Ep9:会長
わさっとキャラが出てきますが、今後継続して出てくるのは三人くらいだと思います。学校に入るとガイが書けなくなるなぁ…。
「ここが、俺の部屋か…」
たくさんの部屋が並ぶ廊下。その一室の前に俺は立っている。
クロアが意気揚々と去っていったあの後、クラスを聞き忘れた俺は仕方なしにあの人だかりへと突っ込み、なんとか自分の所属クラスと寮を確認した。
第弐寮・7組・出席番号12番。
(そういや、アッチでも出席番号12番だったな…)
そんなことを思い出しながら、「203」と彫られたプレートのついた扉を押し開けた。
「失礼しまーす…」
顔だけ出して、部屋の中を覗き込む。
荷物はないし、同室のヤツは来ていないようだった。
「…なんだ、まだ来てないのか」
そのことに少し脱力して、重たい荷物を床に置く。
部屋を見渡してみる。
机は二つ、壁に向かって配置してある。
クローゼットは一つだけど、二段ベッドなことも考えて、二人部屋だと判断するのが妥当だろう。
「二段ベッドか、懐かしいな」
アッチでうんと小さい頃だが、兄貴と二段ベッドで一部屋、という時期もあった。
「そのときは俺が上だったっけ」
その頃を懐かしみ、ベッドのはしごに足をかけ、上の段を覗き込む。
そのとき、ドアが開く音が聞えて振り返る。
「あーーーーー!」
「え?」
入ってきたのは目に痛いような金髪の少年。
口をあんぐりとあけ、俺を指差して叫んでいる。
「ダメっス!」
「え、な、なにが?」
少年の眉が不満げにひそめられる。
「ダメったらダメっス!早く其処から降りるっス!!」
「え、あ、ここ?」
慌てて階段から降りて少年と向き合う。
「そうっス、それでいいっス」
少年はそう言うと、一目散にはしごへと駆け寄り、上の段へと荷物を持ったまま上っていく。
「ここは俺が貰い受けたっス!」
「あ、あぁ…」
ふん、と胸を張ってふんぞり返るあの少年は、どうやら二段ベッドの上段がご所望のようだ。
その様子がなんだか可愛らしくて、思わず微笑んでしまう。
「あぁ、いいよ。俺は下段でいいからさ」
「ふぇ?いいんスか?」
「うん」
「…」
ベッドの上から少年が、青い瞳でジッと俺を見つめてくる。そして…
「アンタ…」
「ん?」
「っちょぉぉぉー!イイ人っスね!!」
少年はそう言うと、ピョンと身軽にベッドから飛び降りて、俺の目の前に立つ。
「感動したっス!ベッドの上段を無償で譲るだなんて、アンタ神様みたいに心広いっス!」
「そ、そうか?」
「そうっス!!感激したっス!」
「あ、ありがとう…」
その言葉通り、少年は目をウルウルと潤ませて、俺の両手を握り締める。
「俺はククリ=エルマーっス!普通科第弐寮7組、出席番号16番!親父がアルノード軍陸戦部隊で働いてるっス!!これからよろしくお願いするっス!!」
ぶんぶんと振られる両手の動きに合わせて視界がぶれて気持ち悪い…。
「お、俺、俺は7組、出席番号12番、ハル=アルエルド、です」
「同じクラスっスか!?そりゃあ奇遇っス!なおさらよろしくお願いするっス!!」
「わ、わか、分かったから、手離してくれ!!」
「おっと、これは失礼っス」
俺の悲痛な叫びに、ようやくククリは俺の手を離してくれた。
「それで、ハルのご両親は何をしてるっスか?」
「俺の両親?」
その言葉に、パッとガイとクロアの顔が思い浮かぶ。
が…。
(実の子でもないし、ガイの立場もあるしな……言わないほうが、いいよな)
そう思い、当たり障りのない嘘を言うことにする。
「俺のうちは全然たいしたこと無いよ。父さんの憧れで無理やり軍学校いれられたけど、それだけ」
「そうなんスか?じゃあ事務員さんとかなんスかね?」
「あぁ、そうなんじゃないかな。実は、父さんが何してるのか詳しくは知らないんだ」
ハハハと笑ってごまかす。…うーん、笑ってごまかす癖、直ってないな、我ながら…。
「でも、ハルは武術習ってるっスよね?」
「え?」
ククリの視線が俺の両手に注がれる。
「さっき握ったとき分かったっス。ハルの手に出来たまめの痕とか、半端じゃないっス。きっと俺よりよっぽどキツイ特訓してきたっス。それくらい、分かるっス」
「そ、うなんだ…」
正直びっくりした。手を握っただけでそんなに分かるだなんて…。
とぼけた顔して、案外やるな、こいつ。
自然と、口角が上がる。
「ま、同室のヤツにまで隠してもしょうがないか。
父さんはどうだかしらないけど…入ったからには、俺、半端する気ないんだ。
勉強も、武術も何もかも。出来る限りの努力をして、取れるものならトップをとる。
そのつもりでいるから」
突然の俺の宣言に、ククリはきょとんとした顔をした後、破顔する。
「なんっスかそれ!すっげぇカッコいいっス!!ハル、ものすごいカッコいいっス!!
