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リターン  作者: 乾 澪
16/74

Ep13:勝負


長いです。ごめんなさい。区切ろうかとも思ったんですけど、区切りどころが分からなかった…。


 ―――夏の生ぬるい風が二人を包む。ミラの月、4日。赤と黒は今日この時、互いの誇りと王の座を賭けてあいまみえる。さぁさ皆さんお立ち会い!!倍率は赤対黒で1.25:2.34!!流石に緋色の鮫、息子も期待度は高いのか!?一口500ゼニーから受け付けてるっスよ!!」

「…何をしているこのひよこ頭」

体育館のステージ上。

体育着をきて「一攫千金」と書いた鉢巻きを頭に巻いたククリの頭を鷲掴みにする。

「あ、やばいっス」

慌てて机に散らばる金やら物やらを首にかけた箱に詰め込むが、

「に・が・す・と・お・も・う・か?」

右手に思い切り力を込める。イメージ的にはリンゴを握りつぶす感じで。

俗にこれをアイアンクローと呼ぶ。

「イッタタタタタタ!?痛いっス、割れるっス、馬鹿になるっス!!!」

「安心しろ、手遅れだから」

「割れてるんスか!?」

「だから馬鹿なんだよ、お前は」

泣かれても困るので手を話す。

「で、なんなんだコレは?」と尋ねると、涙目のククリが頭をさすりながら答える。

「賭けっス。今日の勝負、ハルとヴォルガノどっちが勝つか」

「で、親がお前か。ったく、人使って金稼ぐんじゃねえよ」

「いいじゃないっスか。俺もきちんとハルに賭けたから、勝ったら半分あげるっス」

「当たり前だ、馬鹿」

そこでふと気づき、当たりを見渡す。

「なんか、意外に女子も賭けるんだな。こういうのって女子受けしないと思ってた」

俺たちと少し離れた位置で同じ様に声を上げて勧誘しているヤツの周りには、妙に興奮した様子の女子が結構な大金をやり取りしていた。

「あ、あれは別口っス。…先に言っとくスけど、あれに関して俺はノータッチっス」

「…?なんだよ、別口って。何賭けてるんだ」

「……っス」

言い辛そうに顔を伏せるククリ。

「お前関係ないんだろ?だったらお前のことは怒んないよ」

「だから、…アリスっス」

「…は?」

「あれ、隣のクラスのヤツっス。ハルたちの勝負のこと、隣のクラスに伝わる間に『どっちがアリスと一緒に学級委員をやるか』に内容が変わったみたいで。だから賭けの内容は『どっちがアリスの心を射止めるか』……ちなみにハルは2.25倍っス。本命ってことっスね」

「あぁ、だから女子があんなに騒いで……」

確かに女子が好きそうなネタだ。

「ていうか、いろいろと違わないか?俺たちが争ってる…てことになってるのは確かに学級委員の座だけど、アリスがなりたいのは武闘祭委員だし、そもそもアリスの心がどうこうとかじゃないだろ」

「あー、まぁ確かにそうなんスけど……」

視線をそらすククリ。

「なんだよ?」

「ま、ハルは知らないほうがいいっス。ほら、それよりそろそろ集合時間っス。

 賭けもここで締め切るから、さっさと校庭に行くっスよ」

言うや否や、俺の背中をぐいぐいと押してくる。

「わ、分かったよ。押さなくてもちゃんと歩くから!」

「さぁさぁいくっスよ!」

「わぁかったから!」


ハルの背を押しながら、ククリはちらりと後ろを振り返る。

隣のクラスのヤツと、ソレに群がる女子たち。

ハルは「だからあんなに騒いでるんだな」といっていたが、自分の目には違うように映る。

騒ぐとか言うより、もっと、狂喜しているように。

目を爛々と輝かせ、頬は上気し、息はそこはかとなく荒い。

「さぁさぁ張った張った!大穴狙いなら紅鮫のリオール、手堅く行くなら黒猫・ハル!!

 だけどやっぱり大本命、みんな願うは―――猫×鮫落ちエンド!!!

