Ep11:姉妹
なかなか話がすすまなくてごめんなさい(またか)
実はプロットもなにも起こしてないので、行きあたりばったりだからこうなってます。一応頭の中にはあるんですけど…。
次はまた少し話が進みますので、おつきあいのほどよろしくお願いします。
今、俺は件の土下座美少女と並んで魔法科棟へと向かっている。
目的地はもちろん生徒会本部だ。
「それで、リーンさんは会長の妹さんっていうことでいいんだよね?」
あの後、教室はすさまじく停滞した空気に包まれたが、そこに遅刻していた担任が、
「いやぁ遅れた遅れた。カミさんが急に産気づいてしまってなぁ。悪かった悪かった」と、あっけらかんと笑いながら教室に入ってきたため話は一旦中断された。
「先生、女性っスよね…?」
「なんだなんだ、今時性別なんて些細な問題だぞー。お!アルエルドだ!あれおもしろかったぞ!頑張れよ!!アハハハ!!!」
…なんて言う会話もあるにはあったが、割愛する。
そのあとは一通り、今後の予定などについての説明があったが正直頭には入っていない。
そして今、話の続きをしながら彼女と2人、生徒会本部へと向かっているのだ。
「はい、間違いないです。私はあの、変態で頭の沸いた女の妹です…」
どす黒いオーラを纏ったリーンさんが呟く。
「いや、だからさ、確かにあれは恥ずかしかったけど、リーンさんが気にすることじゃないよ。それに、お姉さんにだってきっと事情が……」
「ありませんよ」
キッパリと切り捨てるリーンさん。
「姉様はいつでも欲望に忠実なんです。あの人が従うのは自分の欲望だけ。八年生差し置いてわざわざ会長になったのだって、今日のアレがやりたかっただけです、きっと」
リーンさんは重い(色々詰まってる)溜め息を吐く。
「ハハハ…」
苦笑しながら思い出す、今日のアレ。
「生徒会逆ハーレム化計画、だっけ」
「本当に頭腐ってます、あの人」
「ところでリーンさんは…」
そこまで言い掛けたところで「あの」とリーンさんが言葉を遮る。
「ん?なに?」
「リーンさん、じゃなくて、アリスって呼んでください」
髪を耳にかけながら、どこか恥じらったように言う。
「へ?!」
なんだそれ。かわいくて困るんですけ…
「姉様と同じ名字で得したこと、ないんですよね……」
疲れたようにリーンさんが言った。
「……あぁー」
そうですよね。
あぁ良かった。恥ずかしい勘違いする前で本当に良かった…。
「俺の馬鹿!」
「え?!」
「あ、いや、何でもない。そ、それでアリスは一緒に生徒会本部きてどうするの?」
都合が悪かったら話を逸らす。これ鉄則。
「あ、はい。とりあえず姉様を説得してこの計画を止めようかと」
「…だね。何する気かは知らないけど、ものすごい嫌な予感するし」
「はい」
「自慢じゃないけど、俺の悪い予感ってよく当たるんだ!」
「アハハ、私も自慢じゃありませんけど、姉様の説得なんて一回たりとも成功したことないんですよ!」
「へぇ、そうなんだ。ハハハ!!」
「ふふふっ」
「「……………………」」
敗戦の色が濃厚になってきたとき、俺たちはとうとう魔王の城へとたどり着いた。
「……それじゃあ、開けるよ」
「は、はい」
覚悟を決めて、ドアを開けるべく取っ手に手を伸ばす。
しかしその手が触れる寸前。
ドアは俺を迎え入れるように勝手に開く。
「うにゃ!!」
背後ではすっとんきょうなアリスの叫び声があがり、開いたドアの先では同じ声の持ち主が高らかに声を上げる。
「Welcome to my sweet paradise!!!」
会長が両手を広げて立っていた。
「あ、かいちょ…」
「ゃん!大本命の黒猫ちゃん!!会いたかったー♪」
「うぉっ」
突然抱きつかれた。
ちなみに俺の身長は会長よりだいぶ小さい。
具体的に言うと、胸辺りに顔がくる。
(うぉぉぉぉーーー!!?当たってる、抱き締められてる、ラブコメ展開??!あぁ、でも惜しい!!俺ランキング第2位!!!)