憧れるっス!!!」
そしてまたガッシリと両手を握られる。
「俺、ハルみたいな渋くていかしてるイケメンと同室になれて、すっげぇ嬉しいっス!!
お願いっス、俺と友達になってくれっス!!!」
キラキラと光る、無垢な瞳で俺をみるククリ。
「…お前の目、綺麗だな」
「ふぇ?」
俺がそう言うと、なぜだか少しククリの顔が赤くなる。
「ていうか、今更「友達になってくれ」?同室になった時点で、俺たち友達だろ?」
「……は、ハルって、きっと女たらしっスね…」
ぽつりと。唐突に、ククリが零すように言う。
「な!ガ、じゃなくて、父さんと同じこと言うな!俺の何処がたらしなんだ!!」
「俺が女だったら、ちょっとときめいてたっス…」
「なんだそれ!えぇい、皆して俺をなんだと…!!友達宣言撤回だ!!」
「ダメっスー、それは受け入れられないっスー。もう俺はハルの無二の親友に決まりっスー」
「ていうか、いい加減手を離せぇーーー!!!!」
こうして、学校に入って一日目。俺にとって今後一生の付き合いとなる「無二の親友」ができたのだった。
次の朝。
俺たち新入生は前日に配られた制服を纏って、だだっ広い講堂に集合していた。
「ガ…父さんの話だと、一学年500人くらいって言ってたんだけど…、コレ、絶対それ以上いるよな」
クラスごとに二列に並ぶなか、俺の隣に並ぶククリに声をかける。
「今年は特に新入生が多いって話っス。確か、一クラス30人くらいで、全20クラスだから……600人は居ることになるっスね」
「6、00…ね」
一学年600人て。それで八学年だろ?
(うっわ、邪魔くさ…)
俺、人多いところ苦手なんだよなぁ…。でも、一クラス30人てのは、少ないほうか?
「それで、これって何で集まってるんだ?」
「普通に考えて入学式っス」
「あ、そっか」
「普通に考えれば分かるっス」
「…なんだか、言葉に棘ないか?」
「ないっス。気のせいっス」
「……」
絶対嘘だ。コイツ、まだ俺が朝食のソーセージやらなかったこと怒ってやがる。
ていうか普通に俺の分なんだから、俺が食べてなにが悪いって言うんだ。
「…あれ?なぁ、ククリ。あそこの列だけ、制服違わない?」
ふと目にはいった一団を指差す。
俺たち一般の生徒の制服は、黒いブレザーに青いネクタイ。
最初は何が違うのか分からなかったけど、よく見るとその一団のネクタイは色が赤だった。
「あぁ、あれは魔法科の生徒っスよ。今年は…人数少ないっスね。18人しかいないっス」
「あれが魔法科…」
ということは、クロアがいるということか。
ちょっと探してみる…が、見つからない。
どっかには居るんだろうけど、俺たちと魔法科の間には何十人も人がいるし、クロアはちっさいから余計見つけづらい。
(ま、いつかは会えるからいっか)
「魔法科…憧れるっス。俺も魔法の才能があれば入りたかったっス…」
「お前、憧れの対象多くない?」
「夢を多く持つのはいいことっス!」
「そうですか…」
「それに、魔法科は毎年エリート集団と呼ばれるにふさわしい成績優秀者がなぜだか集まるっス!普通科・魔法科合わせての学術・武術成績でも、トップ10は大体魔法科の生徒が占めるとの噂っス!!」
「エリート集団、ねぇ」
普段のクロアを思い浮かべても、とてもじゃないがエリートという像とは結びつかない。
が、あれでもちゃんとしたお嬢様だし、魔法の才能は俺が一番身に染みている。
(ま、頑張れよ、クロア)
彼女がいるであろう方向に向けて、心の中で祈る。
それからしばらくして、不意に講堂の照明が落ちた。
「ん、なんだ?」
「入学式が始まるんスかね?にしても、やけに雰囲気あふれる感じっス…」