 さぁさぁ皆さん、賭けた賭けたぁっ!!」

「20000(ゼニー)賭けるわぁぁぁぁ!!」

「私は30000Z!!」

大盛り上がりする女子。

………やはり、聞かせなくてよかった。

「…ハルってやっぱり、幸薄っス」

「は?なんのことだよ?」

「なんでもないっス」

知らぬが仏。知らぬほうが幸せなときも、世の中にはある。







「第一の競技は、ソフトボール投げだ」

『一球入魂』と書かれた鉢巻を額に巻いたヴォルガノが、仁王立ちで俺に告げる。

「…やる気満々だな」

思わずひいてしまうくらい。

顔が引きつるのが分かる。

「君に学級委員なんて任せられないし、二度は負けないといっただろう!」

「任せて欲しいなんていってないし、一度たりとも戦った覚えがない…」

めんどくさい あぁめんどくさい めんどくさい(5・7・5)。

なぜかコイツといると川柳が頭をよぎる。

「ふん、負け惜しみなら後で聞いてやる。出席番号順だから、僕からだな」

「お前何番なんだ?」

「1番だ!まったく持って僕にお似合いだな!!」

「はいはい…」

なんだか、段々コイツの性格把握できてきた。

「では行ってくる!」

「行ってらっしゃい」

と、いった瞬間何故か後ろのほうから「きゃー」というよりは「ぎゃー」みたいな叫び声がきこえた。

「…?」

振り返ると、顔を赤らめた女子の集団。鼻血をたらしている人もいる。

「だ、大丈夫ですか?」

声をかけると、「ら、らいひょうぶでしゅ!」と鼻を押さえながら返事があった。

…妙に目が輝いているのは、気のせいだろうか。

気にしないほうがよさそうだ。

「それでは投げるぞ!!」

小さな円の中、左手にボールを握ったヴォルガノが遠くにいるククリに声をかける。

「オッケー!っス!」

ククリが手を振る。

「それでは……………どぉりゃぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!」

「おわっ」

「ギャー!っス!!」

叫び声をあげながらククリがヴォルガノの剛速球を避ける。

ヴォルガノの投げた球は、大分遠くの地面に突き刺さっていた。

「どうだ!」

「おぉ、飛んだなぁ」

「殺す気っスか!?」

文句を言いながらククリが距離を確認しに行く。

「えぇっと……」

「エルマー!君、アルエルドの友人だからって不正はするなよ!それ以上品のない人間になる必要は無い!!」

「分かってるっスよ、いちいち腹が立つヤツっスね!!はい、52メートルっス!え!?52メートル!??」

自分で言って自分で驚くククリ。

「すごいな、お前」

「当たり前のことをいうな」

「その生意気な感じ」

「君の品性のなさも中々のものだ」

「………こんにゃろう……」

そして次々と出席番号順に男子が投げていくが、以降ヴォルガノの記録を破るものは現れない。

「よし。じゃあ次12番、ハル=アルエルド!」

体育教員が俺の名前を呼ぶ。

「はい」

所定の円の中に、ボールを持って立つ。

「ふん、まぁ精精頑張れよ」

「…」

俺は別に、学級委員になりたいわけじゃない。というより、アリスに頼まれた以上武闘祭委員をやりたいのだ。

だけど、喧嘩を売られて黙ってられるほど大人じゃない。いや、ホントは大人だけど。

とにかく。

見た感じ、そして印象的に、ヴォルガノは恐らく相当優秀なはずだ。

身のこなしもスマートだし、新入生代表ということは軍人推薦枠の中でも頭一つ抜けているということになる。

それが親の七光りであれ、なんであれ。

俺はソレを評価する。

だからこそ、負けたくない。

勝てるかもしれない、まだ先の分からない勝負を、やらずに投げ捨て諦めるようなマネを俺はしない。

だから―――――

「おぉおりゃぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!」

力いっぱい、投げた。

結果は、

「5、54メートルです!」

測定係のクラスメートが叫ぶ。

「なっ……にぃ…」

唖然とするヴォルガノ。

ソレを見て、


「どうだざまみろあーはっはっは!」


と高らかに笑ってやった。

「お、おのれぇ…!」

「結構腹立ってたんスね、ハル…」


ちなみに、

「ちょいなぁぁぁぁーーーーーーーー!っス!!」

「26メートルです」

「嘘っス!!?」

「僕の半分か。頑張ったな」

「俺の半分以下…ふっ」

