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リターン  作者: 乾 澪
19/74

Ep16:修羅


クロアは本当に落ち要因に成り下がってしまいました。可哀想に。

近いうちにクロア編も書く予定ですが、そこはちょっとした山場なのでもうちょっと先になりそうです。可哀想に。

 総合体育館で行われている全学年の同じ組同士で行われる戦闘訓練。

隔週で行われるこの授業は、実力の高い上級生と手合わせできる数少ない機会であり、クラスのみんなも前々から楽しみにしていた。

実際、俺もクロアやガイ、リオール以外の実力者と戦えるのは楽しみだったのだが…。

「はぁ…」

気乗りがしない。

(アリス、絶対なんか悩んでるよなぁ…)

俺の喉下を狙った模造刀を右手に握った模造ナイフで払いながら数日前の出来事を思い出す。

不安に揺れるような瞳。ソレを隠すかのように浮かべられた笑顔。

あれは本心を隠す笑みだ。

あの頃は気付けなかった、兄貴の笑顔と同じ。

(俺に何か出来るなら、どうにかしてあげたいけど)

アリスのことだ。

自分から悩みを打ち明けてくるようなことはないだろうし、ストレートに聞いたってわかりもしないだろう。

(どうすればいいんだろう…)

「このっ、ガキがちょこまかちょこまかと…!」

左肩から袈裟懸けに切りかかってきた剣をバックステップで避ける。

(どうすればアリスは…)

「動くな、って、クソッ!当たれよ!!」

苛立っているのか、もはや戦略も何もあったものじゃない。

でたらめの軌道を描いた剣が俺に向かって振り下ろされるが、そんなものを避けるのは造作もないことだ。

(アリス…俺は…)

