狼の紋章 第八話(さよならマリー)
ロアの街を出発した俺達は修練を積みつつ東のバンパイアロードの城を目指した。
俺はアルフィンに剣を教えた。
フェンディはベルファーレに古代魔法を教えた。
そして、ヨランがエリザベスに剣を教えた。
興味深いのはヨランの剣術だ。何度か試合ったが彼の剣は俺達サムライの剣、魔法使いの剣とは異なる。彼は騎士ナイトだから、当然だが、やはり、かなり違う。何度かの対戦はお互いにいい経験になった。俺は彼の剣の弱点や俺達の剣に無い技を覚えた。ヨランも同様だろう。
アルフィンはかなり、剣術が上達したが、驚いたのがエリザベスだ。彼女はこの短期間でかなりの成長を遂げた。彼女はヨランの教えに忠実だったし、かなりの努力をした。そして、何より、アルフィンの言うとおり、かなりの才能がある。アルフィンが言うには彼女はなんでも簡単にこなす。エリザベスに足り無いのは実戦だけだ。スキルだけなら、既にアルフィンと同レベルだ。
2人が味方で本当に良かった。何しろ、彼女達は不死身だ。俺達人間は一度の失敗で命を落とす事もある。だが、彼女達は人間にとって、致命傷となる一撃を受けても死なない。それどころか反撃さえ可能だ。
彼女達の剣への恐れはやがて東のバンパイアロードへの恐れへと変わっていった。複数の部隊が東の城を目指しているが、本当に彼らは大丈夫なのか?俺達のミッションは滅びたバンパイアロードを二度と復活させないためのものだ。そう、フェンディのデリートの呪文が必要なのだ。
しかし、アルフィンとエリザベスを見ていると、そんなに簡単なものなのか?という疑問が生じる。アルフィンもエリザベスも既にかなりの腕だ。何故なら彼女達は失敗を恐れる必要が無いのだ。彼女らがバンパイアになって、わずか、3ヶ月位だ。
彼女らは既にベテランの戦士と同レベルと言っていいだろう。それは、失敗が許されない人間とリセットが可能なバンパイアとの差だ。
東のバンパイアロードは実に300年生きている。彼の剣術はサムライマスターヤンベルグシュタットをしても、恐れを覚えずにはいられ無い。
東のバンパイアロードの城に向った討伐隊は無事なのか?俺達はとんでもない相手に戦いを挑んでいるのでは無いか?そんな思いが増して来た。
思いきって、ヨランに相談すると、彼も同感だった。アルフィンやエリザベスが3ヶ月前迄、唯の街の少女だった事を考えると、300年生きたバンパイアロードに戦いを挑む事の無謀さがよぎる。そして、遂に、それが現実のものになる。それは、バンパイアロードの城に比較的近い、メランセルの村で起こった。
俺はその村で懐かしい戦友と再開した。彼らは変わり果ててはいたが。
最初は一人の女性との出会いからだった。
「助けてください。騎士様」
俺達の前に現れたのは一人の女性だった。彼女は俺の知り合いだった。
「マリー、マリーじゃ無いか。」
俺は驚いた。マリーは俺が初めて組んだ傭兵隊の仲間だった。彼女は魔法使いだった。同じ魔法学校出身でもあったから、俺達は直ぐに仲良くなり、そして、決別した。全ては彼女が魔法使いであり、俺が魔法戦士だったからだ。傭兵隊が創設された、最初、俺は大活躍だった。俺は剣の腕は確かだったし、レベルが低くとも、青魔法が使えた。マリーは最初、完全に足手まといだった。彼女を守るため、俺がどれだけの血を流したか。
だが、俺が傭兵隊に必要無くなったのも、彼女が原因だった。
彼女が高位の青魔法を覚え初めると、傭兵隊の皆の俺を見る目は変わっていった。魔法が全然上達しない魔法戦士。俺自身にも問題があった。俺はおごっていた。いつのまにか、俺は浮いていた。魔法の使え無い魔法使い。戦士は他にもいた。おごった俺には厳しい罰が待っていた。俺を傭兵隊から追い出したのはマリーだった。俺は彼女に恋心を持っていたが、おごり高ぶった俺に彼女はNoの回答を出した。
俺は傭兵隊の皆から些細なミスを咎められた事が原因で、傭兵隊を追い出された。率先したのはマリーだった。その頃、彼女は皆の尊敬を集めていた。そして、他の戦士と仲良くなっていた。
