エルアラメインの魔女第五話(永遠の命)
アルフィンはバンパイヤだ。そう、アンデットモンスターなのだ。彼女はベルファーレの恋人だったが、先の戦いの敵『リッチ』にバンパイヤにされた。しかし、彼女は普通のバンパイヤでは無かった。バンパイヤに噛まれ、バンパイアになったのでは無く、古代魔法にて人間からバンパイアロードにされた。彼女は人間の頃の記憶と理性を保っている。その為、人間との共存が可能と西の魔女は判断し、我々の仲間となった。
いよいよ最後の階だ。そこにはアンデッド最強の『リッチ』がいる。俺達は気を引き締め遂に最後の階へと徒を進めた。
「呼ばれて、飛び出てじゃじゃじゃじゃーん。」
ほのかな光を放つ骸骨が陽気に出て来た。正直、驚いた。あまりにもふざけている為だ。
「おや、アルフィン、やはり、裏切ったか、出来損ないが。おやおや、お前はわしの不肖の息子ベルファーレでは無いか。今日は出来損ないに良く会う日だ。」
「黙れ、父さん。いや、化け物。よくもアルフィンをバンパイアにしたな。
許さない。」
「許さないとどうするのだ。まさか、わしに倒せるとでも思っているのか?それとも、降参して、わしのしもべになるか?今なら特別にゾンビにしてやるぞ。喜べ。」
「お父様、ベルファーレは立派になりました。仲間も素晴らしい人ばかりです。お父様でも私達に勝て無いと思います。」
「アルフィンか、生意気な。やはりバンパイアにしないで犯して殺せば良かった。お前は生娘だったから、バンパイアの材料にしたが、残念だ。そういえばお前の友達は生娘ではなかったぞ。ちょうど良いから犯したんだが、している最中から、娘が生きたまま腐っていくんだ。まぁ、事は済んだが、いつの間にか死んでいた。全く、勝手に死におってもう少し楽しみたかったものだ。そうだ、アルフィン、お前は死なないのだったんだな。ちょうどいい、後でたっぷりかわいがってやるぞ。」
皆、あまりのおぞましさに吐き気がした。フェンディは顔色が悪い。
「いいかげんにしなさい。あなたは本当に自分がしている事が判らないの?」
魔女が叫ぶ。あまりの事に怒りが収まらないのだろう、皆同じ気分だ。
「何をって、何をだ?」
「人を殺したり、辱めたりする事よ。」
フェンディが叫ぶ。
「判らないなあ。判らないんだよ。たかが皆、死ぬ位で必至になるんだ。」
「可哀想に。あなたには生がないから。」
「可哀想。わしが、そんな馬鹿な。」
突然『リッチ』の口調が変る。怒ったらしい。
「戯れ言はこれ迄だ。さあ、お前達、まとめて殺してやろう。」
俺達は戦闘態勢に入った。『リッチ』にはバンパイヤが2人警護についていた。『リッチ』の主な攻撃は魔法だから、前衛として用意しておいたのだろう。
「『リッチ』は魔法が中心の戦いをするわ。ガウディとアルフィンさんは前衛に、ベルファーレはアーマークラスを上げて、フェンディさんは私と魔術防御の呪文よ。」
俺とアルフィンは目の前のバンパイヤと切り結ぶ。幸いバンパイアの剣術はアルフィンと同レベルだ。俺の敵では無い。最も、いくら切っても決着は付かないが。
程なくしてベルファーレの魔法が完成する。アーマークラスが上がる。そして、フェンディと魔女の魔術も完成する。これで、魔法にも物理攻撃にも耐性はばっちりだ。
しかし、『リッチ』の魔法詠唱が終わった。気になっていたのだが、『リッチ』魔法詠唱は一度も聞いた事が無い呪文だった。俺は一抹の不安を感じた。
「ガンズンロウ」
『リッチ』の聞いた事の無い呪文が俺達を襲う。
「!」
『リッチ』の魔法は俺達の2重の魔法防御を突き抜けて、襲いかかる。俺はフェンディを咄嗟にかばった。しかし、『リッチ』の魔法は容赦無くフェンディも痛めつける。
「どうだ。これが古代魔法だ。お前達の青魔法とは桁外れだろう。
俺達はずたずただった。見渡すと、魔女とベルファーレ以外はかなりのダメージを負った。
魔女は桁外れの魔力で『リッチ』の魔法をはねのけたのだろうか?ベルファーレは何故何ともないんだ。
「ガウディとアルフィンさん頑張って前衛を守って。ベルファーレはフェンディさんに回復魔法を、フェンディ、何でもいいから攻撃魔法を!」
俺は歯を食いしばって再び剣を握った。体のあちこちから血が噴き出し、痛みが走る。何とかバンパイヤと切り結ぶ、バンパイヤの腕が緩いのがせめてもの救いだ。しかし、このままでは一番攻撃力のあるベルファーレの攻撃魔法が使えない。まずい。
程なくして、ベルファーレの魔法でフェンディが回復する。ベルファーレは次に俺に魔法をかけてくれそうだ。
アルフィンは相変わらず凄まじい戦いぶりだ。バンパイヤ同士の戦いはお互い避けないで戦う、アルフィンも敵のバンパイヤも傷だらけだ。
「ガンズンロウ」
又、同じ呪文だ。だが、この呪文は『リッチ』からでは無かった。フェンディからだった。
「何だと。」
『リッチ』が驚く。