「いい加減にしろよ、このクソガキがぁっ!!」

「…るせぇな、ごちゃごちゃごちゃごちゃと…」

そう。

こんなちゃちな攻撃を避けることなど造作もないことだ。思考の妨げにもなりえない。

だが、さっきから至近距離でくっだらないことを汚い声で延々と叫ばれたんじゃあ、落ち着いて考え事など出来ない。

「当たらねぇのはアンタの剣術がヘタクソだからだ!」

無防備に突き出された剣を握る相手の右手首を、思い切り柄で殴る。

「うぐっ!!」

痛みに耐えかね、相手は剣を床に落とす。

「動くなって言われて攻撃避けない馬鹿なんているわけねぇだろ!!」

相手がひるんでいる隙に、懐に入り込み、足払いをかける。

「あとアンタ悪口のレパートリー少なすぎ!頭悪いんじゃねぇの!?」

そして倒れこむ相手に馬乗りになり、左手に握る剣先を顔面に振り下ろし―――。

「……以上、後輩からの提言でした」

―――眼球に突き刺さる寸前で停止させる。

「あ…ぁ……」

「…えっと、すいません。ちょっと本気になっちゃいました」

あまりにアンタが煩かったもので、とは言わないが。

「大丈夫ですか?」

立ち上がり、相手に手を差し出すが、腰が抜けているのかなかなか立ち上がらない。

それを見かねたのか相手の友人二人が「おい大丈夫かよ!?」とか言いつつ闘技場に上がり、相手を両脇から抱えあげて退場していった。

「……もしかして、やっちゃった?」

「もしかしなくてもやっちゃってるっスよ馬鹿野郎!!」

「あ、ククリ」

その三人組とすれ違うように、リオールとククリが闘技場のすぐ傍によってくる。

「君は何をやってるんだ?あれ、確か3年生だろう?まったく…」

「そうっスよ!先輩相手に何喧嘩売るようなまね…!」

「もうちょっと旨いこと勝てよ。あれじゃあ一応先輩としてのプライドとかあるだろうに、丸つぶれじゃないか。まぁ、あの実力じゃあ仕方のないことだが」

「そうじゃないっス!そういうことじゃないっス!!あぁ、嫌っス…俺まで先輩に目を付けられるのなんて嫌っスぅ……」

がっくりと膝をつき、うなだれるククリ。

俺は闘技場を下りて、その肩に手を置いて「ま、落ち込むな」と声をかける。

「うるさいっス!誰の所為っス!!」

「ていうか、まだ目付けられるか分からないし」

「あんな生意気な勝ち方したら、目を付けられるに決まってるっス…」

「まぁ、確かに君にしてはあの勝ち方はおかしい。君ならもっと波風立たせず勝てただろう?」

リオールが俺を見る。

「…まぁ、な」

「何があった?試合中もずっと何か考えていただろう。不謹慎なことに。あれが余計相手を苛立たせたんだろうが」

「ん……」

言おうか、言わまいか…。

「言え」

「命令かよ!」

「僕がお願いすると思うか?」

そういって、不適に笑うリオール。

「…あの、さ」

「あぁ」

「なんっスか?」

俺は、アリスのことを話すことにした。




二人に相談した結果。

やはり、原因は分からなかった。

アリスの身の回りにこれと言ったトラブルもなさそうだし、ましてや人の心だ。そう簡単に把握することなどできない。

だからまぁ、とりあえずは様子見で、できるだけ元気づけていく方向でいいんじゃないか、ということになった。

魔の更衣室を出て、教室に向かう廊下で一人つぶやく。

「元気づける、ねぇ」

それがまた難しい気がするのだが。

具体的に何すれば良いんだろう。女の子を元気づける、なんて言う経験はほとんどないのだが。

あっても対幼なじみ用。あまり役には立たなさそうだ。

「あれ?」

と思っていたら、前を歩くアリスの姿。

タイミングよすぎたろ。何かしらの陰謀を感じる…。

「アリス」

とりあえず声をかけてみる。

「あ、ハルくん」

振り返ったアリスは、またあの笑顔を浮かべていた。

「……アリス、お前またなんかあったのか?」

「え?な、なんのことですか?」

「作り笑顔。へたくそにも程がある」

といってほっぺを引っ張る。

「ちょ、ひゃるくん!?」

「やっぱ、お前なんか最近へこんでない?さりげなく元気づける作戦だったけど…悪いな、俺そんなに器用じゃないみたい」

「あ、あやまらなふていいでしゅへど、しょりあへず手、ひゃなしてくだしひゃい!!」

「何言ってるか分かんないから離さない。アリス、変な顔」

「わかってるじゃないれひゅか!!」

「じゃあ何でへこんでるか言わないから離さない」

「ひょんなのじゅるい!!」

「ずるくて結構。…で、何でへこんでるわけ?」

「………」

「離すから、言ってみな」

アリスの両頬から手を離す。

アリスは少し赤らんだ頬を撫でながら、うつむいて気まずそうな顔をする。

「…さっきの戦闘訓練で、負けちゃっただけです」

「アリスが?珍しい…誰に負けたんだよ」

「5年生の先輩…」

「5年?なら、そんなにへこむことでもないだろ。そもそも体格が違いすぎる」

そう俺がフォローするが、アリスは納得いかないのか俺のその台詞に食って掛かる。

「私は弓使いです。体格は関係ありません!」

「あるだろ。瞬発力だって筋力だってアッチの方が上だ、広いフィールドならともかく、あの闘技場の狭さじゃ限界があるよ」

「じゃあハルくんは?」と、アリスが顔を近づけてくる。

「え?」

一歩下がりながら聞き返す。

「だから、ハルくんは今日どうだったんですか?!」

が、アリスはさらに近づいてくる。

(なんでこんなに近いんだろう…)

