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狼の紋章 第一話(アルフィンの事情)

俺は魔法戦士、魔法がへたくそな魔法戦士だ。ただ、剣の腕前はかなりの物だ。魔法使いの証である青いマントの他、皮の鎧、炎の剣のフレームソードを装備する。


フェンディはこの国の王女だ。王族出身な為、魔法学校を出ていないのに、高位の青魔法を使う。しかも、幻の魔法、古代魔法まで使える。王族は独自に魔法を学ぶのだ。彼女は魔力強化されたショートソード、皮鎧を装備しているが、筋はいいのだが剣の腕前には若干不安が残る。


ベルファーレは魔法使いの青魔術はからきしだが、高位の白魔法が使える。もちろん青いマントを羽織るが、3人の中で一番青魔法がへたくそだった。最も4人の中で一番魔法使いらしくに見えるのだが。


アルフィンはバンパイヤだ。そう、アンデットモンスターなのだ。彼女はベルファーレの恋人だったが、先の戦いの敵『リッチ』にバンパイヤにされた。しかし、彼女は普通のバンパイヤでは無かった。バンパイヤに噛まれ、バンパイアになったのでは無く、古代魔法にて人間からバンパイアロードにされた。彼女は人間の頃の記憶と理性を保っている。その為、人間との共存が可能と西の魔女は判断し、我々の仲間となった。


俺達傭兵団は西の森の魔女マリアフリンタの依頼の『リッチ』討伐に成功した。しかし、『リッチ』の正体はベルファーレの父親ファーガソンだった。


ファーガソンには悲しい過去があった。西の森の魔女マリアフリンタと恋仲だった彼は国に仲を引き裂かれ、辺境のエルアラメインで教会で司祭をしていた。


一方、マリアフリンタは仲を裂かれ、西方守護職についた。不老と引き換えに西の森の塔に束縛された。彼女は歳を取らない。だが、彼女のお腹の中には今もファーガソンの子供が宿っているという。不老の彼女は永遠に子供を産むことが出来ないが。


この争いは過去の精算でもあったのかもしれない。それに、歴史は繰り返される。俺の恋人フェンディはマリアフリンタと同様、この国の王女だったのだ。俺達は二人の仲を認めてもらう為、西の森の魔女マリアフリンタに連れられエルアラメイン領シュツットガルト公の居城に向かっていた。彼の力を借りてフェンディの母親の女王陛下に嘆願してもらう為だ。


だが、俺達は最初に先ず、ベルファーレとアルフィンの故郷オーシャスビークへと向かった。アルフィンの両親にベルファーレとの婚約の報告としばしの別れをするためだった。ベルファーレは賢者となり、アルフィンをいつか普通の人間に戻すつもりだ。当分俺達と行動を共にするつもりらしい。俺達の事が心配なのだろう。


オーシャスビークに向かう時に以外な事実がわかった。バンパイアロードのアルフィンはひなたでも、平気だった。バンパイアは太陽光に弱いものだが、彼女はしきりに日焼けを気にしているだけだった。バンパイアロードは下等なバンパイアとは大分違うらしい。オーシャスビークには程なくしてついた。


街に入ると、何人かの街人がアルフィンに気がついた。


「アルフィン無事だったのか!良かった。」


街の人々が皆アルフィンの無事を喜んだ。しかし、その中にアルフィンの親友エリザベスがいた。


「エリザベス、エリザベスじゃないの?あなた生きてたんだ。」


「エリザベスは僕とアルフィンの親友ですよ。でも、父さんは嘘をついてた。アルフィンの友達を酷い殺し方をしたと言っていたけど、無事だったんだ。良かった。」


アルフィンはエリザベスの元へ走っていった。そして彼女を抱きしめた。


しかし、アルフィンは一瞬大きく震えた。そして、エリザベスから離れた。


アルフィンの胸にはナイフが刺さっていた。血がしたたっていた。


「エリザベス!」


「何をするんだ。」


「エリザベスどうして?」


無論彼女はこれ位では死なない、しかし、まずいことになった。アルフィンの秘密が知られてしまう。


エリザベスが冷酷な笑みを浮かべて話し出した。


「アルフィン、いや、あなたはアルフィンじゃないわ。化け物よ。その証拠にあなたはこんな事じゃ死なないわ。あなたが死んだら、あなたはアルフィン。でも、死なないなら、あなたは化け物よ。


あなたが西の森で化け物にされた事はわかっているわ。私はかろうじて、助かったけど。


ベルファーレ、あなた達もしばらく監視させてもらうわよ。」


「エリザベス、いや、リズ、何を言っているんだ。アルフィンはアルフィンだよ。君たちはあんなに仲が良かったじゃないか?」


「確かにアルフィンとは仲が良かったわ。でか、その娘は本当にアルフィンなの?普通、ナイフで刺されて平気なもの?その娘、死なない様よ。」


俺達は困った。確かにアルフィンはバンパイアロードだ。もう、人間では無い。だが、彼女は人を傷付けた事は無いし、心は昔のままだ。しかし、それをどう説明するば良いのだろう。


