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リターン  作者: 乾 澪
21/74

Ep18:宣戦


また長くなっちまいました。

大したこと書いてないのに、だらだらと長くて申し訳ないです。

今回でとりあえずアリス編は終わりです。

 一秒一秒、時を刻む針の音だけが教室に響く。

教室には時間切れを目の前にして最後の見直しをする者、最後のあがきと手を動かす者、何か諦めたようにうつぶせる者、そして…。

(いい天気だなぁ…梅雨ももう、終わりなのかなぁ…)

全てを終えて、窓の外を眺める者。

ウルの月、第2週。

俺たち1年生は、初めての定期テスト期間を迎えていた。



秒針が真上を指したその瞬間、荘厳な鐘の音(エイファン學園のチャイムはリアルに純金のでかい鐘だったことには驚いた)が響き渡る。

その瞬間、斜め向かいに座る馬鹿(ククリ)が諸手を振り上げて立ち上がる。

「おーーーーわったっスぅぅぅぅーーーーー!!!」

目に涙を浮かべて笑っている。

相当苦しい戦いだったのだろう…。

そんなククリを眺めながら、列最後尾の俺はテスト用紙を回収しながら教壇へと持っていく。

「…先生。起きてください」

「グゥ」

が、そこで試験監督をしていたはずの担任は、ものの見事に熟睡中。

「…あ!アンノウン・フライング・オブジェクト!!」

「略してUFO!?」

俺の大声に反応して飛び起きた。

ていうか、どうしてこういう下らない嘘で起きるのに、何回叩いても起きないんだろうこの人。

「嘘です。テスト終わりました」

「え、なに、テスト?テストってなに?ていうかUFOは?あれ?UFOは?」

「だから嘘です。これ、置いておきますね」

寝ぼけている担任は放っておいて、教壇にテストの束を置いて立ち去る。

他の列の回収担当も俺に習って置いてさっさと席へと戻っていく。

「あれ?……ネッシーは?」

ネス湖にいます。

「ハル!ハル!!」

そして席に戻ると、真っ先にククリが駆け寄ってきた。

「おぉ、ククリ(ばか)