「う、うるせーっス!!」

ククリ涙目。




第二競技。

「長座体前屈だ」

『一屈入魂』の鉢巻を巻くヴォルガノ。

「あ、ダメだ。俺、体硬いんだよ」

「体が硬い?自己管理がなっていない証拠だ!」

「ここは大穴で俺が…!」

結果。

「ま、当然の帰結だな」

「しょうがないか。捨て試合だ捨て試合」

「い、いたっ!腰が痛いっス!」

勝者、ヴォルガノ。


第三競技。

「握力、背筋測定だ」

ヴォルガノが巻いているのは『一握入魂』の鉢巻。

「…なぁ、ヴォルガノ。お前まさか、それ全部用意してるんじゃ…」

「さぁ行くぞ!」

「負けないっス!」

「というよりどうしてお前がやる気満々なんだ、ククリ…」

結果。

「やれやれ、お前らそれでも男かぁ?」

「くっ…この脳みそ筋肉が…!」

「あぁ、だからハルってどことなくアホなんスね」

「ゴラァっ!!」

勝者、俺。


そして第四競技の50メートル走は俺、第五・六の走り幅跳びとシャトルランはヴォルガノが勝利を収め、最終競技の反復横とびは…。

「や、やったっス!勝ったっス!!俺優勝っス!!」

両手を突き上げ喜ぶククリ。

「…ていうか、お前が勝ったところで何もかわらないんだけどさ…それにしても、最後の最後で同点ってのも、なぁ…」

ヴォルガノを見る。

「無論だ。引き分け、などという帰結はありえない」

『一跳入魂』の鉢巻をつけたヴォルガノも頷く。

「だよな」

そうすると、このあとどうするか、だ。

「なんか案あるか?」

「そうだな……来週やる持久走で、というのでも良いが…」

「でもなぁ、既に委員決めって俺たち待ちなんだぞ?決まってないのは、武闘祭委員の男子の枠と、学級委員の男子の枠。つまり、俺たちがどっちに入るか」

「うむ…周りの人間に迷惑をかけるのは、僕も本意ではない。今日中になにかで決着をつけたいところだが」

あたりを見渡すヴォルガノ。

「…ん?アレは…」

俺の背後に何かを見つけたようだ。

「なんだ、なにかあったのか?」

「アレは、確か…!」

俺も振り返る。

「うっ!?」

「ランバルディア嬢ではないですか!」

黒い。

ただひたすら黒い。

俺の背後に立っていた、その人の名はクロア=キキ=ランバルディア。

天使のように可愛らしいと誉れ高いその人の背後には、漆黒のオーラが立ち上っていた。

「ごきげんよう、アルエルドくん…」

あぁ、クロアの背後の空間が歪んでみえる。

「…な、なぁ、クロア。今日は、何にご立腹なのかな?」

もはや怒っていることに疑う余地などない。

それがたとえ笑顔であろうとも、信じることなど俺には出来ない。

「ん?おい、アルエルド。君はランバルディア嬢と知り合いなのか?」

「し、知り合いかって?!」

笑顔でこっちに歩いてくるクロアを見る。

「…どうだろ、俺、自信ないわ」

今から殺される者としては。

「は?何をいっているんだ?」

「お、お前、とりあえず逃げたほうが良いぞ。巻き込まれてドッカンバゴーンであの世行き、とかなりかねないから、あの怒り方だと」

あの怒り方は、3年前にメイカさんが俺の背中を流すといってむりやり風呂に入ってきた場面を目撃されたとき以来だ。

その3年の間にクロアの魔力も大分上がっているから、今度こそ無事じゃいられないかもしれない。

「ハル……説明してもらえるかしら?」

バチリ、とクロアの右手が光る。

「アリス、って、誰?」

「あ、アリス!?アリスは、俺のクラスメートで、友達で、」

「心を射止めるって、何?」

「あ、アレは違うんだ!隣のクラスのヤツが勝手に噂を誇大化させただけで、俺は単にアリスと一緒に武闘祭委員をやろうとしただけで…!」

「ふーん、二人で一緒に委員を、ねぇ?」

「あっ!?」

もしかしなくても、墓穴ったな、俺。

「…ヴォ、ヴォルガノ、お前、マジで逃げろ。死ぬぞ」

隣のヴォルガノに声をかける。

「お、おい、なんでランバルディア嬢はあんなに怒ってるんだ?リーン君の心を射止めるって…あの、どっかの馬鹿がやっていた賭けの話か?」

「そうだよ」

「あんなの冗談の範疇だろう」

「アイツはそういうの通じないんだよ!」

特に俺に関しては。

沸点低すぎて俺は凍ってしまいそうだ。

「ふん…やってみなければ分かるまい。あの、ランバルディア嬢!」

「ちょ、馬鹿!」

ヴォルガノが般若のクロアに声をかける。

「…誰だったかしら、貴方」