俺達は何人かの若者達に連行された。そして、悪人を収監する建物に閉じ込められた。アルフィンも何処かに連れて行かれた。


牢屋で俺達は前後策を話していたが、マリアフリンタが酷く、寒がった。


「本当、この部屋寒いわねぇ。何故煖炉を作ら無いのかしら?」


いや、普通、牢屋に暖房は無いだろうと突っ込みを入れたい何処だ。


すかさず、フェンディが突っ込む。


「マリアフリンタ、育ちが良過ぎるのよ。皆、こんなものよ。」


マリアフリンタがちょっと、不快そうに抗議する。


「ずるいわ自分だけ庶民派になって。自分だって王女様じゃない。私は今は違うわ。」


「そんな言い方ずるいよ。ここ半年あちこちの街を見たけど、みんな大変よ。たとえ、暖炉があっても、薪を買うお金がない家庭が多いわ。」


「そうなの?エルアラメインではそこ迄ひどくないわよ。多分この処の増税で大変なのね。」


2人がとりとめの無い話を始めるが、俺はそれを遮った。誰か来た!


「ベルファーレ、ベルファーレは何処なの?」


「エリザベスのお母さん!どうしたんですか?」


ベルファーレがエリザベスのお母さんと話し始める。一体どうゆう事なんだ。


「あれはエリザベスじゃ無い。何かおかしいの。それに昨日からバンパイヤが出るという噂なの。


あなた達は早くお逃げ。このままじゃ、大変な事に。」


「アルフィンはどうなっているのですか?」


「アルフィン!可哀想に。」


エリザベスのお母さんは泣き出した。大変だアルフィンに何かあった。


「お母さん、僕達をここから出してください。そしてアルフィンの処へ。」


「わかったわ。でも、悲しむ事になるわよ。覚悟してね。ベルファーレ、本当にごめんなさい。」


俺達はエリザベスのお母さんに連れられて、街の中央公園に向かった。


そこには変わり果てたアルフィンがいた。


風に揺られ、一人の女性が吊るされていた。そして、その胸には木の杭が打ち込まれていた。


「アルフィン!」


ベルファーレがが叫ぶ。


俺達は急いでアルフィンを降ろした。


アルフィンは動かなかった。当然だ胸に杭を打ち込まれてはさすがのバンパイヤロードも。。。


「ぷは」


アルフィンが突然息をした。皆驚いた。


「さすがに胸に杭はきついよ。無理。」


いや、普通、無理では済まないと思うが。。。


「ベルファーレ、助けに来てくれたの?ありがとう。」


「アルフィン生きていたの。あなた本当にバンパイヤ?」


エリザベスのお母さんが驚く。俺は説明をした。


「彼女は西の森のダンジョンの魔物にバンパイヤにされたんです。しかし、彼女は一度も人を襲っていない。心は以前と変りませんよ。俺達は一緒に行動していますが、誰も襲われません。彼女は安全です。」


「じゃあ誰がバンパイヤなの?」


突然声がした。見るとたいまつを持った街の人々が出て来た。周りは既に夜だったので、接近に気がつかなかった。


「それは。。。」


俺は言葉に詰まった。確かにこの街にはバンパイヤはアルフィンしかいない。だが、アルフィンが人を襲う訳が無い。そもそも、先程まで、杭を胸に打ち込まれていた。


いや、彼女はまさか、俺達がいない間に人を襲ったのか?


「バンパイアはあなたよ。エリザベス」


アルフィンが切り出した。そうか、確かに彼女が西の森でバンパイアになっていたのなら、辻褄が合う。


「エリザベス、確かに私はバンパイアよ。でも、あなたもバンパイアよ。だって、あなたから美味しそうな血のにおいがたくさんするのだもの。一人や二人じゃ無いわ。」


「何を言っているの、よりにもよって、私をバンパイア扱いなんて。何処に証拠があるの?あるものなら言ってごらんなさいよ。」


「証拠なら簡単だわ。ガウディさん、ライティングをお願いします。」


俺は直ぐにライティングの呪文を唱え始めた。アルフィンの考えは直ぐに分かった。そう、バンパイアなら俺のライティングに苦しむはずだ。エリザベスを一度も昼間に見ていない。それに例えバンパイアロードだとしても何らかの反応があるはずだ。アルフィンも以前はこんな寒い日に日焼けを気になどしなかった。俺のライティングを突然浴びれば恐らく反応があるはずだ。