「…いま、馬鹿っていったっスか?」

あ、ルビ振るほう間違えた。

「…聞き間違いじゃないのか?それより出来はどうだった?」

「どうでもいいっス!今大事なのはテストが終わった、この事実っス!!」

「そうかい」

そして今週末、結果が返されたときにお前は落ち込むんだな。

本人がソレを望むのなら、放っておいてやるのが友の役目か。

「…そうだ「そんなことを言っているから君はダメダメの愚か者なんだ、ククリ」な…」

と思っていたのに、そこにやってきたリオールの横槍がズバっとククリを突き刺す。

「今はそうやって結果から逃げていればいい。だがどうせ、今週末に出される結果で君は現実と向き合わなければならないんだぞ」

「そ、それはそのとき向き合えばいいっス!今くらい逃げさせて欲しいっス!!」

「ダメだダメだ!どうせその時になったら君は結果に落ち込むばかりで反省する余裕すら無いに違いない!テストの見直し…つまり反省をするのは早いに越したことは無い。

今日は早上がりだ、今日こそチャンスだ、さぁ、すぐに帰って反省勉強会を開催するぞ!!」

…うわ、すごい。

久しぶりにリオールの背中から暑苦しい炎が見える。

ちょっと離れよう。

「う、うぅ、嫌っスぅ、リオ暑苦しいっスぅ、寄らないで欲しいっスぅ…!」

ククリも顔をしかめて後ずさり。

「ダメだ!コレは駄目な君を友として更正させてやろうとする愛だ!!愛とは重いものだ、痛いものだ!!さぁ、行くぞククリ=エルマー!!!」

ククリににじり寄るリオール。

本当にめんどくさいヤツだな。言ってることは正しいのに…。

「い、嫌っス!!あ、アリス、助けてっスぅ!!」

それに耐え切れなくなったククリが、少し離れたところで女友達と話していたアリスのほうへと逃げ出していく。

アリスは少し驚きながら、涙目で逃げ込んできたククリを苦笑しながら慰めている。

「あ、コラ、ククリ!逃げるな!」

リオールがそれを追おうとするが、

「はい、ストップ」

とりあえず肩を掴んで引き止める。

「離せハル!君とて友に馬鹿なままでいてほしいわけじゃないだろう!?」

「だからって嫌がるところに無理やり公式頭を叩き込んでやるほど鬼じゃないよ、俺は」

「む…」

顎に手を当てて考え込むリオール。

そして数秒考えてから、

「…それも、そうだな。まぁ明日は振り替え休日だしな。明日までは見逃してやるのもやぶさかではない」

「あぁ。じゃあ明日は俺の部屋で勉強会だな。あ、だったらついでに組み手やらないか?この間の授業で習ったやつを実戦してみたいんだ」

「そうだな、面白そうだ。今のところ20戦7勝11敗2引き分け…ふん、明日は勝たせてもらう。近接戦闘なら僕に分があるからな」

「お手柔らかに頼むよ」

「さぁな」

そういってリオールはニヤリと笑った。

「……それと、リーンのことだが」

「アリス?」

リオールの視線がアリスたちのほうへと向けられる。

それに習って俺もアリスを見る。

「元気になったじゃないか。以前君が言っていたような、何か悩んでいるような落ち込んだ様子は見られない」

「あぁ。よかったよ」

「君が半裸で寮に帰ってきたときからだな」

「……」

そう。

あのあと、俺は何とか誰にも見つからずに寮へと帰り着いた。

が、寮に入ってからも誰にも見られず、なんてうまいことはなく。

寮の談話室にいたリオール含む男子集団にバッチリ見つかってしまったのだ。

まぁ、タイミングよく女子が一人もいなかったことだけが救いだが。

「…だから、何回も言うがアレは会長に身包み剥がれたからで…」

「僕が聞いた話では、生徒会から逃げ出した時点ではシャツはまだ着ていたらしいが」

「どこ情報だよそれ!?」

「信頼できる筋からだ。君は確かに襲われていたが、まだ服は纏っていた、と」

「……」

それは確かに事実だ。

最終的に俺の身ぐるみをはいだのはアリスだし。…そういえば、あのシャツ結局どうしたんだろう。

「…捨てたんだよ、余りにボロボロだったから」

「だからって半裸で帰ってくる必要は無いと思うがな。君らしくも無い」

「……」

「アレ以来元気になったリーンは、関係ないんだな?」

「…少なくとも、俺が半裸になったこととは、関係ないよ」

「君が関係しているのは否定しない、と」

「………」

黙り込む俺を見て、リオールが零すように笑う。

「本当に君は、おせっかいだな。それにトラブル体質だ。僕はどうにも、嫌な予感がするんだよ」

「何に?」

「あの、元気はつらつ、とでも言わんばかりに輝くリーンの笑顔に」

アリスを見る。

確かに、ククリと女友達と話すアリスはとても元気だ。

それにあいまって、その笑顔はとても輝いている。