俺がおごり高ぶっていた頃、彼女の心の中から俺はいなくなっていたのだろう。
「マリーどうしてここに?」
「あなたガウディなの?懐かしい。私たちこの近くの村に来たのだけど、バンパイヤが多く発生していて、私は何とか逃げ出したのだけど、皆は未だ、村に取り残されてて。助けて!」
「皆って、トーレ達か?あいつらに何があったんだ?」
「ガウディ、その人は誰なの?」
フェンディが話に割って入ってくる。彼女は心配そうに俺を見ている。知らない女と親しく話すのを見て心配なのだろう。俺はフェンディやみんなに彼女の事を説明した。
「彼女は魔法使いのマリー。俺の昔いた傭兵隊のメンバーだ。」
「で、マリーさん一体どうしたんだ?」
ヨランが聞き始める。
「私たち、東のバンパイヤロードの城に向かっていたのだけど、近くのメランセルの村に宿泊したら、バンパイヤが出たの。もちろんそれは覚悟の上の事だけど、ものすごい数なの。私は一人逃げ出して、助けを呼びに来たの。」
「君達も討伐隊か?ほってはおけないな。」
「メランセルの村に向かいますか?」
俺はヨランに聞く、今は彼がリーダーだ。何しろ彼は討伐隊全員の長なのだから。
「ああ、向かおう、仲間をほおっておく訳にはいかない。」
俺達はマリーに案内されて村に入った。未だ日没には少し時間がある。バンパイヤの姿は見えない。
「あの教会です。あそこに皆隠れています。さあ行きましょう。」
マリーは俺達を誘おうとする。しかし、ヨラン達は動かなかった。
「みんな、どうしたんだ?」
俺は皆に訪ねた。ヨランが答える。
「ガウディ、君には辛いかもしれないが、マリーはバンパイヤだ。さっきエリザベスから聞いた。」
「そんなマリーは。」
「そこにいるマリーさんは本当に君の知っているマリーさんかな?」
「マリー、嘘だろ君は人間だろ?」
「そうよ人間よ、それに昼間出歩けるバンパイヤがいるはず無いじゃ無いの。信じて。」
「マリーさん、あなたから血の香りがするのよ、何十人もの血の香りが。」
マリーは豹変した。
「貴様ら何故判った。いや、いい、どうせ血をたっぷりと吸うだけだ。皆出て来て。」
教会からかつての傭兵隊の仲間が出て来た。トーレもだ。トーレは俺の教え子の戦士だ。彼にはかつて剣を教えた事がある。当時、マリーと仲が良かった。
「お前達本当にバンパイヤなのか?」
「ああ、俺が東の城のバンパイヤロード様に噛まれてな。マリーは俺が噛んだ。他のメンバーは2人で噛んだ。」
「ガウディ、気をつけろ、バンパイヤとなった者はかつての彼らと同じと思うな!」
確かにそうだ。バンパイヤとなった以上、彼らはもう。
「マリー、俺をだましたのか?」
「そうよガウディ。あんたを餌にしようとしたのよ。あんた本当に嫌なやつだったからちょうどいいわ。それにあの頃私をいやらしい目で見ていたでしょう。気持ち悪いから傭兵隊から追い出したのよ。本当に馬鹿で低能な魔法戦士。」
「俺は君とは友達だと思っていた。何度も助けたじゃないか。」
「それがあなたのおごりよ。そんなの当たり前じゃ無いの。強力な青魔法を使う私を守るのは戦士の勤めよ。あなた、魔法戦士ごときで何を言っているの。」
「ガウディ、昔話の途中で悪いが俺達はお前を仲間だなんて思っていない。さっさと殺してやるから剣を抜け。」
「トーレ、お前迄、お前には剣を教えた。お前は俺になついていたじゃ無いか。」
「お前が追い出される頃には同じレベルだった。お前は用なしだったんだよ。それにマリーにちょっかいを出しそうだったからな、マリーと俺達はつきあってたんだ。お前が邪魔でな。それで追い出した。」
俺は知らなかった。俺はただ、自分のおごりが原因で傭兵隊を追い出されたと思っていた。マリーが俺とトーレの間で心を動かしていた事は察しはついていたが、既にトーレに傾いていたのだ。
「ガウディ、それくらいにしておけ、どちらにしろ戦うしか無い。」
ヨランが言う。皆、剣を抜き放った。
俺達は前衛中央に俺、左翼にアルフィン、右翼にエリザベスを並べ、後衛には中央にベルファーレ、左翼にフェンディ、右翼にヨランを配置した。