「ライティング!」


「何故、ライティングに呪文詠唱がいるんだ?」


街人が突っ込む。うるさい。俺は魔法が苦手なんだよ。魔法使いだけど。


俺のライティングは普通の何倍もの大きさの光球を発生させる。


効果はてきめんだった。街人の何人が、苦しみ、灰になった。そして、エリザベスは苦しみ出した。そして、彼女の肌に火傷の跡が出た。


間違い無い。彼女はバンパイアだ。


エリザベスは顔を押さえ。周りを見渡す。もちろん、あたりの街人は彼女から後ずさる。


「待って、違うの」


「違わないわ。あなたはバンパイアなのよ。私と同じ、バンパイアなのよ。」


アルフィンがとどめとも言える言葉を投げつける。エリザベスの火傷はそうしているうちに治りつつあった。だが、それは彼女が人ならぬ者であることの証明だった。


街人達から、屈曲な男達が槍を持ち出てくる。この街の自警団だ。どの街にも彼らの様な男達がいる。こんな時の為に、俺はベルファーレに声をかける。


「ベルファーレ、アルフィンには見せるな」


「はい」


ベルファーレも何が起こるのかを察した様だ。俺はフェンディを抱きしめて、エリザベスが見え無い様にした。


男達は槍を持ち、次々とエリザベスを串刺しにした。凄惨な光景だった。


フェンディやアルフィンには見せたくなかった。


槍が高々と上げられた。槍の先にはエリザベスが串刺しになり、夜空にかがげ挙げられた。


だが、エリザベスはまだ、生きていた。血だらけとなっても、彼女は滅び無い。夜空に彼女の甲高い声が響く。


男達はさすがに動揺する。当然なのかもしれない。


そして、エリザベスのお母さんの娘を呼ぶ悲鳴が上がる。


「やめて。やめて下さい。エリザベスはまだ、生きている。」


エリザベスのお母さんは男達に懇願する。だが、彼女に気をとられて男達は槍を落としてしまう。


まずい。


エリザベスは槍をへし折ると近くの男の喉笛に噛み付いた。エリザベスの喉が鳴る。血を飲む音だ。


喉を鳴らす音がした。確かめたくはなかったがアルフィンだ。彼女は血を飲むバンパイアを始めて見る。彼女は大丈夫なのだろうか?


「誰か剣を貸してください。」


アルフィンが叫ぶ。誰かから剣をもらうとアルフィンはエリザベスと戦い始めた。街人達は皆逃げ始めた。屈強な男達さえ逃げ出した。


「何故、あなたは光に平気なのよ?何故、あなたは普通にベルファーレと一緒にいるの?どうして?あなただって、あの化け物に攫われた筈なのに。あなたはいつもそうよ。殊勝な顔して、いつも良い思いをして。私がどれだけ、惨めな思いをしてきたか。 !」


「何を言っているの私だって、化け物にされたし、あなただけを惨めな思いにさせた覚えは無いわ。むしろ、活発なあなたがどれだけ羨ましくて、自分と比べて惨めな思いをしたか!」