「…なんで?いいことじゃないか。可愛いし」

ちょっと前の落ち込んでいたアリスよりよっぽどいい。

「…君は、本当にそういうところは反省しないな」

しかし、リオールは呆れたように俺を見てため息をつくだけ。

「は?何を反省するんだ。アリスが元気になった、いいことじゃないか」

「そうだな。確かに。否定はしないよ。君のそういうところも、美点の一つなのだろう」

「???」

「…君も大変だな」

リオールがある方向を指差す。

アリスが笑って俺に手を振っていた。

俺も手を振り返すと、ククリが眉をひそめて俺とアリスを交互に見る。

そしてリオールのほうを見て、肩をすくめるジェスチャー。

リオールも肩をすくめる。

「…なんだソレは、なんの暗号だ」

「それが分かってないから困るよな、という意思疎通だ」

「…」

にわかに、俺も嫌な予感がしてまいりました。









―――数日後。

週末になった。

つまり今日はテスト一斉返却日であり、教員が作成した学年順位表が掲示される日だ。

「……俺、何で生きてるんスかね…」

テスト返却が終わり、学年順位表を見に行く途中、隣を歩くククリがつぶやく。

ちなみに一教科目のテストが帰って来てから初めての発言だ。

「あ、しゃべった。生きてるっていうか、さっきまで軽く死んでたけどなお前」

「僕があんな点数をとったら恥ずかしくて生きては行けないな。関心に値する」

右隣のリオールの言葉がククリを貫く。

「……あれぇ?おかしいっス、目から汗が…」

笑いながら大粒の涙を流すククリ。

「それ、涙っていうんだぞ」

ハンカチを取り出して、頬を伝うククリの涙をぬぐってやる。

「それで、掲示されているのは魔法科クラスの前でいいんだったな?」

そんな俺らを置いてさっさと前を歩くリオールが振り返りながら俺に尋ねる。

「あぁ、うん。そう。全学年それぞれの学年の魔法科クラス前掲示」

「だったらそろそろ……あぁ、あの集団か」

「うわ、すごい人ごみ…俺、人ごみ苦手なんだよな」

数メートル先の魔法科クラスの前は凄いことになっていた。

まぁ、入学して最初のテストで皆気合い入ってるし。

600人全員集まっているとは思わないが、その人ごみは押し合いへし合いの大騒動になっていた。

アッチの満員電車を思い出すな…。

「おい、これは何だ。生徒会として少し秩序立てた方がいいんじゃないのか?」

顔をしかめたリオールが俺に言う。

「そうだなぁ…確かにこれは頂けない。っていっても、俺みたいな新米の言うこと聞いてくれるか分かんないけど…」

会長の言葉なら、みんな黙って聞くだろう。

あの人はだいぶ危ない人間性の持ち主だが、人を動かす力はある。なんとなく、そう感じる。

「そんなことないっスよ。見た感じ、後援会のメンバーも割といるし、一声かければ多分あの人たちがうまいことやってくれるっス」

と、いつの間にか復活したククリ。

コイツの良いところはへこんでも膨らむのが早いところ。悪いところでもあるな。反省しない。

「後援会?何だそれは」

「生徒会執行部後方支援会、略して後援会っス。生徒会の下部組織なんスから、ハルは知ってるっスよね?」

「あ、あぁ…」

後援会―――彼らには沢山世話になっている、と会長が言っていた。

エイファン學園は規模が大きくとてもじゃないがあの人数の生徒会では回しきれない。

そこで余った書類整理や決済がいらない雑務などをこなしてくれるのが、後援会。

生徒会に入るにあたって俺も一度挨拶にいったことがあるが……。

「…俺、正直あんまり得意じゃないっていうか…」

そう逃げ腰で言う俺に、リオールがしかめっ面を近づけて来た。

「君はあの原始状態とでも言わんばかりの無秩序を放置すると?君のつまらない好き嫌いで?

悪いが僕は使える物は何でも使う主義なんだ。それが君の能力であるなら、使わせるまでだ」

「ど、どうやって?」

リオールがにやりと笑う。

「首筋」

その単語を聴いた瞬間、体がびくりと震える。

「君、首筋が弱いんだろう?」

「ななな、何の話だ!?」

「分かっているんだ。今までずっと君を見て来た…勝つために。弱点はないのか、あるとしたらどこなのか…」

リオールの台詞にどこからか奇声が上がった気がするが、気にする余裕はない。

「そして気づいた。君はズバリ首筋が弱い!」

「う、ぐぅ…」

「ついでに耳も!」

「ぬぬぬ…!」

ばれてーら。

完全にばれてやがる。

どうしてだ、いつバレた、どうしてバレた。

脇腹も足の裏でさえもくすぐられたって大丈夫なのに、首筋と耳だけは耐えられないことに何故気づいた。

クロアにさえ気取られなかった俺の弱点なのに…!