「ねぇ!」

「さ、3年の先輩に…勝った、かな?」

「…ほら、勝ってる。先輩に。やっぱり体格とか年齢とか、関係なかったんです。単に私が弱かったから負けたんです」

むすっとした顔をするアリス。

なんだか今日は、どうにも子供っぽいな。

「3年と5年じゃだいぶ違う。そもそも俺が先輩に勝てたからって、お前が弱いっていう結論にはならないだろう?」

「……でも、姉様は…」

「姉様?会長が?」

「…………なんでもないです。そういえばハルくんも姉様の回し者でしたし」

「な、なんだそりゃ!?」

「そのままの意味です。こんな嫌なこと言う子の相手が嫌になったのなら、さっさと姉様のところ行けばいいじゃないですか」

そういうとアリスはさっさと一人、教室の方向へと歩き始める。

「おい、なんだよそれ、俺は今お前と話してるんだろ!ていうか質問に答えてない!!」

それを慌てて追いかける。アリスの歩幅は狭いから、いくら急いで歩いたってすぐに追いつく。

「だから、先輩に負けたからへこんでるんです、それ以上でも以下でもないんです!」

「それじゃあこの間の数式学のヤツはなんなんだよ、あのときからお前変な感じじゃないか!!」

「目の錯覚じゃないですか?あぁ、そうじゃなかったら私はいつもそんな風に暗い子なのかもしれませんね!!」

「だ、誰がそんなことを言った?!お前は明るくて可愛くていいヤツだ!自分を卑下するな、みっともない!」

「は、はぁ?!ななな、何を急に変なことを言ってるんですか、は、恥ずかしい…!あぁほら、魔法科棟はそこ右ですよ、生徒会本部はそっちじゃないんですか!」

少し顔を赤らめたアリスがそう言って右手を指差す。

「俺は会長に会いたいんじゃない、何度言ったら分かるんだ!ったく、こっち向け!!」

その右手をつかみ、無理矢理アリスと視線を合わせる。

「やめ、やめてください…私、本当に何でも…」

「何でもない、心配いらないって…もしくは、気持ち悪いから二度と近づくんじゃねぇよこのクソ豚野郎、って俺の目を見て言ってみろ。そしたら、おとなしく撤退する」

「ハル、くん…」

アリスの水色の瞳が揺れる。

その瞳には俺ともう一人映っていて…。


バチリ


「…ちょっと待て。その音はだめだ、駄目だ駄目だ、すごく駄目だ」

おそるおそる振り返る。

案の定、

「ごきげんよう、アルエルドくん♪」

阿修羅(クロア)ご降臨。

「く、クロア。なぜここに…」

「なぜって、ここ魔法科棟だもの」

クロアが指差すところを見ると、確かにそこから先は魔法科棟の廊下だ。

「待てよ、この間約束しただろう?いきなり魔法弾は禁止って!」

「えぇ、だから魔法弾は使わないわ」

そういうとクロアの右手を纏っていた光は収束していく。

「お、なんだ、大人になったなクロ「その代わりに物理的な手段でいくだけよ」…え?」

カツカツとコッチへと歩いてくるクロア。

「あ、アリス、そう言うことじゃないって、違うんだって言ってやるんだ!」

握っているアリスの手を引っぱる。

「…アリス?」

しかし返事がないのでチラリとアリスを見ると、

「………可愛いって、いったのに…」

なんて、これまた超絶可愛い感じに拗ねた表情でおっしゃられました。

えぇ、可愛いですよ、あなた様は。

だけど多分、今この場での発言としてはいわゆるKYにあたるんじゃないでしょうか。

だって、ほら…。

「………へーふーんそーなのーあははーすっごいおもしろーい」

「クロア、せめてその台詞は笑いながら言おう、あとそのメリケンサックはどこから取り出した、いつからお前はドラえもんを味方につけた」

「弩蘿獲門?ずいぶんと強そうな技の名前ね、こんど教えてね」

技じゃない。そんな極道っぽいものじゃない。

「言い訳は聞かなくて、いいよね?」

「…あの、せめてアリスのトラウマに成らない程度に、頼む」

「大丈夫」

クロアも、これまた可憐に微笑む。

まるでその右手にはめたメリケンサックがリングかなにかに見えてしまうほどに。

「友達の心に傷を付けるようなことは、しないわ」

「…あ、ありがとう…」

「それじゃあ、覚悟はいいわよね?」

「うん…」

―――あぁ、俺殴られるんだろうな。女の子なんだからせめてパーにすればいいのに。

ていうか何で俺殴られるんだ?あれ?何でだ?クロアと俺って、付き合ってるわけでもないのに。


「なぜってなんだかすごくムカつくからぁぁぁぁーーーーー!!!!!」


言ってもいないのに、クロアが的確な答えを下さった。

腹いせですね、分かります。


リターンとは何ら関係ありませんが、超短編を一本あげました。

好き嫌いが分かれそうな、ファンフィクションなのかどうかよくわからない作品ですが、もし興味がございましたら一読いただけるとうれしいです。

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