エリザベスは本格的な実戦は初めてだ。ヨランが彼女の後方に回ったのは彼女をフォローする為だろう。
俺も剣を抜き放つと、トーレと対峙した。
「お前をこの手で倒せるとはな、俺はついている。お前はうざかったんだよ。先生づらして、魔法学校で剣術を学んでいるから、最初からうまかっただけなんだ。俺達戦士は皆、素人から始める、俺達はお前らより圧倒的に不利だ。それなのにお前は恵まれているのに辛気くさい事ばかり考えて、うっとうしかったんだよ。」
俺は知らなかった。俺達魔法戦士がどうしてこれ程嫌われるかを、そう、俺は自分の事ばかり考えていた。トーレの気持ち等考えた事もなかった。
トーレと戦い始める。彼の剣術は上達していた。あの頃よりずっと。だが、それは俺も同じだ。
一方、アルフィンとエリザベスも他の戦士達と対峙していた。
「ほう、女戦士か、さぞかし血はうまいのだろう。後でたっぷり、吸っやる。」
「出来るものならやってご覧なさい。」
「少し位ならいいわよ。」
アルフィンはともかく、エリザベスが啖呵を切る。
俺達は戦い始めた。後衛では、フェンディが耐魔法防御の魔法を、ヨランがアーマークラス上げる呪文を、ベルファーレが聖なる力を剣に与える魔法を唱え始める。
アルフィンが敵のバンパイヤに話す。
「あなた最近バンパイヤになったのね。全然判っていないのね。」
「何を言っているのだ、それくらいの腕で偉そうに。」
「あなたの剣技はすごいわ、でも、何故バンパイヤのあなたがそんな戦いかたをするの?バンパイヤはこう戦うのよ!」
アルフィンは急に敵に接近する。しかし、敵の剣に貫かれる。
「お前馬鹿か?」
敵の戦士は嘲る。だが、次の瞬間、アルフィンのミスリルソードが戦士にめり込む。
「バンパイヤは死なないのよ。何故、敵の剣を避ける必要があるの?バンパイヤの戦いはこうよ。」
「お前まさか、バンパイヤ?」
「いいえ、バンパイヤロードよ。」
彼らに衝撃が走る。
「お前、じゃ、仲間じゃないか?」
「私は人を襲ったりしない。人を傷つけたりしない。あなた達とは違うわ。あなたいったい何人の血を吸ったの?血のにおいがぷんぷんする。何人殺したの?」
「馬鹿な、下等な人間の血を吸って何が悪い。あいつらにも永遠の命を与えてやっているだけだ。」
「ふざけないで、誰が好き好んでバンパイヤ等になりたいの?あなたもかつてはそうだったでしょ。」
アルフィンは敵のバンパイヤを圧倒する。彼女は剣術だけで無く、言葉によるプレシャーも与える。彼女はかなり戦い慣れて来た。剣は技術だけでは無い、敵をだましたり、卑怯な技は有効だ。それに精神的なプレッシャーも有効だ。
アルフィンの敵はだんだん弱って来た。
俺はトーレと戦いを続けていた。彼の剣は俺の太刀筋にそっくりだった。当然だ、俺が教えたのだから。俺は少々苦戦していた。彼は俺とほぼ同様の技術だった。だが、彼は俺と違いバンパイヤだ。簡単には死なない、だが、俺は一撃で死ぬ事がある。俺は一計を案じた。それはヨランとの戦いを思い出したからだ。
俺はトレーの上段からの一撃を右に流すとそのままトーレを斬りつけた。
「なんだこの技は。」
トーレが驚く、当然かもしれない、彼は魔法戦士の剣、魔法使いの剣しかしらない。ヨランの剣術、騎士ナイトの剣術を知らない。彼は初めて見る剣術に戸惑った。
「トーレ、教えたはずだ。剣は技術だけじゃ無い、時には汚い手や、予想できない事をするのだ。」
「なんだと小賢しい、だが、こんなもの。いや、うっ。」
「この刀は妖刀ムラマサだ。魔力がこもった刀にお前も只じゃ済まない。」
トーレの表情が一変する。
何度か切り結んで、トーレの胸に剣がささる。ムラマサの一撃をあびて、さしものバンパイヤにも致命傷だ。
「俺達戦士は素人から始める。俺達のほとんどが最初の頃に死ぬ。俺がお前に剣を習うのがどんなにみじめだったか。偉そうなお前から剣を学ぶのは生きるため仕方がなかったんだ。それなのにお前は。」
「トーレ、俺の事を憎んでもかまわない、だが、何故、マリーを噛んだ。お前達は好きあっていたのだろう?」
