狼の紋章 第七話(恋人達のクリスマス)
俺達は一旦、ロアの街に戻ると冬の装備や食料を買い求めた。
エリザベスには革鎧を装備してもらったが、彼女は鎧にドン引きだった。
曰く。
「可愛く無い」
しかし、俺達と旅を続ける以上、どうしても、必要だった。
エリザベスとアルフィンが話し合う。
「これだったら、前の方が居心地が良かった様な。」
アルフィンがすかさず、ヨランに話す。
「騎士様、ここに、反逆を企むバンパイアがいます。早めに滅ぼしておいた方が宜しいのでわ?」
「待って、待って、灰になるのはちょっと、勘弁してよ。」
「いや、灰どころか、二度蘇えれない様にするつもりよ。」
「アルフィン、いつも、笑顔ですごいS言語話すわね。多分、あなたの本性知っているの私だけだわ。」
「じゃあ、おとなしく鎧着る?」
「いじめられる位ならきるわよ。」
「じゃあ、剣も必要ね。これを使って。」
アルフィンは魔法強化されたショートソードをエリザベスに渡した。
エリザベスは不安そうな顔で剣を見つめる。
「私がこれで戦うのマジで?」
「マジよ。」
エリザベスがかなり情けない顔をする。そこに、ヨランが助け舟を出す。
「君は白魔法が使える様だから、白魔法を主に使ってもらう。剣は護身用だ。それに、俺が剣の特訓をしてやる。安心しろ。」
「ありがとうございます。」
エリザベスが喜ぶ。
装備や食料の調達はひと段落した。
俺は今日の夕飯の相談を皆にした。
「今日は宿の居酒屋で食事をするかい?それとも、街の名物料理でも探して皆で食べるか?」
それを聞いたフェンディが怒った様な口調で言った。
「ガウディ、無い、無い。今日は皆で食べ無いわよ。」
「なんで?」
俺は本当に忘れていた。今日が何の日だったかを。
「ガウディ、今日はクリスマスイブよ。今日の夜は二人きりで過ごすわよ。」
クリスマスイブ、忘れていた。長い間、俺には関係ない行事だった。
「ごめん。フェンディ、忘れてた。ていうか、恋人とクリスマスを過ごした事が、無いからわからなかった。」
「大丈夫よ。ガウディ、私も無いから。」
ちょっと、二人でみじめな気持ちになった。
俺はわかっていたが要らね質問をした。
「ベルファーレはいつもクリスマスイブをどう過ごしているんだ?」
「え?いつもアルフィンと過ごしていますけど。」
俺は自分の愚問の為、落ち込んだ。フェンディも同様だった。
「今年は二人で楽しく過ごそう。」
「そうよね。」
フェンディが同意する。
だが、それに反発する者がいた。
「俺はどう過ごせばいいんだ?」
ヨランだった。そう、彼はエロ王子の烙印を押され、フェンディと同様悲しい青春時代を過ごした。
だが、俺はピンとくるものがあった。
「エリザベスと一緒に過ごされたらどうですか?」
俺は気になっていたのだが、フェンディもアルフィンも何故か、ヨランの事を騎士様と呼ぶ。最初は街中で一国の王子が歩き回るのが問題だと、皆が考えて騎士と呼んでいるのかと思っていたが、そうでは、無い様だ。
ヨランは明らかにエリザベスに興味があるし、エリザベスもヨランに敬意を持っているらしい。エリザベスがヨランの事を王子と知ったら、おそらく、身を引いてしまうだろう。だから、騎士にしているらしい。
エリザベスが恐縮して答える。
「わた、私なんかと騎士様では身分違いで。。」
エリザベスはちょっと、泣きそうに言った。
「いや、是非一緒に過ごさせてくれ、俺もせっかくのクリスマスイブに一人で過ごしたくない。エリザベスがよければ喜んで、お願いしたい。」
「わた、私なんかで良ければ是非」
フェンディがちょっと意地悪な事を言う。
「騎士様、エリザベスに何かしたら、大変な事になりますから、自重下さい。何しろ前科が有りますので。」
「騎士様、フェンディさんと何かあったのですか?」
エリザベスが疑問に思う。すかさず、アルフィンがすかさず、フォローを入れる。
「フェンディさんの事は気にしないで、昔、騎士様にセクハラされて、騎士様を半殺しにしただけよ。」
しかし、アルフィンのフォローは全く、フォローになっていなかった。フェンディが酔っていないのが幸いだった。酔っていたら、アルフィンが半殺しになっていただろう。
俺はアルフィンに忠告した。
「アルフィン、気を付け無いとフェンディに半殺しにされるぞ。」