「じゃ、あなたは私がベルファーレを好きな事を知らなかった?知っていたのに平気でベルファーレと付き合っていたんじゃないの?」


「違う、私はあなたが私達の事を祝福してくれているものと。」


「嘘をおっしゃい。ベルファーレとの楽しいひとときを楽しそうに話して。そして、私を傷付けていたのよ。」


「違う。違う。私は。」


アルフィンは泣き出していた。


アルフィンは泣きながら、以外な事を言った。正直、素直で、人の良い彼女には信じられない言葉だった。


「そうよ、私はあなたに勝ったと思ったわよ。あなたが苦しむ事はわかってたわ。あなたをいたぶっていたのよ。」


「白状したわね。それが本当のあなたよ。おとなしそうにして、本当は醜い心を持っているのよ。」


「そうよ。私だって、人間だもの。それ位のいじわるをするわよ。だって、他の事では、何も勝て無いんだもの。」


「今は私と同じ化け物じゃないの。」


「そうよ。あなたと同じよ。」


「やっと、認めたわね。一度でいいから、あなたから醜い言葉が聞きたかった。私だって、わかってたわ。化け物の私がこれからどうなるか。早かれ、遅かれ滅ぼされる。」


突然、エリザベスとアルフィンが戦いをやめる。


エリザベスは抵抗しない。


「さあ、白魔法を使いなさい。白魔法の攻撃魔法なら簡単に私を滅ぼせるわ。」


ベルファーレが白魔法を唱え始める。


「あなたじゃないの。アルフィンがするのよ。お願いだからそうして。


あの化け物に攫われた時、ダンジョンで、私は知らない男に犯された。


その後はバンパイアに噛まれた。


そうして、最後はあの化け物に殺されながら犯された。私の身体は腐っていったわ。あのまま、死なせて欲しかった。


でも、私はしばらくして、生き返った。自分が化け物になったのも直ぐに気がついた。


アルフィン、今の私はあなただったかもしれないのよ。でも、いつも、こんな思いをするのは私なのよ。


だから、私を殺すのはあなたよ。あなたには私を殺す責任があるのよ。」


アルフィンは泣きながら呪文を唱えた。そして聖なる光がエリザベスを包む。


エリザベスは最後にさよならと言った様に思えた。


エリザベスが灰となり、消え去ると、マリアフリンタが話した。


「彼女はバンパイヤよ。このままだと何れ復活するわ。フェンディ」


「嫌です。私には出来ない。」


フェンディは泣いていた。


「私には出来ない。あの娘は何処にでもいる娘よ。永久に消し去るなんて私には出来ない。」


「そうね、あなたばかりに辛い思いはさせられないわね。」


マリアフリンタは又、デリートの呪文を唱え始める。俺はただ、呆然としていた。だが、アルフィンとベルファーレが嘆願した。


「止めて、エリザベスを消さないで!」


「お願いします。彼女を消さないで!」


マリアフリンタは呪文の詠唱を止めた。そして説いた。


「彼女は再び甦って又、人々を傷つけるわよ。あなた達にその責任を取れるの?」


俺はマリアフリンタの言っている意味が判った。俺は以前、北の国で、以前いた傭兵団でバンパイヤと戦った。今日と同じ様に街で追いつめられたバンパイヤが街の自警団に滅ぼされた。凄惨な出来事だった。バンパイアは若い女性だった。だが、情け容赦無く、自警団は彼女を串刺しにした。今日の様に彼女の母親が自警団に泣きついた。娘を助けてくれと泣いて嘆願した。一瞬の隙をついてバンパイアは逃げると最初に襲ったのは彼女の母親だった。あの時も俺は呆然と見ていた。2人のバンパイヤが凄惨に滅ぼされていった。バンパイアを滅ぼす事は、倒す方の強い精神力を要する。バンパイヤに甘い考えは通用しない。

アルフィンだって何時エリザベスの様になるのか判らない。今は只、彼女を信じるだけだ。


「彼女は白魔法が使えたのです。ベルファーレから教わった魔法を私は彼女に教えたのです。でも、彼女は白魔法を私に使わなかった。彼女は私に殺される為にあんな事を。みんな、私が悪いのです。」


更にベルファーレが訴える。


「マリアフリンタさん。彼女は理性を持っていたのでは無いかと思います。今回バンパイヤにされたのは男ばかりでした。バンパイアは若い女性の血を好むはずです。しかし、彼女は男の血しか飲んでいないです。理性を持って悪事を働いたのでは無いかと思います。彼女はバンパイヤだったけど普通の人間の様に悪事を働いたのでは無いかと思います。もし、今度、復活したら、必ず僕らが全うな道に誘います。だからお願いです。」


確かに奇妙だった。エリザベスが自警団から逃げた時、一番近くにいたのは彼女の母親だった。だが、彼女は襲うのが容易で近い彼女の母親では無く、自警団の男を襲った。彼女は理性を持っていたのかもしれない。ただ、彼女を襲った不幸があまりにも大きすぎたのか?


「彼女を噛んだのはバンパイヤロードかもしれません。バンパイアロードに噛まれたものもやはり理性を残すものがいます。隣国のバンパイヤロードが花嫁をもらう話を聞いた事があります。バンパイアロードは花嫁をバンパイヤにしますが、その娘は理性を失わなかったそうです。もし、エリザベスがそうなら。」


「確かめさせて下さい。」


結局マリアフリンタはデリートの呪文を唱えなかった。だが、こんな事を言った。


「昔、ファーガソンが言っていた。人は生まれながらの聖者も罪人もいない。罪人の何処が他の人と違うのか?彼は普通の人と罪人もたいして差なんて無い、等しく全ての人が神の子なのだと。」


俺はエリザベスが何れ俺達の前に現れる事を確信した。バンパイヤの復活にそれ程時間はかからない。


エリザベスもファーガソンも神の子だった。2人の何処が俺と違うのだろうか?


エリザベスとアルフィンの運命が逆だったらどうだったのだろう?


事実あの素直で純朴そうなアルフィンの心にも醜い部分があった。


その日、フェンディが言った。


「私にも醜いところがたくさんあるわ。でも、嫌いにならないで、それも含めて愛して」


俺はフェンディの良いところばかりを見て来た。でも、確かに彼女にも醜い部分があるだろう、人間なのだから。俺なんて醜い部分ばかりだ。フェンディこそ俺を嫌いにならないだろうか。


今日は風が止んでいた。エリザベスの心が休まったかの様だ。

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