「マリーはお前の事がすきだったみたいだぜ。だから無理矢理俺の女にしたんだ。ざまあ見ろ。」
最後の捨て台詞を残すと彼は灰になった。
アルフィンは程なくして敵戦士を倒した。相変わらず凄惨な戦い方だったが。
エリザベスは劣勢を強いられていたが、ベルファーレの聖なる魔法が完成すると形勢が逆転した。エリザベスの剣には聖なる力が宿った。敵の戦士は凄さまじいダメージを受け、遂には倒される。
その頃、マリーの青魔法が完成する。高位の青魔法、「ブリザガ」だ。しかし、既にフェンディの耐魔法防御の魔法は完成していた。フェンディは魔法のピアスを装備している、魔力は森の魔女並みだ。
ブリザガが俺達を襲う、しかし、フェンディの魔法のおかげで、俺達にほとんどダメージは無い、俺はブリザガを耐えると、一気にマリーの元まで行った。そしてムラマサをマリーに突き立てた。
「マリー、言っただろう。魔法使いも剣術を学ばなければ。いつも戦士が守ってくれるとは限らないんだよ。」
俺は初めてのミッションに成功した時の事を思い出した。あの時も俺はマリーをかばった。少し、怪我もしたが、マリーの魔法でモンスターを倒せた。二人で、手を取り合って、本当に喜んだ。俺の傭兵隊の経験では唯一の良い思いでだった。
「くそう、たかが人間に倒されるなんて。よりにもよってお前に倒されるなんて。
何故私がトーレを選んだと思う、お前が恵まれているのに、後ろ向きだったからよ。私たち傭兵隊の魔法使いの事が何故あなたには判らないの?私だって剣術が得意なら苦労しないわ。それに魔術だって、優秀なら、傭兵なんてしないで、王立魔法軍に入りたかったわよ。私だって落ちこぼれだったのよ。」
マリーは消えて灰になった。彼女は最後にこういった。
「あなたは何故、戦士でも無く、魔法使いでも無く、魔法戦士だったの?あなたが戦士だったら、魔法使いだったら。」
俺の刀は泣いていた。刀が泣くはずは無い。だが、俺は確かにそう感じた。俺自身も嗚咽していた。
マリー。出来ればこんな再会をしたくなかった。例え、トーレと結ばれていたとしても、それは過去の思い出の一部でしかならなかったはずだ。あれから随分時間がたっていた。お互い、時間という薬で笑顔で再開できたはずだ。何故なら俺にはフェンディがいる。今の俺の心にマリーはいない。
だが、俺達は最悪な再会をした。
俺はかつての自分を恥じた。俺は戦士や魔法使いの事が判っていなかった。自分の事しか考えていなかったからだ。彼らにも俺と同じトラウマはあったのだ。ただ、俺が気がつかなかっただけだ。しかも、俺はリーダー気取りで彼らにあれこれ指導した。そして尊大になり、遂に彼らは俺を許容出来なかったのだ。
ヨランが話しかける。
「ガウディ、悪いが彼らはデリートの魔法で復活はさせない。彼らには完全な理性は無かった。それに、この村は全滅だ。夜になったら、この村のバンパイヤを全て滅ぼさなければ。そうだ、彼らはこの村の住人を全て殺したのだ。許される罪ではない。」
一瞬エリザベスの顔がこわばる。彼女も又、罪を犯した事があるからだ。
「ああ、ヨラン判っているよ。彼らは罪を感じていなかった。」
フェンディとベルファーレがデリートの呪文を唱えた。4人の魂は永遠に失われた。
「さよならマリー。」
俺は一人嗚咽していた。かつての戦友、そしてかつて恋した人をこの手で殺した。
フェンディが俺を抱きしめた。彼女はマリーの事は何も言わなかった。ただ、優しく抱きしめてくれた。
その日の夜、俺達は村のバンパイヤを全滅させた。ほとんどのバンパイヤは俺のライティングの呪文で灰となった。耐えたバンパイヤも滅ぼした。
バンパイヤを殲滅した後、廃墟とかしたメランセルの村を出た。目指すは東のバンパイヤロードの城だ。急ぐ必があった。マリー達はかなりの手練だった。だが、あっさり、バンパイヤロードに敗北した。恐らくは、他の討伐隊も。。。
風は冷たかった。だが、俺には、この日の風は特に冷たく感じた。フェンディでも暖める事は出来なかった。