「ガウディ迄なんて事言うのよ!ちょっと、意地悪しただけよ。さあ、ガウディ、直ぐに行くわよ。」
俺はフェンディに無理やり連れて行かれた。
俺達もベルファーレ達もその場から立ち去った。後は、ヨランとエリザベスが残された。二人はちょっと、心細そうにしていた。まぁ、これからは二人次第だ。
俺とフェンディは街の中を見て回った。あちこちでクリスマスの飾り付けがされていた。二人でそれを見て回った。途中のレストランで二人で食事をした。
食事が終わった後、二人はどちらからともなく、一緒に帰ろうと言った。
宿に帰ると、俺はフェンディの部屋にいた。フェンディは少し酔っていた。
フェンディの金髪が綺麗だ。青い瞳も。少し、上気したフェンディの顔は少し、赤かった。酔ってもフェンディは綺麗だ。
「フェンディ」
俺は彼女の名前を呼んだ。
俺達は何と無く、キスした。
そして、彼女の胸を触った。彼女は拒まなかった。それから、どちらからとも無く、お互いを求めあった。
俺もフェンディも初めてだったから、大変だった。二人でなんかと、無事に仲良しになれた。
フェンディの身体はとても綺麗で柔らかった、暖かい肌もとても心地良かった。
俺達はシャワーを浴びると、また、ベッドに戻った。二人で裸の身体をぴったり合わせてお互いの温もりを感じながら、ゆっくりと過ぎていく時間を楽しんだ。それはとても幸せな時間だった。俺達はいつの間にか眠ってしまった。
朝、起きるとフェンディはもう、起きていた。フェンディはコーヒーを入れてくれた。二人で飲むコーヒーはとても美味しかった。
食堂に行くと、ベルファーレとアルフィンが先にいた。
アルフィンが又、いたずら心をだす。予想はしていたが。
「フェンディさん、おめでとうございます。」
「な、な、何の事かしら」
フェンディはかなり、うろたえた。当然、アルフィンとエリザベスには直ぐに分かる事なのだが、てっきり、知らねふりをしてくれると思っていたが、アルフィンは思いっきりカミングアウトした。
「だって、あんなに美味しそうな味が今は。ふふ。」
「なっ、なっ、何の事かしら」
フェンディのうろたえぶりは、可愛いかった。かわいそうだから、助け船を出す。
「フェンディ、まぁ、とにかく、朝食を摂ろう。」
俺達は二人で朝食を食べた。
しばらくすると、エリザベスが来た。でも、何故か、どよんとしていた。
フェンディがエリザベスの事を心配したのか、エリザベスに聞く。
「どうしたの、エリザベス?どよんとしているわよ。」
「いや、昨日は折角のクリスマスイブだったし、騎士様と一緒だったのに。」
「何かされたの?」
フェンディはやはり、エリザベスの事を心配していた様だ。
「いや、騎士様は何もしていないわ。というか、何もしてくれない。少し位ならいい覚悟だったのに。」
いや、いきなりそんなに進んじゃ駄目だろう。
「騎士様と二人でお酒を飲んだけど、騎士様は何も喋らなくて」
「ヨランが何も喋ら無いの?変ね。今まで彼はどちらかといえばおしゃべりだったわ。」
だが、エリザベスはヨランの事よりフェンディの異変に気が付いた。
「あら、フェンディさん、何故か、フェンディさんが美味しそうで無くなった。あれ?」
アルフィンがササッと来て、話す。
「まぁ、フェンディさんが一人前に。良かった。」
フェンディはついに真っ赤になった。しかし、エリザベスもアルフィンも油断していた。フェンディが酔って無かったからだ。
ゴン
ゴン
大きな音が二回した。フェンディがエリザベスとアルフィンを骨付き肉で殴った。これは、二人が悪い。
二人が痛みに悶絶していると、ヨランがやって来た。
ヨランは楽しそうだった。
「騎士様、昨日はエリザベスと良いクリスマスイブを過ごせたのですか?」
フェンディが尋ねる。
「ああ、あんなに楽しい夜は初めてだ。女性と二人きりで食事と酒。最高だった。」
とうも、ヨランはかなり、奥手らしい。というか、彼も俺達同様かなり悲しい青春時代を過ごしたらしい。
その日に俺達はロアの街を出発した。
俺は少し考えた。俺とフェンディが昨夜結ばれたのは偶然では無い。この戦いに勝たなければ俺達に未来は無い。必然的に俺達は結ばれたのだ。
その日の風は冷たく、強い風だったが俺達には、いつか来る春を感じさせる風だった。