1位はメイカさん。クロアは圏外。今後に期待。
何のランキングかは言わないでおこう。
「んー♪抱き締められて固まっちゃうあたり、可愛いなぁ♪」
「はっ!?」
って、ぼさっとしてる場合じゃなかった。
「あ、の!!かかか、会長!?」
あぁ情けない。声が裏返ってる。
(これだから童貞は…)
どこからか優奈の声が聞こえるようだ。
「あ、姉様!!やめてください!!!嫌がってます!!!」
顔を真っ赤にしたアリスが俺を会長から引き剥がす。ざんね…いやいやいや、ありがたい。
「あらアリスじゃない。んー、怒った顔も我が妹ながら可愛い♪…けど、どうしたの?こんなところまで」
「どうしたじゃありません!!なんですか今朝の逆ハ、ハーレム…あぁ!言うのも恥ずかしい…」
噛みつくように会長にくってかかるアリス。すごい勢いだけ、ど…なんか、もう泣きそう?
「とにかく、あんな下らない計画やめてください!ハルくんが迷惑してます!!それに、申し訳なくて私の胃に穴開きます!!」
「あ、大丈夫大丈夫。あれ、なくなったから」
「え?」
「は?」
いま、なんとおっしゃいました?
「黒猫ちゃんが来る前にね、朝呼んだ子たちが来た…というか、つれてきた、というか…」
「引きずってきた?」
「そうそう!引きずってきたの!」
「意気揚々と言わないで下さいぃ…」
アリスが涙目でお腹をさする。…胃、大丈夫かな…。
「それで、一応あってみたんだけど…。うん、全員はずれだったから。だからなし」
「はずれ、って」
「実物みたらガッカリよ。まるで腑抜け。アタシの桃源郷はあんなのじゃダメ、ダメダメ。
だからごめんなさい、で、さようならー」
ひらひら、と手を振る。さようなら、のジェスチャーなのだろう。本人たちにもやったのかもしれない。
「さようなら…」
余りの仕打ちに呆然とする俺。
「あぁぁぁ……なんて失礼なことを……」
泣き崩れるアリス。
「な、泣くなアリス!喧嘩は泣いたら負けなんだぞ!!」
「わ、私無理ですぅ…我が姉ながら最低ですぅ……同じ血が流れてるかと思うと嫌でも泣けてきますぅ……あ、あんな辱めを与えておいて、さらに引きずり回しておいて、ごめんなさいって!!あぁぁぁ………」
「あ、アリスーーー!!」
妹VS姉、説得対決。妹の完敗。敗因:予想以上の姉のひとでなしっぷり。
「なによ、泣くことないじゃない。それにこの黒猫ちゃんは花丸満点合格だし?」
「うわっ!?」
アリスを慰める俺の背中に抱きついてくる会長。
「……うん、話に聞いてた通りだわ。超完璧」
「はい?」
「だから、生徒会に入りなさい」
「…」
「ま、また姉様そんなこと言って!!」
涙目ながらアリス復活。
俺の頭越しで姉妹喧嘩をし始める。
「姉様はどうして人の迷惑とか、そういうもの考えられないんですか!?私の胃に穴を開けるのが目的なら分かりますけどね!」
「なんでアタシが可愛い妹苛めなきゃいけないのよ。やーね、被害妄想」
「ひ、被害妄想!?あ、あぁ、意識が遠くなってきた…」
「ね、いいでしょ黒猫ちゃん?オネエサンがたぁっぷり可愛がってあげるから!」
後ろから俺の顔を覗き込む会長。
ぶっちゃけ可愛いからあんまり近づかないで欲しい。うっかりときめく。
「だ、だから姉様、ハルくんは、」
「いいですよ」
「生徒会なんて入らな………え?」
「ん?どうしたアリス?」
「…入る、んですか?」
「うん。俺、最初からそのつもりだったし」
アリスのもとから大きな目がコレでもかというほど大きく開かれる。
「…信じられない、何この愚か者、みたいな顔するね」
「ほぼ当たってますから、そうでしょうね」
「アハハ、まぁ、言いたいことは分かるけどね」
そして俺は肩越しに会長を振り返る。
「で、いいですよね?」