「ゴレム=ヴォルガノ大佐の三男、リオール=ヴォルガノです」

「あぁ…そう。パーティーで何回かあったことありましたね」

「覚えていただけて光栄です。それで、彼のことですか」

「殺します」

「………おい」

「うん…」

俺、殺されます。

久しぶりにやばいです。

「というわけで、どいていただけますか、ヴォルガノ君?」

「そ、それはさすがに…殺すのは、いかがかと…」

ダラダラと冷や汗を流しながらクロアを止めるヴォルガノ。

俺、はじめてお前がいいヤツに見える…!

「だったら貴方まとめて消しますけど?」

「えぇ!?」

「お、おい、クロア!?」

名前を呼ぶと、鋭い目つきで俺を見るクロア。

とうとう笑顔がなくなったか……そろそろ、来るな。

「私はね、なにも浮気がどうとか、私に構ってくれないとか、もっと言うなら私に振り向いてくれないとかで怒ってるんじゃ決してないの」

「お、おぅ…」

「でもね、幼馴染としてね、入学して数日でやれ会長だ、やれクラスメートだって幼馴染がふらふらするとね、とっても困るの」

「そ、そうか…」

「だからね」

クロアの右手が輝く。

「少し、おいたが過ぎる子には、お仕置きしないと…ね?」

そして放たれるクロアの魔法弾。

その大きさは、前回のククリの意識を飛ばしたアレよりもよっぽど大きい。

「おいおいおい、マジで逃げろってヴォルガノ!お前はマジでヤバイ!!」

「あぁぁーもう煩いやつだな君は!もう逃げられない、間に合わない!この際、これで決着をつけよう!!」

「はぁ?お前、意味わかっていってんのかよ!!」

「この状況で嘘をつく余裕はない!いいか、これで意識を飛ばさなかったほうが勝ち、軽症だったほうが勝ち、もうコレで良いだろう、というか本気で怖いんだが!!!」

「だから逃げろっていっただろこのアホ!!」

「煩い!君、魔法の授業を受けた経験はないな!?」

「ない!」

「防御魔法も知らないな!?」

「知らない!!!」

ヴォルガノが俺を見る。

「じゃあこれでイーブンだ!条件は平等、これで勝った方が勝者だ!!」

「……あーーーー、もう、分かったよ!精精死ぬなよ、この大間抜け!!!」

「人を見て口を開け、脳みそ筋肉!!!」

とかなんとか騒いでいる間に、クロアの魔法弾はすぐそばに。

「う、うわぁぁぁぁーーーーーー!!」

ヴォルガノが叫び、頭を抱えて目をつぶる。

「…だぁらっしゃぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!」

俺はヴォルガノの前に立ち――――――。










「君は馬鹿だな」

「うるせぇな、命の恩人に向かってなんていう口の利き方だ」

椅子に座る俺の腕に、ヴォルガノが器用に包帯を巻いていく。

「ランバルディア嬢は手加減をしたといっていた、死にはしない」

「手加減したっていっても十分本気だったよ、アイツは。お前はアレをくらったことないから平気でそう言うことを言う。アレ、マジで痛いんだぞ?」

「そうかい。できたぞ」

パン、と巻き終わった包帯の上から俺の腕を叩くヴォルガノ。

「いった!!」

「まったく…あれじゃあ、完敗だ」と、ため息をつく。

「は?」

「君に守られた。あれじゃあ君のほうが重症だって、僕の負けに決まってる」

「…ふーん、お前も素直に負け認めたりするんだな」

「認めるべきときに認めないのはただのアホだ」

「けっ」

「…」

「いたっ!!」

今度は頭を叩いてきた。

「おま、けが人に…!」

さすがに文句を言おうとしたとき、保健室のドアを開けて誰かが入ってきた。

「はいはい、どうもこんにちわー。サリナ先生ですよーっと」

「先生?」

「お、アルエルド。お前は本当に毎度毎度おもしろいやつだなー!」

そういいながら椅子に座る俺のそばまできた先生は、俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「あの、せんせ、俺頭怪我し、いた、いたたたたっ!」

「全く先生はお前みたいな愉快な生徒、久しぶりにもったよ!」

「いたたたたたっ!」

「あ、そうだ。ちょっと手をお借りしますよーっと」

サリナ先生が頭を撫でるのをやめて、俺の右手を握る。

ちょうど握手みたいな感じだ。

「あ、あの、先生?」

「…」

先生は黙って俺の右手を見つめる。ほんのりと暖かい。

その視線を追って俺も自分の右手を見る。

(あれ…?)

