エルアラメインの魔女第四話(バンパイヤロード)
俺は魔法戦士、魔法がへたくそな魔法戦士だ。ただ、剣の腕前はかなりの物だ。魔法使いの証である青のマントの他、皮の鎧、炎の剣のフレームソードを装備する。
フェンディは魔法が得意な魔法戦士だ、独学で魔法を学んだ為、魔法使いの証である、青いマントを持たない。魔力強化されたショートソード、皮鎧を装備しているが、筋はいいのだが剣の腕前には若干不安が残る。。
ベルファーレは僧侶の白魔法が使える魔法使いだ。ただ、魔法使いの青魔術はからきしだ。もちろん青いマントを羽織る。一見、一番魔法使いらしく見えるが3人の中で一番青魔法がへたくそだった。
西の森の魔女
西の森の伝説の魔女だ。今回のミッションの依頼人でもある。
彼女は近くのタンジョンに住み始めた邪悪なアンデッドモンスター『リッチ』討伐を模索する。その目的の為、俺達3人を西の森の魔女の居城に呼びよせた。
俺達は魔女の目論見通り、十分な経験を積んだ。そして、『リッチ』討伐に俺達が選ばれた。
だが、俺達にも『リッチ』を倒す理由があった。ベルファーレの恋人のアルフィンが『リッチ』に攫われたのだ。
見捨てるわけにはいかない。
しかも、『リッチ』の正体はベルファーレの父親の可能性もあった。
俺達はアルフィン救出、『リッチ』の正体の確認、そして、たとえベルファーレの父親だとしても、『リッチ』は滅ぼす必要があった。
『リッチ』のダンジョンには簡単に進んだ。魔女からもらったフレームソードはスケルトンやゾンビに絶大な威力を発揮した。
又、フェンディには魔法のピアス、ベルファーレには聖なる杖が西の魔女から与えられた。
これらのアイテムはフェンディやベルファーレの魔力を増大させた。
ダンジョンに入り、最初のボスに出会った。レイスだ。以前は苦労して倒したが、今回は簡単だった。俺のフレームソードには魔力が宿り、レイスに大ダメージを与えられる。
フェンディのショートソードも魔力が宿っているので二人が前衛を務めた。
西の森の魔女は魔法防御を、そしてベルファーレは白魔法の攻撃魔法を唱えた。レイスはベルファーレの魔法で簡単に消え去る。彼は聖なる杖を装備しているので魔力が倍増しているのだ。
「ああ、疲れたわ。久しぶりの戦いは疲れるわ。」
「あの、未だ最初の階ですけど。。。。」
「気にしないで。年寄りにはつらいのよ。」
皆が怪訝な顔をする。当然だ、西の魔女はフェンディといくらも歳が変らない様に見える。
次の階ではスペクターがスケルトンと共に現れた。
これまでと違い複数だ。だが、今の俺達の敵ではなかった。
そして、更に深い階へと進んだ。
その階の住人は西の魔女の居城でも出会ったモンスターだった。
部屋の中心には柩が置かれていた。考える迄も無く、中にはバンパイアがいる。
バンパイアに有効な魔法を知っている俺達にとっては対して脅威ではなかった。しかし、柩が開き、中から現れたのは一人の女性だった。
まだ、若い、フェンディより若いだろうか、しかし、その顔色は青白く生気がなかった。
だが、このバンパイアは
ベルファーレが叫ぶ。
「アルフィン!」
「!」
俺達は愕然とした。彼女はベルファーレの恋人で、おそらく『リッチ』の手によりバンパイアにされたのだ。
俺は心を鬼にして、ライティングの呪文を唱え始めた。
「ガウディ止めてくれ!」
「ガウディ止めて!」
西の森の魔女は何も言わなかった。彼女は知っているのだ。バンパイアというものを。バンパイアにされた者は元の者とは他人と思わなけばならない。バンパイアは不死と引き換えに何かを無くすのだ。バンパイアになって自らの肉親に襲いかかるバンパイアを何度も見た。彼らからは理性が喪失するのだ。それがバンパイアの最も恐ろしい所だ。過去、たった一人のバンパイアにより壊滅した地方がいくつある。バンパイア撲滅は絶えず、国策だった。
しかし、目の前のバンパイヤは以外な言葉を発した。
「ベルファーレ、私を滅ぼして。」
「!」
「ガウディ、呪文の詠唱を止めなさい。」
森の魔女が俺の呪文詠唱を遮った。
バンパイヤは涙を流していた。彼女には感情がある。普通バンパイヤになった者は満足に記憶も無い、あさましい吸血鬼になるのだ。彼女は明らかにベルファーレを認識している。
それどころか、自らを滅ぼす様懇願している。
「どういう事なんだ?」
「おそらく、彼女は真祖よ。バンパイヤに噛まれたバンパイヤはバンパイヤになる。でも最初のバンパイヤは何処から来たのか?長い間の謎だったけど。古代魔術により人間がなったものだと言われているわ。おそらく彼女は真祖、バンパイヤロードよ。真祖は下等なバンパイアと違い、理性を保つ者がいる、彼女はその珍しい例よ。」
「じゃあ、彼女を滅ぼさなくても」
ベルファーレが恐る恐る西の魔女に聞く。