「…つまんない」
「は?」
今度は何言い出すんだ、この人…。
「つまんないつまんない、つーまーんーなーいー!!」
駄々をこねるように俺の背中で暴れる。
「ねぇもっと抵抗とかしないの?それを叩き潰すのが楽しいのにー」
「あぁ、だからアリスを…」
この人、どエスだ。
「悪いですけど、最初から抵抗するつもり無かったんです。抵抗しないと入れないっていうなら、しますけど」
「ふーん…随分と『いい子』なのね」
会長が不機嫌そうに細めた目で俺を見る。
『いい子』。妙にその言葉を強調しながら。
「ご不満ですか?」
尋ねると、
「別に?」とふくれっ面で言いながら俺の背中から離れる会長。
「あぁ重かっ
「死にたい?」遠慮します」
だからなんかマジ切れしたときのクロアみたいな笑顔でコッチみないでほしい。
「あーなんか興ざめしちゃった」と、会長。
「今日はこれで終わりねー。アタシも帰るわ」
「あれ?今日は生徒会は」
「普通に休みだって。今日入学式よ?」
「そういえば…」
なんか1日が妙に濃くてそんな気がしないが、確かにそうだ。
「じゃあ他のメンバーは…」
「こないわね。顔合わせはまた今度、ってこと」
「はぁ…」
そういうと帰り支度を終えた会長はアリスに歩み寄り、
「今日は久しぶりにあえて良かったわ。あん、その軽蔑した眼差しも可愛い♪またしばらく会えないけど、泣かないのよ?」
と言って額にキスを落として
「チャオ♪」と軽やかにスキップ混じりで退出した。
「………」
無言で額を拭うアリス。
「…あー、その…アリス?」
肩に手をかけようとしたそのとき。
ガタガタガタ!!!!
「うみゃぁ!!??」
「うぇあぁ!!!」
部屋のどこからか、ものすごい音が聞こえた。
「わわわ、ごめんなさいぃ!!姉様なんて帰り道こけてしまえとか思ってごめんなさいー!!!」
「可愛い嫌がらせだなオイ!?」
あの様子じゃ今まで多大な迷惑をあの姉から受けているだろうに。
人が良いというかバカというか。
「かか、帰りましょうハルくん!!そもそもここは姉様の根城なんです、まともなわけないんです!!」
「いや、帰るのは別に良いけど…」
辺りを見渡す。
「ハルくん…!」
「なんか、特にあるわけじゃぁ…」
ガタガタガタ!!!!
「「ぎゃぁぁぁー!!!」」
アリスの手を握り、逃げ出す。
「ポルターガイスト!?ラップ音!!?」
「知らん分からんだから怖い!!」
ガタガタガタ!!!
「「ぎゃぁぁぁー!!!!」」
…………
……
…
「とまぁ、こんな具合にな?生徒会に入ったわけでな?おまえの言うように会長の色香に惑わされたわけじゃないし、ましてや初めて会ったクラスメートと仲良く手をつないでキャハハウフフしてたわけじゃないんだぞ?」
真っ暗な部屋。電気はさっき壊れた。
隣には意識を失ったククリがぐったりと床に倒れている。
考える。どうしたらこの命の危機を脱せるのか。
「ねぇハル?」
暗闇の中、窓から差し込む月光に浮かぶクロアの微笑み。
「私、往生際の悪い男って嫌いなの」
クロアの右手に光が弾ける。
「待て待て待て、お前、ここでそれやって見ろ?幼なじみヒロインから落ち要員に格下げ決定だぞ!?」
「落ち要員上等よ。毎回出番があるってことでしょ?」
「というより、お前どうやってここ入った!?別の寮の男子寮だぞ?!」
クロアがニヤリと笑う。
「分からない?」
そういった瞬間、クロアの右手がひときわ明るく輝く。
「そんなの…ふふふっ」
きれいな笑顔。間違いなく可愛い。
なのにどうして、
ため息をつく。
(どうして俺の周りには笑顔が怖い女ばかりなのかな)
「実力行使に決まってるじゃない」
実力をどう誰に行使したのか、考える間もなく怒りの鉄槌は振り下ろされたのだった。