「さぁ、ハル。二択だ」

リオールが眼前に二本の指を突き出す。

「苦手な食べ物を我慢して食べるか、食べずに体調不良で死ぬか」

死、と言うとき空いているリオールの右手がワキワキと動いた。

「行きます!言います!食べますから、許してください!!」

「それじゃあ行きたまえ」

「はい!」

俺、涙目。

(しまったなぁ…どうしてバレたんだろう…)

そう想い、ため息をついてから気合いを入れ直す。

そして、

「生徒会執行部のハル=アルエルドです!今よりこの場では私の指示で動いていただきます!なお、この場にいらっしゃる後援会の方々は、人員整備のご協力の程よろしくお願いします!!」

と、高らかに叫んだ。

無論、集まっていた生徒の視線は一斉に俺に注がれる。

それと同時にあちらこちらから叫び声のような物が上がった。

「いやぁぁぁーーー!!ハル様よぉぉぉおーーーー!!」

「なななな生ハル様!あ!リオ様もいらっしゃるわぁぁぁぁーーーー!!!」

「うぉぉぉぉ!!俺の嫁ktkr!!!!結婚してくれぇぇぇぇぇ!!!」

「あぁ、今黒猫様と目が合った!ほらほらほら、そこの愚民ども、さっさと黒猫様のご指示に従いなさい!!!」

……これが、嫌だったんだ。特に三番目の人とか。

生徒会執行部後方支援会―――実情は、生徒会メンバーをアイドル視した生徒たちによるファンクラブのようなものだ。

なんだかんだいって仕事に関しては有能なので会長も黙認(というかアレは多分楽しんでる)しているが、時折行き過ぎた行動が見られるので俺はあまり好きではない。

お世話になっている身としては、あまり強く言えないのだが。

とか考えている間にも、あれほどのカオスがあっという間に整備されている。

やはり有能だ。

「あーえっと、皆さんご協力ありがとうございます。後援会の皆さんにも感謝します。

それではその列を維持したまま、順番に順位表をご確認下さい。何かございましたら私の方までどうぞ」

少し大きめの声で生徒の列に言ってから、順位表の方へと行く。

後ろにはちゃっかりククリたちも着いて来ている。

「…思った以上の反応っス。やっぱりハルはたらしっス」

「俺は何もしてない。生徒会入ってれば誰でも良いんだろ?ていうか俺のおかげでさっさと見られるんだから感謝の一つでもしろっつーの」

「礼を言う。…それより、さっき何故だか僕の名前が挙がったが、アレはどういうことなんだ?」

「知らなくていい世界もこの世にはあるっス」

遠い目をして言うククリをリオールがいぶかしげな目で見る。

と、そんなこんなで順位表の前へと辿り着いた。

辺りをうかがうが、その辺りも俺らを伺っているだけで話しかけて来りはしない。

放っておいていいだろう。

「それで、俺はどこにいるっスかね〜」

「お前はアッチから見た方が早いだろ」

「アッチ?」

俺が指差す方向を見るククリ。

「一番右の表が501位から600位、つまり最下位まで。そこになかったら隣だろ」

「………う」

「う?」

「うるせーーーーっスーーーーーー!!!」

そして泣きながらククリは指差す方へと走っていった。

「自分でもさすがにその自覚はあったか、アイツは」

「みたいだな」

リオールと二人、その背を見送ってから俺たちは左の方へと歩いていく。

一番左の表…つまり、1位から100位まで。

「…10位…ふふ、まぁ最初の試験にしては上出来か」

とかいいつつ顔がにやけているぞ、リオール。

やっぱりツンデレか。

「お前、数式学以外はかなり良かったからなぁ」

「ふん、まぁ目標はいつでも一番だが、そう簡単にとれても詰まらないからな。それで、君は何番だったんだ?」

「…上、よく見てみろよ」

「なに?」

リオールの1つ上。

つまり9位には、

「リーンか、なかなかやるな、彼女は」

アルセリス=リーンの名前が。

「じゃなくてその一つ上!」

そしてそのさらに1つ上には、

「ん?………あぁ、誤字か」

「事実だ!真実だ!俺が8位なんだ!!」

ハル=アルエルドの名が神々しく輝いていた。

「……」

満足げに浮かべていた笑みを消し、リオールは苦々しげな顔をする。