「それは彼女次第よ。彼女が理性を保ち、人を襲わなければ、共存は可能だわ。他国には彼女の様に理性を持つバンパイヤロードが人間と共存していると聞いた事があるわ。」
「じゃあ、アルフィンは助かるんですね。」
ベルファーレはアルフィンの元に行った。アルフィンはベルファーレに抱きついた。そして泣き出した。
「彼女は大丈夫な様ね。でもね、彼にとってはとても辛い未来よ。アルフィンさんは永久に歳をとらないわ。そして、人間の様に亡くなる事も無いの。彼女は不死者になったのよ。」
「それでも私はベルファーレと暮らしたい。」
アルフィンは泣きながら訴えた。
「とりあえず彼女は同行させましょう。それに、戦力になるのじゃ無い?アルフィンさん、あなたは何かスキルはあるの?」
「ベルファーレから教えてもらった白魔法レベル5と青魔法レベル3、それに剣術はレベル3です。」
白魔法レベル5に驚いた。ベルファーレとたいして変らないレベルだ。
「それにしても唯一神ヤーベはバンパイヤにも魔法を使う事を許すのですね。驚いたわ。ヤーベの教えは博愛主義だから、当然なのかも知れないけど。」
俺達の傭兵隊に新しい仲間が加わった。バンパイヤロードのアルフィンだ。
「じゃあ、次の階に行きましょう。」
俺たちは次の階に進んだ。次の階にはとんでも無いモンスターが潜んでいると、アルフィンが教えてくれた。
次の階にはドラゴンゾンビが潜む。ドラゴンゾンビはドラゴンを古代魔法でゾンビにしたものだ。
このドラゴンは炎のブレスを吐く事も予め判った。ブレスは魔法と違い、物理攻撃なので、耐魔法防御では無く、よりレベルの高い青魔法により防御する必要があった。
次の階へ進むと先ず、西の森の魔女とフェンディが耐炎の魔法を唱え始める。ベルファーレとアルフィンはアーマークラスを上げる呪文を唱え始める。そして俺はフレームソードを引き抜いた。
俺がフレームソード(炎の剣)を構えると、ドラゴンゾンビが襲いかかって来た。鋭い爪が空を切る、万が一爪で引き裂かれれば重傷を負うだろう。俺は爪をかわすと、直ぐに反撃を開始した。
フレームソードも空を切る、素早い、今迄のモンスターとは格段違う。
だが、程なくして皆の魔法詠唱が完了する。一斉に俺達の防御力は上がり、耐炎の魔法に包まれる。
「アルフィンさん前衛に、ベルファーレもだ。魔女さんとフェンディは炎の攻撃魔法を頼む。」
俺とベルファーレの連携は以前より修練が積まれていた。又、ベルファーレの聖なる杖はアンデットモンスターには絶大な力を発揮する。だが、アルフィンの剣術の腕はレベル3と低い、俺はアルフィンに注意を払いつつ、戦いを進めた。
!
ベルファーレがまずい攻撃をする。まずい。援護が間に合わない。
ドラゴンゾンビの爪がベルファーレを襲う、しかし、その爪が捕らえたのはアルフィンだった。
アルフィンは身を犠牲にしてベルファーレをかばった。ドラゴンゾンビにはその時、隙があった。
すかさず、フレームソードを打ち込む。かなりのダメージを与える。しかし。
「2人とも大丈夫か?」
「アルフィンが!」
「私は大丈夫よ」
そうだった。彼女はバンパイアロードだった。彼女の傷は既に塞がりつつあった。
アルフィンの剣術はレベルが低かったが、その戦いぶりは恐ろしいものだった。
彼女は反撃を恐れる必要が無いのだ。不死身の彼女はどの様な攻撃でも死なない。だから俺達には出来ない攻撃を簡単にする。敵もゾンビだがこちらにも不死者がいる。
ドラゴンゾンビはアルフィンにさんざんかき回され、俺のフレームソード、ベルファーレの聖なる杖の攻撃を多数受ける。そして、森の魔女とフェンディの高位の炎の攻撃魔法が完成する。
ドラゴンゾンビに2重のファイガが襲う、苦しむドラゴンゾンビに俺は止めの一撃を放った。
アルフィンのおかげで、ドラゴンゾンビに完勝する。ベルファーレとアルフィンに怪我の治癒を行ってもらい、やっと落ち着く。アルフィンは治癒魔法を必要としない。
「フェンディ、大丈夫?」
「大丈夫よちょっと擦り剥いただけよ。ガウディこそ前衛お疲れ様。かなり怪我したわね。気をつけてよ。」
「アルフィン、血の匂い我慢できる?特にフェンディさんの血は美味しいでしょうから、大変ね。」
「何故フェンディさんの血は美味しいのですか?」
ベルファーレが要らぬ質問をする。
フェンディは真っ赤になっている。バンパイアは処女の血が好物なのだ。
えっ、ていう事はフェンディはまだ、俺も変な興奮してきた。
変な緊張をアルフィンが打ち破った。
「次の階にお父様がいるわ。」
アルフィンが次の階のボスを告げる。だがその言葉は『リッチ』の正体が誰なのかを証明するものでもあった。
「やはり、父さんが。アルフィンごめん。父さんのせいでこんな事に。」
「いいの、ベルファーレはこんな私を抱きしめてくれたわ。私は幸せなの。」
風が塔の付近を舞っていた。今は優しい風だ。