先生に握られた俺の右手は、うっすらと緑色の光をまとっていた。

「せんせ…?」

「うん?」

声をかけると、先生はいつもの笑顔を浮かべて俺を見ていた。

ぱっと手を離す。

「うん、ひどい怪我はないみたいだな。よかったよかった!」

「え、先生、魔法使えるんですか?」

「些細なものだけどねー」

「そうですか…」

だとすると、今のは治癒魔法?

メイカさんのものと、だいぶ雰囲気が違ったけど…。

「それじゃ、先生はここら辺でおいとましましょうかね」

「帰るんですか?」

「そうよー。先生はとってもお忙しい方なんですのー」

先生はそういって出口へと向かっていく。

「あ、そうそう。可愛いお客さんがお二人ほどいらっしゃってるから、丁重にお迎えするよーに!」

そして廊下でまっていたその二人を招き入れてから、先生は「じゃーねー」といって去っていった。

入ってきた二人の少女。

一人はいつも通りの雰囲気で、もう一人はおどおどとしながら。

「あ、ハルくん。お加減はどうですか?なんか不運な事故に巻き込まれたっス!って、ククリくんが…」

「…まぁ、そんな感じだな」

「もう、ハルくんって本当に幸薄ですね!」

「あ、あはははは…」

アリスがにこやかに笑いながら近くの椅子に座る。

「あ、あの、ハル…今日は、その、少しやりすぎたかなぁ…って」

「そうだな。アレは痛かった」

「うん、ごめんね…………ていうかどうしてこの女も居るわけ?空気読めよこの女ぁ……」

「おいおいおい…」

神妙な顔つきで珍しく謝って来たかと思えば、すぐさま不穏なことを言いながらアリスに並んで座るクロア。

「それで、どうかしたのか?」

尋ねると、まずクロアが少し気まずそうに、

「私は、その、ハルに謝らないとと思ったから…」

とうつむきがちに言う。

ちらちらとこっちを見ながら、「怒られるかなぁ…」みたいな顔をしているのはまるで子犬のようだ。

(いつもこんな風に弱々しければ、俺も苦労しないんだけどなぁ)

