Another Ep3:眼鏡
短いです。
前回の怪音の正体が分かります…て、そんなに気になってなかったりして…。
「ごめんね、さよなら、ばいばーい」
そういうアタシを悲しげな目で見つめながら、少年はとぼとぼと扉をあけて出て行った。
「あーん、もう、さっきから全部はずれー!全員超期待はずれー!!」
ソファーに倒れこむ。
「書類で見たより可愛くないし、面白くないし、抱きしめてもなにも感じなーい」
「じゃあ彼は不採用でいいんだな?」
声の主を見る。
窓際に置かれた机で作業するめがね男。
「ちょっと、副会長が会長にため口聞くんじゃないわよ」
「ちょ、一応俺先輩ですけど!?」
涙目がウザイ。
「あーうるさいな。可愛くないって言えば、アンタが一番可愛くないわ。年上だし、口うるさいし、キモイしウザイし…」
「悪口言い過ぎ!傷つく!!泣ける!!!」
「いい年した男が泣いても何にも萌えないからやめて」
「うぅ…」
肩を落としながら、めがね男は書類に「不採用」の判を押す。
「彼、結構有望そうだったけど…」
「アタシがじきじきに調べたんだから、そんな書類よりよっぽど信頼できるに決まってるでしょ。分かってないなー、マルデラ副会長くんは」
「くん言うな!八年だぞ、最高学年だぞ、四寮の寮長だぞ!!」
「あらそぅ。アタシなんか七年で会長で参寮寮長だけど、どっちがすごいのかな、ライナスくん?」
「………」
「ん?」
「か、会長様でございます…」
「よろしい。分かったら次の書類よこしなさい」
「はい…」
打ちひしがれた様子のライナスが一枚の書類を持って、寝転ぶ私に書類を持ってくる。
「あ!黒猫ちゃん!」
書類の右上に張ってある書類をみて思わず起き上がる。
「あぁ、この子が…」
「そうよ、あのランバルディア中将のご推薦にして、今回の候補者の中でダントツ、アタシランキング1位!!」
黒髪で黒い瞳、人を見定めるような三白眼は、垂れているのにどこか猫を彷彿とさせる鋭さを持っている。
「あぁ〜、可愛いなぁ…。すっごく苛めたくなる顔してる♪」
「何処までどエスなんだお前は…」
「副会長、会長に対する口の聞き方は?」
「何処までどエスでいらっしゃるんですか貴方様は」
「何処までも♪」
「…さいですか」
ため息をつくライナス。
「これ、もういいわ」
その彼に今さっきもらった書類を返す。
「採用の判、押しておいて」
「え?まだ会ってもないのに?」
「もう来るわ」
目を閉じる。
遠くに感じる、二つの気配。
一つはよく知っている、もう一つはまだ見たことも話したこともない見知らぬもの。
「…なんか、アリスもついてきてる」
「アリスちゃん?久しぶりだな、今年の女神聖祭のときにあった以来か」
ライナスが嬉しそうに笑う。
「アンタ、うざくてキモイ上ロリコンじゃあ、死んだほうがいいわね」
「ば、幼馴染をそんな目で見るわけないだろ!?」
ここでまず「年下をそんな対象でみるわけないだろ」といわない辺りが、馬鹿だなとアタシは思うのだ。
「ロリコンと可愛い妹を会わせる訳には行かないわね、どっか消えて」
「だから俺はそんな気はない!」
「もぅ、アタシが言いたいこと分からないのかなぁ」
立ち上がり、ライナスの前に立つ。
するとライナスはおびえた目でアタシを見下ろす。
その顔がたまらなく面白いということ、いい加減悟ったほうがいい。
「あのね」
「あ、あぁ」
「もうすぐね、アリスと黒猫ちゃんが来るの」
「そうらしいな」
「そこにね、アンタがいるじゃない?私は二人を苛めたいじゃない?そうしたらきっと、アンタ邪魔してくると思うのね」
「そうだな、止めるだろうな」
うんうん、と顎に手を当てて頷くライナス。
「だからね」
「うん」
「ちょっとだけね」
「うん……なぁ、なんでそんなに寄って来るんだよ、そんな近くなくても聞えるし、ていうか、壁際に追いやられてる?」
「ここ、おとなしく入っててね」
「へ?」
ライナスの頭を掴み、左手で開けた掃除用具箱にそのまま突っ込む。
「うぎゃぁ!」
派手な音を立てながら、うまいことぴったりと収まった。
「さっすがアタシね!こういうこともあろうかと、大き目のを去年注文しといたのよ!!」
「だから昨年度支出が高かったのか!?ファミールが泣いてたぞ!!!」
「馬鹿ね、この眼鏡」
「眼鏡悪口違う!!」
「エミリは泣いてる顔が一番可愛いのよ♪」
ひくっ、とライナスの顔が引きつる。
「こ、この…」
「うん?」
「どエスが!!」
「褒め言葉、どうもありがとう♪」
掃除用具箱の扉に手をかける。
「あ、ま、アリア、ごめん、謝るからちょっと待っ…!」
「チャオ♪」
勢いよく閉めると、中でライナスが「ぎゃっ!」と叫ぶのが聞えた。
鼻でもぶつけたのだろう。
「どこまでも面白い男ね」
そしてそのまま鍵をかける。
ついでに扉を壁側にして、出てこられないようにする。
「安心して、二人が帰ったらすぐにだしてあげるから。アタシだって鬼じゃないもの」
『〜〜〜〜〜!!』
なにか叫んでいるのが聞えるが、篭っていてよくわからない。
「あ、もう来るな」
二人の気配がすぐ傍まで来たのを感じる。
「それじゃ、少しの間頑張ってねー」
と声をかけてその場を離れる。
が、すぐにまた戻り、
「二人がいる間騒いだら、どうなるかわかるよねー」
といってライナスが静かになったのを確認してから今度こそ、二人を出迎えるべく出入り口へと急ぐ。
ドアが開いた。
「Welcome to my sweet paradise!!」
愛しの黒猫ちゃんが、其処にいた。
「あら、さようなら、アリアちゃん」
「さようなら、おばさま」
帰り道、参寮へと続く廊下を掃除している用務員さんに声をかけながら家路を急ぐ。
ルームメイトに頼まれていたお使いを忘れ掛けて、帰り道を一旦引き返していたので結構遅くなってしまった。
寮長たるもの、寮則を破るわけには行かない。
「…忘れてるって言えば、なんか忘れてる気がするのよね…」
なんだろうか、と頭をひねる。
「あ、アリアちゃん!落し物!」
「え?」
振り返ると、用務員さんが落としたハンカチを拾ってくれていた。
「すいません、おばさま。ありがとうございます」
お礼を言って受け取る。
そのとき、ふと用務員さんが持っているモップが目にはいった。
「あ」
思い出した。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!」」
『たーすーけーてぇぇぇーーーーーーーーーーーー!!』
叫び声が聞えた気がした。