エルアラメインの反乱 第二話(戦い前夜)
シュッツトガルト公がエルアラメインの全権を掌握すると、俺達は直ちに戦いの準備に入った。
副官であるフェンディともう一人の副官ベルディとブリーフィングを行い、戦いの準備を進めた。ベルディには気をつける必要があった。彼は王都出身のサムライで、俺の魔法学校の同期だった。しかも俺が侍大将となるまでは彼が侍大将だった。彼が良い印象をもっている筈が無かった。しかし、現状で俺の侍軍団は彼の方を支持する者が多かった。俺達は先日迄傭兵で、よそ者だった。彼らの気分が良い筈が無かった。
問題は早速起きた。それはベルディからだった。
「ガウディ大将、私は不満があります。例え我が主君の弟とは言え、あなたに本当に我らの指揮官の器があるのですか?それに王都の魔法学校出身のサムライである、私の腕に本当に勝るのですか?失礼を承知だが、私とあなたは同期です。あなたの事は存じ上げている。苦労されていた。正直、あなたがサムライである事が信じられません。
私はあなたに手合わせを申し入れます。我が大将である事を実力を持って、示して下さい。」
「ベルディ、失礼よ。いくら何でも、主君であるシュッツトガルト公の人事に異論を挟むのですか?」
フェンディが牽制を入れる。しかし、彼は引き下がらなかった。
「フェンディ様。例え王女であったあなたの意見でも従えません。皆、この戦いに命をかけています。ただ、主の弟であるだけで、指揮官となった者に命は預けられません。もし、シュッツトガルト様の判断が間違っていなければ、皆にそれを示して下さい。」
「ベルディ!」
「フェンディ、いい、ここは実力で示すしか無い。ベルディ、剣を抜け、仕合おう。」
俺達はお互い、刀の剣を抜いた。
「それが妖刀ムラマサですか?本当にその刀があなたに相応しいか見極めさせて頂きます。」
俺は彼を知っていた。魔法学校の同期で、首席だった男だ。
刀神召喚すれば簡単に勝てる事はわかっていた。だか、それは不公平だと思えた。刀神召喚は刀のおかげだからだ。本当の実力で勝たなければ、そう思えた。もちろん、自信もあった。領軍のサムライの彼に実戦経験があるとは思えなかった。軽く勝てるとそう思えた。
ベルディは抜刀すると恐ろしく素早く切りかかってきた。俺も抜刀と共に剣撃を入れたが、信じられない。彼は簡単に避けた。
「ベルディ!なかなかやるな」
「最後まで、その余裕がありますかな。」
俺たちは更に切り結んだ。彼は強かった。何故なら彼の剣は実戦的だった。フェイントといい、魔法学校で習わなかった技といい。
「ベルディ!これが避けられるか?」
俺はにハーンの国で覚えたナイトの技を使った。ヨラン直伝の技だ。しかし、
「こんなもの。
ナイトの技ですか?見た事がある。」
「俺は勘違いをしていた。お前は実戦経験があるな?サムライにこの技が避けられる訳が無い。」
「ご想像通りですよ。あなただけが苦労した等思わないで頂きたい。」
「何があった?」
「王立魔法軍の人間は人を陥れる事が好きな人間が多くてね。まあ、まんまといっぱい食わされた訳ですよ。」
「なるほど、エリートにも色々あるのだな。」
「王族のあなたに言われたく無い。ましてや奥さんは元王女。庶民で育っても王族はやはり王族という事ですか。」
「ベルディ。俺は自分が本当に王族だなんて思っていない。それに、俺はフェンディに救われただけだ。彼女に再会する前迄の俺は糞野郎だった。人の気持ちを理解する事等出来なかった。」
「あなたも色々あった様ですね。あの出来損ないがここ迄強くなるとは。いや、これは本当に褒め言葉ですよ。少々、色々あって、私も昔の純粋さ等何処かに行ってしまった。」
「そうらしいな。剣にもそれが現れている。汚い剣だ。だが、強い。王都のサムライにはお前の様なやつはそういまい。実戦を経験したベテランだけだろう。」
「ええ、おそらくは。私もこの領軍に入る迄は傭兵でしたから。ここまで来るのにどれだけの努力をしたか。きれいごとでは傭兵は出来ないですから。」
「違いない。」
「だが、お前は知っているか?戦士の大半が最初の頃に死ぬ事を、そして魔法使いも同様だ。」
「ええ、知っています。彼らから多くの事を学んだ。そして助けたり、助けられたり。」
「お前は立派だな。よく気づいたな。俺はかなり時間がかかったぞ。」
「あなたも判っていらっしゃる。それに、あなたの剣、まだ何か隠しているでしょう?さっさと出して下さい。」
「いいだろう。」