だけど弱々しければクロアはクロアじゃないわけで。これでいいのかもしれないが。

クロアの頭を撫でる。

「怒ってないよ。大丈夫。ただ、今度からはいきなり魔法弾は禁止な?さすがにいつか死ぬかも」

「う、分かった。ごめんなさい」

「うん」

なでなで。

「えへへへ…」

うれしそうにクロアが笑う。なんだか、久しぶりにクロアのまともな笑顔を見た気がする。

「それで、アリスはどうして?」

あ、一瞬にして笑顔が消えた。

「私は最初からお見舞いにこようとは思ってたんですけど…ククリくんが、妙にさっさと行くっス!って押して来たんですよね」

「なんでだろ?」

「さぁ?なんか、『二人はち合わせた方が面白いっス、絶対!』って言ってましたけど…なんのことでしょうね?」

「…分かりやすすぎて、答えたくないや」

「あのひよこ頭…前々から目障りだったのよね…」クロアが不穏なことをつぶやく。

「エルマーか…アイツは、なんというか、はた迷惑だな」今まで黙っていたヴォルガノも呆れたように言葉を挟む。

「とりあえず、お怪我は体したことないみたいで良かったです」

と、笑顔のアリス。

「うん。ありがとう」

お礼を言って、アリスの頭を撫でようと手を伸ばーーー

「…こら、どうして腕をつかむ」

「別に…そこに、腕があったから?」

「登山家か!」

ーーーそうとしたが、邪魔が入ったので断念。

「アルエルド」

ヴォルガノが椅子から立ち上がる。

「僕はここらへんで失礼する。委員のことを、先生に報告しなくては」

「あ、そのことだけどさ。俺は武闘祭委員がいいんだけど」

「は?」

怪訝な顔で俺を見るヴォルガノ。

「僕たちは学級委員の座を争っていたんだろう?」

「そうだけど、俺はもともと武闘祭委員希望だし。勝者は俺だろ?」

「…まぁ、な」

「それなら取捨選択の権利は俺にある。だから、俺は武闘祭委員を選ぶよ」

「…」

「それに」

「なんだ」

不満そうなヴォルガノに笑いかける。

「お前の方が、学級委員は向いてるだろ。なんとなくそんな気がする」

「………ふん、訂正は聞かないぞ。僕がクラスのトップになった以上、命令には従ってもらう」

「必要とあらばな」

「…失礼する」

ヴォルガノが出口へと歩いていく。

その背中に問いかける。

「リオール、て、呼んで良いか?」

ヴォルガノは一瞬立ち止まり、

「好きにしろ」

といって保健室を出て行った。

「ツンデレね」

「ツンデレですね」

「クロアには言われたくないだろうよ…ごめんなさい、だから振り上げた拳を下げてください」

怒って立ち上がったクロアをいさめる。

「もう…私も帰るわ。魔法科はこの後、魔力測定もあるから」

「あ、クロアさんは魔法科なんですね?すごいです!」

「む…」

思わぬ人物からほめられて戸惑いながらも、少しうれしそうなクロア。

「ま、まぁね。うちはパパもママも魔法が使えますし?」

「ご両親も軍人さんでいらっしゃるんですか?」

「そうですね」

「ランバルディア中将は知ってるだろ?」

アリスに尋ねると、「はい」といって頷く。

「コイツ、一人娘」

クロアを指差す。

「あ、ランバルディア中将の娘さんでいらっしゃったんですか!?わ、わ、ごめんなさい!私、しらなくって…。

 私、アルセリス=リーンと言います。陸戦部隊・ドンウォール支部所属のファルコン=リーン大佐の次女です!」

それを聞いたアリスが慌てて立ち上がり、頭を下げる。

「あぁ、いいですよ別に。パパが偉いだけで、私は別に…」

「そ、それでも…!」

泣きそうな顔のアリス。

クロアはあまりそう言うのを気にしないタイプだが、きっと軍と言うのはそう言うのにとても厳しいところなのだろう。

このままじゃどうにもならなそうなので、口を挟むことにする。

「クロア、お前、友達できたか?」

「は?!な、なによ。いまそんなこと関係な…「できてないんだな」……」

できてないらしい。

「アリス、お前、友達とは普通に話すよな?」

「え?あ、はい。敬語はその、癖ですからとれませんけど…遠慮とかは、しないと思います」

「よし。それじゃ、友達になれ」

「「はい?」」

「うん。クロアには友達ができる、アリスは普通に口がきける。一石二鳥」

うんうん、と頷く。

俺って天才?やばくない?

「…なんていうか、ハルって時々すっごいバカよね」

「なに?!」

「そうですよね…今、そういう次元の話じゃなかったんですけど…」

「そうなの!?!」

「でもまぁ…」

クロアがアリスを見る。

「はい。クロアさんとお友達に成れたら、私すごくうれしいです!」

アリスがその視線を受けて、満面の笑みを浮かべる。

「べ、別に私は…」

照れたクロアが視線をそらす。

「ツンデレ」

「ツンデレですね」

「るっさいわねぇ!!」

ともあれ、いつの間にやらクロアの「心を許してない人に向ける敬語」はとれている。

ここに俺が居るということを除いても、多少なりともアリスと打ち解けられたということだろう。

「…ま、友達くらいなら…いいけど、さ」

クロアがアリスに右手を差し出す。

「よ、よろしく?」

「あ、はい!よろしくお願いします!!」

アリスもそれを喜んで握り返す。

「…うん」

「えへへへへ」

二人で手を握り、微笑み合うその様子はとても心温まるもので。

久しぶりに平穏・無事に一日を締めくくれたなぁ、と心の中で喜ぶ。




「あ、ハルに関しては魔法ありきの真剣勝負でいくから、よろしく」

「ふぇっ!?」

「おいおいおいおい…」

やっぱり、不穏だった。


とりあえず今回で同級生は出尽くした感じです。次は生徒会のメンツと顔合わせです。

でも、リターンは適当に書いてる部分が大半なので変更は多いにあります。希望キャラなどがございましたら、どしどし言ってくださいwww

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