「どうだ、8位だぞ、お前の2つ上だぞ、凄いだろ!!敬ってもかまわないぞ!!」

「く、くそ…何故だ、何故君とそんなに差が開いた…!」

「俺はアリスと数式学の猛特訓を二人でしたからな。その差だろ?」

「まさか、君の女癖の悪さが原因で負けることになるなんて!!」

リオールがガックリと膝をつく。

「って違う!そうじゃない、もっと爽やか!!ていうかもっと素直にほめろよ!!!」

俺が言ったそのとき。

「うん、すごいじゃない」

背後から聞き慣れた声がして振り返る。

「だけどね」

そういって灰色の瞳の少女はある一点を指差す。

「私、2番」

満面の笑みでクロアが俺に言った。

「…え?」

「2番。私が」

順位表、上から2番目を見る。

『クロア=キキ=ランバルディア』

その上には

「マリーナ=エレアノ:魔法科 20組」と書いてある。

そしてその上には何もない。つまり、クロアは本当に2番、ということになる。

「お前、がんばったなぁ」

振り返り、目を輝かせて俺を見上げるクロアに素直に言う。

「でしょう!!」

「あぁ。600人中2番はすごいよ。なぁリオール?」

隣で腕組みして立っているリオールに尋ねる。

「そうだな。でもまぁ、ランバルディア嬢が俺より優秀なのは分かっていたことだ。入学式の挨拶も、最初はランバルディア嬢に依頼されたらしいし」

「え?そうなのか?」

クロアはこくりと頷いた。

「うん。でもその話されたのが入寮した前日よ?夕食の前にパパから言われたけど、さすがにめんどくさいし」

「ふーん…」

入寮前日の夕食前っていったら、ガイがアフロ頭になった日だよな。

そんな会話があったなんて知らなかった。

「まぁ、うちの学校の場合、親の地位もかなり関わってくるからな。父上は位こそ大佐だが、知名度があるから代わりに僕が選ばれたのだろう」

「そっか。…クロア」

「うん?」

「やっぱりお前ってすごいヤツだな」

俺がそう言うと、クロアの顔がパッと笑顔になる。

「本当に!?」

「あぁ。幼なじみとして鼻が高いよ」

と、クロアの頭を撫でる。

「えへへ…」

それをクロアも嬉しそうに、けど少し恥ずかしそうに頬を赤らめながらそれを甘受する。

「本当に、すごいよ。お前は」

「は、ハルも…」

「ん?」

「あの、ハルも―――」

クロアが俺に何か言おうと顔を上げた、その瞬間、

「ハルくん!!」

俺の脇腹にものすごいタックルがかまされた。

「う、ぉ!?」

一瞬よろめくが、相手が軽かったのと、

「おっと」

とリオールが支えてくれたのでなんとか踏みとどまれた。

「ハルくんおめでとうございます!!」

「アリス?」

突然抱きついてきたのはアリスだった。

何か言い掛けていたクロアはぽかんと口を開けて突っ立っている。

アリスは抱きついたまま、俺を見上げて言う。

「ハルくん8位ですよね?凄いです!!」

「いや、アリスだって9位だろ?同じようにものだよ」

「じゃあ、ハルくんと2人で数式学特訓した効果ですね」

クスクスと笑うアリス。

俺も

「そうだな」といいながらアリスの頭をなでる。

「あっ!?ちょ、アリ

「そうだ!今度の休み、お祝いに2人で外に遊びに出かけませんか?」

アリスはそれを嬉しそうに受け入れながら、笑顔で俺に提案する。

「アリス!?貴女なにをいって

「久しぶりに街にでるのも良い思うんです!」

「2人で?だったらリオールとかも誘って…」

俺がそう言うとアリスは少し困った顔で、

「えっと、その方が楽しいとは思うんですけど、この間のお礼もしたいので…」と言った。

「あぁ、お礼なんて別にいいのに」

「この間って何

「いえ、私がしたいんです!!」

グッと顔を近づけるアリス。

その顔はまさに真剣そのもの。その真剣さに俺は思わず……。

「わ、わか―――」

わかった。

そう了承しようとしたとき、

「だぁらっしゃぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!」

未だ抱きついたままだったアリスを、クロアが気合いの叫びを上げて俺から引きはがす。