「小娘、何故お前が古代魔法を使えるのだ。まさか。」
「ティルトウェイト」
続いて魔女の魔法が炸裂する。『リッチ』の比では無い威力だ。そうか森の魔女も古代魔法が使えるんだ。それも、より上位魔法をだ。だが、何故フェンディは古代魔法を知っているんだ。
バンパイヤはほぼ戦意を喪失していた。しかし、これだけの攻撃魔法を浴びてもバンパイアも『リッチ』も消滅しなかった。信じがたい撃たれ強さだ。
フェンディは再び呪文詠唱に入った。又、古代魔法ガンズンロウの呪文だ。魔女は又、上位の古代魔法を詠唱し始める。
俺とアルフィンはバンパイアを放っておき、『リッチ』に迫る。奴は呪文詠唱をする余裕が無い。
いくらかのダメージを『リッチ』に浴びせた後、ベルファーレの呪文が完成する。俺の身体を回復の呪文が包む。
アルフィン下がれ、2人の魔法が来るぞ。フェンディの魔法が完成するのを確認すると、俺達は一旦下がった。
「ガンズンロウ」
フェンディの攻撃魔法が発動する。
「ティルトウェイト」
続いて森の魔女の魔法が完成する。
『リッチ』を続けざまに強力な魔法が襲う。すかさず、『リッチ』に俺のフレームソードが、そして、ベルファーレの聖なる杖が『リッチ』に叩き込まれる。『リッチ』はもうほとんど動かなかった。
「本当に変わったわね。ファーガソン。」
「君は変わらないね。」
「!」
魔女と『リッチ』が話し始める。二人は知り合いなのか?
「いつ迄狂ったふりをしているの?もう、正気に戻っているのでしょう。だって、あなたティルトウェイトを使わ無いんだもの。わかるわよ。」
「あぁ、今は正気に戻っている。だか、いつ迄持つのか自分でもわからない。さっき、アルフィンに言ったおぞましい行為は事実だ。わしはおぞましい亡者だ。滅ぼしてくれ。」
「何故、不老不死の道を選んだの?あなたもこうなる事は予想が出来たのでわ?」
「それは、あの日、君を見てしまったからだ。懐かしいあの頃と全く変わらない君をエルアラメインて見てしまったからだ。わしは子に家出され、妻には先立れた。だが、妻との思い出がわしを支えてくれた。良い女だった。皆、司祭のわしを頼り、懺悔する。
わしは何時の頃からか、人の為に生きる事に疲れていた。」
「ベルファーレ本当にすまない。謝っても贖罪出来無い事は承知している。たが、謝らせてくれ、お前への仕打ちとアルフィンさんへの非道を。」
「わしは人々の苦しみを聞くのが辛かったんだ。だから、お前にあたったのだ。わしを軽蔑しろ。お前の方がわしよりよっぽど立派だ。」
「父さん」
「何故、私を見て不老不死の道を選んだの?私は不老だけど、不死では無いわ。もう数年で命が尽きるわ。」
「復讐だよ。君とわしの仲を割いた国への復讐だよ。国は好きあっていたわしらを引き離した。そして、君は罰を受け、不老と引き換えに魔女の塔に束縛された。何故わしらだけがこの様な思いをしなければならないのだ。」
「ファーガソン、私には婚約者がいたの、私があなたを好きになったからいけないの。ごめんなさい。私の罰は一生塔に束縛されるだけではなかったのね。」
「わかっていても、わしは自分を止められなかったんだ。最後に君と会えて本当に良かった。ああ、だが、そろそろ、わしを滅ぼしてくれ。いつ迄ももたん。君なら、デリートの呪文を知っているのだろう?このままでは、わしはいずれ復活してしまう。又、おぞましい化け物に戻りたくない。いや、人々に苦しみを与えたくない。頼む。」
「フェンディ、お願い。」
「はい。」
「何故、その娘が?そうか、古代魔法はそうゆうことか。若者、お前はわしらの様になるな。その娘を離すな。」
「ベルファーレ、わしの代わりに母さんの墓守を頼む。」
「アルフィン、すまなかった。ベルファーレを頼む。」
「マリアフリンタ。お前とは本当に縁が無かったな。お前は天国だが、わしは地獄だ。二度と遭う事は叶うまい。これも運命か。良い思いでをありがとう。」
「母さんや、ベルファーレは立派に育ったぞ。わし等よりきっと立派な司祭になるぞ。」
「ああ、わしのicloudのデータが消えていく、わしは消えるのか?だが、これで、いい。わしは罪を犯し過ぎた。」
フェンディの聞きなれない呪文と共に『リッチ』は消えていった。
勝ったのか?だが、謎が増えた。フェンディは何者なんだろう。俺のただの幼なじみではなかったのか?
この日は何も言わず、西の魔女の塔に帰った。
この戦いは俺達に多くの物を奪った。恐らく、魔女は後で色々話してくれるだろう。『リッチ』ベルファーレの父ファーガソンの事、そして、フェンディの事を。しかし、この日は皆、疲れ果て、眠りこんだ。
ファーガソンの言葉が気にかかった。お前達はわしの様になるな。
一旦、どうゆう意味だろう?
だが、いくらも考えられないうちに眠りこんでしまった。
塔の上には3つ目の月が浮かんでいた。




