃあオリビア先輩、あれはどうっスか?射的!俺、得意なんっス!!」
「射的…私も、よくやったな…」
「そうっスよね?俺も祭りに行ったら絶対にやっちゃう…
「父さんが、野生のガルー狩りが得意なの……」
「り、リアル射的?!」
「それ射的違うよオリビア!射撃っていうのよ!!」
「そうなんですか…?」
恋のお相手―――黒髪美しい、通称「氷のお姫様」、オリビア=シャーローン先輩に必死のアプローチを繰り広げるククリ。
しかしその努力もむなしく、斜め上の回答を返すオリビア先輩に戸惑い気味のようだ。
順位表掲示日にはじめて会ったオリビア先輩に一目惚れしたらしいが、さすがのククリでもあのオリビア先輩のどこかずれた人柄に慣れるのは多少の時間がいるだろう。
しかし、あのククリの様子をみれば「アプローチをかけている」ってのが分かりそうなものなのに、まるで気付かないでその間をキープするエミリ先輩もなかなか食わせ物だ。
あの人の場合、本気で天然に気付いてなからどうしようもないのだが。
困っているククリが面白いのでほうっておこう。
「―――ねぇ、ハル?聞いてるの?」
「え?なに?」
そんなことをぼぅっと考えていたら、突然クロアから話しかけられた。
「もう、やっぱり聞いてない!いまアリスとビビットの氷菓子が食べたいよね、って話してたんだけど、どこかで屋台みなかった?って聞いたの!!」
「あ、ビビット?そういえば少し前に見た気がするけど」
「まったく…貴方を挟んであんだけ話してたのに、よく聞き逃せるわね?なに見てたわけ?」
「姉様、とかだったりして?うふふ♪」
俺の右側でアリスが口元に手を当てて笑うが、あまり冗談に聞えないので困る。
♪とかつけてもごまかしきれないもの。
「ち、違うって!俺が見てたのは…」
「見てたのは?」
アリスの発言で心なしか機嫌を悪くしたクロアが問い返す。
「み、見てたのは…」
ククリたちを見ていた、とはいえない。
昨日のククリの告白は俺たちの間だけでのトップシークレットなのだ。
その上リオールは「色恋沙汰はパスだ」といって散々ククリにのろけられて、つかれきった顔をして俺に言ってきたので当てに出来ない。
つまり俺が頑張らなければならないのだ。
「みてたのは…」
視線をあちらこちらに走らせて、言い訳となるものを探す。
そして、見つけた。
「あ、アレだよ!」
「あれ?」
「なんですか?」
会長たちが歩く先に見えたでかい看板を指差す。
『豊農祭名物・ガチンコ武闘大会!!各ランク優勝者には豪華商品!!!』
題目の下には小さめの文字で「受付は本日1時まで」と書かれていた。
「1時って、今何時だっけ?」
「えっと…12時半です」
アリスが古びた懐中時計を取り出して時間を確認する。
「出たいの?」
「え?」
「あれ」
「あ、あぁ…」
別に、本当はあんまりなんとも思っていない。
豪華商品だってあんまり信用ならないし、休みの日まで体力使いたくないというのが正直なところだ。
だけど、一旦言い訳に使ってしまった以上、ひっこみがつかない。
「…うん、少し興味ある」
せめてもの抵抗とばかりに控えめの表現にしたが、
「よし、おもしろそうだからやりましょう!私も出たいし!!」
…って言うと思った。
クロアはこういうのが大好きだからなぁ…お嬢様あるまじき血の気の多さだ。
「私は遠慮しておきますね。ハルくんが出るなら、それ応援してます」
アリスは辞退。普通の女の子の反応だと思う。
「なになになにぃ?豪華商品ですって!でるわよ、ライナス!!」
「俺もぉ?!」
「頑張ってください、先輩」
なにやら前のほうでも同じような会話が繰り広げられているようだ。
「あ、なんか会長たちが面白そうなこと言ってる。…出る?」
「せいぜい死なないように優勝商品もぎ取ってきてくださいね、エミリ先輩…」
「えぇ?!!そんなに私が頑張るのぉ??」
オリビア先輩たちも気付いた。
「……でも、優勝商品って本当になんなんでしょね……欲しいな、豪華商品…」
ぽつりと、オリビア先輩が言う。
それをヤツが聞き逃すはずが無かった。
「おおおおお俺!」
「…なに?」
シュバ!と挙手するククリ。
頬を赤らめて、オリビア先輩を見つめながら叫ぶ。
「俺!出るっス!出て、優勝して、商品もぎとってくるっス!!!」
「……エルマー…」
「はいっス!!」
オリビア先輩が微笑んで、言った。
「エミリ先輩なら、いまフリーだから…」
「…はぃ?」
「ちょ、個人情報ぅぅ!!!」
ククリの熱意は伝わらなかった。