「さっきから黙って聞いてればねぇ、ふざけたことばかり言うんじゃないわよアリス!!」

その表情はかなり鬼気せまっている。

「ランバルディア嬢はかなり口を挟んでいたと思うが…」

リオールがそういうと、

「そうよ!口はさんでるのにアリスがごちゃごちゃ言うから、ハルまで届きやしない!」

とリオールをにらみつけてから、

「貴女、わざとやってたでしょ?」

今度はアリスに睨みを利かせる。

が、アリスは「何のことですか?」といってプイっとそっぽを向く。

「あ、貴女…ちょっと前までハルのことそんな風に見てなかったじゃない!」

「そんな風って、クロアちゃんみたいにですか?」

ちらっとクロアに流し眼をよこすアリス。

「…そ、そうよ!!」

それに対してクロアはそう言うと、俺の前に立ち誰かから守るように両手を拡げて俺をその小さな背で隠す。

「私とハルは貴女よりよっぽど強い絆で結ばれてるの!幼なじみとして、色仕掛けに引っかかるのを黙って見逃すことなんてできないし、したくないの!!」

「つ、強い絆って、恥ずかしいなオイ」

うれしいけど、そういうのは本人のいないところで言ってほしい。

聞いてて顔が熱くなってきた。

「ね、そうよねハル!?」

その上確認取ってきた。

振り返ったクロアは強い視線で俺を見る。

「そ、そうか、な?」

「ね!」

「う、うん」

その返事にうれしそうに笑ってから、クロアはまたアリスをにらみつける。

「これで分かったでしょ!」

「な、なにがですか?」

「私の許可なくハルを連れ出すのは認めません!」

「なんでですかぁ!?」

「なんでもよ!ダメったらダメ!!」

「そ、それってハルくんが私よりクロアちゃんと仲がいいからですか?!」

「それもある!それ以上でもある!!」

「む〜…」

「うー…」

唸って、にらみ合う二人。

…なんだこれ。どんな修羅場だよ、これ。

単に遊びにいく約束してただけなのに…。

「り、リオール?」

助けを求めてリオールがいるであろう方向を見る。

が、いない。

(また逃げたアイツ!!)

見渡すと、遠くでしゃがみこんでいるククリのそばに、アイツはいた。

そして俺の視線に気がつくと、グッと親指を立てる。

(「がんばれ!」)

口パクで応援されたが、

(何をどう頑張ればいいの?!)

俺には分からない。

「…それじゃあ、クロアちゃん」

「なによ」

女の戦いはまだ続いていた。

「ハルくんの弱点が…」

といってアリスはおもむろに俺に近付いてきて、

「あ、ちょ」

「ふっ」

止めようとするクロアの手を掻い潜って俺の耳元に息を吹きかけた。

「うわっっ!!」

ゾクゾクゾク、と背中に何かが走り、反射的にバックステップで距離をとる。

息を吹きかけられた右耳は、まだゾクゾクの余震が残っている。

「ななななな何するんだよぉ!?」

「ふふ、ハルくん可愛い♪」

アリスはそう言って、また会長によく似た笑みを浮かべた。

そしてクロアはというと、

「は、ハル?」

俺の過剰な反応を見て驚いている。

「…その様子だと、ハルくんが耳弱いってこと、知らなかったみたいですね?」

「え、えっと、それは…知ってたわよ!」

「嘘はいけないぞ、クロア」

「……知らなかった…なんで教えないのよぉ!!」

「弱点教える馬鹿がいるか!!!」

「じゃあどうしてアリスは知ってるの?!」

「え?」

そういえば、なんで知ってるんだろう。

アリスを見る。

するとアリスはくすりと小さく笑ってから、

「さっき、リオールくんたちとの会話、聞いてたんです」

と俺の耳元で答えをささやいた。

「っ…!」

それがまた、くすぐったい。

「…と、いうわけで。年月がものをいうわけじゃないってこと、わかってくれました?」

「だ、だからって駄目よ!認めません!幼馴染権限で認めません!!」

「それってズルイですよ!だったら私だってクラスメート権限使います!!」

ていうか、その権限っていうのはどこまで通用するものなんですか?

あぁ、すごく嫌な予感がする。

具体的に言うと、「じゃあハルに決めてもらいましょう!」とか言われそうな…ていうか、今言われた?