俺はバンパイヤロードと戦った時に見たバンパイアロードの技を出す事にした。あまり人には見せたくは無かったが、彼も何か隠している事は察しがついた。このままでは決着がつかない。
「ふん。」
俺はバンパイヤロードの使った技を出した。彼の剣はわずかに剣の軌道を変えるものが多かった。そして、ぞの軌道の変化量自体にも変化をつける。中々、予想出来るものでは無い。
「これは!」
彼はバンパイヤロードの剣をも避けた。すばらしいこれだけの剣の使い手、ヨランかそれ以上だ。
「ではこちらの番です。」
彼は、突然姿を消した。
「何!」
俺は殺気を感じると咄嗟に避けた。
「これを避けましたか。すばらしい。だが、これはどうですか?」
俺は戦慄を覚えた。すばらしい。だが、先ず、勝たなければ。俺にもう余裕は無かった。俺は覚悟をした。本気で試合ってどちらも怪我をせずにはいられない。だが、幸いベルファーレがいる。即死でなければ、まず助かる。
「こちらもいくぞ。」
俺は本気の剣を繰り出した。バンパイヤロードとの戦いで覚えた最大の武器。それは剣や敵の動きが良く判る。いや、止まって見えるのだ。バンパイヤロードの剣の早さは尋常では無かった。その動きに比べれば人の剣などたいした早さでは無い。
「う!」
俺の刀がベルディの脇腹を捕らえた。
俺は魔法学校で覚えた技、傭兵の頃覚えた技、ヨランから学んだナイトの剣、バンパイアロードから学んだ剣全てを交えて剣戟を繰り出した。そして、遂にベルディを捕らえた。
「完敗です。ガウディ様。恐れ入りました。」
彼は脇腹を抑えてうずくまった。
「ベルファーレ、頼む。」
ベルファーレが回復魔法を唱えた。
「ベルディ、さっきの技はなんだったんだ?俺も多くの技を見て来たがあれは見た事が無い。一体どうやったんだ?」
回復魔法でベルディの体が癒されると、ベルディは話した。
「あれはガラ殿から教わったニンジャの技ですよ。彼らの技は人を殺すためだけにある。恐ろしい技です。彼らは時には味方の命を犠牲にして敵を葬ります。彼らの戦いは私には理解出来ない。」
「そうか。ニンジャか、確かに彼らからは殺気が感じられない。だが、俺の体が恐れる。彼らはやはり只の間者では無いのだな。」
「ええ、彼らの技は戦いにおいては最強ですよ。何しろ、勝つ事しか考えない。味方を犠牲にする事もいとわない。
しかし、ガウディ殿の先程の技は何だったのでか?私もあれは初めて見る。自分が避けられない技があるとは思わなかった。」
「あれは300年生きたバンパイアロードの技だ。人外の技だ。俺はバンパイアロードとの戦いに生き残った。だから身に付いた。」
「そうですか。バンパイアロードの技。すばらしい。あなたについていきましょう。主君であるシュツットガルト様だけで無くあなたにも忠誠を誓いましょう。あなたは強い。」
「ありがとう。俺も君を勘違いしていた。てっきり只の優等生と思っていた。だが、君は実戦的なサムライだ。これから宜しく頼む。」
「ちょっと待って。ガウディ。」
「何だい、フェンディ、どうしたんだ?」
「良くないわ。上官に逆らうなんて考えられないわ。きっと何かやらかすわよ。ここはこの機会に思い切って。」
「あのフェンディ様、思い切って私をどうされるのですか?私は味方ですよ。」
「嫌、ちょっと危ない奴だから、弱っている内に思い切ってって思ったのよ。」
「フェンディ様、今の流れ見てなかったのでか?空気読んで下さいよ!」
「うーん。」
「嫌、フェンディ、彼は中々見所がある簡単に殺すのはちょっと、それに殺そうと思えば何時でも殺せる。」
「ちょっと、ガウディ様まで。」
「いや、冗談だよ。だが、多分フェンディは冗談じゃなかったと思うぞ。」
「え、ガウディ冗談だったの?」
「ベルディ、悪いが俺の奥さん結構凶暴なんだ。元王女なんて事は早めに忘れた方がいいぞ。」
「はあ、見た目は王女様にしか思えないのに、女性不振になりそうだ。」
ベルディとの確執は解けた。それに、彼はかなりの腕だ。改めてエルアラメイン軍の練度を思い知らされた。それだけでは無かった。ベルディは他のサムライ達を紹介してくれた。ベルディが俺に忠誠を誓った事から俺はこの侍軍団の真の大将となれた。全てはベルディのおかげだ。
「フェンディ、ベルディ、明日はエルアラメインの森に入る。敵と接触するかもしれない。既に王都にはシュッツトガルト様反乱の報は入っている筈だ。森で、敵の斥候に接触するかもしれない。覚悟しよう。」
その頃、エルアラメインには王立魔法軍第4軍が侵攻していた。
エルアラメインの森には烈風が吹き荒れていた。