さっきまでガヤガヤうるさかったが、辺りが暗くなったことで自然と周りの声も落ち着いてくる。
そして完全に雑音が無くなったそのとき。
講堂のステージが一際明るいライトで照らされる。
その光の中、高らかに靴音を響かせて、一人の女生徒が長い藍色に輝く髪をなびかせて、ステージ中央へと歩いてくる。
―――立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花―――
そんなフレーズが頭をよぎる。
『あー、テステス、あ、あー』
その人はマイクの前に来ると、ポンポンと何回かマイクを叩いて音が出ることを確認してからスッと息を吸って、話し始めた。
『新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
本来、今日この場に立つのは校長先生のはずでしたが、突然のご病気とのことで生徒会長である私、アルフィリア=リーンが代わってご挨拶させて頂きます』
講堂に入っている皆が、彼女の言葉に聞き入っていた。
透き通るように、染みるように、美しい声。
うっすらと笑みを浮かべる、光の中の彼女は、まるで天使か何かのように俺には見えた。
『本日から皆さんは、ここエイファン第弐學園の生徒となり、将来優秀なる軍人として、未来を羽ばたく礎をここに築いていくこととなります。
これからの日々は、決して楽の出来るものではありません。先生方も、血を吐くような努力を求めてくることでしょう。しかし、そうして得たものは必ずや、皆さんの誇りとなり、力となり、この国の未来を支える柱となります。皆さんは――――』
突然、そこまでスラスラと言葉を発していた彼女の口が止まった。
そしてステージ脇を見て、其処にいるであろう誰かに向かって何か言っているように見える。
「どうしたんだろうな?」
「さぁ…なんか、誰かと話してるみたいっスけど…」
会長と誰かの話し合いはまだ続いている。それにつれ、彼女の表情は硬くなり、新入生はざわざわとにわかに騒ぎ始める。
「うるさいな…さっさと終わらないかな、コレ…」
「…あ、会長がコッチ向い『あーもう、いいわよ!アンタの言うことなんておとなしく聴いてた私がアホだった!!』…ふぇ?」
突然の大声に、キィンとマイクの異音が講堂に響く。
『大体私はこんなありふれたカッチカチの挨拶なんてしたくないっていったでしょ?私がこんなめんどくさいの引き受けた理由、アンタわかってるんだったら黙ってなさいっての』
ステージ脇の誰かと話していた会長が、再び俺らのほうを見る。
『ってことで、真面目で優秀な生徒会長のお言葉は終わり!エミリ、ライト用意!!』
『は、はいぃ!』
会長の呼びかけに、どこからか弱弱しい少女の声が聞こえてきた。
………なぁんだか、嫌な予感がするんだよな。
「なんだかすごい面白い予感がするっスね!」
隣のククリは楽しげに目を輝かせている。俺の悪い予感に狂いは無いようだ。
『はい、じゃあ簡潔に用件を述べます!私はこの学校の生徒会長、アルフィリア=リーン。
7年15組、第参寮の寮長も勤める、すっごい偉い人だから覚えておくように!!』
今、壇上に立っているのは、俺が天使のようだと思った人ではない。
腰に手を当て、野望ギラギラの目で俺らを見ている。
―――唯我独尊、傍若無人―――
今度はそんなフレーズが頭をよぎった。
『んで、今からとっても大事なこと言うから、心して聞くように!』
そしてマイク越しに、彼女が深く息を吸う音が聞えた。
『まず、第壱寮、1年1組、ジャック=エドワルドくん!』
「お、俺!?」
少し遠くの方から驚いた声が聞こえた。