「え?」

「え、じゃなくて、ハルはアリスと遊びに行きたいの!?」

「行きたいですよね!」

「私が嫌がっても!!」

「行きたいですよね!!」

「えぇー?」

これって何が正解なんだろう。

うわ、すごく逃げたい。

果てしなく逃げたい。

「ハル!」

「ハルくん!」

「アルエルド」

「お、俺は…!」

…って、ちょっと待て。

「アルエルド」

「お、オリビア先輩?!」

ふと気付くと、すぐ隣にオリビア先輩が立っていた。

「君を探していたから、連れてきた」

振り返るとリオールとククリもいた。

「ど、どうかしましたか?」

「どうかしましたか、じゃない。今日の放課後、生徒会って言われてた…」

「あ」

思い出した。

そういえば、テスト期間中たまった仕事を今日から片付ける作業に入るところだったのだ。

「遅いから迎えに行けって、会長が」

「す、すいません!俺うっかりしてて!!」

「大丈夫…」

オリビア先輩がその無表情な顔に、うっすらと笑みを浮かべる。

「修羅場ってて遅れましたって、会長にきちんというから」

「言わないでくださいぃぃぃぃぃ!!!」

たぶん、恰好のおもちゃにされるから。

「ちょ、ハル、この人だれ?」

クロアが聞いてきたので、「生徒会の先輩」と答える。

そして気づいた。

「そ、それじゃあ俺は仕事だから!」

「え?」

驚いた顔をするクロアとアリス。

「生徒会行かなきゃだから!さ、行きましょうオリビア先輩!!」

それを無視して、オリビア先輩の手を掴んで歩きだす。

「あ!」

「あぁ!」

「あぁぁっス!!」

不満そうな叫びが聞こえるが無視だ無視。

「それじゃあ、またな!!」

そして俺は全速力でその場を逃げ出した。




生徒会本部前。

「あぁー、疲れた」

「…あわてすぎ」

やっと辿り着いた安住の地を目の前に、俺はようやく走る足を止めた。

「だって、あれ以上あそこにいたら俺の胃がもちませんって」

「自業自得」

「なにもした覚えないんだけどなぁ…」

そして扉を開けて、

「こんにちは、遅くなりましたぁー」

といって教室に入る。

まっさきに反応したのは会長。

「おっそいわよ、黒猫ちゃ…」

次がエミリ先輩。

「一番後輩が遅れるってどういうこ…」

そしてライナス副会長。

「まぁまぁ、何かトラブルでもあったのかも…」

みんな一様に、俺を見てから言葉を止める。

「…?なんですか?」

にわかに輝き始めた会長の瞳に嫌な予感がする。

「黒猫ちゃん…」

「はい?」

そして俺の右手を指さして、

「君はどこまでハーレムの輪を広げる気なの?!」

「え?」

自分の手を見る。

「あ」

オリビア先輩とがっちり握られていた。

「い、いや、これはなんでもなくって!」

「…アルエルドが、離してくれなくって…」

「えぇ!?」

オリビア先輩が恥じらったように顔を赤らめる。

しかし俺には見える。

その口元に浮かんだ悪魔の微笑を。

「…黒猫ちゃん?」

会長が、静かに言う。

「は、ハイ!!」

「あのね…」

「はい!!」








「月曜日なら、私あいてるんだけど?」

「日にちごとに女変えてるとかじゃありませんからぁぁぁぁぁぁ!!!!」






そしてそのころ。

「…逃げた」

「逃げられましたね」

「アイツ、都合が悪くなるといっつも逃げるんだから…!」

「でも、大事な時にはちゃんと助けてくれますよね?」

「そうなのよ!だからカッコいいのよ!!」

「ですよねぇ。カッコいいんですよ、本当に」

「……宣戦布告、と受け取っていいのね?」

「はい。あ、でも、友達でも居たいと思ってます」

「ふん、そこまで小さい女じゃないわよ」

「はい。それじゃあ、これからよろしくお願いします」

「…負けないわよ!」

「こちらこそ」

女の戦いの火ぶたが、切って落とされたのだった。


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