誰かと思ってその方向を見ると、探すまでも無くバっと天井のライトが彼を照らして実に見つけやすかった。
……ほら、なんか、始まった…。
『次!トム=ジェイソンくん!』
「うわ!!」
また一人、ライトで照らし出される。なんの罰ゲームだ。
『そして、アルフ=ダーヴィッシュくん――――』
そしてその後も次々と男子生徒の名前が読み上げられ、ライトに照らし出される。
「な、なんなんだよ、これ…入学式はどうなった…」
「うーん…分からないっスけど、今のところ名前呼ばれてるのは全員イケメンみたいっスね」
「うん?…ん、まぁ、そうかもな…」
「………」
「…な、なんだよその目は。俺の顔に何かついてるのか?」
「いやぁ、別に…ただ、ハルって幸薄そうな顔をしてるっスから…」
「あ?馬鹿にしてんのか?喧嘩なら買うぞ?」
ゴキリと拳を鳴らす。
「そういうわけじゃないっス、けど……」
『そして―――』
その瞬間、ちらりと壇上をみたククリの視線とアルフィリアの視線がかち合った。
隣に居るハルは気付いていない。
「…ご愁傷様、って感じっス…」
「は?」
『ハル=アルエルドくん!以上の13名は、このあとLHRが終わり次第、魔法科塔6階、生徒会本部まで出頭するように!異論反論は受け付けないわ!!』
その会長の言葉の一秒後、強い光が俺を照らす。
「…はぁっ!?俺ぇっ!!」
俺が叫ぶと、遠くの方で小さく「ハルですってぇ!?」という叫びも聞えた。十中八九、クロアだな。
「ほら、面白いことになってきたっス」
ククリが自分に光が当たらないようにちょっと離れながら、ニヤニヤと俺を見る。
「お、お前はこんなさらし者になるのが面白いとでもいうのか!?」
「クールっぽい顔した友達がなっているのをはたから見る分には面白いっス。アハハハハ!」
「このやろう…!」
あぁ、俺、友達作り間違えたかも。
『んと、これで私が話したいことは終わりかなぁ…。詳しい話はまた後で、ってことで』
「ちょ、ちょっと待てよ!こんなことした理由はなんなんだ!!」
話を区切ろうとした会長の言葉をさえぎり、誰かが叫んだ。
彼は確か…ジャック=エドワルドくんだ。最初の犠牲者。
『は?理由?』
「そうだ!こ、こんな辱めを初日に味わされて、理由も聞かずに黙っていられるか!!」
ジャックくんは顔を赤らめながら叫ぶ。うん、その気持ちよくわかる。現在進行形でライトアップされている仲間として。
『そうね…理由くらい、いっておきましょうか。でもそんなに面白いものじゃないわよ?』
「いいから言え!」
『…ん〜♪そんな顔赤くして、威勢のいいこと言ってるのも、可愛いなぁ♪』
「なっ…!?」
言葉を失うジャックくんをよそに、壇上の会長は優雅に微笑む。
腕を組み、優しげなその瞳で群集を見下ろすその姿は、そのすっとんきょうな発言が無ければなおも天使のように輝いて見える。
『私の目的……それは』
講堂中からつばを飲み込む音が聞えるような静寂のあと。
会長が、いった。
『エイファン生徒会の逆ハーレム化計画よ!!!』
そんな叫びのエコーが聞えるくらい、静まった講堂の中。
未だライトアップされたままの俺は、死にたいくらいの羞恥心にさらされるのだった。
会長はヘンタイだと思います。
あと、Ep4:変身で小説の設定上ありえないすごく恥ずかしいミスを見つけてしまいました。
メイカさんの容姿の記述の際に、「瞳が赤い」と書いてありましたが、あれは完璧にミスです。お恥ずかしい…!
赤い瞳はいないって何度も言ってるのに、さらっといちゃいました。
気付いていらっしゃった方は、本文同様、心の中で訂正してくださるとありがたいです。